2018年6月5日火曜日

櫻井氏また訂正掲載

「WiLL」に次いで「産経」でも

「捏造」の根拠大きく崩れる!

植村氏「前進だが問題も残る」と語る

update=2018/6/6見出し変更、リード一部追記

ジャーナリスト櫻井よしこ氏が4年前に産経新聞に書いたコラム記事が、6月4日、同紙朝刊2面で「訂正」された(写真下)。この「訂正」について植村隆さんは、「櫻井氏が私の記事を『捏造』という根拠が大きく崩れた。また、事実に基づかない慰安婦報道を正すという点で、前進があった」と、記者会見で一定の評価をした。しかし、訂正内容には問題があることも指摘した。「私への誹謗中傷、名誉毀損への謝罪やお詫びがない。また、訂正記事の末尾に『金学順氏が強制連行の被害者でないことは明らか』と、根拠に基づかない主張をしている」として、「この問題点を今後も追及し続けていく」と語った。
櫻井氏は5月25日発売の「月刊WiILL」7月号でも同じ内容の訂正をしたばかり。いずれも、3月23日にあった札幌訴訟第11回口頭弁論の本人尋問で植村弁護団の追及を受け、誤りを認めた上で訂正することを約束していた。



産経紙面で「訂正」されたのは、2014年3月3日付「真実ゆがめる朝日報道」と題するコラム記事の一部。櫻井氏はこの中で、「捏造を朝日は全社挙げて広げた」「捏造記事でお先棒を担いだ」と朝日新聞の慰安婦報道を批判する一方で、元日本軍従軍慰安婦だった金学順さんについて、
「この女性、金学順さんは後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られた、などと書いている」
と書き、従軍慰安婦否定派が主張する「人身売買説」を強くにじませた。

しかし、金学順さんの「訴状」には「14歳で継父に40円で売られ」「17歳のとき再び継父に売られた」との記載はまったくなかった。櫻井氏は「訴状」に書かれていないことを材料にし、金学順さんは親族に身売りされて従軍慰安婦になったのだ、と読めるように書いた。これはジャーナリストとしてはあるまじき論法であり、単純な事実誤認とか資料の取り違えではすまされない。なぜなら、櫻井氏のこの主張は、植村さんが書いた記事と真っ向から対立するだけでなく、植村さんを「捏造記者」だと決めつける根拠ともなっていたからである。

このコラム記事が出たのは、週刊文春が「“慰安婦捏造”朝日記者がお嬢様女子大学教授に」との記事を掲載した2カ月後。ネットや雑誌で植村バッシングに火がついた時期だった。櫻井氏はこのコラム記事と同じ内容のことを雑誌にも書き、テレビやインターネット番組でも語った。その結果、植村バッシングはさらに拡散され、すさまじい勢いで広がった。

それから2年後の2016年4月、札幌で植村裁判の審理が始まった。植村さんは第1回口頭弁論で行った意見陳述及び終わった後の記者会見で、このコラム記事の重大な誤りを指摘した。櫻井氏は、同じ時間帯に別の場所で開いていた会見で、記者の質問に答えて、「訴状にそれが書かれていなかったことについては率直に私は改めたいと思います」と語った。
植村さんは、櫻井氏のその発言を受けて、産経新聞に訂正申し入れを再三行った。しかし、産経は「コラムに何ら誤りはないと考える」「各種資料からも、家族による人身売買の犠牲者であることは明確に裏付けられている」などと反論し、訂正に応じなかった。そこで、植村さんは2017年9月に、東京簡裁に株式会社産業経済新聞社との調停を申し立てた編注1

調停の協議は、2017年11月8日から2018年5月28日まで4回開かれた。産経側は第4回調停で、6月4日付紙面に訂正を載せることを明らかにした。その後、訂正文の文面はすり合わせがないまま、掲載された。調停途中で植村さん側は文面の用意はしていたが、結果的には一方的な掲載となった。調停は7月2日に第5回期日が設定されている。植村弁護団の吉村功志弁護士は記者会見で、「その場で今回のことの釈明を求める」と語った。
以上が、訂正記事掲載に至る経緯である。 (H.N記 2018.6.4

左から、吉村功志弁護士、植村さん、穂積剛弁護士
6月4日午後、植村さんは東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見(写真上)を開き、以下のコメントを読み上げた。

■記者会見での植村さんのコメント

櫻井よしこ氏が私の指摘によって、2014年3月3日付産経新聞コラムの間違いを認め、産経新聞は本日付で訂正を出しました。これによって、櫻井氏が私の記事を「捏造」と呼ぶ根拠が大きく崩れました。また、事実に基づかない慰安婦報道を正すという点で、前進がありました。しかし、産経新聞は訂正記事で、「金学順氏が「強制連行」の被害者でないことは明らかです」という根拠に基づかない主張を載せています。私は、この問題点を今後も、追及し続けていきます。

この訂正記事には、次のような問題点があります。
①訴状にないことをあると書いて、私を誹謗中傷し、私の名誉を毀損したのに、そのことへの謝罪やお詫びがありません。
②また訂正で「訴状」の代わりに、出してきた出典「平成3年から4年にかけて発行された雑誌記事、韓国紙の報道によると」の引用が恣意的で、異なる結論を導き出しています。この雑誌記事、韓国紙は、これまでの札幌地裁での審理の中で、「月刊宝石1992年2月号」及び「ハンギョレ新聞1991年8月15日付」ということが明らかになっています。いずれの記事も、金学順さんは、日本軍によって強制的に慰安婦にされたことが伺われる記述となっています。
しかし、産経は訂正記事で、「17歳のときその養父によって中国に連れて行かれ慰安婦にされた」としており、あたかも「慰安婦にさせ」た主語が養父のように読めるように書いています。
③訂正記事の末尾に、「金学順氏が「強制連行の被害者」でないことは明らかです」とあります。私は「連行」「だまされて慰安婦にされた」と書いていますが、「強制連行」とは書いていません。産経新聞は二度にわたって、金学順さんについて、金さんに取材して、強制連行と書いています。

櫻井よしこ氏は、2014年2月以降、様々なメディアで私の記事を「捏造」などと批判しています。そのうち、今回の産経コラム以外にも、少なくとも5回は似たような間違いをしています。このうち、月刊「WiLL」は2018年7月号で訂正を出しています編注2。この訂正についても、本日の産経新聞の訂正記事同様、問題があります。札幌訴訟の趣意書でも、同様の間違いがあります。櫻井氏は、誤った事実を前提に私の記事を「捏造」と批判していますが、今回の産経の訂正で、その根拠が大きく崩れました。
いま世の中では、フェイクニュースが問題になっています。櫻井氏の一連の記述も、その類ではないでしょうか。報道や論評は、事実に基づくべきだと思います。それが報道機関、ジャーナリストのルールです。

編注1=調停申立書全文と経過説明、植村さんが記者会見で発表した声明文(解説)は、「植村裁判資料室」に収録  ⇒こちら (声明文の中に、金学順さんの訴状URLの記載もある)
編注2=写真下


月刊WiLL 2018年7月号巻末ページ