2019年10月10日木曜日

重要証拠提出し結審

1991年に金学順さんが証言した肉声を

植村さんが録音したテープが発見された!

札幌控訴審、判決言い渡しは2020年2月6日に


updated:2019/10/10 pm11.50
updated:2019/10/13 am10.00


札幌訴訟の第3回口頭弁論は10月10日午後2時半から札幌高裁で開かれ、植村隆さんと渡辺達生弁護士(札幌弁護団共同代表)が最終の意見陳述を行った。この後、櫻井よしこ氏側との意見のやりとりはなく、裁判長は「これで弁論を終結します」と宣言した。判決言い渡し期日は「来年2月6日午後2時半」と指定された。閉廷は午後3時ちょうどだった。

■植村さんの意見陳述「櫻井氏の言説は誤りと矛盾だらけ、地裁判決は異常だ」
植村さんは、意見陳述の中で、重要な証拠として2本の録音テープを提出したことを明らかにした。1本は1991年12月に金学順さんが日本政府を訴えた裁判の弁護団(高木健一弁護団長)の聞き取りに同席して録音したテープ。もう1本は前年の90年7月、植村さんが挺対協共同代表・尹貞玉氏をソウルでインタビューしたテープ。いずれも植村さんが録音したものだが、その後、ジャーナリスト臼杵敬子氏の手に渡り、このほど臼杵氏の自宅で発見された。
金学順さんのテープは、金さんが慰安婦とされた経緯を詳しく語る肉声が収められ、その証言を植村氏の記事が正確に再現したことがはっきりとわかる。尹氏のテープでは、挺身隊との呼称が当時韓国では一般化していた事情と、植村氏が早くから慰安婦取材をしていたことなどが詳しく語られている。

植村さんはこの2本の録音テープの内容などをふまえて、櫻井よしこ氏の言説は誤りと矛盾に満ち、「捏造」決めつけの合理的な根拠が示されていないこと、また、そのような櫻井氏を免責した一審判決も異常だと批判し、公正な控訴審判決を求めた。

渡辺弁護士は、9月17日に裁判所に提出した3通の準備書面の概要を説明し、最後に櫻井氏の政治的立場を批判し、「原判決は、櫻井について真実相当性が認められないにも関わらず、そのハードルを下げて免責し、日韓関係の悪化にも事実上加担した。このような加担は司法の自殺行為であり、原判決は絶対に破棄されなければならない。裁判所の英断を期待する」と結んだ。


この日の札幌は秋日和がまぶしく感じられる穏やかな天気で、正午の気温は22度。
開廷前、傍聴のために整列した人は81人。805号法廷の傍聴席は80だが、1人が辞退したため抽選は行われず、希望者全員が入廷し傍聴した。
植村側弁護団席には、東京弁護団の2人を含め18人が着席。櫻井氏側は6人が並んだが、主任格の高池勝彦弁護士の姿はなかった。
植村さんと渡辺弁護士の意見陳述は控訴審を締めくくるにふさわしく、気迫に満ちたものとなり、終わるたびに法廷に拍手が響いた。


■報告集会で明かされた西岡、櫻井氏の映画取材撮影拒否の言い分
裁判報告集会は午後6時から、裁判所近くの札幌市教育文化会館で開かれた。参加者は80人。
裁判報告は小野寺信勝弁護士(弁護団事務局長)が行った。小野寺氏は、裁判の経過と要点をパワーポイントで説明した後、結審に至った控訴審を振り返り、「今日の弁論で書面は出し切った。あの主張を追加しておけば、とかあれは誤りだった、というものは全くない。この書面をもって、高裁ではよほど特殊な事情がない限り、地裁判決はひっくり返るだろう。そう期待している」と語った。
続いて、映像作家の西嶋真司氏が、完成が近づく映画「標的」の解説トークをし、短縮版を上映した。西嶋氏は撮影と取材の舞台裏のエピソードも披露した。取材や撮影を拒否した重要人物は2人いて、そののひとりは、「捏造という言葉は日本語にある。なぜそれを使ってはいけないのか」と3度も言い放ったという。
その後、韓国から植村さんの応援にかけつけた「植村隆を考える会」のメンバー12人が紹介され、会場には大きな拍手が起こった。同会は9月16日にソウルで結成され、著名なジャーナリスト、大学教授、宗教家らが呼びかけ人に名を連ねている。
集会の最後に植村さんが日韓両国語で挨拶し、控訴審結審までの5年間にあった3つの変化について語った。変化のひとつは、裁判を通じて櫻井、西岡両氏のインチキぶりが徹底的、完膚なきまでにあぶり出されたこと、そして、様々な人が裁判にかかわり、民主主義、歴史の真実、人権を守る大きなネットワークが広がり構築されたこと、3つ目は自身の健康状態はすこぶる良好で食欲は旺盛、胴回りが3センチ増えてズボンがきつくなったことだという。会場には共感の拍手と笑い声が絶えなかった。



写真上段左=裁判所に向かう植村さんと弁護団、右=韓国から訪れた「植村隆を考える会」メンバーと日本の「支える会」メンバーが植村さんを囲んで裁判所前で記念撮影※
中段=80人が参加した裁判報告集会と、映画「標的」監督の西嶋真司氏
下段=集会であいさつする植村さんと、「植村隆を考える会」メンバー(右端は任在慶氏=ハンギョレ新聞元副社長)

photo by 石井一弘、高波淳、※ハンギョレ新聞(いずれも10月10日)

※韓国ハンギョレ新聞が特派員記事を日本語版に掲載しています

札幌控訴審、結審へ

きょう10日、第3回口頭弁論

速報(傍聴記)はきょう中に掲載します


札幌控訴審の第3回口頭弁論は10月10日(木)、札幌地裁805号法廷で開かれ、結審する予定です。
開廷(午後2時30分)に先立って、傍聴整理券の発行と抽選が行われる予定です。
報告集会は同日午後6時から、札幌市教育文化会館で開かれます。弁護団報告と映画「標的」短縮版の解説トークと上映があります。




2019年10月7日月曜日

疑問に応える審理を


東京電力の元会長ら幹部3人に無罪を言い渡した東京地裁判決(永渕健一裁判長、9月20日)について、10月6日付朝日新聞の社説「原発事故控訴 疑問に応える審理を」が判決の問題点を指摘し、指定弁護士の控訴(同30日)を支持している。
社説が指摘する判決の問題点とは以下のことである。
重要な事実を詳細に検討することなく退けたこと
裁判所が勝手に土俵を変えたこと
専門家の知見を否定したこと
明らかになった事実を適切に評価しなかったこと
結論に至る道筋と理屈に問題があること
公判で明らかになった事実に丁寧に向き合っていないこと
人々に届く言葉で説明する内容になっていないこと
この社説を読みながら、櫻井よしこ氏の責任を免じた札幌地裁判決(岡山忠広裁判長、昨年11月9日)とのあまりの相似点に驚かざるをえなかった。
民事訴訟と刑事裁判は違う、一方は損害賠償請求であり、一方は業務上過失致死傷罪である。しかし、どちらの被害も深刻で重大であり、そのことに裁判所は言及を避け、人間の良心を閉ざしている点でも共通している。

札幌地裁判決の当否を審理する控訴審は、結審が近づいている(10月10日)。札幌地裁判決は絶対に容認できるものでないことを肝に銘じつつ、朝日社説とその引用模写版「植村裁判控訴 疑問に応える審理を」を並べて掲載させていただく。

朝日新聞社説2019.10.6 下は模写版2019.10.7



原発事故控訴 疑問に応える審理を(朝日新聞社説、10月6日)
植村裁判控訴 疑問に応える審理を(模写版、10月7日、text by 北風三太郎)

福島第一原発の事故をめぐり東京電力の旧経営陣3人が強制起訴された裁判で、検察官役の指定弁護士が控訴した。
慰安婦報道をめぐり元朝日記者の植村隆氏が櫻井よしこ氏を名誉棄損で訴えた裁判で、植村氏と弁護団が控訴した。

無罪を宣告された者を被告の立場におき続けることの是非については、かねて議論がある。だが、東京地裁の無罪判決には承服しがたい点が多々見受けられ、指定弁護士が高裁の判断を求めたのは理解できる。
言論の自由の観点から記事の内容を法廷で争うことの是非については、かねて議論がある。だが、札幌地裁の棄却判決には承服しがたい点が多々見受けられ、植村氏側が高裁の判断を求めたのは理解できる。

例えば、判決は「事故を防ぐには原発の運転を停止しておくしかなかった」と断じている。指定弁護士は、防潮堤の設置や施設の浸水防止工事、高台移転などの方策にも触れ、その実現可能性について証人調べも行われた。しかし判決は、詳細に検討することなく退けた。
例えば、判決は「櫻井が植村記事を捏造だと思ったとしてもしょうがなかった」と断じている。植村氏側は、記事執筆の経緯や記事の意味、当時の報道状況などの背景にも触れ、記事の正当性について証人調べも行われた。しかし判決は、詳細に検討することなく退けた。

結果として、社会生活にも重大な影響が及び、きわめてハードルの高い「運転停止」にまで踏み込む義務が元幹部らにあったか否かが、判決を左右することになった。被災者や複数の学者が疑問を呈し、「裁判所が勝手に土俵を変えた」との批判が出たのはもっともだ。
結果として、「捏造」という重大な決めつけに、きわめてハードルの高い「裏付取材」にまで踏み込む義務を櫻井氏が果たしたか否かが、判決を左右することになった。支援者や多数の学者が疑問を呈し、「裁判所が勝手にハードルを下げた」との批判が出たのはもっともだ。

原発の安全性に関する判断にも首をかしげざるを得ない。
慰安婦の人権に関する判断にも首をかしげざるを得ない。

判決は、国の防災機関が02年に公表した「三陸沖から房総沖のどこでも、30年以内に20%程度の確率で巨大地震が起こりうる」との見解(長期評価)の信頼性を否定した。根拠として、一部に異論があったこと、電力会社や政府の規制当局が事故対策にこの見解をとり入れていなかったことなどを挙げた。
判決は、内閣官房長官が93年に発表した「慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した」との談話(河野談話)を無視した。根拠は示さずに、「慰安婦ないし従軍慰安婦とは、公娼制度の下で戦地において売春に従事していた女性などの呼称」と述べた。

一体となって原発を推進した国・業界の不作為や怠慢を追認し、それを理由に、専門家らが議論を重ねてまとめた知見を否定したものだ。さらに判決は、当時の法令は原発の「絶対的安全性の確保」までは求めていなかったとも述べた。
一体となって植村批判をした右派論客・メディアの主張を追認し、それを理由に、学者、専門家らが議論してまとめた知見を否定したものだ。さらに判決は、「櫻井が資料に基づいて信じたことについて相当の理由がある」とも述べた。

万が一にも事故が起こらぬように対策を講じていたのではなかったのか。巨大隕石の衝突まで想定せよという話ではない。実際、この長期評価をうけて、東電の現場担当者は津波対策を検討して経営陣にも報告し、同じ太平洋岸に原発をもつ日本原電は施設を改修している。こうした事実を、地裁は適切に評価したといえるだろうか。
万が一にも間違いが起こらぬようにと櫻井氏は取材をしていたのではなかったか。当事者のすべてを取材せよという話ではない。実際、櫻井氏は植村氏本人への取材は申し込みすらしていない。間違いを指摘されて訂正記事を2本も連発、尋問でも重要な誤りを多数認めている。こうした事実を、地裁は適切に評価したといえるだろうか。

組織や人が複雑に絡む事故で個人の刑事責任を問うのは容易ではない。有罪立証の壁の厚さは織り込み済みだったが、問題は結論に至る道筋と理屈だ。
主義や主張が複雑に絡む裁判で個人の名誉棄損を問うのは容易ではない。損害賠償の壁の厚さは織り込み済みだったが、問題は結論に至る道筋と理屈だ。

政府や国会の事故調査ではわからなかった多くの事実が、公判を通じて明らかになった。判決には、それらの一つ一つに丁寧に向きあい、事故との関連の有無や程度を人々に届く言葉で説明することが期待されたが、それだけの内容を備えたものになっていない。高裁でのレビューが必要なゆえんである。
植村氏が訴訟を起こすまではわからなかった重要な事実が、裁判を通じて明らかになった。判決には、それらの一つ一つに丁寧に向き合い、櫻井氏の誤りの有無と程度を人々に届く言葉で説明することが期待されたがそれだけの内容を備えたものになっていない。高裁でのレビューが必要なゆえんである。

2019年10月5日土曜日

韓国に植村支援の輪


韓国のジャーナリスト、元大学教授らが9月16日、ソウルで植村隆さんを支援する組織を結成しました。会の名称は「植村隆を考える会」、呼びかけ人は韓国民主化運動の重鎮たち12人。裁判支援募金も始まったということです。
このニュースを伝えた「週刊金曜日」2019年10月4日号の一部を以下に引用します。

▽9月16日、ソウル市西大門区にある飲食店「ハノイの朝」に、韓国民主化実現に貢献した重鎮たちが集まり、元『朝日新聞』記者で韓国カトリック大学校客員教授の植村隆・本誌発行人を支援する会の立ち上げを宣言する集いを開いた。会の名称は「植村隆を考える会」。韓国語では「ウエムラタカシルルセンガクハヌンモイム」で、略してウセンモだ。
▽『ハンギョレ』創刊当時の副社長、任在慶氏、元『東亜日報』記者、李富栄・自由言論実践財団理事長、辛仁羚・元梨花女子大学校総長、咸世雄神父ら12人※編注が呼びかけ人に名を連ねている。
▽結成の集いで挨拶した李富栄氏は、これまで日本に対して文句は言っても、韓国の人々と連帯しようとする植村さんのような日本人に関心を持ってこなかったと述べ、会の名称を「考える会」としたのも、単に応援するだけでなく、植村問題について真剣に考えようという趣旨からだと説明した。














※呼びかけ人​は次の12人です(敬称略)

キム・ソンジュ◆言論人。ハンギョレ新聞論説主幹、ハンギョレ新聞出版本部長を歴任、梨花女子大学校国語国文学博士
キム・ソンヒョン◆大韓民国臨時政府記念事業会理事
キム・スオク◆尤史キム・ギュシク研究会会長 
シン・インリョン◆元梨花女子大学校総長、国家教育会議議長、梨花女子大名名誉教授を歴任
シン・ホンボム◆元ハンギョレ新聞論説主幹
イ・ブヨン◆夢陽呂運亨先生記念事業会理事長、元東亜日報記者、自由言論宣言などの運動により投獄歴5回、1992年より国会議員を3期12年
イ・ヘドン◆反憲法行為者列伝編纂委員会共同代表
イム・ジェギョン■朝鮮民族大同団記念事業会長、元ハンギョレ新聞副社長 
チョ・ソンヒ◆作家、ソウル文学財団代表理事。ハンギョレ新聞編集局文化部記者、ハンギョレ新聞出版本部シネ21編集長を歴任
チェ・ヒョングク◆大韓民国臨時政府記念事業会顧問
チェ・グォンヘン◆ソウル大学名誉教授。代7期アジア文化中心都市朝鮮委員会委員長、ソウル大学 人民大学仏語仏学科教授、部教授を歴任
ハム・セウン◆神父、安重根記念事業会理事長。1987年イ・ブヨン氏が永登浦刑務所内から「パク・ジョンチョル大学生水拷問致死事件」の真相を伝えた神父
パク・ドンジン◆総務、大韓民国臨時政府記念事業会研究室長

韓国言論人らに学ぶ

10月10日に札幌高裁で控訴審が結審するのを機に、韓国から12人の言論・文化人が札幌を訪れ、裁判の傍聴や報告集会に参加する予定です。来札するのは、9月16日にソウルで結成された「植村隆を考える会」(ウセンモ)の呼びかけ人や賛同者です。このうち、ハンギョレ新聞元論説主幹の慎洪範(シン・ホンボム)さんと民主言論市民連合事務処長の金彦卿(キム・オンギョン)さんは、翌11日に札幌で開かれるシンポジウム「いまこそ報道の自由を我が手に!」に講師として出席します。
同シンポジウムの開催要領は以下の通りです。
日時■10月11日(金)午後1時30分~4時
会場■札幌市教育文化会館302会議室 (中央区北1西13)
参加費■500円
問い合わせ■韓国ジャーナリストから学ぶ会(080-1898-7037七尾)
テーマ■韓国記者、勇気と闘いの証言
講師■
ハンギョレ新聞元論説主幹 慎洪範(シン・ホンボム)さん=1941年生まれ。朝鮮日報記者として自由言論運動を展開し、解雇。その後、民主化運動にかかわる。1986年に「報道指針」事件で逮捕・拘束される。ハンギョレ新聞の創刊に参加し、論説主幹をつとめた
民主言論市民連合事務処長 金彦卿(キム・オンギョン)さん=1968年生まれ。民主言論市民連合の事務処長として、国会議員選挙、大統領選挙などのメディア監視を主導している
■主催者呼びかけ
1980年代、韓国の全斗煥軍事独裁政権は「報道指針」という名の言論統制を行っていた。文化広報部が連日、詳細な報道統制のガイドラインを秘密裏に各メディアに通告していたのだ。例えば「金大中の写真や単独会見は不可」(86年5月28日付けの指針)という具合である。事実上の検閲だった。
この報道指針を、86年9月に民主言論運動協議会(民言協)の機関誌「マル(言葉)」特集号が暴露した。警察は元朝鮮日報記者で民言協の中心になっていた慎洪範(シン・ホンボム)執行委員ら3人を連行。3人は、刑法の外交上の機密漏洩罪などで起訴され一審で有罪となった。しかし、「言論の自立性の保障」などをうたった87年6月の「民主化宣言」の後に行われた控訴審で、3人は無罪となり、最高裁で無罪が確定した。「(マル誌)事件は『報道指針』の撤廃はもとより、市民の民主化運動の導火線となった」(韓永学著『韓国の言論法』)と言われる。
今回、「マル」事件の中心メンバーだった慎洪範さんが札幌を訪れる機会に、過酷な言論統制の時代になぜ暴露ができたのか、その勇気と闘いについて語っていただく。
民主言論運動協議会は現在、民主言論市民連合(民言連)と名を変え、選挙報道の監視などメディアウオッチングを続けている。その事務処長の金彦卿(キム・オンギョン)さんも来札される。金さんからは、現在の活動についての報告を受ける。
日本では、安倍晋三政権下で、メディアの忖度報道が広がっている。それは、メディア自らが「報道指針」を定めていると言えるのではないか。隣国の過去は、日本の明日かもしれない。
韓国からのおふたりの証言と報告について、シンポジウム形式で意見交換と質疑を行い、両国の市民、ジャーナリストの間の理解と交流、連帯を深める機会としたい。


2019年10月4日金曜日

「抗い」札幌で上映


記録作家・林えいだいを題材にしたドキュメンタリー映画「抗い」の上映会が10月11日に札幌であります。
林えいだいは九州・筑豊を根拠地に、歴史に埋もれた事実を掘り起こし、すぐれたルポルタージュを世に送り出した作家です。1933年福岡県に生まれ、反権力、反戦、反差別を貫き、2017年9月、84歳で没しました。映画「抗い」は、がんと闘う晩年の林えいだいのインタビュー映像を通して反骨の作家の魂の軌跡をたどり、ジャーナリズムは戦争、公害、差別とどう向き合ったのか、という重い問いを突きつけます。
監督は現在、植村隆さんの闘いの日々を記録する映画「標的」を制作中の映像作家西嶋真司さんです。「標的」の短縮版が前日の10日、植村裁判報告集会(札幌)で上映されるのを機に、「抗い」の上映会が実現しました。

日時■10月11日午後6時30分~8時40分。上映時間は100分、上映後に西嶋監督のトークがあります
会場■札幌市教育文化会館301会議室 (中央区北1西13)
鑑賞券■前売り1200円、当日1500円、25歳以下500円
問い合わせ■映画「抗い」上映実行員会(080-1898-7037七尾)
予告編はこちら

権力の前に沈黙を強いられた名も無き民へのまなざし
■映画「抗い」あらすじ■
福岡県筑豊の旧産炭地には、今もアリラン峠と呼ばれる場所がある。そこは、かつて日本に徴用された朝鮮人たちが炭鉱に向かう時に歩いた道である。しかし、その名は地図には載っていない。福岡県筑豊を拠点に、朝鮮人強制労働や公害問題、戦争の悲劇などの取材に取り組んできた記録作家・林えいだいがアリラン峠を歩く。林は筑豊に渦巻く様々な歴史の真相、国のエネルギー政策に翻弄された名もなき人々を記録してきた。
若い頃には北九州市教育委員会社会教育主事として地域の婦人会と公害問題に取り組み、告発運動に至る。37才の時に意を決して退職、フリーの記録作家となった。
林が記録作家になった背景には、反戦思想を貫いた父親の存在がある。神主だった父親の寅治は、民族差別に耐えかねて炭鉱から脱走した朝鮮人鉱夫たちを自宅に匿った。「国賊」、「非国民」とされた父親は、警察の拷問が原因で命を落とした。その体験が林の取材活動の原点となっている。
2014年8月9日、福岡市の雑木林を林が訪れる。1945年の同じ8月9日、そこで一人の特攻隊員が日本軍に銃殺された。国の命運をかけた重爆特攻機「さくら弾機」に放火したという罪が着せられていた。林はこの青年が朝鮮人であるが故に無実の罪を着せられたのではないかと疑念を抱き、真相に迫ろうと放火事件の目撃者のもとを訪ねる。徹底した取材の姿勢は、対象となる人物の重たかった口をも開き、決して忘れてはならない真実を浮き上がらせるのだった。
現在の林は、私設図書館の「ありらん文庫」に愛犬の「武蔵」とともに暮らしている。朝鮮人強制労働、公害問題、特攻隊の実相など、徹底した取材による膨大な資料が積まれ、歴史に埋もれた事実をここで記録してきた。
林が生まれ育った筑豊の炭鉱では、人々が懸命に生き、歴史を作った。女坑夫や石炭を荷積みする女沖仲仕など、明治から大正昭和にかけて日本の経済を支えた女性たちのことも生き生きと描いた。
重いがんと闘う林の指は、抗がん剤の副作用でペンを持てないほどだ。それでもセロテープでペンを指に巻き付けながら懸命に記録を残す。権力に棄てられた民、忘れられた民の姿を記録していくことが自分の使命であると林は語る。
「歴史の教訓に学ばない民族は 結局は自滅の道を歩むしかない。」 林えいだい

■林えいだいという生き方(監督 西嶋真司)■
抗いに満ちた人生だ。その抗いはどこから来るのか。それは国益の追求や戦争遂行のため、人の命を軽視する権力への抗いであり、誰からもかえりみられることなく真実が消え去ろうとする記憶の風化への抗いである。えいだいさんは権力の前に沈黙を強いられた人々の声に耳を傾け、その記録を続けている。生きるための自由を奪われた人々に、器用に振る舞うことのできない自分自身を重ねているようにもみえる。権力とは常に一線を画す反骨精神がそこにある。
「反骨のジャーナリスト」などという言葉は、そもそも存在しないという。反骨はジャーナリズムの基本であり、反骨を失ったジャーナリストは、すでにジャーナリストとは呼べない。作家としてのえいだいさんは全国的にはあまり知られていないし、その暮らしも決して楽ではない。しかし、この人には権力や世論に迎合して売れる本を書こうなどという思いは一欠片も無い。筋金入りとは、こういう人のことをいうのだろう。
病室で執筆を続けるえいだいさんに、何のために記録するのかを聞いたことがある。投薬で声がかすれたえいだいさんは、その答えを一枚の紙に書いてくれた。
「権力に棄てられた民 忘れられた民の姿を記録していくことが私の使命である」。
ゴツゴツした文字から強い信念が伝わってきた。映画『抗い』の中で、記録作家の使命を感じていただければありがたい。

2019年10月3日木曜日

いよいよ東京控訴審

東京控訴審の第1回口頭弁論は10月29日(火)、東京高裁101号法廷で開かれます。開廷(午前10時30分)に先立って、傍聴整理券の発行と抽選が行われる予定です。
報告集会は同日午後2時から、参議院議員会館101会議室で開かれます。弁護団の報告、映画「標的」短縮版の上映、控訴審で新たに提出する証拠・証言についての説明があります。
東京控訴審第1回 2019.10.29

札幌控訴審第3回 2019.10.10

《既報》札幌控訴審の第3回口頭弁論は10月10日(木)、札幌地裁805号法廷で開かれます。審理はこの日で終了し結審する予定です。開廷(午後2時30分)に先立って、傍聴整理券の発行と抽選が行われる予定です。
報告集会は同日午後6時から、札幌市教育文化会館で開かれます。弁護団報告と映画「標的」短縮版の解説トークと上映があります。

2019年9月27日金曜日

文化を殺す文科大臣

萩生田文科相があいちトリエンナーレの文化庁補助金を不交付としたことについて、激しい批判が巻き起こっています。日本ペンクラブ(吉岡忍会長)はいちはやく会長談話を発表し、「補助金不交付は脅迫によって『表現の不自由展』を中断に追い込んだ卑劣な行為を追認することになりかねない」と述べ、決定の撤回と企画展の再開を求めています。ツイッターには、権力による検閲の復活を危ぶむ声があふれています。ネット署名も即日、立ち上がっています。

ツイッターにあふれる声
9月27日午前1時に収録。順不同、敬称略、/は連続投稿
氏名と肩書はツイッター上の表示ママ、@はアカウント名

■自己利益のために平然とウソをつく人間が、今の日本では教育行政トップの「文部科学大臣」だという。教育とは何なのか。 検閲庁に成り下がった文化庁は文部科学省の下部組織(外局)。 教育も文化も、言論や表現の自由も、昔の政治思想を共有する集団に私物化されつつある=山崎 雅弘@mas__yamazaki
■こんな後出しジャンケンが通るから、誰もが政府の意向を気にして萎縮するわけだ。おたくの大学の教員の授業内容が気に入らないからガソリン持っていくと脅されて休講にでもしたら、大学への補助金もカットされるかもしれないということだろう。怖い世の中になったなあ=井上 雅人@INOUE_MASAHITO
■えっ! これ事実なのだろうか? こんなことが許されるなら、実質政府の顔色伺いながらやるしかなくなるじゃないか。これ酷すぎないか。文化庁は脅迫した人たちに手を貸すってこと? これじゃ国の言いなりでしか物が出来ないじゃないか。原発事故のとき以上に怒っている=大友良英 otomo yoshihide@otomojamjam
■あり得ない。日本の公共的文化制度が終わります。こんな前例ありますか。これがまかり通って良いのでしょうか。リフリーダムや不自由展や知事や津田さんとかあいトリ関係者だけじゃなく、日本のアート関係者一丸となって動かないと、文化庁も助成制度も表現の自由も国際文化競走も「終わり」ませんか=Chim↑Pom@chimpomworks
■これはもうどう考えても検閲でしょう。そしてそれをやってるのが芸大の元学長という=山川冬樹@yamakawafuyuki
■これ大丈夫かな=Dai Tamesue (為末大)@daijapan
■これはアメリカなら必ず訴訟になる。日本は、というか愛知県は行政訴訟を起こさないのか? すべての文化事業のために、絶対に提訴すべき事案です=北丸雄二@quitamarco
■"国への法的措置について、大村氏は「表現の自由」を保障する憲法21条を争点にする考えも強調した" (記事より) たとえ国が相手でも、憲法に則して正しいことをきちんと主張してくれる知事の姿は、いま日本に住む多くの人たちを勇気づけると思います。敬意を払い強く支持いたします=香山リカ@rkayama
■【表現の不自由】萩生田が文科大臣になって最初の仕事が、愛知の「芸術の不自由展」への助成金7800万円を不交付。その理由が、ヘイトの川村市長がマッチをつけて、火をつけるだの、石油をまくだのという妨害が起こったことが「安全確保の問題など情報を伝えなかった」という=金子勝@masaru_kaneko
■文化庁があいちトリエンナーレへの補助金不交付を決定(朝日新聞)。「文化庁が」てはなく「萩生田文科大臣が」と報じるべきだろう。萩生田極右政策第1弾だ=前川喜平(右傾化を深く憂慮する一市民)@brahmslover
■政府に都合のいい文化事業にしか補助金が出ない。今後、戦争の歴史的展示にも同じことが起こるぞ=町山智浩@TomoMachi
■萩生田文科相「展示が申請通りでない」 から補助金出さないのだそう。なら、「総理と会った」と愛媛県に虚偽報告した加計学園にも補助金、返してもらったら?=山岸一生 りっけん 立憲民主党@isseiyamagishi
■9月26日、文化庁が、あいちトリエンナーレについて 「補助金は全額不交付」 と発表したことに、 井上さとし参議院国対委員長、 吉良よし子参議院議員とともに 抗議し、交付を求めました。/「補助金は全額不交付」の理由として、 (1)実現可能な内容になっているか、 (2)事業の継続が見込まれるか、 の2点において、文化庁として適正な審査を行うことができなかったというのです。 円滑な運営などの懸念を文化庁に言っていなかったことも不支給の理由としてあげていました。/では、申請手続きの際に、警備の問題など文化庁に言わなければならないと規定があったのかと聞くと、“それはない”、と文化庁担当者は答えました。 申請手続きの際に、文化庁に言わなければならない規定もないのに、後から言わなかったから不支給というのはあまりに理不尽です。/円滑な運営ができるかどうかを言わなかったなどの理由で、補助金を不支給にした例があるか問うと、初めてとのこと。 今回の事態が異常な事態であることも浮き彫りになりました=もとむら伸子(本村伸子)@motomura_nobuko
■確実に「戦前」に向かっている。表現の自由は民主主義の根幹。検閲、弾圧、思想犯の逮捕・・・。いつか来た道が、すぐそこまで来ているというおぞましい現実を国民が理解しなければ、取り返しのつかない事態となるだろう。言いたいことが何もいえない世界。「結集」で、絶対に阻止しなければならない=小沢一郎(事務所)@ozawa_jimusho
■萩生田氏「批判や抗議が殺到し展示継続が難しくなる可能性を把握していながら、文化庁に報告がなかった」。これは文化・芸術の自由を守るべき文科大臣が脅迫者の側に立ち、国家検閲者であることを示すものだ。大臣の資格なし!=志位和夫@shiikazuo
■愛知国際芸術祭への補助金不交付の件、現段階では報道でしか確認が出来ていませんが、このような事はあってはならないと考えています。不交付判断の経緯や理由は何か?一度交付決定した責任もあるのではないか?直接文化庁から説明を求めたいと考えています。山田太郎 (参議院議員・全国比例)@yamadataro43
■問題はあったにせよ、いったん採択した7800万円を後から不交付決定は、申請書に余程の虚偽記載があったのでもなければ無茶苦茶で、審査する側は一体何を審査していたのかという事になります。申請書類を公表し、この決定が適切か、オープンに検証すべきと思います=米山隆一@RyuichiYoneyama
■文化庁による補助金の不交付、NHK経営委員会によるニュースへの圧力。今や日本で表現の自由、言論の自由が公然と圧殺されている。今おかしいと言わなければ、権力にとって無害な表現だけが社会に横溢することになる=山口二郎@260yamaguchi
■「表現の自主規制促進政策」なんだろうな…と思います。これをしておけば、今後は各組織が自発的に内部で検閲をしてくれると=KAMEI Nobutaka@jinrui_nikki
■愛知県が補助金を申請した時点で、「円滑な運営を脅かすような重大な事実」はなかった。 あったのはアート展示の計画だけ。政権は円滑な運営を脅かした犯罪者を責めず、被害者である愛知県を責めている。 めちゃくちゃだ=阿部岳 / ABE Takashi@ABETakashiOki
■愛知の芸術祭への補助金不交付の決定は、文化活動へのすべての補助金は「政権への忠誠度」を基準に採否を決すると文科省が宣言したと僕は解しました。すでに外交、経済、学術の全分野で劣化が止まらない日本にそれでも最後に残っていた文化的発信力もこれでとどめを刺されました。/今後は体制批判と解釈される作品や活動には一切公的資金は支給されないからそのつもりで、という告知だと思います。そこで、僕からの提案ですけれど、この愚劣さを可視化するために、どこかで「阿諛追従展」というのをやりませんか。全篇政権へのおべんちゃらだけで構成された展覧会=内田樹@levinassien
■しかし日本の根幹を揺るがす、重大かつ深刻な影響をもたらすであろう大臣の一大決定なのに、ぶら下がりの会見で表明ってどうなんだよ。しかもエレベーターの前、話すだけ話したら逃げる気満々ではないか。聞いてる記者さん達、事の重大さわかってるか?全てが軽い。この耐えられない軽さに目眩がする=ガイチ@gaitifuji
■表現内容の如何によって国家による差別的取扱いが罷り通るのなら、日本には最早「表現の自由」は存在しないと宣言しているに等しい。萩生田文科相の愚かな決定は、我が国における全ての表現活動を時の政治権力が選別できる最悪の前例を残す。このような憲法も民主主義も無視した決定は断固粉砕すべき=異邦人オクローシカ@Narodovlastiye
■ちなみに「文化庁は内容を批判せず、手続き上の問題だとして補助金の不交付を決めた」というのは、ユネスコ「世界の記憶」への南京大虐殺関連資料や「慰安婦」問題関連資料の登録を阻止しようとした高橋史朗の戦術と同じですね=能川元一@nogawam
■この国が完全に文化的先進国から失墜してしまったことの証明。僕は芸術表現の公的組織への全面的な依存には反対だが、この判断は致命的に酷い。これを批判せず、大多数の支持を得られなかったのだから仕方ないとするような識者には、今後文化にかかわる資格はないと思う=佐々木敦@sasakiatsushi
■メディアに圧力をかけ、芸術表現の自由を破壊し、警察権力で批判の声を封殺し、解釈改憲を行い、沖縄の民意を無視し、データを改竄し、公文書を隠蔽・破棄し、何をしても大臣は罷免されず、友達優遇、外敵を作って国民を煽動し、……現政権が独裁体制にどこまで近づけるか、挑戦しているのは明らか=平野啓一郎@hiranok
■あいちトリエンナーレ2019パフォーミングアーツ部門の参加作家であるクワクボリョウタさんが、あいトリに対する補助金の不交付を事後的に決めた文化庁に抗議。交付が認められない限り文化庁主催の展覧会への出品と今後一切の文化庁メディア芸術祭への関与を拒否するとのこと=津田大介@tsuda
■「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金交付中止の撤回を求めるchangeのネット署名が始まりました。今回の措置に疑問をお持ちの皆様方はご署名いただければ幸いです=津田大介@tsuda

発信者:ReFrredomAICHI 宛先:文化庁
Chenge.orgのネット署名賛同の方は
こちらへ

■日本ペンクラブに所属している事を本当に誇りに思います。文化庁のあいちトリエンナーレに対する補助金不交付決定について、日本ペンクラブが即座に会長談話を発表しました=白川優子@yuko_shirakawa

日本ペンクラブ会長談話
「文化庁の補助金不交付決定の撤回を求め、『あいちトリエンナーレ2019/表現の不自由展・その後』のすみやかな再開を期待する」
http://japanpen.or.jp/comment0926/

中断された「あいちトリエンナーレ2019/表現の不自由展・その後」の再開に向けた動きが伝えられている。「いま行政がやるべきは、作品を通じて創作者と鑑賞者が意思を疎通する機会を確保し、公共の場として育てていくことである」(8月3日声明)と展示継続を訴えてきた私たちは、この動きを注視している。
しかし、一方、文化庁は予定していた「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金を交付しない決定をしたという。理由はどうあれ、これは同イベントを経費の面から締めつけ、「表現の不自由展・その後」を脅迫等によって中断に追い込んだ卑劣な行為を追認することになりかねず、行政が不断に担うべき公共性の確保・育成の役割とは明らかに逆行するものである。
私たちは、文化庁がその決定を撤回するよう求めるとともに、同展が当初の企画通りに確実に、一日も早く再開されることを期待する。

2019年9月26日
一般社団法人日本ペンクラブ
会長 吉岡 忍

2019年9月25日水曜日

スラップ訴訟またも

在日コリアンに対するヘイトスピーチを批判する記事を名誉毀損だと訴えた裁判が、川崎市で始まりました(9月24日、※記事①)。訴えたのは、極右団体日本第一党の活動家で川崎市在住の佐久間吾一氏。訴えられたのは、神奈川新聞の川崎総局に勤務する石橋学記者(編集委員)で、140万円の損害賠償を求められています。

石橋記者は川崎市内で頻繁に行われるヘイトデモや集会を取材し続け、民族差別を扇動する言動を厳しく批判するキャンペーンの先頭に立っています。訴えられた記事は、ヘイト集会での佐久間氏の発言を「悪意に満ちたデマによる敵視と誹謗中傷」だと批判したものです(2月14日、※記事②)。この記事のどこが佐久間氏に対する名誉毀損で人権侵害なのか! 一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈しても、佐久間氏の名誉を毀損しているものと解することはできません。
石橋記者の弁護人は神原元弁護士(植村裁判東京訴訟弁護団の事務局長)がつとめています。神原弁護士は「川崎におけるヘイトスピーチ被害の実態や佐久間氏の発言の悪質性を立証し、『悪意あるデマであり、差別扇動』という石橋記事の正当性を主張する。この訴訟の勝利により、全国のヘイト団体は、川崎南部地域において差別扇動を決して許さない活動の力強さを、思い知るだろう」とツイートしています(9月19日)。

ジャーナリストを相手取った名誉毀損裁判の判決が今月2件ありました。IWJ岩上安見氏の敗訴(大阪地裁、9月12日、※注1)と、フリーライターちだい氏の勝訴(千葉地裁松戸支部、9月19日、※記事③)です。名誉毀損の内容と結果(勝敗)は異なりますが、言論封じを狙った訴訟であることは共通しています。石橋記者の裁判も、極右団体をバックにした言論妨害のスラップ訴訟ですが、業務妨害を伴っている点できわめて悪質です。
川崎市ではいま、差別的言動を刑事規制する条例の制定に向けた論議が市議会で進んでいます。その条例は「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」(仮称、※注2)といい、国の法律(ヘイトスピーチ解消法)にはない罰則規定が盛り込まれています。差別集団の側が川崎で起こした裁判の背景には、全国に先駆けたそのような動きがあります。


民主主義を壊そうとするスラップ訴訟
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


記事① 神奈川新聞 
差別報じた記事、名誉毀損と提訴 本紙記者争う姿勢
報告集会で話す石橋記者(右)と

神原弁護士=写真、神奈川新聞
在日コリアンに関する講演会での自身の発言を悪質なデマなどと報道され、名誉を毀損(きそん)されたとして、今春の川崎市議選に立候補した佐久間吾一氏が神奈川新聞社の石橋学記者に140万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が24日、横浜地裁川崎支部(飯塚宏裁判長)であった。石橋記者側は請求棄却を求め、争う姿勢を示した。
訴えによると、佐久間氏は自身が代表を務める団体が同市内で主催した2月の講演会で、「旧日本鋼管の土地をコリア系が占領している」「共産革命の橋頭堡(ほ)が築かれ今も闘いが続いている」と発言。この発言に対し、「悪意に満ちたデマによる敵視と誹謗(ひぼう)中傷」と石橋記者に報じられたことで、立候補予定者である佐久間氏の名誉が著しく毀損されたと主張している。
口頭弁論で、石橋記者側は「佐久間氏の発言は事実に反している」と指摘。「そうした発言は在日コリアンを敵とみなし、在日コリアンを傷つける差別の扇動である」とした上で、「記事は、佐久間氏の言動が人権侵害に当たるとの意見ないし論評の域を出ていない」と反論した。

市施設でヘイト団体集会 差別言動繰り返し
【時代の正体取材班=石橋 学】
川崎市の公的施設がまたもヘイトスピーチによる人権侵害の舞台と化した。11日、極右政治団体・日本第一党最高顧問、瀬戸弘幸氏らの団体が主催した集会。市は差別的言動をしないよう2度目の「警告」を行った上で市教育文化会館の使用を許可したが、在日コリアンへの差別扇動は繰り返され、その悪辣(あくらつ)さはいや増している。
インターネット上の動画には、冒頭のあいさつで代表の佐久間吾一氏が口火を切る様子が収められている。「旧日本鋼管の土地をコリア系が占拠している」「共産革命の拠点が築かれ、いまも闘いが続いている」。悪意に満ちたデマによる敵視と誹謗(ひぼう)中傷。続いて登壇した鈴木信行葛飾区議、岡野俊昭元銚子市長が侮蔑と排外主義むき出しのヘイト発言を重ねた。「新たに外国人がやって来ると困る」「日本語を覚えないなら帰った方がいい」「韓国はたくさん人を殺せば英雄になれる野蛮国」
同時刻の会館前。プラカードを手にした市民が抗議の意思を示していた。横浜市から駆け付けた女性(65)は「同じことの繰り返し。行政が不許可にせず、どうやってヘイトを止めさせられるというのか」と悔しがった。差別的言動があったら次回は不許可にするといった「条件付き許可」の選択肢もあった。警告は前回に続くもので、より強い措置がなぜ取れないのか女性は解せなかった。
ペナルティーのない警告が歯止めにならないことは明らかだった。昨年12月の集会で警告を受けた佐久間氏は「(使用許可に反対する市民への)アリバイ」と逆宣伝に利用。今回、警告が会場に伝えられたのは集会終了の直前だ。瀬戸氏は「冒頭で読み上げる必要はない」と自身が制したと明かし、2度目の警告にも「何とも思わない。私は関係ない」「ヘイト発言はなかった」と言ってのけた。
そもそも瀬戸氏は市のヘイト対策の無効化を狙って市内の公的施設で集会を繰り返す。今回も警告にとどめた妥当性を市教育文化会館の豊田一郎館長が「ヘイトスピーチを行わせない確約を得た」「周知するよう伝え、団体側は『分かりました』と答えた」と強調すればするほど、手玉に取られているようにしか映らない。実際、瀬戸氏は「会館の職員はわれわれに好意的だ」と公言し、弱腰の対応をまたも逆手に取る物言いまで許している。
公的施設での差別的言動を防ぐガイドラインを施行するなど「さすが多文化共生の川崎市」と感心していたという男性(67)は「会館の対応からは知恵を振り絞って被害を食い止めるという姿勢が見られず、内実のちぐはぐさに失望した」。佐久間氏は講師の肩書を示して「『警告』の経緯の説明を市長から受けたい」とツイッターに投稿、臆面もなく圧力をかけてみせる。寒空の下、抗議に立ち続けた男性は言う。「足元を見られているのだろう。差別を許さないというのなら、具体的にやめさせる策を講じなければならない。行政だけでなく議会も一丸となって毅然(きぜん)と対峙(たいじ)すべき時だ」
ヘイト集会に抗議する市民のプラカード=2月11日 写真・神奈川新聞
※注1 岩上氏の敗訴 
http://sasaerukai.blogspot.com/2019/09/blog-post_14.html

記事③ 弁護士ドットコムニュース
https://www.bengo4.com/c_23/n_10162/
N国市議に勝訴したライター「スラップ訴訟は民主主義をぶっ壊す」
全国の選挙を取材している選挙ウォッチャーちだい氏(41)が9月24日、NHKから国民を守る党(N国)所属の立川市議との裁判に勝訴したことを受け、記者会見を開いた。
ちだい氏は、ネット記事の記述が名誉毀損にあたるとして、立川市議の久保田学氏から200万円を求める裁判を起こされたが、言論活動の萎縮をねらった「スラップ訴訟」だとして反訴していた。
千葉地裁松戸支部(江尻禎裁判長)で9月19日にあった判決は、久保田氏の請求を棄却。さらに提訴自体が不法行為になるとして久保田氏に約78万5000円の支払いを命じた。
●アダルトグッズなどの送りつけ被害も
ちだい氏の自宅には、N国とのトラブルの過程で何者かからアダルトグッズや果物などが代引きで送られてくるようになり、大学や専門学校などの案内資料も毎日のように届いているという。
ちだい氏は、裁判について「弁護士に依頼することになり、経済的負担が大きかった」。裁判を起こすことだけでなく、大人数での嫌がらせなども問題視し、「議論ができなくなってしまう。民主主義を損ねる行為だ」と警鐘を鳴らした。
控訴するかどうかについて、久保田氏に電話取材したところ「お答えする言葉を持ち合わせておりません」との回答があり、「忙しいのでいいですか」と電話は切られた。ちだい氏側は仮に控訴された場合、「慰謝料の額を不服として、こちらも控訴する」としている。
なお、ちだい氏は同じ記事の別の記述についても、N国と立花孝志党首から名誉毀損で裁判を起こされており、係争中だ。
●N国・立花党首「スラップ訴訟」と動画で発言
ちだい氏はN国の立花党首が当選した、2017年11月の東京都葛飾区議選から本格的にN国の動向を取材しはじめた。
判決によると2018年6月、久保田氏が立川市議選に立候補したことについて、ネットメディアに「立川市に居住実態がほとんどない」とする記事を書いたところ、久保田氏から名誉毀損で訴えられていた。
裁判で久保田氏は代理人をつけず、居住実態を示すものとして住民票しか提出しなかった。選挙前に配信した自身の動画の中でも立川市に住んでいないかのような発言をしていたことなどもあり、裁判所は名誉毀損を認めなかった(真実性の判断はせず、真実相当性を認めた)。
この点について、ちだいさんの代理人・馬奈木厳太郎弁護士は「たとえば、公共料金の領収書など、格別の負担もなく証明できるのに、証拠を出さなかった」と指摘した。
また、久保田氏が2019年5月12日に配信した動画の中で、立花党首が今回の裁判について次のように発言していたことなどを踏まえ、裁判所は久保田氏による提訴自体が不法行為を構成すると判断している。
「この裁判は、そもそも勝って、ちだい君からお金を貰いにいくためにやった裁判じゃなくて、いわゆるスラップ訴訟、スラップっていうのは、裁判をして相手に経済的ダメージを与えるための裁判の事をスラップ訴訟と言うんですよ」(判決文ママ)

川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例 
市が6月に公表した素案によると、人種や性的指向、障害などを理由にしたあらゆる差別的取り扱いを禁じ、外国にルーツのある人への差別的言動に最高50万円の罰金を科す条例。処罰対象のヘイトスピーチを場所や類型、方法から絞り込み、勧告、命令に違反した場合、市が刑事告訴する。行政の恣意的な判断と表現の自由の過度な規制を防ぐため、有識者の付属機関や検察庁、裁判所の判断を経る仕組みも取り入れている。市が実施したパブリックコメントには約1万8千通が寄せられ、賛意を示すものが多数を占めた。市は12月議会で条例案を提出し、同月と2020年4月に一部を施行した上、同7月の全面施行を目指している。

2019年9月20日金曜日

穂積弁護士のコラム

被害国と被害者の訴えに圧力をかけ、
過去の加害責任を否定し続ければ、日本は経済力を失いアジアで取り残されるだろう

戦後補償をめぐる裁判に数多くかかわってきた弁護士の穂積剛さんが、所属するみどり共同法律事務所のHPに、「悪化する日韓関係は日本側にこそ原因と責任がある」と題するコラムを掲載しています。http://www.midori-lo.com/column_lawyer_134.html

穂積さんはこのコラムで、徴用工問題について、こう書いています。
▼この問題に責任があるのはほぼ間違いなく日本側だ。日本の方が圧倒的に悪い。責任の重い側である日本が、責任の軽い側である韓国に対して嫌韓感情の大合唱を繰り広げている様は、あまりに醜悪極まりない。

そして、日本政府の姿勢をこう批判しています。
▼日本政府が今やっているのは、被害を訴えている被害者たちや被害国の訴えの方に圧力をかけ、それによって被害の訴えを圧殺しようとすることだ。こんな恥知らずなやり方はない。しかしそんなことで、被害者たちの声を抹殺することなどできはしない。さらに恨みを買って、さらに根深く問題が残り続けるだけだ

また、日本経済の深刻な損失と悪影響を、こう憂えています。
▼こうした紛争による損害額がどの程度の範囲にまで及ぶものなのか私には正確にわからないが、少なくとも韓国に進出した加害企業が賠償請求されるであろう金額よりは、比較にならないほど莫大な額となるだろう。
▼非人道的な残虐行為をやった加害企業のために、どうして現在の私たちがこのような損害を被らなければならないのか。被害者に対する賠償は、加害企業にやらせればいいではないか。そのとばっちりをどうして無関係の半導体関連企業や貿易会社、航空会社や観光業界が受けなければならないのだろうか。

昨年10月、新日鉄住金に賠償を命じた判決が出された時、多くの日本メディアが日本政府に同調して判決批判の論陣を張りました。11月には三菱重工に対しても同様の判決が出され、韓国批判は過熱しました。そのような情勢の中、穂積さんは「韓国の徴用工問題に関する大法院判決についての日本国内の論調が、完全に間違っている」と題するコラムを書きました(12月、同HP)。
ここでは、安倍首相や一部メディアがこの判決を「国際法違反」と決めつけたことについて、こう批判しています。

▼この判決は意外でも何でもない。むしろ法律論的観点からするとこの判決は、日本の最高裁判決での論理と、それほど相違のない判断が前提となっている。日本の論調においてもっとも首肯できないのは、このような大法院がこんな判決を出すような韓国という国は、いったいどういう国なんだという批判のあることだ。
▼そもそも、立法機関や行政機関が司法機関の判断に口出ししたり、これを制御しようとすることなど許されないのだ。したがって、文在寅大統領に大法院の判断を何とかしろというような論調は、そもそも三権分立を理解していないとしか言いようがない。

その上で、「国際法違反」「日韓請求権協定」について論を進め、日本政府(外務省条約局)の一貫した見解や最高裁の判断によっても、「個人の賠償請求権は消滅していない」ことを、わかりやすく、具体的に説明しています。そして、問題解決の道筋と考え方を具体的に提案しています。

このふたつのコラムを読んで気がついたのは、徴用工問題や日韓関係を語る政府の役人やテレビのコメンテーターたちが隠したり間違って伝えていることがいかに多いか、ということです。
日本のメディアとくにテレビや週刊誌では「国際法違反」と「請求権協定」のたった二つの言葉が殺し文句のように語られ、いまも韓国バッシングが続いています。しかし、基本的な問題や事実の確認は置き忘れられたままです。ネット上ではついに、「徴用工」を「微用工(びようこう)」、「出自」を{出目(でめ)」と書くのが正しいと思い込んでいる(あるいは恥じない、気が付かない)ネトウヨの書き込みがあちこちで頻出しているそうです。また、ある新聞の世論調査では、「嫌韓」は年代が上がるほど多い(70代以上で41%)とか。
そんな昨今ですから、穂積さんのコラムは必読のコラムだと言えます。
このページでは、2本の内、最新のコラムの全文を以下に転載します。

※ なお、穂積さんは、植村裁判では東京訴訟弁護団の主力としても力を注いでおり、その関連でもコラムが2本あります。日本語理解能力レベルの低い裁判長や、平気でウソをつきウソの上塗りをする右派論客を題材にしたコラムですが、含蓄と示唆に富んでいて痛快です。こちらもこの機会にご一読をおすすめします。
■裁判所が狂い始めている(2018年5月)
■「邪悪」な存在としての個人と国家(2019年3月)


悪化する日韓関係は日本側にこそ

原因と責任がある


穂積 剛  2019年9月






1. 悪化する日韓関係  
日韓関係が著しく悪化している。戦後最悪の関係だという。
週刊ポストのやり過ぎ記事が問題になったが、実際にはそれどころではない。テレビのワイドショーを見ても、週刊誌の記事を見ても、ネットの記事はもちろん、すべて「韓国悪い」の大合唱だ。奇しくも9月1日が関東大震災の記念日で、このとき「朝鮮人が暴動を起こした」とのデマが拡散され、そのため実際には日本人の暴動によって朝鮮人が大量に虐殺されるという悲惨なヘイトクライムが引き起こされたが、この調子ではいつまたこうした虐殺行為が繰り返されるかわかったものではない。
しかし、この問題について当初から関与してきた私の立場からいえば、この問題に責任があるのはほぼ間違いなく日本側だ。日本の方が圧倒的に悪い。責任の重い側である日本が、責任の軽い側である韓国に対して嫌韓感情の大合唱を繰り広げている様は、あまりに醜悪極まりない。私は日本を愛する愛国者を自負するが故に、愛する国が醜悪な状態にあることが耐えがたい苦痛である。一刻も早くこの国が責任を認めて、この問題の解決に向けて足を踏み出してほしい。
2. 徴用工被害者たちの受けた被害  
現在問題となっている徴用工判決について、その被害者らに対して何がなされたのかを知ることが、この問題の解決のための出発点だろう。何を議論するにせよ、事実を正しく知ることが何よりも大前提のはずだ。
1910年の日韓併合によって日本は韓国を植民地化した。このときに日本は朝鮮人に対して日本人化することを強制して、1939年には創氏改名により日本名を名乗らせることを強いている。
こうした中で、たとえば「日本鋼管徴用工損害賠償請求訴訟」の原告金景錫(創氏により「金城景錫」と名乗らされていた)は、1942年、21歳のときに日本内地での労務動員に応じる形で日本鋼管の川﨑製鉄所で働くことになった。以下は、この事件の東京地裁判決(1997年5月26日)による事実認定の概要である。
3. 金景錫の受けた被害 
原告が居住していた会社の寮は6畳の部屋に6人同居で、元軍人の指導員が朝鮮人労働者を監視していた。やりとりする手紙は検閲され、食事は粗末で常に空腹であり、他方で1日12時間の重労働に従事させられ、さらに土曜日には実に18時間もの長時間労働を強いられた。原告の仕事は工場内のクレーン操作などだったが、防塵マスクの支給もされない環境下で、高温や粉塵被害の危険のもとでの業務を担当させられた。
建前上、いちおう賃金は支払われていたが、当初聞かされていた月額80円ではなく、額面で25円しか支給されなかった。しかもそこから「国防献金、愛国貯金」などの名目で天引され、さらに食費や被服費等としてさっ引かれて、実際に渡された金額は8円程度に過ぎなかった。
これ自体をとっても悲惨な奴隷状態というべきだが、金景錫はさらにひどい目に遭わされている。
被告日本鋼管の労務次長が朝鮮人労働者を侮辱して差別する発言をしていることを知った朝鮮人労働者たちが怒って集団で就労拒否をする事件が起き、警官隊や憲兵が導入される騒動となった。このストライキの首謀者と疑われた原告は、警官や日本人従業員たちからリンチを受け、天井から吊されて長時間にわたって拷問され、木刀や竹刀で殴打され続けるという暴行を受けた。
ストライキ中だった同僚の朝鮮人労働者が、「金景錫を解放したら解散する」と申し入れたことでようやく原告は解放される。しかしこのとき受けた暴行により、原告は右肩肩甲骨骨折及び右腕脱臼の傷害を負わされた。ところが会社は原告に治療を受けさせず、怪我を放置して半年ほども働かせ続けた。原告は別の病気を装って病院に行き、そこでようやく入院して手術を受けることができた。けれども傷害は完治せず、右肩関節には習慣性脱臼の症状が出てしまい、右肩関節可動域制限の後遺障害が残ってしまった。
原告は、敗戦前の1944年に帰郷しての治療が許されたため、いったん韓国に戻っている。しかし会社からは、天引されていた「愛国貯金」も退職金も支払われず、帰りの旅費すらも出されなかったので、同僚たちが出し合った餞別で何とか帰り着くことができた。
 4. 金景錫の後遺障害 
これが原告の金景錫が受けた被害である。奴隷状態での苦役を受けたにもかかわらず賃金もほとんど支払われず、拷問と暴行によって大怪我を負わされたのに会社は原告に治療も受けさせず、これによって原告は生涯治ることのない重大な後遺障害を負わされた。右肩関節の可動域制限という後遺障害は、その後の金景錫の生涯収入に重大な影響を及ぼしたであろう。
ちなみに習慣性脱臼ということは右肩に負担をかけるような仕事は一切できなくなったと考えられ、この場合には労働能力喪失割合は45%、すなわち以後の生涯賃金の45%が失われたと認定されることになる。この場合の後遺症慰謝料の額は、現在の基準では830万円である。これが会社の従業員による暴行が原因であること、さらに会社が半年も治療を受けさせないことで症状が重篤になったという経緯を考えれば、慰謝料額だけで軽く1000万円を超える水準になるだろう。
これほどひどい目に遭った徴用工たちが、加害者に対して賠償を求めたいと考えるのは当然のことだ。そして加害企業の側は、こうした被害者たちの要求に真摯に向き合って、謝罪と賠償をすべきなのが物事の道理ではないか。これは人間としてあまりに当たり前のことではないのか。
5. 消滅していない徴用工被害者たちの「損害賠償請求権」  
このような徴用工の被害者たちは、当初は日本において日本の弁護士の協力を得て加害企業に対する訴訟を起こした。しかし日本の裁判所は被害者たちの要求を入れなかったため、やむなく次に韓国での提訴に踏み切ったものだ。加害企業は徴用工たちにこれだけの損害を与えているのだから、その責任を果たさないまま韓国に進出して事業を行っていれば、その賠償責任を問われて当然である。何の咎も受けずに韓国でも金儲けに邁進できると考える方がおかしい。
こうした被害者たちの加害企業に対する損害賠償請求権は、1965年の日韓請求権協定の締結によっても、これが消滅することにはならない。
このことは、韓国の大法院判決はもちろん、日本の最高裁においても同じ立場を明らかにしている。というよりも、「被害者個人の請求権は消滅していない」とするのが日本政府自身の公式見解でもある。この論点については、昨年12月に公表したコラム(『韓国の徴用工問題に関する大法院判決についての日本国内の論調が、完全に間違っている』)で詳細に述べたところなので、興味があれば確認していただきたい。
いずれにしても、日韓双方の政府及び裁判所の共通見解が、「被害者の加害企業に対する損害賠償請求権は消滅していない」というものなのだ。日韓請求権協定の存在を根拠に、この問題が解決済みだの韓国政府の責任で対応すべきだのとする主張が破綻していることは、この点だけでも明らかだといえる。
6. 当然に賠償義務を果たすべき加害企業 
このように徴用工の被害者たちの加害企業に対する損害賠償請求権は、法的には消滅していない。
韓国の大法院判決はその当然のことを判示しただけであり、これは「国際法違反」でもなんでもない。
被害者に対して残虐な加害行為をおこなった非人道的な加害企業が、韓国においてその損害賠償を命じられただけのことなのだ。韓国に進出した企業なのだから、韓国の司法制度に従うのは当たり前だろう。こうした企業は潔く賠償責任を負えばよい。嫌だったら始めから進出しなければよかっただけの話だ。
というより、問題の全面的解決のため、加害企業と日本政府が加わって基金を設立して、被害者に対する賠償を実施する必要がある。このことも、前述した12月のコラムで指摘したところである。
7. 日本政府による妨害と日韓関係の悪化  
ところがここで日本政府がしゃしゃり出てきて妨害し始めた。
周知のように日本政府は韓国を「ホワイト国」から除外する措置を強行し、これにより貿易紛争が勃発した。実際にはこれは徴用工判決が理由だったにもかかわらず、それではWTOに提訴されると分が悪いものだから、日本政府は対外的には「安全保障上問題がある」という理屈に固執している。これに対し韓国がGSOMIAを破棄したのも周知のとおり。
韓国によるGSOMIA破棄が妥当だったかについて疑問なしとはしないが、しかし少なくとも日本政府にこれを非難する資格はない。なぜなら、日本政府が「安全保障上問題がある」として先にホワイト国除外に踏み切ったのであり、韓国はこれを捉えて「安全保障上問題があるのであれば、軍事情報の共有はできない」と切り返しただけだからである。
8. 経済的損失の「とばっちり」  
こうした応酬が影響して、冒頭に記したように両国の関係は戦後最悪となっている。
貿易関係が多大な影響を受け、観光業界でもあおりを食って大きな損害が出てきている。韓国の訪日客は激減し、就航する航空便の数も大きく減少した。こうした紛争による損害額がどの程度の範囲にまで及ぶものなのか私には正確にわからないが、少なくとも韓国に進出した加害企業が賠償請求されるであろう金額よりは、比較にならないほど莫大な額となるだろう。しかもホワイト国除外によって韓国の企業は、これまで日本企業からの輸入に依存していたフッ化水素の供給源を自社生産にするなどの対応を緊急に行っており、これによって日本は主要な輸出先を失うことになる。これにより中国企業が漁夫の利を得るとともに、アジアにおける日本の地位は経済的にも倫理的にもさらに低下していくことになる。
しかし、非人道的な残虐行為をやった加害企業のために、どうして現在の私たちがこのような損害を被らなければならないのか。被害者に対する賠償は、加害企業にやらせればいいではないか。そのとばっちりをどうして無関係の半導体関連企業や貿易会社、航空会社や観光業界が受けなければならないのだろうか。この点が私にはまったく理解できない。
9. 被害者の声を圧殺することはできない 
そもそもこの問題に安倍政権が敏感になっているのは、日本の加害責任を安倍晋三と自民党政権が認めたくないからだ。特に安倍の祖父である岸信介はA級戦犯であり、戦前は満州国総務庁や商工大臣などを務めたアジア侵略の責任者の一人だった。岸を尊敬する安倍は日本の加害責任をどうしても受け入れられないので、加害企業が韓国で責任を問われる事態も妨害したくてたまらないのだ。
そんな程度のことで日韓関係全体を悪化させ、経済的にも多大な損害を生じさせている安倍晋三のやり方は、完全に政治家として失格である。国家の運営方針として、これは明らかに進路を誤っている。
冷静になって考えてみてほしい。
日本は確かに戦前、朝鮮を植民地にして支配し、中国を侵略して両国を中心に非人道的な加害行為をいくつも重ねてきた。
このような国家が、自分たちのやってきたことに向き合おうともせず、却って加害行為の事実を否定するような言動を繰り返してきた。これでは、被害者たちがますます怒るのは当然ではないか。まして日本政府が今やっているのは、被害を訴えている被害者たちや被害国の訴えの方に圧力をかけ、それによって被害の訴えを圧殺しようとすることだ。こんな恥知らずなやり方はない。
しかしそんなことで、被害者たちの声を抹殺することなどできはしない。さらに恨みを買って、さらに根深く問題が残り続けるだけだ。
10. アジアから取り残され没落していくだけの日本  
私が弁護士として取り組んできた最大の課題の1つが、この戦争責任の問題を解決して、被害者に対し適正な謝罪と賠償を行うとともに、加害の事実を広く日本社会で共有し、この失敗に学んで二度と同じ過ちを繰り返させないことだった。そのことによって初めて、被害を受けた国や被害者の人たちは、日本の反省を心からのものと受け止め、日本人と日本国を信頼してくれるだろう。そうした倫理的に高潔な対応をすることによって、結果的にそれが周辺国からの評価につながり、アジアの中で尊敬されうる地位を占めることができるようになる。それをやっているのがまさにドイツであり、だからこそドイツは今やEUの中心国家として繁栄することができているのだ。
これまで日本は、自らの加害責任に対し真摯に取り組んでいなくても、東西冷戦に起因する経済復興とアメリカという後ろ盾により、経済力を背景としてアジアで重要な地位を占めることができていた。しかし少子化と長期低迷している経済状態により、アジアにおける日本の地位は明確に低下している。逆に中国は世界第二位の経済大国に進出し、韓国の国力も今後ますます増強していくであろう。
この情勢下で、日本が過去の加害責任を否定し続けてこれに取り組もうとしないままでいれば、経済力を失った日本はアジアから取り残されることになるだろう。国力をつけた中国や韓国、台湾や香港などにも見放され、アジアの劣等国として置き去りにされることになってしまう。愛国者である私は、そんなことにならないように、日本が道義的に尊敬される措置を少しでも早く実施することを主張しているのだ。
11. 手遅れにならないうちに戦争責任を解決すべき  
私が弁護士になったときに感じていたこうした危惧は、そのときには「そのうちに日本だけがアジアに取り残されてしまう」という、将来に対する問題意識であった。しかし今やその不安は的中し、まさに今その危惧が現実のものとなりつつある。
日本という国を愛するのであれば、一刻も早く加害責任を正面から認めて、基金方式による徴用工問題の解決を図らなければならない。慰安婦問題の解決も同じである。日本が加害の事実を否定しようとすればするほど、日本の国際的地位が低下し、周辺諸国を始めとする諸外国からの国際的評価を失い、軽蔑されるだけになっていき、経済的にも取り残されていく事態となることに、日本国民自身が気付かなければならない。