2017年8月21日月曜日

岡山での講演会感想

8月4日にスタートした植村さんの「全国講演ツアー2017夏」は、8月19日広島、20日岡山の講演会ですべての日程を終了しました。
会場に足を運んでいただき、熱心に耳を傾けてくださった各地のたくさんの方々、ありがとうございました。会場での拍手、質問、激励の声、そしてアンケートに書き込まれたさまざまな思いのすべてに、植村さんを支援する輪の広がりを実感します。そして、植村さんはことしの夏もまた、大きな勇気と力をみなさまからいただきました。ありがとうございました。(植村裁判を支える会事務局)

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8月20日に岡山市の岡山県立図書館(2階デジタル情報センター)で行った講演会「言論萎縮をぶっとばせ――バッシングからみえてきたこと」の会場アンケートを、超速便でご紹介します。お名前、性別、年齢は略します。


▼お人柄が非常に誠実な方だと思います。支援の輪が広がり、力強く思われたことでしょう。今の社会、いつ私や私の知人にもネット被害に合うかもしれません。ねばり強い対処の仕方を教えて頂き、ヒントをいただきました。正しいことはきちんと伝えていかなければと強く思いました。

▼貴重なお話しをありがとうございました! 私も「慰安婦はなかったんだ」と思うところでした、「朝日新聞だから間違っている」みたいな。そうではない。「慰安婦はいた」は事実ですし(元日本兵が証言している)、皇軍は侵略行為をしてしまった、そのことは忘れてはいけないと思う。

▼とてもよい講演会で、参加してよかったです。聞き取りやすくて、勉強になりました。

▼今日はお疲れさまでした。他から聞いていた話とは違い、真実のお話が聞けてとても勉強になりました。ありがとうございました。

▼「偏見や憎悪をかき立てられることがないように」。 まさに、それをきちんと、どの年代層にも定着させていきたいですね。 ひとつ気になるのは、韓国の若者たちに対し、それに近い働きかけや教育が行われていることはないのか?ということです。 また教えていただけたら、と思います。

▼権力に媚びたり、すり寄ったりする報道関係者も多い中で、脅迫や圧力に屈しない植村さんの反骨精神や、ジャーナリストとして真実を追求する使命感の強さには、ただただ敬服するばかりです。「売国奴」「国賊」などという言葉で、植村さんだけでなく、ご家族までバッシングしていた人々の行いが、全く理解できません。歴史の汚点ときちんと向き合い、反省すること、自国に対して批判すべきところはきちにと批判することこそが、真の愛国者がすべきことであり(ドイツ人の、ナチスやヒトラーに対する態度がいい例です)過去の過ちをなかったことにする、認めない、というのは単なる幼稚な自己愛、自己保身にしかすぎないと思います。共謀罪が施行され、テレビでも政権批判の部分はカットされ(←ネット情報)、言論委縮のムードがますます強くなっていますが、そのような状況で自分に何ができるのか…。せめて、メディア・リテラシーをしっかりと身に付け、情報をうのみにせず(操作されている可能性があるので)、常に自分の頭で物事を考え、疑問を持ち続ける姿勢を失わないでいきたいと思います。<写真はお名前部分を加工しました>


▼2015年の日韓合意について、何故あれだけ韓国の人たちが反発するのかよくわからなかったのですが、植村さんのお話を聞いてよくわかるようになりました。中国や韓国の問題というのは、近くの国ですが、あまりよくわからないことが多いので、私ももっと勉強してみたいと思いました。それと卑劣なバッシングが今でも続いていると思いますが、是非絶対負けないで下さい。多くの方たちが、植村さんを応援しています。

▼五十数年にわたって、欠かさず朝日新聞を購読していますが、最近、自主規制というか、委縮している感じを受けます(一時ほどではありませんが)。健全なジャーナリズムとしての「精確さ」は絶対必要ですが、私が朝日新聞に期待するのは「時代に先駆ける先進性」です(むずかしいでしょうが)。屈しない。闘い続ける植村さんを、心から尊敬し、応援します。ともにがんばりましょう!!

▼植村隆さんへ。つらい話を、話していただいて、ありがとうございます。 記事とは関係ない娘さんのことはつらいです。ともに生きていくために、正しい情報を手にして、アジアの人とつながっていきます。毎日を誠実に生き、自分さえよかったらいいという生き方をしない。これをしていると孤立するとアドラー心理学の本にありました。誠意をもって生きていく。

▼過去を正しく学び、認識し、慰安婦の方々に心からの謝罪をすることでしか、アジアの中での未来はない。平和と民主主義を守るために、いつでも力(微力 汗)が出せるようにアンテナを張り続けていこうと思います。今、青木理さんの「日本会議の正体」を読んでいます。 植村さん、応援しています! 今日は、よいお話しが聴けて、心が平穏です♡ ありがとうございました。

▼偏見や憎悪からくる人権侵害のこわさがすごく伝わってきました。それに負けないきぜんとした態度が大事であること、その姿勢(熱い思い)が植村さんから感じられました。ありがとうございました。

▼植村バッシングの(他のいろいろな所への)根っこは「歴史をねじまげようとする考えの人々」なのですね。そのことがよくわかりました。安倍総理の考えはやはり危険だとあらためて認識しました。歴史の事実を日本の若者にきちんと伝えることが大切。意識してそのことにとりくみたいと思います。

▼今、私は外国人に日本語を教えるボランティアをしています。アジアの国々と関係なしには日本は生きていけないのに~。 安倍政権は本当に日本をわるくしてしまった。

2017年8月17日木曜日

人吉での講演会感想

8月4日にスタートした植村さんの全国講演ツアー。前半は、福井、金沢、富山、長崎、福岡、熊本、人吉の6県7市を駆け巡りました。9日間で計8回の講演とブックトークの集い! 超過密スケジュールでしたが、どの会場も植村さんの訴えに熱心に耳を傾ける人たちでいっぱいでした。植村さんはいったん札幌に戻り、19、20日に広島、岡山市で行う講演で夏のツアーをしめくくる予定です。

8月12日に熊本県人吉市の人吉東西コミュニケーションセンターで行った講演「言論萎縮をぶっとばせ!! 今、日本民主主義が危ない」の会場アンケートを以下に紹介します。

▽今の日本の民主主義が危ない状況が今日のおはなしでもよく分かりました。全部つながっているのですね。安倍政権により、日本は本当に危ない方向に行っていると思います。私たちの力でこれを是非覆していきたいと思います。(70代女性)
▽大変良い講演でした。李哲の友人として救援運動をしてきましたが、40数年たってもまだ解決していません。一つのデッチ上げが人の一生をかけた闘いになるんです。私も最後まで彼と行動を共にしたいと思っています。(60代男性)
▽直接、ご本人さんから話が聞けて良かった。やっぱり迫力が違います。やさしい笑顔ながら力強さが伝わりました。(80代男性)
▽真実に忠実に向きあうジャーナリストの魂に敬服しました。情熱的で精力的な話に共感を覚えました。事の本質をしっかりと見極めることの大切さを学びました。今後の活動を支援したいと思います。大変良い企画でした。(60代男性)
▽言論弾圧の実態がリアルに伝わってきました。購入した3冊の本をまず読了し行動に移したい。(80代男性)
▽私立灘中に圧力の記事を今朝新聞で読み、今の森友や加計問題と同質のものを感じた。日本会議系でしょうか? 校長はよくぞ同人誌に書かれたと思う。社会で、もっともっと真実とは何か、歴史認識(事実をもとに)、教育の中で明らかにし、論議をどんどんしていくことが必要だと思う。あった事をなかったことにはできない。 (女性)
▽とてもよく分かりました。といっても自分の勉強不足でもっと勉強しなければと思います。マスコミについては植村さんの言われたとおり、本当の声が届いていない、出されていないと思います。少々イライラしているところです。小さな声でも大事にされる、そういう世の中になってほしいと思います。(70代女性)
▽戦争はしてはいけないですね。子ども、女性が最も悲惨な被害を受けます。言論の自由、表現の自由は人としての当然の権利でしょうが、なんでも言いたいことを言っていいのか~と考えさせられます。娘さんは頑張られました。立派でしたね。活字、映像などから、いろいろな情報を受けます。日常、いつも批判的に対応することは難しいです。考えさせられました。ありがとうございました(女性)
▽ジャーナリズムの右傾化には目に余るものがあることに怒りを感じていますが、その本質とねらいが明確に分かりました。こうした傾向に抗して闘うことの必要性を強く感じます。(70代男性)
▽「言論萎縮」を許してはならない!似たようなことがわが町でも起きている。「正義」は必ず勝たねばならない。民主主義は闘わないと勝ち取れないことを学んだ。(60代男性)
▽よくわかりました。ただ高齢者の私には社会にスピードが早すぎます。(80代男性)
▽白いものを白、黒いものを黒といえない世の中になってきているような。戦後、民主主義になったのに最近また右寄りになってきて恐怖心がわいてきている。慰安婦問題に関しても、なぜこんなに「臭いものに蓋」を閉めるように認めないのか? 事実を新しい世代に伝えないのか? 今の政権に不満です。(女性)
▽ジャーナリズムについてよく理解できました。日本の民主主義をいい方向にもっていけるように望みます。(50代男性)
▽毎日、新聞、テレビを見るたびに腹がたつニュースばかりです。正しい者がバカを見る世の中です。自民党政治が続く限り、子どもや孫に申し訳ない気持でいっぱいです。選挙の大事さ、大切さを強く感じるのは私だけでしょうか?言いたいことが言える世の中、正義が通用する世の中を早く作りたい。植村隆さんに感謝します。(70代男性)
▽大変意義のあるお話でした。朝日新聞阪神支局襲撃事件も解決していない現実を思い出しました。(70代男性)
▽植村さんを孤立させてはならない、と弁護士のみなさん、市民有志のみなさんが立ち上がったことに「民主主義は死んでいない」と思う。歴史の事実を書き換えようとする勢力に私たちは負けない。植村さんが負けない人で嬉しいです。(女性)
▽植村先生、生の声が聴けて感謝します。あらためて民主主義を考えさせられました。ありがとうございました。(60代男性)


人吉市では日刊「人吉新聞」ががんばっている。植村講演会は予告記事が掲載された(左)。人口3万3000の同市はいまも昭和の雰囲気を残していて、講演会のあとの交流会場はその名も「昭和」という酒場だった。「打撃の神様」川上哲治さんの出身地でも有名。



2017年8月13日日曜日

9月からの裁判日程

9~10月の裁判日程は次の通りです。
■札幌訴訟第9回口頭弁論=9月8日(金)午後3時半、札幌地裁
 報告集会=午後5時、自治労会館、講演・田中宏氏
■東京訴訟第10回口頭弁論=10月11日(水)、午後3時、東京地裁
  報告集会=講演・揚井人文氏(弁護士、日本報道検証機構代表理事)
■札幌訴訟第10回口頭弁論=10月13日(金)、午後3時半、札幌地裁
 報告集会=午後5時、高教組会館、講演・高嶋伸欣氏


2017年8月10日木曜日

灘中攻撃事件に思う

これは北星・植村バッシングの再来だ!

神戸の灘中学校が右翼勢力から有形無形の圧力と攻撃を受けていたことが、ネット上で話題になっている。同校が使っている歴史教科書が反日極左だ、と右翼が騒いだのである。8月2日にジャーナリストの津田大介さんがツイッターで紹介し、すぐに拡散が始まった。神戸新聞や毎日新聞も後追いする形で報じた。 
津田さんは、「灘校の校長が歴史教科書採用を巡って同校に有形無形の『圧力』がかかっていることを具体的に開示、かつ極めて冷静に分析し、いまこの国で起きている『歴史情報戦』がどのような段階にあるのかがわかる声明文。全国民必読の文章では。立派な校長である」とツイッターで書いた。

津田さんが紹介したのは、灘中学高校の和田孫博校長の文章である。その文章は、「謂れのない圧力の中で ~ある教科書の選定について」と題したA4判4ページにわたる長文である。声明文ではなく、研究者グループの定期刊行物に発表した所感というべき文章で、インターネットにもリンクがあり、公開されている(こちら)。
和田校長が克明に書いている経過は、要約するとこうである。
学校への圧力は、ある会合で地元の県会議員が校長を詰問したことから始まった。同校出身の自民党衆院議員による電話質問が続いた。そして、多数の抗議ハガキ投書が届くようになった。連動するように、産経新聞やチャンネル桜、月刊誌WiLLが、抗議行動を煽るようなキャンペーンを繰り広げた。
一部メディアが報じ、それに煽られた人たちが脅迫めいた圧力と攻撃を加える風景は、北星学園と植村隆さんへのバッシングの再現そのものである。リベラルを標的にして萎縮効果を狙うという朝日新聞叩きにも構図がよく似ている。

和田校長は、「この葉書は未だに散発的に届いており、総数二百枚にも上る。届く度に同じ仮面をかぶった人たちが群れる姿が脳裏に浮かび、うすら寒さを覚えた」と書いている。そして、灘中への攻撃は正体不明の人間や組織ではなく、公然と名乗る人物の呼びかけによって行われていることも明らかにしている。

その人物は、自称近現代史研究家の水間政憲氏だという。水間氏は「WiLL」2015年6月号に「エリート校麻生・慶應・灘が採用したトンデモ歴史教科書」という20ページにおよぶ記事を掲載し、CSテレビ「文化チャンネル桜」でも同様の内容を話した。さらに「水間条項」という自身のブログで、具体的な文例を複数示して抗議のハガキを送るように呼びかけ、送り先(採択校)の学校名、住所、理事長名、校長名、電話番号を列挙した。

和田校長はこれらの経過を振り返り、「検定教科書の選定に対する謂れのない投書に関しては経緯がほぼ解明できたので、後は無視するのが一番だと思っているが、事の発端になる自民党の県会議員と衆議院議員からの問い合わせが気になる」とし、「多様性を否定し一つの考え方しか許されないような閉塞感の強い社会」の到来に警鐘を鳴らしている。和田校長は灘中、灘高から京大に進み、卒業後は灘中高で英語を教えてきた。この文章から、教育者としての強い信念と気骨が伝わってくる。実名で公表するその勇気。東の前川さん(前文科次官)、そして西の和田さん。拍手を送ります。

ところで、右翼が騒ぐこの教科書とは、どういうものか。
「学び舎」という出版社(東京・立川市)が発行している「ともに学ぶ人間の歴史――中学社会/歴的分野」である。A4、オールカラー、324ページの大型教科書である。重量は865グラム、ズシリと重い。文部科学省公認の検定教科書である。灘中のほかに麻生、慶応、筑波大付属駒場、学芸大附属など有名私立、国立中学校など約40校で採用されているという。執筆陣は「子どもと学ぶ歴史教科書の会」の会員32人で、中学・高校の教員とOBが多い。2015年秋に初めて検定を通り、翌年度から採択が始まった。

では、この教科書で慰安婦はどう扱われているのか。
詳細を知りたくて、アマゾンから現物を取り寄せてみた。すると意外なことに、「慰安婦」という言葉は目次にも索引にもなく、本文にわずかに1カ所あるだけなのである。それも、地の文ではなく、1993年の河野官房長官談話の一部要約(281ページ)に「調査の結果、長期に、広い地域に、慰安所が設けられ、数多くの慰安婦が存在したことが認められる。朝鮮半島からの慰安婦の募集、移送などは、総じて本人たちの意思に反して行われた」とあるのみ。しかも、この記述には※印の注記(「現在、日本政府は慰安婦問題について、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような資料は発見されていない、との見解を表明している」)が付けられている。注記の不自然なレイアウトからすると、検定作業の段階で付記の追加が求められたことがうかがわれる。

いったい右翼が標的としなければならない記述はどこにあるのだろうか。
ページを何度めくってみてもわからない。何か別の理由があるのかもしれない。そういえば、和田校長は、こんなことも書いている。
「産経新聞がこのことを記事にしたのには、思想的な背景以外に別の理由もありそうだ。フジサンケイグループの子会社の「育鵬社」が『新しい日本の歴史』という教科書を出している。新規参入の「学び舎」の教科書が予想以上に多くの学校で、しかも「最難関校と呼ばれる」(産経新聞の表現)私学や国立大付属の中学校で採択されたことに、親会社として危機感を持ったのかもしれない」。
なあんだ、古手の出版社の親会社が新参のライバル出版社をいじめているということなのか。せこい話ではないか。

さて、これからは余談である。この教科書にざっと目を通してたいへん驚いたことがある。有名進学受験校が競って採用するからには、受験用知識とノウハウがてんこ盛りの教科書かと思いきや、そうではなく、従来の教科書とはまったくちがったコンセプトで作られているのである。太古から現代までを連続した通史として書くのではなく、歴史上の大きなできごとを時代順に見開き2ページにおさめる構成で、写真や囲み記事もふんだんに使われており、ビジュアルな歴史図鑑といったほうがいい。目次から、各記事の見出しをいくつかピックアップしてみよう。
▽家族と別れる防人の歌……奈良時代の庶民▽岩に刻んだ勝利……土一揆と戦乱▽裏長屋に住む棒手振……江戸の町の暮らし▽バスチーユを攻撃せよ……フランス革命▽政治が売り切れた……江戸幕府の滅亡▽民衆がつくった憲法……五日市憲法▽土地を奪われた朝鮮の農民……韓国併合▽パンを、平和を、土地を……ロシア革命と平和▽独立マンセー……民族運動の高まり▽始まりは女一揆……米騒動と民衆運動▽鉄道爆破から始まった……日本の中国侵略▽餓死、玉砕、特攻隊……戦局の転換▽荒れ狂う鉄の暴風……沖縄戦▽にんげんをかえせ……原爆投下▽もう戦争はしない……日本国憲法▽ゴジラの怒り、サダコの願い……原水禁運動▽国会を包囲する人波……日米安保条約の改定▽問い直される戦後……日中国交正常化と東アジア▽平和という言葉……人間らしく生きる

ここで際立つのは、歴史的な事実を無味乾燥に羅列するのではなく、その時代を生きた民衆、市民、弱者に重きを置く視線と平和主義を貫く姿勢である。いずれも、老境のわが記憶の中ではすっかり風化してしまった史実ではあるが、右翼にとっては子どもたちに知ってほしくない史実にちがいない、だから執拗に騒ぐのだろう。それにしてもこの教科書のどこが反日極左なのか。騒いでいる人たちの読解力の低さに呆れるしかない。そして、灘中への圧力と攻撃は、北星・植村バッシング、朝日叩きと同じ根っこでつながっている、と思う。
(文・北風三太郎)

以下は和田孫博校長の文章の全文引用です
書式は変えてます
本年とあるのは2016年、昨年は2015年です
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謂れのない圧力の中で
―ある教科書の選定について
和田孫博

本校では、本年四月より使用する中学校の歴史教科書に新規参入の「学び舎」による『ともに学ぶ人間の歴史』を採択した。本校での教科書の採択は、検定教科書の中から担当教科の教員たちが相談して候補を絞り、最終的には校長を責任者とする採択委員会で決定するが、今回の歴史教科書も同じ手続きを踏んで採択を決めており、教育委員会には採択理由として「本校の教育に適している」と付記して届けている。
ところが、昨年末にある会合で、自民党の一県会議員から「なぜあの教科書を採用したのか」と詰問された。こちらとしては寝耳に水の抗議でまともに取り合わなかったのだが、年が明けて、本校出身の自民党衆議院議員から電話がかかり、「政府筋からの問い合わせなのだが」と断った上で同様の質問を投げかけてきた。今回は少し心の準備ができていたので、「検定教科書の中から選択しているのになぜ文句が出るのか分かりません。もし教科書に問題があるとすれば文科省にお話し下さい」と答えた。「確かにそうですな」でその場は収まった。
しかし、二月の中頃から、今度は匿名の葉書が次々と届きだした。そのほとんどが南京陥落後の難民区の市民が日本軍を歓迎したり日本軍から医療や食料を受けたりしている写真葉書で、当時の『朝日画報』や『支那事変画報』などから転用した写真を使い、「プロデュース・水間政憲」とある。それに「何処の国の教科書か」とか「共産党の宣伝か」とか、ひどいのはOBを名乗って「こんな母校には一切寄付しない」などの添え書きがある。この写真葉書が約五十枚届いた。それが収まりかけたころ、今度は差出人の住所氏名は書かれているものの文面が全く同一の、おそらくある機関が印刷して(表書きの宛先まで印刷してある)、賛同者に配布して送らせたと思える葉書が全国各地から届きだした。文面を要約すると、

「学び舎」の歴史教科書は「反日極左」の教科書であり、将来の日本を担っていく若者を養成するエリート校がなぜ採択したのか?こんな教科書で学んだ生徒が将来日本の指導層になるのを黙って見過ごせない。即刻採用を中止せよ。

というものである。この葉書は未だに散発的に届いており、総数二百枚にも上る。届く度に同じ仮面をかぶった人たちが群れる姿が脳裏に浮かび、うすら寒さを覚えた。
担当教員たちの話では、この教科書を編集したのは現役の教員やOBで、既存の教科書が高校受験を意識して要約に走りすぎたり重要語句を強調して覚えやすくしたりしているのに対し、歴史の基本である読んで考えることに主眼を置いた教科書、写真や絵画や地図などを見ることで疑問や親しみが持てる教科書を作ろうと新規参入したとのことであった。これからの教育のキーワードともなっている「アクティブ・ラーニング」は、学習者が主体的に問題を発見し、思考し、他の学習者と協働してより深い学習に達することを目指すものであるが、そういう意味ではこの教科書はまさにアクティブ・ラーニングに向いていると言えよう。逆に高校入試に向けた受験勉強には向いていないので、採択校のほとんどが、私立や国立の中高一貫校や大学附属の中学校であった。それもあって、先ほどの葉書のように「エリート校が採択」という思い込みを持たれたのかもしれない。
三月十九日の産経新聞の一面で「慰安婦記述三十校超採択̶̶「学び舎」教科書灘中など理由非公表」という見出しの記事が載った。さすがに大新聞の記事であるから、「共産党の教科書」とか「反日極左」というような表現は使われていないが、この教科書が申請当初は慰安婦の強制連行を強くにじませた内容だったが検定で不合格となり、大幅に修正し再申請して合格したことが紹介され、本年度採用校として本校を含め七校が名指しになっていた。本校教頭は電話取材に対し、「検定を通っている教科書であり、貴社に採択理由をお答えする筋合いはない」と返事をしたのだが、それを「理由非公表」と記事にされたわけである。尤も、産経新聞がこのことを記事にしたのには、思想的な背景以外に別の理由もありそうだ。フジサンケイグループの子会社の「育鵬社」が『新しい日本の歴史』という教科書を出している。新規参入の「学び舎」の教科書が予想以上に多くの学校で、しかも「最難関校と呼ばれる」(産経新聞の表現)私学や国立大付属の中学校で採択されたことに、親会社として危機感を持ったのかもしれない。
しかしこれが口火となって、月刊誌『Will』の六月号に、近現代史研究家を名乗る水間政憲氏(先ほどの南京陥落写真葉書のプロデューサー)が、「エリート校―麻布・慶應・灘が採用したトンデモ歴史教科書」という二十頁にも及ぶ大論文を掲載した。また、水間政憲氏がCSテレビの「日本文化チャンネル桜」に登場し、同様の内容を講義したという情報も入ってきた。そこで、この水間政憲氏のサイトを覗いてみた。すると「水間条項」というブログページがあって、記事一覧リストに「緊急拡散希望《麻布・慶應・灘の中学生が反日極左の歴史教科書の餌食にされる;南京歴史戦ポストカードで対抗しましょう》」という項目があり、そこを開いてみると次のような呼びかけが載っていた。

私学の歴史教科書の採択は、少数の歴史担当者が「恣意的」に採択しているのであり、OBが「今後の寄付金に応じない」とか「いつから社会主義の学校になったのか」などの抗議によって、後輩の健全な教育を護れるのであり、一斉に声を挙げるべきなのです。
理事長や校長、そして「地歴公民科主任殿」宛に「OB」が抗議をすると有効です。

そして抗議の文例として「インターネットで知ったのですが、OBとして情けなくなりました」とか「将来性ある若者に反日教育をする目的はなんですか。共産党系教科書を採用しているかぎり、OBとして募金に一切応じないようにします」が挙げられ、その後に採択校の学校名、学校住所、理事長名、校長名、電話番号が列挙されている。本校の場合はご丁寧に「講道館柔道を創立した柔道の神様嘉納治五郎が、文武両道に長けたエリート養成のため創設した学校ですが、中韓に媚びることがエリート養成になるような学校に変質したようです。嘉納治五郎が泣いていますね……」という文例が付記されている。あらためて本校に送られてきた絵葉書の文面を見ると、そのほとんどがこれらの文例そのままか少しアレンジしているだけであった。どうやらここが発信源のようだ。
この水間氏はブログの中で「明るい日本を実現するプロジェクト」なるものを展開しているが、今回のもそのプロジェクトの一環であるようだ。ブログ中に「1000名(日本みつばち隊)の同志に呼び掛け一気呵成に、『明るい日本を実現するプロジェクト』を推進する」とあり、いろいろな草の根運動を発案し、全国にいる同志に行動を起こすよう呼びかけていると思われる。また氏は、安倍政権の後ろ盾組織として最近よく話題に出てくる日本会議関係の研修などでしばしば講師を務めているし、東日本大震災の折には日本会議からの依頼を受けて民主党批判をブログ上で拡散したこともあるようだが、日本会議の活動は「草の根運動」が基本にあると言われており(菅野完著『日本会議の研究』扶桑社)、上述の「日本みつばち隊」もこの草の根運動員の一部なのかもしれない。
このように、検定教科書の選定に対する謂れのない投書に関しては経緯がほぼ解明できたので、後は無視するのが一番だと思っているが、事の発端になる自民党の県会議員や衆議院議員からの問い合わせが気になる。現自民党政権が日本会議を後ろ盾としているとすれば、そちらを通しての圧力と考えられるからだ。ちなみに、県の私学教育課や教育委員会義務教育課、さらには文科省の知り合いに相談したところ、「検定教科書の中から選定委員会で決められているのですから何の問題もありません」とのことであった。そうするとやはり、行政ではなく政治的圧力だと感じざるを得ない。
そんなこんなで心を煩わせていた頃、歴史家の保坂正康氏の『昭和史のかたち』(岩波新書)を読んだ。その第二章は「昭和史と正方形̶̶日本型ファシズムの原型̶̶」というタイトルで、要約すると次のようなことである。

ファシズムの権力構造はこの正方形の枠内に、国民をなんとしても閉じこめてここから出さないように試みる。そして国家は四つの各辺に、「情報の一元化」「教育の国家主義化」「弾圧立法の制定と拡大解釈」「官民挙げての暴力」を置いて固めていく。そうすると国民は檻に入ったような状態になる。国家は四辺をさらに小さくして、その正方形の面積をより狭くしていこうと試みるのである。

保坂氏は、満州事変以降の帝国憲法下の日本では、「陸軍省新聞課による情報の一元化と報道統制」「国定教科書のファシズム化と教授法の強制」「治安維持法の制定と特高警察による監視」「血盟団や五・一五事件など」がその四辺に当たるという。
では、現在に当てはめるとどうなるのだろうか。第一辺については、政府による新聞やテレビ放送への圧力が顕在的な問題となっている。第二辺については、政治主導の教育改革が強引に進められている中、今回のように学校教育に対して有形無形の圧力がかかっている。第三辺については、安保法制に関する憲法の拡大解釈が行われるとともに緊急事態法という治安維持法にも似た法律が取り沙汰されている。第四辺に関しては流石に官民挙げてとまではいかないだろうが、ヘイトスピーチを振りかざす民間団体が幅を利かせている。そして日本会議との関係が深い水間氏のブログからはこれらの団体との近さがにじみ出ている。もちろん現憲法下において戦前のような軍国主義やファシズムが復活するとは考えられないが、多様性を否定し一つの考え方しか許されないような閉塞感の強い社会という意味での「正方形」は間もなく完成する、いやひょっとすると既に完成しているのかもしれない。

2017年8月1日火曜日

8月の植村さん講演

今年の夏も植村さんは大忙しです。各地の市民運動グループの招きに応えて北陸3県と九州3県をかけまわり、「日韓」「言論」「裁判」を熱く語ります。これまでに決まっている日程は次の通りです。各地のお知り合いにお知らせください。

■4日(金)13:30~16:30
会場=福井市の福井教育センター
講演=日韓間の「慰安婦」問題の現在――歴史修正主義と闘うジャーナリストの報告
主催=福井県AALA、新日本婦人の会福井県本部(0776-50-2753
参加費=500円

■5日(土)1:00~17:00
会場=金沢市の石川県教育会館2階第1会議室
集会=第17回「大東亜聖戦大碑」の撤去を求める集会 
講演=日韓間の「慰安婦」問題の現在――歴史修正主義と闘うジャーナリストの報告 
主催=「大東亜聖戦大碑」の撤去を求め、戦争の美化を許さない会
参加費=500円

■6日(日)13:30~16:00、
会場=富山市のサンフォルテ307
集会=連続講座「韓国併合100年」@富山第8期第2回
講演=韓国に暮らして、「日韓合意」後を語る――日本軍「慰安婦」問題は現在(いま)
主催=コリア・プロジェクト@富山
参加費=1000円

■7日(月)18:30~20:30
会場=長崎市の長崎県教育文化会館401
講演=歴史修正主義と闘う――朝日バッシングの背後にあるもの
主催=ピースウィーク2017実行委員会(FAX: 095-822-4098
参加費=500円(大学生以下無料)
                                                          
■8日(火)1:00~16:00
会場=長崎市の長崎県教育文化会館2階
講演=言論萎縮をぶっ飛ばせ!――歴史修正主義と闘うジャーナリストの報告
主催=平和を守る長﨑女たちの会実行委員会                                                                    

■9日(水)19:00~
会場=福岡市のカフェ・ギャラリー・キューブリック
お話し=ブックトーク「真実 私は『捏造記者』ではない」
聞き手=RKB毎日放送・西嶋真司さん
参加費=1500円(ドリンク付、要予約)    
                 
■11日(金)13:30~16:30 
会場=熊本市の県民交流会館パレア会議室1
集会=報道と表現の自由を考える講演会「言論萎縮をぶっ飛ばせ!!」
主催=植村隆講演会実行委員会 
参加費=500

■12日(土)14:00~16:00 
会場=人吉市の人吉市東西コミセン
講演=言論萎縮をぶっとばせ!!――今、日本の民主主義が危ない!
参加費=300円

■19日(土)13301600
会場=広島市の広島弁護士会館(2階大会議室)
講演=言論萎縮をぶっとばせ――バッシングからみえてきたこと
主催=日本軍「慰安婦」問題解決ひろしまネットワーク、日本ジャーナリスト会議広島支部、広島マスコミ九条の会
問い合わせ:090-3632-1410(土井)
参加費=500円(学生無料)

■20日(日)13301530
会場=岡山市の県立図書館2階デジタル情報シアター
講演=言論萎縮をぶっとばせ――バッシングからみえてきたこと
主催=植村隆さん講演会実行委員会
参加費=1000円