ネットや新刊書で、植村裁判を支援する声や意見、解説がいまも静かに広がっています。その最新情報をお伝えします。
ネット書評 昨年12月発行のブックレット「慰安婦報道『捏造』の真実」の書評を、日本女性学研究会のホームページ(facebook)と個人ブログ「加害者の孫を生きる」が掲載しています。
2つの書評とも、同書に書かれている櫻井、西岡両氏のウソに力点を置いています。また、裁判で争点となっている金学順さんが慰安婦とされた経緯(強制連行か人身売買か)についても、共通する考えを注記の形で示しています。たとえ人身売買であっても日本軍、政府は免責されず、また問題の本質はそこにある、との考えです。慰安婦問題運動者の視点と問題意識がよくわかる書評です。
新刊書 朝日OBの山田厚史氏が「アベ友トンデモ列伝」で櫻井よしこ氏を徹底的に批判し、毎日新聞OBの臺宏士氏は、「アベノメディアに抗う」で植村隆氏のたたかいに寄り添いながら、裁判の経過を克明にたどっています。また、植村氏自身も月刊「マスコミ市民」に寄稿し、札幌地裁判決は「結論ありきの司法判断」だと批判し、「私は屈しない」との決意を明らかにしています。
アベ友トンデモ列伝■関連記事は47~62ページ、山田厚史「従軍慰安婦訴訟で暴かれた櫻井よしこ氏のデタラメ捏造裁判~強制連行をめぐる主張はでっちあげだった」。宝島社、2018年12月発行、本文224ページ、1500円+税。
アベノメディアに抗う■46~65ページ「第2章、私は捏造記者ではない」。臺宏士著、緑風出版、2019年1月発行、本文272ページ、2000円+税。
月刊「マスコミ市民」■関連記事は42~47ページ、植村隆「元朝日記者の言論の自由を守る闘い」。第601号、マスコミ市民フォーラム、2019年2月発行、本文80ページ。
ネット掲載書評を以下に引用転載します。
(引用開始)
日本女性学研究会■ホームページ 2019年2月1日
1991年、朝日新聞記者の植村隆氏は、元「慰安婦」の金学順(キムハクスン)さんの証言を伝える記事を執筆した。それに対して、ジャーナリスト・櫻井よしこ氏と東京基督教大学教授の西岡力氏は、その記事は「捏造」だと非難してきた。植村氏は、名誉棄損で櫻井・西岡両氏と新潮社などを訴えた。その裁判の記録が本書である。
植村氏は記事の中で、たとえば、金学順さんが日本軍に強制連行されたことを伝えた。それに対して、櫻井氏は、金さんは継父によって人身売買されたのであって、植村氏の記事は捏造だと言う。しかし、櫻井氏が挙げた典拠にも、そんなことは書かれていない。むしろ、日本軍によって継父が刀で脅されて連行されたと書かれている(金さんによると、自分も脅迫されてトラックに乗せられた)。
また、たとえ金さんが親に売られたのだとしても、日本軍「慰安所」で性行為を強制された以上、日本軍はまったく免責されないことは、性暴力の問題を少しでも知っている人には明らかなことだ(私は、本書でも、この点も右派の論理に対する批判として強調したほうがいいと思う)。
櫻井氏と西岡氏は、裁判に提出された証拠を前にして、ついに証人尋問で自らの記述の誤りを認めざるを得なくなった。本書は、その尋問記録を、50ページ余りにわたって収録している。
しかし、櫻井氏を訴えた裁判の札幌地裁判決(昨年11月)は、「金さんは継父によって売られた」という同氏の記述は「真実だと認めることは困難」と言いつつも、同氏がそう信じたことには「相当の理由がある」として免責した。しかし、判決の論理はとても成り立つものではない(103-107頁)。「捏造」という記者生命を失わさせるような非難に対して、不当な判決と言うほかない。(遠山日出也)
2019年2月1日
ブログ■「加害者の孫を生きる~日本軍「慰安婦」問題のこと、その他のこと」
2019年2月22日
2019年2月22日
植村裁判取材チーム・編『慰安婦報道「捏造」の真実~検証・植村裁判』(花伝社)読了。『慰安婦報道「捏造」の真実』というタイトル、いいですね。言いえて妙です。
植村事件とは多方面の社会問題をはらんでいて、日本軍「慰安婦」問題に限らずいろんな語り口ができると思っています。が、この本に関してはほぼ一点に絞られます。
櫻井よしこと西岡力は、植村記者の書いた記事を「捏造」と批判しましたが、櫻井よしこと西岡力の「捏造」批判の論拠そのものが「捏造」であるということを明らかにしたことです。二人に対する法廷での証人尋問で、二人の「捏造」が暴かれしどろもどろになり、あるいは開き直っていく様は、読んでいて痛快です。結局二人とも、自分の論拠が誤りであると認めました。
櫻井裁判は名誉棄損裁判としては有罪にまで持ち込めませんでしたが(それ自体はとても腹立たしいことです)、それでも十分「勝利した」と私は思います。そして西岡裁判の方は今春に判決があると言われていますが、こちらの方は櫻井裁判と同じようになるとは限りません。
二人の主張は、それほど難しいものではありません。
櫻井よしこはWill2014年4月号にこのように書いています。
《訴状には、14歳のとき、継父によって40円で売られたこと、3年後、17歳のとき、再び継父によって、北支の鉄壁鎮というところに連れて行かれて慰安婦にさせられた経緯などが書かれている。植村氏は、彼女は継父によって人身売買されたという重要な点を報じなかっただけでなく、慰安婦とは何の関係もない『女子挺身隊』と結びつけて報じた。》
このことはWill誌上だけではなく、右派論壇誌やテレビなどで、繰り返し繰り返し主張していました。
しかし実際には、金学順さんの訴状にはそんなことどこにも書かれていないのです。まるっきりのウソ、「捏造」なのです。
「40円で売られた」ということは臼杵敬子による月刊宝石1992年2月号のインタビュー記事ですが、売られた先は妓生専門学校であり(妓生は売春婦ではない、念のため)、「慰安婦」にさせられる3年も前のことです。そして同記事では「養父は将校たちに刀で脅され、土下座させられたあと、どこかに連れ去られてしまったのです」とも書いています。
また「慰安婦」と「挺身隊」が結び付けられて語られていたのは、当時は普通のことでした(私自身も当時混同していました。)。「慰安婦」は「挺身隊」ではありませんが、当時の韓国でも日本でもそのように語られていたのは事実です。そして実際、金学順さんも自身のことを「挺身隊慰安婦として苦痛を受けた私が」と、自身のことを「挺身隊」と語っているのです。
西岡力は「捏造」の基準として、①「本人が語っていないことを書く」、②「書くべき事実である事実を書かない」、③「筆者が利害関係者であるという」という3点から植村さんの記事を批判し「捏造」認定してきました。つまり
①「女子挺身隊の名で戦場に連行された」という本人が述べていない経歴を加えた。
②本人が述べた「親に40円でキーセンに売られた」ことを書かなかった。
③対日訴訟を起こしている「義母から便宜」を受けて記事を書いた。
①②のウソについてはもう説明不要ですよね。③については、植村さんが記事を書いた理由は朝日新聞元ソウル支局長の誘いがあったからで、義母は関係していないことがすでに裁判の中で確定しています。
そして西岡力自身の「捏造」認定は、ブーメランのように自分に跳ね返ってきます。
①「継父に40円で売られて慰安婦になった」と、本人が語っていないことを書いた。
②「私は日本軍に連行されました」という本人の証言など、書くべきことを書かなかった。
③ソウル取材は「文春関係者から」もらったネタを。「文藝春秋」の記事にするため、編集部の丸抱えで行った。西岡は文藝春秋の利益関係者。
西岡力のほうが「捏造」学者であるということが、完膚なきまでに暴露されたのです。
法廷では櫻井よしこも西岡力も、自らの過ちを認めています。櫻井よしこは(その内容に問題があるとはいえ)訂正記事も掲載しています。
しかしそれだけでは足らないと思うのは、私だけではないでしょう。
二人の捏造バッシングのために植村さんは職を失い、娘までもが身の危険にさらされました。
対して櫻井よしこと西岡力は、今でも保守論壇に強い影響力を持っており、いまだに二人の「捏造」は右派の中で受け入れられ、再生産されています。金学順さんの証言は、いまだに毀損されたままです。なぜこんなことが許されているのでしょうか?
私が思うに、歴史修正主義は嘘と「捏造」を前提として成り立っているからです。歴史修正主義とは歴史学の領域ではなく、単純に政治闘争です。ウソを百回繰り返せば本当になるという理屈で、政治闘争が行われているだけです。
だれもが「捏造」だと知っているから、「捏造」した当の犯人が微塵も傷つかない。そういうことだとしか思えません。安倍首相のウソがいくら明らかになっても、政権はビクともしない。それにとても似ています。
それに、現実問題として市民が「捏造」を検証することなど、とても不可能なのです。
今回の金学順さんの証言問題にしても、普通の市民は金学順さんの証言に触れることなく櫻井よしこや西岡力の記事に接する機会のほうが圧倒的に多いわけですから、真偽の判断を下す必要さえ感じることなく「信じてしまう」のです。
なぜ? 自分が求めている嘘を上手に提示してくれるから?
歴史修正主義者が政治闘争として挑むように、市民もまた見たいものしか見ない(歴史の真実は興味がない)ということのようにも思えます。
これに対抗するにはどうすればいいのかというのは、なかなか難しいと思っています。政治闘争に対して「いや、正しい歴史はこうだから」と主張することがどれほど有効なのかということにも、最近は疑問を感じずにはいられません。
それでも訴え続けること。それが問われているのだと思います。正しいことは正しいのだと、正義は正義なのだと訴え続けるしかありません。(だい)
[追伸1]
植村さんの著書『真実 私は「捏造記者」ではない』の感想について、2017年に書きました。当ブログにアップしていますので、こちらもご参照ください。
[追伸2]
本旨ではないので触れないでおきましたが、櫻井よしこと西岡力の「捏造」……つまり金学順さんが40円で「慰安婦」として売られたのだったとしても、それが何か問題でしょうか?
ふたりの主張は金学順さんは借金で売られたのだから売春婦であって、国に責任はないという主張です。
借金で縛られる……それこそが債務奴隷の典型であり、性奴隷制度そのものです。そして売ったのが継父であったとしても、第一義的に責任を負わなければならないのは、そういう女性たちを戦地・占領地に連れて行き慰安所にいれ性暴力にさらした日本軍・日本政府にあります。料金の決定からコンドームの配布に至るまで、慰安所の運営・監督は日本軍が行いました。責任を免れ得るものでは決してありません。
櫻井・西岡の「捏造」が仮にそのまま本当のことだったとしても、日本の加害性を明らかにするばかりであり、日本を免罪する理由にはなりません。
(引用終わり)