2018年11月9日金曜日

敗訴! 不当判決!

札幌地裁判決「櫻井は植村の社会的評価を低下させた、しかし、捏造と信じた理由も認める」岡山忠広裁判長

原告 植村隆
被告 櫻井よしこ、ワック、新潮社、ダイヤモンド社
主文 1原告の請求をいずれも棄却する
   2訴訟費用は原告の負担とする

<判決要旨は下段にあります>

これは、不当判決だ!

■弁護団声明
1 本日,札幌地方裁判所民事第5部(岡山忠広裁判長)は,元朝日新聞記者植村隆氏がジャーナリストの櫻井よしこ氏及び週刊新潮,週刊ダイヤモンド,WiLL発行の出版3社に対して,名誉毀損を理由として慰謝料の支払いなど名誉回復を求めた訴訟で,原告の請求を棄却する不当判決を言い渡した。

2 札幌地裁の判決は,「捏造」を事実の摘示であることを認め,櫻井氏はその表現により植村氏の名誉を毀損したことを認めた。しかしながら,櫻井氏は金学順氏が日本政府を訴えた訴状等の記載から,継父によって人身売買された女性であることを信じ,原告の妻が太平洋戦争犠牲者遺族会の幹部の娘であることから植村氏の本件記事の公正さに疑問を持って,原告が事実と異なる記事を敢えて執筆したこと,つまり「捏造」したと信じたことには理由があると判断した。
しかし,仮に櫻井氏が金学順氏が継父によって人身売買された女性であることなどを信じたとしても,そこから植村氏が敢えて事実と異なる事実を執筆したと信じたとの判断には論理の飛躍がある。

また,櫻井氏への本人尋問では,櫻井氏は取材の過程で植村氏に取材を行わず,訴状や論文の誤読など,取材の杜撰さが明らかになった。
本日の判決は櫻井氏がジャーナリストであることを無視して,櫻井氏の取材方法とそれによる誤解を免責するものである。

これを敷衍すれば,言論に責任を負うべきジャーナリストと一般読者とが同じ判断基準で判断することは,取材が杜撰であっても名誉毀損が免責されることになり,到底許されるものではない。

3 私たち弁護団は,本日の不当判決を受け入れることはできない。原告及び弁護団はこの不当判決に控訴をし,植村氏の名誉回復のために全力で闘う決意である。                    

2018年11月9日             植村訴訟札幌弁護団

■支える会声明 
市民の良識と正義感を打ち砕く
「まったく不当な判決だ!!」

植村隆氏が名誉回復を求めた今回の訴訟に対する、札幌地裁の判決は、櫻井氏がジャーナリストとして果たすべき取材活動の杜撰さを考慮しておらず、まったく不当である。

植村氏ばかりか私たち市民を深く深く失望させた。執拗な攻撃にひるまず声をあげた植村氏の勇気と、全力で応えた弁護団の周到かつ緻密な弁論、それらを見守り続けた市民の支援を理解しなかった裁判官諸氏は真実を誤ったばかりか、良識ある市民を裏切った。

植村氏に対するいわれのないバッシングが始まって5年、提訴から3年余が過ぎた。結審まで12回を数えた口頭弁論は傍聴の希望者が多く、わずか1回をのぞいて抽選となり、時には4倍近い倍率になった。市民の関心の大きさと深まりを、裁判官たちはどのように理解していたのだろうか。
植村氏支援を通じて市民が示したことは、二つに集約される。一つは市民の健全な良識だ。日本軍は戦時中、朝鮮などの女性たちを慰安婦にして繰り返し凌辱する、非人道的な行為を行った。この歴史的事実を直視し、日本がまずなすべきことは被害者に届く謝罪ではないか、という人間としての良識に立つ正義感である。歴史的事実をゆがめようとする櫻井よしこ氏らの歴史修正主義が、実際は誤った事実認識にもとづくものであることを市民は明確に認識し、「ノー」をつきつけていたのだ。歴史教科書から慰安婦記述を除外し、「あるものをなかったこと」にしようとする昨今の流れに対する憤りが渦巻いていた。

いま一つは、民主主義への希求である。正確な事実の報道と、それに基づいた人々の健全な判断があってこそ民主主義はよりよく機能する。事実を伝えてきた報道を、櫻井氏のように確たる裏付けもなく「捏造」呼ばわりし、記者を社会から葬ろうとする動きを、市民は“論評”に名を借りた無法と捉えた。それは森友・加計問題を「嘘とごまかし」で乗り切ろうとする安倍政権に対する市民の危機感とも通じるものがある。

こうした植村訴訟支援に込めた市民の正当な願いを、札幌地裁の裁判官は認識できなかったというわけだ。今回の判決は、植村氏が求めた名誉回復の希望を打ち砕いたばかりでない。家族の生命の安全をも脅かすネット世界の無法者たちを認めたことになる。日本軍の慰安婦にされた被害者をあらためて冒涜してしまった。民主主義における正当な報道のあり方をも著しくゆがめかねないと危惧する。

あらためて今回の不当判決を満腔の怒りを込めて糾弾する。そして、来る控訴審では、市民の良識に立つ正義の旗のもとに、植村氏、弁護団とともにこれまで以上の力を結集して闘うことを誓う。


2018119日 植村裁判を支える市民の会
                            
共同代表    
上田文雄(前札幌市長、弁護士)     
小野有五(北海道大学名誉教授)     
神沼公三郎(北海道大学名誉教授)     
香山リカ(精神科医、立教大学教授)
北岡和義(ジャーナリスト)      
崔善愛(ピアニスト)          
結城洋一郎(小樽商科大学名誉教授)  


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判決要旨

事案の概要

被告櫻井は,被告ワック社が発行する雑誌「WiLL」,被告新潮社が発行する「週刊新潮」,被告ダイヤモンド社が発行する「週刊ダイヤモンド」に,原告が朝  日新聞社の記者として「従軍慰安婦」に関する記事を執筆して平成 3  8  1 1 日の朝日新聞に掲載した記事(「思い出すと今も涙韓国の団体聞き取り」というタイトルの記事。以下「本件記事」という。)について「捏造である」などと記載する論文(以下「本件各櫻井論文」という。)を掲載するとともに,自らが開設するウェブサイトに上記各論文のうち複数の論文を転載して掲載している。

本件は,原告が,本件各櫻井論文が原告の社会的評価を低下させ,原告の名誉感情や人格的利益を侵害するものであると主張して,被告櫻井に対してウェブサイトに転載して掲載している論文の削除を求めたほか,被告らに対して謝罪広告の掲載や慰謝料等(各被告ごとに550万円)の支払を求めた事案である。

当裁判所の判断

1社会的評価を低下させる事実の摘示,意見ないし論評の表明

本件各櫻井論文を,一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従っ て判断すれば  本件各櫻井論 文のうちワッ ク社の出版する「 W i L L 」に掲載されたものには,①原告が,金学順氏が継父によって人身売買され,慰安婦にさせられたという経緯を知りながらこれを報じず,②慰安婦とは何の関係もない女子挺身隊とを結びつけ,金学順氏が「女子挺身隊」の名で日本軍によって 戦場に強制連行され,日本軍人相手に売春行為を強いられた「朝鮮人従軍慰安婦」であるとする,③事実と異なる本件記事を敢えて執筆したという事実が摘示されており,被告新潮社の出版する「週刊新潮」及びダイヤモンド社が出版する「週刊ダイヤモンド」に掲載されたものにも,これと類似する事実の摘示があると認められるものがある。そして,このような事実の摘示をはじめとして,本件各櫻井論文には,原告の社会的評価を低下させる事実の摘示や意見ないし論評がある。

2判断枠組

事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,上記行為には違法性がなく,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される。また,ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠くものというべきであり,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される。

3摘示事実及び意見ないし論評の前提事実の真実性又は真実相当性

(1)金学順氏が挺対協の事務所で当時語ったとされる録音テープや原告の取材内容が全て廃棄されていることから,金学順氏が慰安婦にさせられるまでの経緯に関して挺対協でどのように語っていたのかは明らかでない。また,金学順氏が共同記者会見に応じた際に述べたことを報じた韓国の報道のなかには,養父又は義父が関与し,営利を目的として金学順氏を慰安婦にしたことを示唆するものがあるが,慰安婦とされる経緯に関する金学順氏の供述内容には変遷があることからすると 上記 1 ①の事実のうち金学順氏が慰安婦とされるに至った経緯に関する部分が真実であるとは認めることは困難である。しかし,本件記事には「だまされて慰安婦にされた」との部分があることや,被告櫻井が取材の過程で目にした資料(金学順氏が平成3814日に共同記者会見に応じた際の韓国の新聞報道,後に金学順氏を含めた団体が日本国政府を相手に訴えた際の訴状,金学順氏を取材した内容をまとめた臼杵氏執筆の論文)の記載などを踏まえて;被告櫻井は,金学順氏が継父によって人身売買された女性であると信じたものと認められる。これらの資料は,金学順氏の共同記者会見を報じるもの,訴訟代理人弁護士によって聴き取られたもの,金学順氏と面談した結果を論文にしたものであるところ,金学順氏が慰安婦であったとして名乗り出た直後に自身の体験を率直に述べたと考えられる共同記者会見の内容を報じるハンギョレ新聞以外の報道にも,養父又は義父が関与し,営利目的で金学順氏を慰安婦にしたことを示唆するものがあることからすると,一定の信用を置くことができるものと認められるから,被告櫻井が上記のように信じたことには相当の理由があるということができる。また,これらの資料から,被告櫻井が,金学順氏が挺対協の聞き取りにおける録音で「検番の継父」にだまされて慰安婦にさせられたと語っており,原告がその録音を聞いて金学順氏が慰安婦にさせられた経緯を知りながら,本件記事においては金学順氏をだました主体や「継父」によって慰安婦にさせられるまでの経緯を記載せず,この事実を報じなかったと信じたことについて相当な理由があるといえる。

また,上記1②の事実については,本件記事のリード文に「日中戦争や第二次大戦の際,「女子挺(てい)身隊」の名で戦場に連行され,日本軍人相手に売春行為を強いられた「朝鮮人従軍慰安婦」のうち,一人がソウル市内で生存していることがわかり(以下略)」との記載があるが,原告本人の供述によれば,金学順氏は,本件記事の取材源たる金学順氏の供述が録音されたテープの中で,自身が女子挺身隊の名で戦場に連行されたと述べていなかったと認められる。このことに加えて,本件記事が掲載された朝日新聞が,本件記事が執筆されるまでの間に,朝鮮人女性を狩り出し,女子挺身隊の名で戦場に送り出すことに関与したとする者の供述を繰り返し掲載し,本件記事が報じられた当時の他の報道機関も,女子挺身隊の名の下に朝鮮人女性たちが,多数,強制的に戦場に送り込まれ,慰安婦とされたとの報道をしていたという事情を踏まえると,これらの報道に接していた被告櫻井が,本件記事のリード部分にある

「「女子挺(てい)身隊」の名で戦場に連行され」との部分について,金学順氏が第二次世界大戦下における女子挺身隊勤労令で規定された「女子挺身隊」として強制的に動員され慰安婦とされた女性であることが記載されていると理解しても,そのことは,一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈しても不自然なものではないし,女子挺身勤労令で規定するところの女子挺身隊と慰安婦は異なるものであることからすると,被告櫻井において本件記事が上記1 ②のような内容を報じるものであったと信じたことには相当の理由があるといえる。

そして,被告櫻井が,上記1①及び上記1②の事実があると信じたことについて相当の理由があることに加えて,原告の妻が,平成3年に日本政府を相手どって訴訟を起こした団体の常任理事を務めていた者の娘であり,金学順氏も本件記事が掲載された数か月後に同団体に加入し,その後上記訴訟に参加しているという事実を踏まえて,被告櫻井が,本件記事の公正さに疑問を持ち,金学順氏が「女子挺身隊」の名で連行されたのではなく検番の継父にだまされて慰安婦になったのに,原告が女子挺身勤労令で規定するところの「女子挺身隊」を結びつけて日本軍があたかも金学順氏を戦場に強制的に連行したとの事実と異なる本件記事を執筆した上記 1 ③の事実と信・じたとしても  そのことについては相当な理由がある。

(2)その他,本件各櫻井論文に摘示されている事実又は意見ないし論評の前提とされている事実のうち重要な部分については,いずれも真実であるか,被告櫻井において真実であると信ずるについて相当の理由があると認められ,意見ないし論評部分も,原告に対する人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評の域を逸脱 したものとは認め難い。

4公共性,公益目的性

本件各櫻井論文の内容及びこれらの論文を記載し掲載された時期に鑑みれば,本件各櫻井論文主題は,慰安婦問題に関する朝日新聞の報道姿勢やこれに関する本件記事を執筆した原告を批判する点にあったと認められ,また,慰安婦問題が日韓関係の問題にとどまらず,国連やアメリカ議会等でも取り上げられるような国際的な問題となっていることに鑑みれば,本件各櫻井論文の記述は,公共の利害に関わるものであり,その執筆目的にも公益性が認められる。

5結論

以上によれば,本件各櫻井論文の執筆及び掲載によって原告の社会的評価が低下したとしても,その違法性は阻却され,又は故意若しくは過失は否定されると  いうべきである。