2017年4月12日水曜日

東京第8回口頭弁論

「平穏な生活権」侵害を鋭く突いた梓沢弁護士の論述

植村裁判東京訴訟(被告西岡力氏、文藝春秋)の第8回口頭弁論が4月12日、東京地裁103号法廷で開かれた。

昨年12月の第7回以来4カ月ぶり。今回から傍聴券の抽選はなくなり、先着順に傍聴ができるようになった。定員90ほどの傍聴席には70人ほどが座った。弁護団席には中山武敏弁護団長のほか角田由紀子、宇都宮健児、穂積剛、神原元弁護士ら14人が着席し、いつもながらの重厚な布陣となった。対する被告側はいつものように喜田村洋一氏と若い弁護士のふたりだけ。裁判官は右陪席が女性から男性にかわった。

午後3時開廷。はじめに植村弁護団がこの日提出した第6準備書面を陳述し、その要旨を梓沢和幸弁護士が読み上げた。梓沢弁護士は、週刊文春の記事が植村さんと大学、家族に対するバッシング、脅迫などを誘発したことについて、「文春には故意があり、被害が及ぶことを欲していたとさえいえる」と厳しく批判し、「植村さんに加えられた人格攻撃は、平穏な生活を営む権利、プライバシー権への侵害でもある」と述べた。
平穏な生活を営む権利は、判例と学説によって、広義のプライバシー権とされ、私法上の権利を超えて拡大する現象をみせている。最近の名誉棄損訴訟でも、プライバシー権の侵害として損害賠償を認容するものがある。

梓沢弁護士は、そのような潮流を指摘した上で、
▼被告(文春)による報道によって侵害される原告(植村)の私生活の平穏が、被告を含むマスメディアの表現の自由ないし報道の自由に優越することはいうまでもない
▼紙媒体(文春)における人格糾弾がその後のインターネット上の攻撃につながり、原告のみならず家族と勤務先の学園までも恐怖のどん底に陥れたという点で注目すべき事案であると述べ、論述を締めくくった。梓沢弁護士の歯切れの良い弁舌は力強く法廷に響きわたり、中盤戦を迎えた植村裁判のハイライト場面となった。

なお、平穏な生活権=プライバシー権について、植村弁護団はすでに成蹊大学法科大学院教授・渡邊知行氏の意見書(3月13日付)を提出している。梓沢弁護士の弁論は渡邊教授の意見と同じ論理構成となっている。

このあと、今後の進行について原克也裁判長が、原告と被告双方に意見を求めた。その中で、原告側は神原元弁護団事務局長が、第6準備書面に記載した「求釈明」について説明した。
「求釈明」は文字通り、被告に詳しい説明を求めるもので、①被告西岡は1992年ごろに訪韓し、梁順任氏と面談したというが、いかなる質問を発し、いかなる情報を得たのか(注=梁氏は韓国太平洋戦争犠牲者遺族会幹部で植村氏の義母)、②被告西岡は、金学順氏や尹貞玉氏に取材したか。取材しなかった場合、その理由はなにか(注=金氏は植村氏が初めて記事で紹介した元慰安婦女性、尹氏は慰安婦支援運動者で当時梨花女子大教授)、③そもそも、被告西岡は本件各記事を執筆中、原告に取材をしたことがあったか、④1992年当時、原告の記事を「重大な事実誤認」と指摘していた被告西岡が、「重大なる事実誤認」との認識を「捏造」と改め、本件記事を執筆するに際し、いかなる追加取材・調査を行ったか、など全14項目に及ぶ(⑤以下略)。すべてが西岡氏と週刊文春の取材の経過と基本的な取材姿勢にかかわるものである。被告側の喜田村弁護士は「すべてに回答するとは限らないが、必要な範囲で回答します」と答えた。次回弁論でその内容が明らかにされる。

閉廷は午後3時15分。次回期日は7月12日(水)に決まった。

弁論要旨と渡邊教授の意見書、求釈明の各全文は、「植村裁判資料室」に収録しました。こちら

報告集会はこの後、午後4時から6時まで、参議院議員会館講堂で開かれ、80人が参加した。集会発言者は順に、神原弁護士、梓沢弁護士、渡辺知行氏(成蹊大学教授)、香山リカ氏、デイビッド・マクニール氏、植村氏の6人。

<集会報告は準備中>

上左=退廷後に地裁玄関前で語り合う植村さんと宇都宮健児弁護士、
上右=参議院議員会館で報告集会。下=6人の集会発言者