2018年2月2日金曜日

東京第11回傍聴記

捏造だ、の決めつけには「真実性」も「相当性」もない
被告西岡氏は、植村氏を「捏造記者」と仕立てた確信犯だ!

東京訴訟の第11回口頭弁論が、1月31日午後3時30分から、東京地裁で開かれた。今回も傍聴券交付の抽選はなかったが、3時すぎから103号法廷前の廊下には傍聴者の長い列ができた。
定刻に開廷。弁護団は植村氏を囲むようにして中山武敏弁護団長ほか11人が着席、札幌弁護団の大賀浩一弁護士も後列に座った。被告側はいつものように、喜田村洋一弁護士と若い男性弁護士のふたりだけ。法廷正面には、原克也裁判長の左右に女性、男性裁判官が座り、前回と変わらない。定員が90人ほどの傍聴席はほぼ満席となった。

最初に提出書面の確認が行われた。提出されたのは植村弁護団の第10準備書面。穂積剛弁護士がすぐに立ち上がって、その要旨を読み上げた。穂積弁護士の陳述は第2回(2015年6月29日)以来、2年半ぶりだ。自信と信念にあふれた力強い弁論が法廷に響いた。
植村弁護団は第1回弁論以来、西岡氏の「捏造決めつけ」にはまったく根拠がないことを繰り返し主張してきたが、第10準備書面はその主張をあらためて整理し、西岡氏の「悪質性」追及の決定打となる内容だ。具体的には、西岡氏による「名誉棄損」表現のうち、「捏造」という字句を明記している部分16カ所について、
①西岡氏が「捏造だ」と決めつける根拠ななにか
②西岡氏のその根拠は正しいのかどうか
③西岡氏が「捏造だ」と信じる理由はあるのかどうか
を詳細に検討している(法廷と書面では①前提事実②真実性③相当性の検討、という)。

A4判で30枚を超える書面は、西岡氏を厳しく糾弾し、こう結論づけている。
「被告西岡が捏造だとする根拠はすべて真実ではなく、また誤信したというレベルでもない。被告西岡は確信犯として、植村氏を捏造記者に仕立てあげようとしたとしか思われない。本書面の検討によって、その悪質性が浮き彫りになったというべきである」
この書面が対象とした記事の掲載媒体は、❶草思社「増補新版よくわかる慰安婦問題」、❷インターネット(「いわゆる従軍慰安婦について歴史の真実から再考するサイト」、❸雑誌「正論」2014年10月号、❹雑誌「中央公論」2014年10月号、❺「週刊文春」2014年2月6日号、同8月14・21日号だ。
この日の弁論で穂積弁護士は、❸の「正論」の記述に絞って、次のように論述した。

西岡氏は、植村記者の記事について、2点捏造があるとしている。
まず第1点。「女子挺身隊の名で」という表現について、「本人が語っていない経歴を勝手に作って書いた。これこそが捏造だ」としている。西岡氏は、植村記者が取材した金学順さんのテープや記者会見で、「挺身隊の名で」とは述べていない、とも主張している。しかし、テープ(のその後の所在)は原告側も確認していない。西岡氏はどうやって確認したのか。金さんが「挺身隊」と言っていない、という証拠などもない。金さんの記者会見の記事では、韓国の東亜日報や中央日報も「挺身隊慰安婦」「私は挺身隊だった」と書いている。金さん自身が挺身隊と言っていたという可能性が高い。西岡氏は自著「よくわかる慰安婦問題」で、「韓国では挺身隊は慰安婦のことだと誤解されていた」とも書いている。金さんが自分のことを「挺身隊」と述べたとしてもおかしくない。それなのに、西岡氏はなぜ、金さんが「挺身隊」とは言わなかったということを断言できるのか。支離滅裂だ。
2点目。金さんは「そこに行けば金儲けができる、と言われた」とされている。西岡氏は植村記者のこの記事について「義父を登場させず、地区の仕事をしている人という正体不明の人を出してきた」と指摘し、「キーセンとして売られたという事実を隠した」と主張している。しかし金さんに聞き取りをした団体の記録によると、このとき金さんは「里長に勧められた」と語っている。また金さんの弁護団の記録では「区長に説得された」とある。植村記者は、金さんがこのように言及したことを表現したのにすぎない。西岡氏は、「地区の仕事をしている人」という表現は植村記者の「創作だ」と断定しているが、断定するからにはその根拠が求められる。ところが西岡氏は、根拠を示していない。周辺取材もない。西岡氏が「創作」と信じる相当の理由がない。
事実は、西岡氏が主張することと正反対なのであり、西岡氏は確信犯なのではないか。「捏造」とう指摘が妥当しないことを知っていて、「捏造記者」扱いしていたとしか思えない。
※この「弁論要旨」原文は別記事(下)に収録
※「第10準備書面」の全文PDFはこちら

穂積弁護士の熱弁は10分間にわたった。この間、正面の裁判官全員が書面に目を落としているのとは対照的に、被告側の喜田村弁護士はメモすらも取らずにじっと座っていたのが印象的だった。
このあと、今後の進行日程について意見が交わされ、植村氏側弁護団と裁判長の間でやりとりがあった。次回(第12回)期日は4月25日と決まったが、証人尋問も含めた次々回については、植村氏側は9月以降の開催を求めた。その理由として、「西岡氏が札幌訴訟の証人尋問に関して提出した書面についても法廷できちんと議論すべきだ」と主張した。これに対して、裁判長は7月開催を提案し、被告側も同調したが、結論は出なかった。閉廷は午後3時48分だった。

口頭弁論終了後、報告集会が国会そばの参議院議員会館で午後4時半から開かれた。参加者は約100人。弁護団報告(順に穂積剛、神原元、大賀浩一弁護士)と福島瑞穂参院議員のあいさつの後、東京新聞の望月衣塑子記者が「記者への攻撃と報道の自由」と題して講演し、最後に植村氏が近況と今年の抱負、決意を語った。
※集会の詳報は作成中です。しばらくお待ちください

▼写真
上段=報告集会で講演する望月記者と、報告する植村氏
中段=集会場(参議院議員会館の会議室)
下段=左から、穂積弁護士、神原弁護士、大賀弁護士、福島瑞穂参議院議員