2016年4月12日火曜日

設立趣意書

植村さんとともに、さらに前へ

  元朝日新聞記者の植村隆さんは、1991年に書いた元日本軍「慰安婦」に関する記事がもとで「捏造記者」というレッテルを貼られ、いまなお誹謗中傷を受け続けています。


 発端は、週刊文春2014年2月6日号の記事「”慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」でした。転職先に決まっていた神戸松蔭女子学院大学に抗議が殺到、植村さんは教授就任を断念せざるを得なくなりました。14年5月からは、非常勤講師を務める北星学園大学にも「国賊をやめさせろ」「学生をいためつける」など脅迫・嫌がらせのメールや電話が押し寄せ、ネット上に植村さんの長女(当時17歳)の写真と実名がさらされ「自殺するまで追い込むしかない」などと書き込まれる事態になりました。

 「大学、植村さん家族を脅迫から守ろう。私たちも北星だ」と立ち上がったのは市民です。北星学園大学に応援メッセージを送るなど大学を励ます「負けるな北星!の会」(略称・マケルナ会)には国内外の1000人が加わりました。全国の400人近い弁護士が脅迫者を威力業務妨害罪で札幌地検に刑事告発するなど、支援の輪は大学人、宗教者、市民グループ、研究者、弁護士、ジャーナリストなど各界に広がっていきました。この応援を力に、北星学園大学は14年12月、植村さんの次年度雇用継続を決めました。

 植村さんは「私は捏造記者ではない」と手記や講演で反論を続けています。朝日新聞の第三者委員会、歴史家、当時取材していた記者らによって完全否定されても、「捏造」のレッテル貼りは執拗に続いています。脅迫、嫌がらせを根絶するには捏造記者という汚名をそそぐしかないと植村さんは2015年1月、記事を「捏造」と断定する西岡力東京基督教大学教授と、週刊文春を発行する文芸春秋を名誉棄損で訴える民事訴訟を東京地裁に起こしました。翌2月には同じく捏造記事と断じるジャーナリスト櫻井よしこさん、週刊新潮、週刊ダイヤモンド、月刊WiLLの発行元3社を相手取り、札幌地裁に同様の裁判を起こしました。

 櫻井さん側の申し立てで札幌地裁は、裁判の東京地裁移送を決定しましたが、札幌高裁は15年8月、植村さん側の主張を認めて地裁決定を破棄。最高裁もこれを支持し、この4月からようやく札幌で審理が始まります。100人を超す強力な札幌訴訟弁護団、北星学園OBらが2週間で集めた移送反対署名2500筆が、大きな力となりました。

 この間の異常ともいえる植村さん攻撃は、基本的人権、学問の自由、報道・表現の自由、日本の民主主義に向けられています。女性が生と性を蹂躙された日本軍「慰安婦」を、なかったことにし、歴史を書き換え、ものを言わせぬ社会に再び導こうとする黒い意志を、見逃すわけにはいきません。この裁判が植村さんの名誉回復のみならず、私たちの社会の将来に大きな影響を及ぼすと考える所以です。

 植村さんは2016年3月から1年契約で韓国のカトリック大学校客員教授に就任し、教育・研究活動を韓国で行い、裁判を東京と札幌で闘う生活が始まりました。すでに東京訴訟の審理は4回開かれましたが、どちらも一審で決着がつく裁判ではありません。

 長く険しい道を乗り越えていくため、札幌訴訟の審理開始にあたり、これまでの多種多様な取り組み、そのエネルギーを結集し、植村裁判支援組織を整えることになりました。趣旨に賛同していただけるすべての人々に参加を呼びかけます。
  2016年4月12日                 

植村裁判を支える市民の会 

共同代表
上田文雄(前札幌市長、弁護士)
小野有五(北海道大学名誉教授)
神沼公三郎(北海道大学名誉教授)
香山リカ(精神科医)
北岡和義(ジャーナリスト)
崔善愛(ピアニスト)
結城洋一郎(小樽商科大学名誉教授)