2019年3月30日土曜日

3月20日東京集会

植村裁判報告集会は3月20日、東京・日比谷公園内の図書文化館で開かれた。平日午後2時からの開催にもかかわらず会場(同館地下1階小ホール)には130人ほどの市民、支援者らが集まり、弁護団報告と、対談などに耳を傾けていた。

この日に予定されていた東京訴訟判決は延期となり、弁論もなかった。集会では最初に、東京訴訟の判決延期の背景にある裁判所の異例な対応について弁護団から詳しい説明があり、さらに、4月25日に始まる札幌訴訟控訴審についての報告があった。対談では、青木理氏(ジャーナリスト)と中島岳志氏(東京工業大教授)が「植村裁判をめぐる日本社会の底流」を1時間、語り合った。この後、植村氏の近況報告、映像ドキュメント「標的」短縮版の上映、訴訟費用カンパの呼びかけがあり、集会は午後4時15分に終わった。

対談「植村裁判をめぐる日本社会の底流

東京工大教授中島岳志氏  ジャーナリスト青木理

青木、中島両氏とも、植村バッシングとそれに続く植村裁判には、早い時期からかかわってきた。青木氏は2014年12月に、植村氏と朝日新聞関係者へのロングインタビューをもとにした『抵抗の拠点から――朝日新聞「慰安婦報道」の核心』(講談社)を出版した。中島氏は北海道大に勤務していた当時、植村氏と北星学園大への脅迫や攻撃を間近にし、植村氏と北星を守る運動の先頭で積極的に発言してきた。戦中戦後の論壇と社会の動向を主な研究テーマとし、昨年8月には『保守と大東亜戦争』(集英社新書)を出版した。
この日の対談で両氏は、植村バッシングとの関わりを振り返ったあと、①植村氏が書いた記事と吉田清治証言記事の社会的影響、②植村氏と朝日新聞だけが標的にされた理由、③日本社会のバックラッシュ(反動、逆流)と自民党政治との関係、④植村裁判が問うことの意味、について意見を交わした。
以下は主な発言の要約。
■植村記事と吉田証言の社会的影響
青木:植村さんの記事は飛び跳ねた記事ではない。各社同じように、産経にも読売にも出ている。当時植村さんがいた大阪は私の初任地だった。大阪の空気はよくわかっている。それが23、4年たって、あたかもとんでもない遺物のように扱われるようになってしまった。時代の風潮がものすごい勢いで逆回りしている中で、たまたまとばっちりを受ける立場に植村さんが立たされたのではないか。メディア対権力という議論もあるが、植村さんはとばっちり、それだけのこと。支援している人がいることに敬意を持ちつつ、時代状況がおかしくなっていることの象徴だととらえている。
中島:慰安婦報道で大きな影響を与えたという意味では、北海道新聞の2つの記事の方が大きい。金学順さんを初めて実名で独占インタビューした喜多義憲特派員の記事(1991年8月15日付)と、吉田清治証言を報じた記事(同年11月22日付)だ。とくに吉田証言の記事には、「アフリカの黒人奴隷のように朝鮮人を狩り出した」という個所があり、これが韓国メディアに大きく取り上げられた。朝日新聞の吉田証言記事が国際社会に影響を与えたと右派は言うが、実証主義的にはそうはいえない。吉田証言は偽証だった、というところから飛躍と拡大で慰安婦問題はなかったという議論が横行するようになった。
■植村氏と朝日新聞だけが標的にされた理由
青木:朝日新聞の慰安婦報道で唯一問題があったのは、吉田証言記事だ。吉田証言は虚偽ではあったが、裏付けをきちんととらなかった。ただ、「首相や官房長官が『辺野古に赤土は入れていない』と語った」と書いても、(事実は虚偽でも)誤報ではないように、吉田清治が言っていることを書いたのだから誤報ではない、という見方もある。朝日新聞が批判されるべきは、歴史修正主義勢力に対して意固地になって、訂正、軌道修正が遅れたことだ。朝日は自分たちの新聞が一番なのだという意識が強い。だから、象徴としてたたかれるというふうになった。
中島:植村さんの記事が世論をリードしたとは言えない。吉田証言の記事を植村さんは1本も書いていない。朝日新聞が火をつけたわけでもない。二重の意味で関係がないのに、朝日新聞をたたくという政治運動があって、朝日が標的とされた。植村さんは朝日の記者だから、朝日をバッシングすることで象徴的な何かを獲得しようとし、標的にされた。
■90年以降のバックラッシュと自民党政治
中島「重要なポイントは1980年代にある。それまでの保守派論客は青春期に体験した戦争がいやでしょうがなかった、すべて戦争に反対していた。そのような戦中派保守が退場し、世代交代すると、戦後教育の中で歴史を学んだ反発として、戦争には意義があったと言い始めた。幼少期の戦争体験がかなり違っていて、大東亜戦争は植民地の解放戦争という考えを押し出すようになった。80年代のそういう動きの中で育ってきたものが90年代に開花した。その先端にいるのが、いまの首相、安倍晋三氏だ。
青木:80年代から90年代にかけてバックラッシュは起きていたが、2002年の小泉訪朝時の日朝首脳会談でそれが公然化した。戦争責任を問われる「加害者」だった日本が、拉致問題が契機となって、戦後初めて「被害者」の立場になり、鬱積していたものが出てきて、いまの首相の地位を上げていった。
中島:3年前の総選挙の時、吉祥寺での街頭演説でヤジを浴びた安倍氏は、「私は小さい時にお母さんに人の話はよく聞きなさいと言われましたよ」と反論していたという。お母さんの話を持ち出す政治家はあまりいない。安部氏はそういう幼児期の体験が土台となって大きなマグマの中に入っていたということだろう。
青木:安倍氏が初当選して衆院議員になった1993年7月の総選挙で自民党は負けて、自民党は下野した。だから安部氏は野党議員としてスタートした。彼は神戸製鋼の社員時代は上司に忠実に従う子犬のような存在だったが、オオカミの仲間の中で右派のプリンスとして育てられ、オオカミになった。
■植村裁判が問うこと
青木:誤報をしたことのない新聞記者などいない。もしいたとしたら、よほどのウソつきか、まったく仕事をしなかったかだろう。そういうときにどうふるまうべきか、メディアはどうあるべきか、こういう時代だからこそ、後の歴史家にあの時何をしていたの、と笑われないようにがんばらなければならない。
中島:植村裁判は時代の大きなマグマの典型だ。私たちは後の歴史家から検証される舞台に立たされている。この流れを許してしまっていいのか。私たちの子や孫に、あの時どうしていたのか、何と言ったのか、と問われる時が必ず来ると思う。

この対談の詳しい内容は、「週刊金曜日」が掲載する予定です(掲載号発行日は未定)


弁護団報告要約


穂積剛弁護士◆東京訴訟「裁判官忌避」について
原克也裁判長ら3裁判官の審理には「公正な裁判が妨げられる事情」がある、として忌避申し立て手続きを進めている。東京に先がけて出された札幌訴訟の判決は、櫻井よしこを免責する理由の中で吉田清治証言を使っている。裁判所はそれを東京訴訟でも使おうとして、弁論再開までして被告側に新証拠を出させようとしたのではないかと、弁護団は疑っている。忌避には十分な理由がある。忌避の主な理由は次の4点だ。
①すでに結審し、判決言い渡しが迫っているのに、弁論を再開したことはきわめて異例だ。結審後の弁論再開が認められるのは、当事者(原告と被告)が、判決に重大な影響を及ぼす証拠を提出したいと申し入れ、裁判所が認めた場合が通常である
②今回は当事者からの申し出ではなく、裁判所から被告側に要請して新証拠を提出させた。これは、民事訴訟の基本的な大原則である「弁論主義」に反する。裁判所は当事者が提出した証拠事実のみを基礎としなければならない
③その新証拠は、「慰安婦報道に関する朝日新聞社第三者委員会報告書の全文」である。しかし、その要約版はすでに被告側が証拠提出している。また、植村側も、植村記事にかかわる部分の抜粋は証拠提出している
④裁判所はなぜこのようなことをするのか。新証拠「第三者委員会報告書全文」の重要なテーマである「吉田清治証言」の経緯や影響は、東京訴訟の弁論では原告、被告側双方とも争点にすることなく結審した。それなのに、あえて新証拠として採用するのは、報告書全文のうち当事者が提出した植村記事関連部分以外の個所に被告側に有利と思われる部分があり、それを材料として判決を導き出すため、と疑わざるを得ない
東京高裁への抗告は3月28日却下された。弁護団は同日、最高裁に特別抗告状を提出した。

小野寺信勝弁護士◆札幌訴訟「控訴審開始」について
控訴理由書は1月10日に提出した。総ページ数は100を超える。さらに控訴理由補充書を2通用意している。控訴理由のポイントはふたつある。
①櫻井を免責した札幌地裁の「真実相当性」の判断は、これまで最高裁が積み上げてきた判断の枠組みから大きく外れている。「真実だと信じるにやむを得ない事情」の「やむを得ない事情」を認めるには高いハードルがある。真実相当性を認めなかった代表的な判例としては、警察がリークした事件が冤罪だった事案や、やロス疑惑報道の名誉毀損などがある。ところが札幌地裁判決は、ハードルを軽々と越えてしまった。
②櫻井の慰安婦についての表現が大きく変遷していることが、その後の調べでわかった。櫻井は1992年に「週刊時事」コラムで「強制徴用された従軍慰安婦」などと書き、慰安婦問題に同情的だった。「強制連行」は否定していなかった。92年というのは、植村さんが金学順についての記事を書いた翌年だ。櫻井はその後、「強制連行」に否定的になり、2014年には植村記事を「捏造」と決めつけるまでになった。しかし、櫻井はこの変遷の理由をはっきり説明していない。札幌地裁判決は、櫻井の「真実相当性」の根拠として韓国紙ハンギョレの記事などの資料をあげているが、これらは92年当時に櫻井が読んでいたものである。同じ資料をもとに「強制連行」について真逆のことを言っていることになり、「真実相当性」が崩れることになる。
札幌訴訟と高裁とのかかわりでいうと、地裁の裁判が始まる前、櫻井側が申し立てた東京への移送を地裁が認めたが、その決定を高裁は逆転却下した。また、地裁判決は櫻井の名誉毀損表現の多くを「論評・意見」ではなく「事実の摘示」と認定しており、この点でも「真実相当性」で免責するためのハードルは高くなっている。これらは、控訴審での好材料だと思う。
秀嶋ゆかり弁護士◆札幌訴訟「控訴審開始」について
地裁判決には、従軍慰安婦を「公娼制度の下での売春婦」と認定する記述がある。裁判官のこのような歴史認識と人権感覚の欠落を、控訴理由補充書では厳しく批判している。また、「捏造」決めつけにより植村氏が大学での教育研究者の道を閉ざされたことは重大な人権侵害だ、との主張を盛り込んだ憲法学者の意見書も準備している。高裁の審理は1回では結審させない、という考えで進める。
控訴理由補充書2通は、3月22日に提出されている



植村隆さんの話

私は吉田清治さんを取材したこともないし記事を書いたこともない。その吉田証言が亡霊のように出てきた。結審したらもう証拠は出せないのに裁判所は吉田証言を証拠に出させ、それ使って判決を書くのではないか。
私はいまも、巨大な敵と闘っている。私のほかにも、攻撃を受けている人がいる。根っこでは、戦争中の人権侵害の記憶を抹殺しようというテロリズム、記憶を継承しようという作業に対するテロリズムが起きている。裁判の勝訴をめざし、そのような時代の風潮とも闘っていく。


映像ドキュメンタリー「標的」

植村さんがたたかいの様々な場面で発する言葉を、植村さんの豊かな表情とともに記録したヒューマンドキュメンタリー。映像ジャーナリスト西嶋真司さん(元RKB毎日放送ディレクター)が集会、記者会見、自宅などで植村さんに密着して制作を続けている。集会では12分に短縮された試作版が初めて公開された。

訴訟費用カンパ呼びかけ

札幌控訴審開始を機に新たに設立された組織「植村隆名誉回復裁判を応援する会」の発起人、植田英隆氏(グリーン九条の世話人、札幌市)が集会で、訴訟費用支援のカンパへの参加を呼びかけた。同会の発起人には、上田文雄(前札幌市長)、木村真司(札幌医大教授)、早苗麻子(精神科医)、鶴田昌嘉(北海道画廊代表)、ノーマ・フィールド(シカゴ大名誉教授)各氏が名を連ねている。
カンパは1口1000円以上、何口でも可。
受付口座=ゆうちょ銀行振替口座 02760-0-101987 
(他行からの振り込みは、ゆうちょ銀行279店、当座預金0101987)
口座名義=植村応援隊
事務局=makenaiuemura3@gmail.com


2019年3月29日金曜日

最高裁に特別抗告

東京訴訟の裁判官忌避申し立ては、3月26日、東京高裁が即時抗告を却下した。植村弁護団は28日、最高裁への特別抗告の手続きをした。

2019年3月25日月曜日

東京訴訟中断の理由


植村裁判東京訴訟は3月20日、予定されていた判決言い渡しが延期となり、弁論も行われなかった。「20日には法廷を開かない」との連絡が裁判所からあったのは前日の19日だった。
裁判官の交代を求める忌避申し立ての審理は、東京地裁民事37部での却下を経て、東京高裁に移っている。高裁への即時抗告理由書の提出期限は3月25日である。植村弁護団によると、高裁の判断が下されるのは早ければ翌26日以降になるが、高裁で却下された場合はすぐに最高裁への特別抗告と進むので、裁判の事実上の進行停止状態はさらに続くことになる。

では、停止している裁判の再開はいつになるのか。
再開は、最高裁の決定が出た後になる。それに要する期間はわからないが、東京地裁の最近の例では、昨年7月に「安保法制違憲・東京国賠訴訟」で忌避申し立てがあり、東京高裁を経て最高裁で却下が確定して弁論が再開されたのはことし1月だった。半年かかったことになる。
ただ、いまの時期は裁判所の人事の定期異動時期に重なっている。また、過去には忌避申し立てを無視して判決を言い渡した裁判例もある。そうしたことから、植村弁護団によると、3月中に弁論再開や期日指定を強行するなどの急展開もあり得るし、裁判官の人事異動による交代も考えられるという。

裁判所は、西岡・文春側に有利な証拠を
提出させようとしたのではないか?! 
植村弁護団は忌避申し立てについて、すでに声明を発表し、原克也裁判長ら3裁判官の審理には「公正な裁判が妨げられる事情」がある、と強く批判している。3月20日に開かれた裁判報告集会でも、植村弁護団の穂積剛弁護士から詳しい説明があった。要点は次の通り。

①すでに結審し、判決言い渡しが迫っているのに、弁論を再開したことはきわめて異例だ。結審後の弁論再開が認められるのは、当事者(原告と被告)が、判決に重大な影響を及ぼす証拠を提出したいと申し入れ、裁判所が認めた場合が通常である
②今回は当事者ではなく、裁判所が被告側に要請して新証拠を提出させた。これは、民事訴訟の基本的な大原則である「弁論主義」に反する。裁判所は当事者が提出した証拠事実のみを基礎としなければならない
③その新証拠は、「慰安婦報道に関する朝日新聞社第三者委員会報告書の全文」である。しかし、その要約版はすでに被告側が証拠提出している。また、植村側も、植村記事にかかわる部分の抜粋は証拠提出している
④裁判所はなぜこのようなことをするのか。新証拠「第三者委員会報告書全文」の重要なテーマである「吉田清治証言」の経緯や影響は、東京訴訟の弁論では被告側も争点にすることなく結審した。それなのに、あえて新証拠として採用するのは、報告書全文のうち当事者が提出した植村記事関連部分以外の個所に被告側に有利と思われる部分があり、それを材料として判決を導き出すため、と疑わざるを得ない

穂積弁護士は、「札幌訴訟の判決は、櫻井よしこを免責する理由の中で吉田清治証言を使っている。裁判所はそれを東京訴訟でも使おうとして、被告側に出させようとしたのではないかと、弁護団は疑っている」と語り、「忌避には十分な理由がある」と強調した。

※この日の報告集会では、穂積弁護士の報告に続き、札幌弁護団の小野寺信勝、秀嶋ゆかり両弁護士から札幌判決の問題点と控訴審に向けての取り組みについての報告があった。その後、ジャーナリスト青木理氏と東京工業大教授・中島岳志氏との対談、植村隆氏の報告などがあった。
<報告集会のまとめレポートは月内に掲載します>

報告集会には130人が参加した(3月20日、日比谷図書文化館)



2019年3月11日月曜日

3月20日東京集会

3月20日に判決言い渡しはありません
弁論の開廷もありません
集会は予定通り開催します
 
DL用のPDFはこちら

2019年3月9日土曜日

屋山太郎の名誉毀損

日韓関係に関する静岡新聞のコラム記事で評論家の屋山太郎氏に「徴用工問題を政争の具にしている」「実妹が朝鮮にいる」などと書かかれた福島瑞穂参院議員が3月6日、屋山氏を名誉毀損で東京地裁に提訴しました。福島議員のフェースブック上のコメントと、関連記事を引用します。
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福島みずほ議員のコメント
本日3月6日、屋山太郎氏に対し、名誉毀損の裁判を起こしました。
2月6日付けの静岡新聞「論壇」に、私に関して虚偽の事実を書いたためです。
「ギクシャクし続ける日韓関係」と題した記事では、こう書かれています。
「徴用工に賠償金を払えと言うことになっているが、この訴訟を日本で取り上げさせたのは福島瑞穂議員。日本では敗訴したが韓国では勝った。
福島氏は実妹が北朝鮮に生存している。政争の具に使うのは反則だ。」
しかし、私は徴用工の訴訟に関わったことはありません。そもそも妹はおらず、全くの虚偽です。
また、これらを政争の具にしたこともなく、明らかな名誉毀損にあたります。
少し調べればわかるような事実であるにもかかわらず、政治評論家でもある人物が新聞に堂々と虚偽を述べているのです。
こうしたフェイクニュースが蔓延することを止めるためにも、今回の提訴に踏み切りました。
ぜひ応援してください。
(3月6日、福島みずほfacebook

――引用開始――
共同通信の記事
社民・福島氏が評論家提訴 「コラムで名誉毀損」

社民党副党首の福島瑞穂氏は6日、政治評論家の屋山太郎氏に新聞のコラムで「実妹が北朝鮮にいる」などと虚偽を書かれ、名誉を傷つけられたとして、屋山氏に330万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。
訴状によると、屋山氏は「ギクシャクし続ける日韓関係」と題するコラムを執筆し、静岡新聞の26日付朝刊に掲載された。コラムでは、元徴用工訴訟を日本で取り上げさせたのは福島氏だとし、「福島氏は実妹が北朝鮮に生存している。政争の具に使うのは反則だ」と書いた。
福島氏は、そもそも妹がおらず、自身は生まれも育ちも国籍も日本だと指摘。元徴用工訴訟には関与しておらず、内容は虚偽で名誉毀損に当たると主張した。
屋山氏は「違う人を福島さんだと思い込んでしまった。間違えて申し訳なかった」とのコメントを出した。
静岡新聞は、29日付朝刊で謝罪し、訂正している。
(3月6日1838配信)
――引用おわり――

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静岡新聞の訂正記事(2月9日付、朝刊2面下1段)はこうである。
<6日付朝刊2面論壇「ギクシャクし続ける日韓関係」で、「徴用工に賠償金を払えということになっているが、この訴訟を日本で取り上げさせたのは福島瑞穂議員」「福島氏は実妹が北朝鮮に生存している」とあるのは、いずれも事実ではありませんでした。おわびして訂正します。>
ところが、屋山氏自身の訂正記事(同氏が主宰する「日本戦略研究フォーラム」のホームページ)はこうである。
<文中、「福島氏の実妹は北朝鮮に生存している。」との記載がありましたが、ご本人より、実妹はいないとの申し出がありましたので、当該部分を削除致しました。訂正してお詫び申し上げます。>
これが「訂正とお詫び」なのだろうかしらん。

2019年3月2日土曜日

書評と新刊最新情報

ネットや新刊書で、植村裁判を支援する声や意見、解説がいまも静かに広がっています。その最新情報をお伝えします。
ネット書評 昨年12月発行のブックレット「慰安婦報道『捏造』の真実」の書評を、日本女性学研究会のホームページ(facebook)と個人ブログ「加害者の孫を生きる」が掲載しています。
2つの書評とも、同書に書かれている櫻井、西岡両氏のウソに力点を置いています。また、裁判で争点となっている金学順さんが慰安婦とされた経緯(強制連行か人身売買か)についても、共通する考えを注記の形で示しています。たとえ人身売買であっても日本軍、政府は免責されず、また問題の本質はそこにある、との考えです。慰安婦問題運動者の視点と問題意識がよくわかる書評です。
新刊書 朝日OBの山田厚史氏が「アベ友トンデモ列伝」で櫻井よしこ氏を徹底的に批判し、毎日新聞OBの臺宏士氏は、「アベノメディアに抗う」で植村隆氏のたたかいに寄り添いながら、裁判の経過を克明にたどっています。また、植村氏自身も月刊「マスコミ市民」に寄稿し、札幌地裁判決は「結論ありきの司法判断」だと批判し、「私は屈しない」との決意を明らかにしています。



アベ友トンデモ列伝関連記事は47~62ページ、山田厚史「従軍慰安婦訴訟で暴かれた櫻井よしこ氏のデタラメ捏造裁判~強制連行をめぐる主張はでっちあげだった」。宝島社、2018年12月発行、本文224ページ、1500円+税。
アベノメディアに抗う46~65ページ「第2章、私は捏造記者ではない」。臺宏士著、緑風出版、2019年1月発行、本文272ページ、2000円+税。
月刊「マスコミ市民」関連記事は42~47ページ、植村隆「元朝日記者の言論の自由を守る闘い」。第601号、マスコミ市民フォーラム、2019年2月発行、本文80ページ。

ネット掲載書評を以下に引用転載します。
(引用開始)

日本女性学研究会ホームページ 2019年2月1日
1991年、朝日新聞記者の植村隆氏は、元「慰安婦」の金学順(キムハクスン)さんの証言を伝える記事を執筆した。それに対して、ジャーナリスト・櫻井よしこ氏と東京基督教大学教授の西岡力氏は、その記事は「捏造」だと非難してきた。植村氏は、名誉棄損で櫻井・西岡両氏と新潮社などを訴えた。その裁判の記録が本書である。
植村氏は記事の中で、たとえば、金学順さんが日本軍に強制連行されたことを伝えた。それに対して、櫻井氏は、金さんは継父によって人身売買されたのであって、植村氏の記事は捏造だと言う。しかし、櫻井氏が挙げた典拠にも、そんなことは書かれていない。むしろ、日本軍によって継父が刀で脅されて連行されたと書かれている(金さんによると、自分も脅迫されてトラックに乗せられた)。
また、たとえ金さんが親に売られたのだとしても、日本軍「慰安所」で性行為を強制された以上、日本軍はまったく免責されないことは、性暴力の問題を少しでも知っている人には明らかなことだ(私は、本書でも、この点も右派の論理に対する批判として強調したほうがいいと思う)。
櫻井氏と西岡氏は、裁判に提出された証拠を前にして、ついに証人尋問で自らの記述の誤りを認めざるを得なくなった。本書は、その尋問記録を、50ページ余りにわたって収録している。
しかし、櫻井氏を訴えた裁判の札幌地裁判決(昨年11月)は、「金さんは継父によって売られた」という同氏の記述は「真実だと認めることは困難」と言いつつも、同氏がそう信じたことには「相当の理由がある」として免責した。しかし、判決の論理はとても成り立つものではない(103-107頁)。「捏造」という記者生命を失わさせるような非難に対して、不当な判決と言うほかない。(遠山日出也) 
2019年2月1日

ブログ加害者の孫を生きる~日本軍「慰安婦」問題のこと、その他のこと」
2019年2月22日


植村裁判取材チーム・編『慰安婦報道「捏造」の真実~検証・植村裁判』(花伝社)読了。『慰安婦報道「捏造」の真実』というタイトル、いいですね。言いえて妙です。
植村事件とは多方面の社会問題をはらんでいて、日本軍「慰安婦」問題に限らずいろんな語り口ができると思っています。が、この本に関してはほぼ一点に絞られます。

櫻井よしこと西岡力は、植村記者の書いた記事を「捏造」と批判しましたが、櫻井よしこと西岡力の「捏造」批判の論拠そのものが「捏造」であるということを明らかにしたことです。二人に対する法廷での証人尋問で、二人の「捏造」が暴かれしどろもどろになり、あるいは開き直っていく様は、読んでいて痛快です。結局二人とも、自分の論拠が誤りであると認めました。

櫻井裁判は名誉棄損裁判としては有罪にまで持ち込めませんでしたが(それ自体はとても腹立たしいことです)、それでも十分「勝利した」と私は思います。そして西岡裁判の方は今春に判決があると言われていますが、こちらの方は櫻井裁判と同じようになるとは限りません。

二人の主張は、それほど難しいものではありません。
櫻井よしこはWill2014年4月号にこのように書いています。

《訴状には、14歳のとき、継父によって40円で売られたこと、3年後、17歳のとき、再び継父によって、北支の鉄壁鎮というところに連れて行かれて慰安婦にさせられた経緯などが書かれている。植村氏は、彼女は継父によって人身売買されたという重要な点を報じなかっただけでなく、慰安婦とは何の関係もない『女子挺身隊』と結びつけて報じた。》

このことはWill誌上だけではなく、右派論壇誌やテレビなどで、繰り返し繰り返し主張していました。
しかし実際には、金学順さんの訴状にはそんなことどこにも書かれていないのです。まるっきりのウソ、「捏造」なのです。

40円で売られた」ということは臼杵敬子による月刊宝石1992年2月号のインタビュー記事ですが、売られた先は妓生専門学校であり(妓生は売春婦ではない、念のため)、「慰安婦」にさせられる3年も前のことです。そして同記事では「養父は将校たちに刀で脅され、土下座させられたあと、どこかに連れ去られてしまったのです」とも書いています。

また「慰安婦」と「挺身隊」が結び付けられて語られていたのは、当時は普通のことでした(私自身も当時混同していました。)。「慰安婦」は「挺身隊」ではありませんが、当時の韓国でも日本でもそのように語られていたのは事実です。そして実際、金学順さんも自身のことを「挺身隊慰安婦として苦痛を受けた私が」と、自身のことを「挺身隊」と語っているのです。

西岡力は「捏造」の基準として、「本人が語っていないことを書く」、「書くべき事実である事実を書かない」、「筆者が利害関係者であるという」という3点から植村さんの記事を批判し「捏造」認定してきました。つまり
「女子挺身隊の名で戦場に連行された」という本人が述べていない経歴を加えた。
本人が述べた「親に40円でキーセンに売られた」ことを書かなかった。
対日訴訟を起こしている「義母から便宜」を受けて記事を書いた。

①②のウソについてはもう説明不要ですよね。については、植村さんが記事を書いた理由は朝日新聞元ソウル支局長の誘いがあったからで、義母は関係していないことがすでに裁判の中で確定しています。
そして西岡力自身の「捏造」認定は、ブーメランのように自分に跳ね返ってきます。
「継父に40円で売られて慰安婦になった」と、本人が語っていないことを書いた。
「私は日本軍に連行されました」という本人の証言など、書くべきことを書かなかった。
ソウル取材は「文春関係者から」もらったネタを。「文藝春秋」の記事にするため、編集部の丸抱えで行った。西岡は文藝春秋の利益関係者。
西岡力のほうが「捏造」学者であるということが、完膚なきまでに暴露されたのです。

法廷では櫻井よしこも西岡力も、自らの過ちを認めています。櫻井よしこは(その内容に問題があるとはいえ)訂正記事も掲載しています。
しかしそれだけでは足らないと思うのは、私だけではないでしょう。
二人の捏造バッシングのために植村さんは職を失い、娘までもが身の危険にさらされました。
対して櫻井よしこと西岡力は、今でも保守論壇に強い影響力を持っており、いまだに二人の「捏造」は右派の中で受け入れられ、再生産されています。金学順さんの証言は、いまだに毀損されたままです。なぜこんなことが許されているのでしょうか?

私が思うに、歴史修正主義は嘘と「捏造」を前提として成り立っているからです。歴史修正主義とは歴史学の領域ではなく、単純に政治闘争です。ウソを百回繰り返せば本当になるという理屈で、政治闘争が行われているだけです。
だれもが「捏造」だと知っているから、「捏造」した当の犯人が微塵も傷つかない。そういうことだとしか思えません。安倍首相のウソがいくら明らかになっても、政権はビクともしない。それにとても似ています。

それに、現実問題として市民が「捏造」を検証することなど、とても不可能なのです。
今回の金学順さんの証言問題にしても、普通の市民は金学順さんの証言に触れることなく櫻井よしこや西岡力の記事に接する機会のほうが圧倒的に多いわけですから、真偽の判断を下す必要さえ感じることなく「信じてしまう」のです。
なぜ? 自分が求めている嘘を上手に提示してくれるから?

歴史修正主義者が政治闘争として挑むように、市民もまた見たいものしか見ない(歴史の真実は興味がない)ということのようにも思えます。
これに対抗するにはどうすればいいのかというのは、なかなか難しいと思っています。政治闘争に対して「いや、正しい歴史はこうだから」と主張することがどれほど有効なのかということにも、最近は疑問を感じずにはいられません。
それでも訴え続けること。それが問われているのだと思います。正しいことは正しいのだと、正義は正義なのだと訴え続けるしかありません。(だい)

[追伸1]
植村さんの著書『真実 私は「捏造記者」ではない』の感想について、2017年に書きました。当ブログにアップしていますので、こちらもご参照ください。

[追伸2]
本旨ではないので触れないでおきましたが、櫻井よしこと西岡力の「捏造」……つまり金学順さんが40円で「慰安婦」として売られたのだったとしても、それが何か問題でしょうか? ふたりの主張は金学順さんは借金で売られたのだから売春婦であって、国に責任はないという主張です。
借金で縛られる……それこそが債務奴隷の典型であり、性奴隷制度そのものです。そして売ったのが継父であったとしても、第一義的に責任を負わなければならないのは、そういう女性たちを戦地・占領地に連れて行き慰安所にいれ性暴力にさらした日本軍・日本政府にあります。料金の決定からコンドームの配布に至るまで、慰安所の運営・監督は日本軍が行いました。責任を免れ得るものでは決してありません。
櫻井・西岡の「捏造」が仮にそのまま本当のことだったとしても、日本の加害性を明らかにするばかりであり、日本を免罪する理由にはなりません。

(引用終わり)