2018年6月20日水曜日

7月6日に札幌結審

札幌訴訟 これまでの経過

提訴から結審まで3年5カ月、審理開始からはおよそ2年3カ月。結審を前に札幌訴訟の足取りをトピックスで振り返る。
▽第1回(2016.4.22) 植村さんと櫻井氏が出廷し、法廷で向かい合った。植村さんは、櫻井氏が書いたコラムの誤りを指摘し、「調べればすぐわかることを調べず、私の記事を捏造と決めつけ、憎悪を煽っている」と批判。櫻井氏は持論の「朝日批判」を展開し、争う姿勢を明らかにした
▽第2回(2016.6.10) 植村弁護団は、「捏造」という語句の詳細な定義を説明し、櫻井氏が植村さんの記事を「捏造」と決めつけた言説は「単なる評論」ではなく「事実の摘示」である、と主張した
▽第3回(2016.7.29) 植村弁護団は、櫻井氏の3誌14カ所にわたる「名誉棄損」表現を具体的に指摘し、櫻井言説は「単なる評論」ではなく「事実の摘示」であることを重ねて主張し、論証した
▽第4回(2016.11.4) 櫻井氏側は、それまで「単なる評論」としてきた櫻井言説について、一部は「事実の摘示」である、と準備書面で認めた
▽第5回(2016.12.16) 植村弁護団は、櫻井氏側の主張(「事実の摘示であっても、植村氏の社会的評価を低下させない」)に対して、「一般読者が受ける印象とはかけ離れた解釈だ」と批判した。審理促進については櫻井氏側の発言をめぐって激しいやりとりがあり、紛糾した
▽第6回(2017.2.10) 植村弁護団は、櫻井言説の「違法性」と「悪質性」をきびしく批判し、「公共性、公益目的性もない」と主張した。その理由として、「植村さんの記事の用語と内容を捻じ曲げ、植村さんと同様内容の他紙記事を批判せずに植村さんのみを目の敵とし、さらに植村さんの記事の核心である戦時性暴力被害には一切ふれていない」ことなどを列挙した
▽第7回(2017. 4.14) 植村弁護団は、植村さんや大学への脅迫メールや手紙の内容と本数を明らかにし、櫻井言説がネット上で拡散し植村バッシングを引き起こしたことを時系列データをもとに指摘した
▽第8回(2017. 7.7) 裁判所が提示した「主張整理案」(争点ごとに双方の主張を要約した文書で、対照表も付されている)について意見を交わした。植村さん側は誤記の指摘にとどめたが、櫻井氏側は追記や一部削除などを求めた
▽第9回(2017.9.8) 植村弁護団は、「双方の主張と反論は出尽くした」として審理促進を求めた。岡山裁判長は10月に予定されていた弁論を取りやめ、次回に証人尋問を行うことを決定した
▽第10回(2018.2.16) 弁護側証人喜多義憲氏(元道新記者)が証言台に立ち、2時間にわたる尋問に答えた。喜多氏は自身の金学順氏取材の経緯を詳細に証言し、「捏造とか事実捻じ曲げとの櫻井言説は言い掛かりに過ぎぬ」と批判した
▽第11回(2018.3.23) 植村さんと櫻井氏の本人尋問が終日(午前1時間半、午後4時間)行われた。植村弁護団は、櫻井氏の著作の重要な誤りを詳細に指摘した。櫻井氏は誤りを認め、訂正することを約束した。櫻井言説の根拠は根底から崩れてしまったことが法廷で明らかになった
▽第12回(2018.7.6) 最終弁論と陳述があり審理終了(結審)の予定


植村裁判札幌訴訟は、7月6日に札幌地裁で開かれる第12回口頭弁論で審理が終了します。植村弁護団はこの弁論で、これまでの主張と訴えをまとめた最終準備書面を提出し、植村さんと伊藤誠一弁護士(植村弁護団共同代表)が最後の意見陳述を行います。裁判はこの日で結審し、岡山裁判長は判決言い渡しの時期(または日時)を明らかにするものとみられます。
開廷は午後2時。傍聴券の交付は抽選によることが予想されます。早めにご来場ください。地裁1階受付での整列開始は午後1時15分、抽選は午後1時30分の予定です。
裁判終了後の報告集会は、午後6時30分から札幌エルプラザ3階ホールで開きます。植村さんと弁護団がこの日の裁判について報告し、北岡和義さん(ジャーナリスト、支える会共同代表)が傍聴の感想を語ります。講演は永田浩三さん(元NHKプロデューサー、武蔵大教授)が「いま報道の自由を考える~不信と憎悪の時代に」と題して、メディアを取り巻く深刻な状況を語ります。なお、開会に先立って、短編映像記録「ドキュメント植村裁判」(15分)の上映があります。

2018年6月7日木曜日

挺対協代表が札幌に

6月12日夜、集会で講演

「挺対協が目指してきたこと、これから目指すこと」

韓国から挺対協の代表が札幌にやって来て、6月12日(火)夜に講演をします。
挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)は、1990年に結成されて以来、日本軍「慰安婦」問題を世に問い、国際的な支援連帯運動をリードしてきた団体です。挺対協が果たしたもっとも大きな役割は、被害女性の名乗り出を促し、じっさいに受けた被害体験を語ることによって日本軍による人権侵害とその苦痛の大きさを明らかにしたことです。
植村隆さんが1991年8月に朝日新聞で初めて報じた被害女性は、挺対協の聞き取り調査に応じて名乗り出た金学順さんでした。植村さんは挺対協の事務所で聞き取り調査の録音テープを聞き、挺対協代表だった元梨花女子大教授・尹貞玉さんの取材などをもとに、記事を書きました。その記事が、20年以上も経って、「捏造」だと攻撃されたのでした。ですから、挺対協は、「慰安婦」問題にかかわる植村さんと私たちにとって、原点ともいうべき存在です。
講演をする尹美香(ユンミヒャン)さんは、挺対協の現在の常任代表。「挺対協が目指してきたこと、これから目指すこと」をテーマに、これまでの挺対協の歩みと、被害者の思いを継承することの意味、私たちが共有する課題、などを語ります。
◆日時 6月12日(火)18時30分~20時30分 (開場18時)
◆会場 かでる2・7 研修室710 (札幌市中央区北2条西7丁目)
◆参加費 500円
※主催 日本軍「慰安婦」問題の解決をめざす北海道の会
※問い合わせ 011-711-1910(ギャラりー茶門、12~17時)


2018年6月5日火曜日

櫻井氏また訂正掲載

「WiLL」に次いで「産経」でも

「捏造」の根拠大きく崩れる!

植村氏「前進だが問題も残る」と語る

update=2018/6/6見出し変更、リード一部追記

ジャーナリスト櫻井よしこ氏が4年前に産経新聞に書いたコラム記事が、6月4日、同紙朝刊2面で「訂正」された(写真下)。この「訂正」について植村隆さんは、「櫻井氏が私の記事を『捏造』という根拠が大きく崩れた。また、事実に基づかない慰安婦報道を正すという点で、前進があった」と、記者会見で一定の評価をした。しかし、訂正内容には問題があることも指摘した。「私への誹謗中傷、名誉毀損への謝罪やお詫びがない。また、訂正記事の末尾に『金学順氏が強制連行の被害者でないことは明らか』と、根拠に基づかない主張をしている」として、「この問題点を今後も追及し続けていく」と語った。
櫻井氏は5月25日発売の「月刊WiILL」7月号でも同じ内容の訂正をしたばかり。いずれも、3月23日にあった札幌訴訟第11回口頭弁論の本人尋問で植村弁護団の追及を受け、誤りを認めた上で訂正することを約束していた。



産経紙面で「訂正」されたのは、2014年3月3日付「真実ゆがめる朝日報道」と題するコラム記事の一部。櫻井氏はこの中で、「捏造を朝日は全社挙げて広げた」「捏造記事でお先棒を担いだ」と朝日新聞の慰安婦報道を批判する一方で、元日本軍従軍慰安婦だった金学順さんについて、
「この女性、金学順さんは後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られた、などと書いている」
と書き、従軍慰安婦否定派が主張する「人身売買説」を強くにじませた。

しかし、金学順さんの「訴状」には「14歳で継父に40円で売られ」「17歳のとき再び継父に売られた」との記載はまったくなかった。櫻井氏は「訴状」に書かれていないことを材料にし、金学順さんは親族に身売りされて従軍慰安婦になったのだ、と読めるように書いた。これはジャーナリストとしてはあるまじき論法であり、単純な事実誤認とか資料の取り違えではすまされない。なぜなら、櫻井氏のこの主張は、植村さんが書いた記事と真っ向から対立するだけでなく、植村さんを「捏造記者」だと決めつける根拠ともなっていたからである。

このコラム記事が出たのは、週刊文春が「“慰安婦捏造”朝日記者がお嬢様女子大学教授に」との記事を掲載した2カ月後。ネットや雑誌で植村バッシングに火がついた時期だった。櫻井氏はこのコラム記事と同じ内容のことを雑誌にも書き、テレビやインターネット番組でも語った。その結果、植村バッシングはさらに拡散され、すさまじい勢いで広がった。

それから2年後の2016年4月、札幌で植村裁判の審理が始まった。植村さんは第1回口頭弁論で行った意見陳述及び終わった後の記者会見で、このコラム記事の重大な誤りを指摘した。櫻井氏は、同じ時間帯に別の場所で開いていた会見で、記者の質問に答えて、「訴状にそれが書かれていなかったことについては率直に私は改めたいと思います」と語った。
植村さんは、櫻井氏のその発言を受けて、産経新聞に訂正申し入れを再三行った。しかし、産経は「コラムに何ら誤りはないと考える」「各種資料からも、家族による人身売買の犠牲者であることは明確に裏付けられている」などと反論し、訂正に応じなかった。そこで、植村さんは2017年9月に、東京簡裁に株式会社産業経済新聞社との調停を申し立てた編注1

調停の協議は、2017年11月8日から2018年5月28日まで4回開かれた。産経側は第4回調停で、6月4日付紙面に訂正を載せることを明らかにした。その後、訂正文の文面はすり合わせがないまま、掲載された。調停途中で植村さん側は文面の用意はしていたが、結果的には一方的な掲載となった。調停は7月2日に第5回期日が設定されている。植村弁護団の吉村功志弁護士は記者会見で、「その場で今回のことの釈明を求める」と語った。
以上が、訂正記事掲載に至る経緯である。 (H.N記 2018.6.4

左から、吉村功志弁護士、植村さん、穂積剛弁護士
6月4日午後、植村さんは東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見(写真上)を開き、以下のコメントを読み上げた。

■記者会見での植村さんのコメント

櫻井よしこ氏が私の指摘によって、2014年3月3日付産経新聞コラムの間違いを認め、産経新聞は本日付で訂正を出しました。これによって、櫻井氏が私の記事を「捏造」と呼ぶ根拠が大きく崩れました。また、事実に基づかない慰安婦報道を正すという点で、前進がありました。しかし、産経新聞は訂正記事で、「金学順氏が「強制連行」の被害者でないことは明らかです」という根拠に基づかない主張を載せています。私は、この問題点を今後も、追及し続けていきます。

この訂正記事には、次のような問題点があります。
①訴状にないことをあると書いて、私を誹謗中傷し、私の名誉を毀損したのに、そのことへの謝罪やお詫びがありません。
②また訂正で「訴状」の代わりに、出してきた出典「平成3年から4年にかけて発行された雑誌記事、韓国紙の報道によると」の引用が恣意的で、異なる結論を導き出しています。この雑誌記事、韓国紙は、これまでの札幌地裁での審理の中で、「月刊宝石1992年2月号」及び「ハンギョレ新聞1991年8月15日付」ということが明らかになっています。いずれの記事も、金学順さんは、日本軍によって強制的に慰安婦にされたことが伺われる記述となっています。
しかし、産経は訂正記事で、「17歳のときその養父によって中国に連れて行かれ慰安婦にされた」としており、あたかも「慰安婦にさせ」た主語が養父のように読めるように書いています。
③訂正記事の末尾に、「金学順氏が「強制連行の被害者」でないことは明らかです」とあります。私は「連行」「だまされて慰安婦にされた」と書いていますが、「強制連行」とは書いていません。産経新聞は二度にわたって、金学順さんについて、金さんに取材して、強制連行と書いています。

櫻井よしこ氏は、2014年2月以降、様々なメディアで私の記事を「捏造」などと批判しています。そのうち、今回の産経コラム以外にも、少なくとも5回は似たような間違いをしています。このうち、月刊「WiLL」は2018年7月号で訂正を出しています編注2。この訂正についても、本日の産経新聞の訂正記事同様、問題があります。札幌訴訟の趣意書でも、同様の間違いがあります。櫻井氏は、誤った事実を前提に私の記事を「捏造」と批判していますが、今回の産経の訂正で、その根拠が大きく崩れました。
いま世の中では、フェイクニュースが問題になっています。櫻井氏の一連の記述も、その類ではないでしょうか。報道や論評は、事実に基づくべきだと思います。それが報道機関、ジャーナリストのルールです。

編注1=調停申立書全文と経過説明、植村さんが記者会見で発表した声明文(解説)は、「植村裁判資料室」に収録  ⇒こちら (声明文の中に、金学順さんの訴状URLの記載もある)
編注2=写真下


月刊WiLL 2018年7月号巻末ページ