2016年4月10日日曜日

櫻井よしこの歴史観

2月にあった「改憲集会」で櫻井よしこ氏が行った講演について、ウェブニュースサイトIWJ(IndependentWebJournal)は、神話と事実の区別がつかなくなった「自称ジャーナリスト」の荒唐無稽な発言だ、と批判しています。同記事の一部を転載します。
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「日本国は天照大神の子供の神々様から始まった」、「神話が国になったのが日本」と言ってのけた櫻井よしこ氏。日本国憲法前文を「アホちゃいますか」と侮辱し、「いざというときは雄々しく戦える日本人であること」を、憲法に書き込めと断言!
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/288094

「日本国はまさに天照大神の子供の神々様から始まって、神話の世界から生まれて、そして神武天皇が即位なさって、神話が国になったのが日本です」―
220日、横浜市の関内ホールで開催された「今こそ憲法改正を!神奈川県民大集会」。およそ1000人の参加者で埋め尽くされた大ホールにおいて、櫻井よしこは、戦前の皇国史観そのままの歴史館、国家観を披瀝した。

同会を主催した「憲法改正を実現する神奈川県民の会」は、日本最大の右派組織である、「日本会議」系の団体である。日本会議神奈川や神奈川県神社庁長、神道政治連盟、新しい歴史教科書をつくる会など、右派系の政治・宗教団体によって構成されている。
同会の主張は、改憲によって、憲法の中に「天皇を国家元首に位置づけること」「92項を改正し、自衛隊を軍隊として明記すること」「緊急事態条項を新設すること」「家族保護の規定を書き込むこと」だ。まさに「戦前回帰」の「極右」の主張そのものである。
驚くべきことは、これほどイデオロギー的に右へ偏った団体の集会に、なんと安倍総理と菅官房長官の二人が、堂々と
「祝電メッセージ」を送ってきたことである。

<中略>

ジャーナリストは、まず第一に「事実」に忠実であるべきだ。その点は歴史学でも同じであり、科学も法学も同じであって、何よりもまず事実に基づかなくてはならない。これが近代実証主義の理念である。19世紀に諸分野で確立され、神話や迷妄と、客観的事実にもとづく認識や記述とを峻別したこの近代的な実証主義の原理を、「ジャーナリスト」を僭称する櫻井よしこ氏が、あっけらかんとひっくり返してみせた。

「日本国はまさに天照大神の子供の神々様から始まって、神話の世界から生まれて、そして神武天皇が即位なさって、神話が国になったのが日本です」

実証もできない、事実と確認することもできない、それどころか明らかに歴史的事実としてはありえないことまでも、あたかも「事実」「史実」であるかのように扱い、現代の国家に直結していると論じたのである。

「我が国は、神話の時代から、ずっと権力とは無縁の、私達の心の支えである皇室を中心に、皇室の権威と、世俗の権力とが相補い合いながら、国や国民を守ってきた。 穏やかな文明、でもいざというときには雄々しく戦ってきました。この国を守るために、私たちは、いざというときは雄々しく戦える日本人であります。その私達を、なんで憲法はひとことも書いてないの?」

驚くほかはない。櫻井氏は現代の日本が「神話」から連続していると言い切っているのだ。「神話」を持ちだしてきて、現代においてそれを憲法改正する際の規範として考えるなど、もはや正気とは思えない。
先述の三原じゅん子議員もそうだが、神武の建国の詔をありがたくおしいだく、ということは、神武天皇の存在についても建国の詔についても、事実だと信じこんでいることになる。仮に「日本書紀」の記述をそのまま信じて、神武天皇が実在したとみなすなら、神武から数えてそのわずか4代前の祖父であるニニギノミコトも生身の人間として実在した人物ということになる。
ニニギノミコトの祖母は、天照大神(アマテラスオオミカミ)である。これはもちろん、人間ではない。「神様」である。その「神様」であるアマテラスの孫としてニニギノミコトが生まれたのはこの日本列島上のどこかではなく、地上ですらない。高天原(たかまがはら)という「天上」世界が、ニニギの生まれた故地でなり、アマテラスが住む場所でもある。
ニニギノミコトは、天照大神からある日、「この豊葦原瑞穂(とよあしはらのみずほ)の国(=日本列島)を治めなさい」と命じられ、天から降臨したことになっている。これが「日本書紀」における「天孫降臨」の記述である。

櫻井よしこ氏の言い分に従えば、この荒唐無稽な「天孫降臨」の記述をも、「歴史的事実」として認め、信じる、という話になる。こうなるともはや、「聖書」に書いてあることはすべて事実だと信じて進化論を否定するようなキリスト教原理主義者を笑えない。
(取材・安道幹 記事構成・岩上安身)