2019年4月19日金曜日

映画「主戦場」公開

慰安婦問題をめぐる日韓米の論争を取り上げた映画「主戦場」が4月20日から、東京ほかで公開される。試写を見たジャーナリスト文聖姫さんに短評をお願いした。 

日本、韓国、米国の論客がスクリーン上で激論

映画製作のきっかけは植村バッシング

真摯に公平に耳を傾けるミキ・デザキ監督

4月20日(土)より東京のシアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開される『主戦場』は、元日本軍「慰安婦」問題をめぐって、左右の論客がスクリーン上で議論を闘わせる映画だ。櫻井よしこ氏や杉田水脈氏、ケント・ギルバート氏、テキサス親父ことトニー・マラーノ氏、吉見義明氏、渡辺美奈氏、林博史氏、朴裕河氏など20数名の人々が、それぞれの立場から「慰安婦」問題について語る。

監督の日系アメリカ人、ミキ・デザキ氏が映画を作ろうと思ったきっかけが、実は植村隆さんだった。植村さんが「朝日新聞」大阪本社版に1991年に書いた2本の元「慰安婦」関連記事をめぐって誹謗中傷されていることを知ったデザキ氏は、「慰安婦」問題がなぜ日韓の間で論争になっているのかを理解したいと考えるようになる。そのために彼が取った方法が、「慰安婦」論争の中心人物たちを訪ね歩き、その人たちの証言を聞くことだった。もちろん植村さんも登場する。

映画では、左右の証言が公平に紹介される。デザキ氏にとって、「フェア」であることが何よりも大切だったからだ。左右いずれの立場の人々に対しても、公平に、そして決して偏見を持たずに、証言に耳を傾けるデザキ氏の真摯な態度が見て取れる。しかし、映画が進むにつれて、どちらの論理がより説得力があるのか、観客がおのずとわかるようになっている。

ところで、左右どちらの論理に説得力があるのか。それはネタバレになるので、ここでは語ることができないが、ぜひ映画を見てほしい。「自分で映画を体験して、自分なりの結論を導き出してほしい」というのがデザキ氏の願いでもある。映画のタイトルは、歴史修正主義者が「米国こそが歴史戦の主戦場だ」と言っているところから付けた。

『週刊金曜日』4月19日号では、筆者がミキ・デザキ監督にインタビューした記事が掲載されている。こちらの方もぜひ読んでほしい。
文聖姫・ジャーナリスト(『週刊金曜日』在籍)
 

■映画「主戦場」予告編 こちら
櫻井よしこ、杉田水脈氏のスクリーン上のコメントも紹介されている。櫻井氏は「日本軍がこんなことをするはずがないということは、もうすぐに私は直感しました」「It’s very complicated(とても複雑なので…、の字幕)と語り、杉田氏は「日本人はほとんどこんな問題はウソだろうと、あまり信じている人はもういないと思うんですよね、そんなことないよねって、強制連行なんてやりっこないよねって」と、それぞれ笑顔で語っている。

■映画「主戦場」公式サイト こちら
登場人物、監督経歴、全国上映日程のほか、荻上チキ、想田和弘、武田砂鉄、鈴木邦男氏ら9氏のコメントが掲載されている。

マガジン9の映画評 こちら
田端薫氏が短評を書いている。ネタバレに注意。

■札幌での公開予定
製作元によると未定だが交渉中という。


2019年4月16日火曜日

高裁署名1万突破!

 札幌高裁あて 

公正な判決を求める署名に
賛同の声、1万3000筆


札幌高裁あての署名賛同数は、第1次締め切りの4月15日までに1万3000筆を超えました。このうち、北海道平和運動フォーラムの事務局が取りまとめた分(写真上)は、合計で12,012筆あります。大きな段ボール箱からあふれるほどの数です。
ことし1月に開始した署名は、同フォーラムの呼びかけで北海道の各市町村に広がりました。この数は予想をはるかに超えるものです。この数字のほかに、植村裁判を支える市民の会事務局が集会などでお願いした署名は現在集計中ですが、1000通を超える見通しです。合わせて1万3000通突破は確実です。
署名活動はこれからも続けます。みなさまから寄せられた声は、5月中に一括して札幌高裁に届ける予定です。

植村さんの名誉回復のたたかいへの支持と支援の広がりを実感させるとともに、植村さんと弁護団、支援者に大きな勇気と力を与えてくれる署名となりました。
署名に賛同していただいたみなさま、署名活動にお力を尽くしていただいたみなさま、ありがとうございました。心からお礼を申し上げます。
2019年4月16日
植村裁判を支える市民の会

※北海道平和運動フォーラムは、道内の官公労、民間・地区労組が中心となって構成する団体です。「戦争をさせない北海道委員会」や「さようなら原発、1000万人アクション北海道」と連携し、平和・護憲・脱原発・人権などをテーマに活動をしています。
こちら

署名文を再掲します。
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札幌高等裁判所御中

植村隆名誉毀損裁判控訴審に対する
公正な判決を求める署名

ジャーナリストを自称する櫻井よしこ氏は、元日本軍「慰安婦」について植村隆さんが執筆した朝日新聞記事を「捏造」と明確な裏付けもなく非難し続けました。
櫻井氏の主張は、日本の過去の過ちを否定するための標的探しにうごめく日本社会の劣情を呼び覚まし、植村さんは「捏造記者」のレッテルを張られ、ご家族ともども社会的、経済的に甚大な被害を被りました。
植村さんが櫻井氏らを相手に起こした名誉棄損訴訟(以下植村裁判)で、一審札幌地裁は2018119日、櫻井氏の不法行為を免責する判決を下しました。
櫻井氏の言説は、資料の誤読や勝手な思い込みに基づく杜撰なものであった上に、植村さんを含む当事者への直接取材を怠るというジャーナリストにあるまじき致命的な欠陥を持っていましたが、判決はその「真実相当性(記事は捏造であると信じてもやむを得ない理由があった)」を認定する不当なものでした。
植村裁判を引き継ぐ控訴審・札幌高裁におかれては、一審判決が認定した「真実相当性」がいま一度精緻に吟味され、後世の評価に耐えうる判決が下されることを求めます。
               

植村裁判を支える市民の会


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署名はこれからもできます。方法はこちら

近づく札幌控訴審

札幌訴訟の第2ステージ、控訴審がいよいよ4月25日に始まります。
植村弁護団は、櫻井氏の名誉毀損を免責した一審判決を破棄するように高裁に求め、訴えていきます。高裁での主張の骨子は、
①櫻井氏の「真実相当性」を認めた一審判断は判例や法理論に沿っているか
②櫻井氏が根拠とした証拠資料は合理的で正しいものか
③櫻井氏の取材、調査や確認、裏づけは十分なものだったのか
④櫻井氏が慰安婦を巡る表現を大きく変遷させたのはなぜか
⑤一審判決にある「慰安婦」の定義は正しい歴史認識や人権感覚に欠ける
というものです。
控訴審開始を前に、控訴理由書と同補充書をもとに、あらためて判決の問題点を整理しておきます。

ここがおかしい!地裁判決の問題点

真実相当性■従来の判例を逸脱する判決
名誉毀損免責される要件である「真実相当性」これまでの判例はかなり厳格に判断しており、相当な理由と認めるには、詳細な裏づけ取材を要するのが原則である。じっさいに最高裁判例と下級審判例を見ると、慎重な裏づけ取材がない場合には、情報に一定の信用性があっても真実相当性を否定するなど、極めて厳格に判断されている。
櫻井氏は資料を誤読・曲解し、自身が根拠とする訴状の引用などの間違いを繰り返した。「捏造」と決めつけて書くためには植村氏本人および関係者への取材が必要不可欠だが、櫻井氏は裏づけ取材はおろか取材の申込みすら行っていない。にもかかわらず、判決は櫻井氏の「真実相当性」を肯定した。これは従来の判例理論から大きく逸脱する誤った判断であ

意見・論評■「捏造」は域を逸脱した人身攻撃だ
櫻井氏の表現が、仮に「事実の摘示」(当否の証明が可能な客観的な事実の指摘)ではなく、「意見ないし論評」(主観的な物の方の表明)であっても、「捏造」という表現は植村氏の人格を著しく傷つけ、記事に対する批判を大きく逸脱した人格非難、人格否定というべき内容である。植村氏のジャーナリスト、大学教員としての職業上の信用を失墜させ、社会生活上の基盤をも脅かし、人身攻撃にも及ぶものであり、「表現の自由」により保障される意見ないし論評としての域を逸脱している。

人身売買説■櫻井の根拠資料からも読み取れぬ
櫻井氏は、金学順氏が継父により日本軍人に人身売買された、と主張し、植村記事を「捏造」と決めつけた。しかし櫻井氏が最大の根拠とした資料(ハンギョレ新聞1991年8月15日付、金氏の91年の訴状、「月刊宝石」92年2月号の臼杵敬子論文)からは、人身売買され慰安婦とされたと読むことはできない。金学順氏本人は、人身売買ではなく、日本軍人に強制連行されて慰安婦にさせられたと供述している。日本国内にも金学順氏の供述に沿う報道が多数存在する。
櫻井氏が、金学順氏の供述は事実ではなく、継父による日本軍人への人身売買が事実であることを主張するためには、その確認が必要だ。しかし、金学順氏や挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)等への取材とその申し込みを一切しておらず、資料・文献調査を実施した形跡もない。つまり、櫻井氏は、継父による人身売買とは異なる事実が記載された資料について、合理的な注意を尽くして調査検討したということはできない。
「金学順氏をだまして慰安婦にしたのは検番の継父、すなわち血のつながりのない男親であり、検番の継父は金学順氏を慰安婦にすることにより日本軍人から金銭を得ようとしていたことをもって人身売買であると信じた」との判決の認定は誤りであり櫻井が真実と信じたことにも相当の理由はない。

櫻井の大ミス■なのに真実相当性を認めた判決!
櫻井氏は、植村記事を「捏造」と決めつけて、「金学順氏が日本政府を提訴した訴状には、十四歳のとき、継父によって四十円で売られたこと、三年後、十七歳のとき、再び継父によって北支の鉄壁鎭という所に連れて行かれて慰安婦にさせられた経緯などが書かれている」としたが、訴状に「継父により日本軍人に人身売買により慰安婦にされた」と読める記載は一切なく、完全な誤りである。
櫻井氏はこの誤りを、産経新聞、「月刊正論」、BSフジ・プライムニュース、「たかじんのそこまで言って委員会」でも繰り返している。このような初歩的な誤りは、訴状を引用する際に最低限行うべき確認を行っていないことの証左である。資料を確認するというジャーナリストとしての基本的動作を怠ったからにほかならず、櫻井氏の過失を基礎付ける重要な事実である。
ところが、判決は、櫻井氏がハンギョレ新聞と臼杵論文も資料としていたことを根拠に、訴状の援用に正確性が欠けても「人身売買されたと信じたこと」に真実相当性を欠くとはいえないとした。援用の正確性が欠けたことを、判決は「齟齬」と表現し、櫻井氏の重大な過失には目をつぶった。櫻井氏が誤りを認め続けた本人尋問を、裁判官はなぜ看過したのだろうか。

櫻井説の変遷■92年当時は「強制徴用」と認識
櫻井氏は、「週刊時事」1992年7月18日号で発表したコラムにおいて、金学順氏らが日本政府を提訴した訴訟について「東京地方裁判所には、元従軍慰安婦だったという韓国人女性らが、補償を求めて訴えを起こした。強制的に旧日本軍に徴用されたという彼女らの生々しい訴えは、人間としても同性としても、心からの同情なしには聞けないものだ」と書いている。
このコラム掲載時点で日本政府を提訴した元慰安婦は金学順氏を含めて3名で、実名による提訴は金学順氏だけだった。また、このコラムで、金学順氏が人身売買により慰安婦になったという認識を一切伝えておらず、むしろ、金学順氏を含む元慰安婦について「売春という行為を戦時下の国策のひとつにして、戦地にまで組織的に女性達を連れていった日本政府の姿勢は、言語道断、恥ずべきである」と指摘している。これらの記載は櫻井氏が金学順氏を含む元慰安婦「強制的に日本軍に徴用され」たとして提訴した、という認識を示すものである。
このように櫻井氏は、植村氏が記事を書いた翌年(1992年)には、金学順氏は「強制的に徴用され」て日本軍によって強制的に従軍慰安婦にさせられたと認識しており、継父によって人身売買されたという認識は有していない。

明らかな誤り■慰安婦を公娼制度の売春婦と認定
 判決は、慰安婦を「太平洋戦争終結前の公娼制度の下で戦地において売春に従事していた女性などの呼称のひとつ」と認定するが、この認定は日本政府の公式見解などに反しており、明らかに誤りである。
被害者の多くは公娼制度とは無関係に日本軍や軍の要請を受けた業者によって、暴力や詐欺・人身売買などの方法で徴集され、軍の管理下で慰安所で日本軍将兵に性暴力を受けた点に特徴がある。判決の認定は「河野談話」など日本政府の公式見解や国連の公式文書などに反するとともに、慰安婦の人権侵害の本質を全く無視している。

強制連行説■あり得ない櫻井の誤読
櫻井氏は、金学順氏が慰安婦として初めて名乗り出る以前に、「挺身隊の名で」との表現が、日本や韓国の報道機関などが日本軍による慰安婦の強制連行を報じる際に使用してきた常套句である、と陳述書で述べている。また、本人尋問においても、「挺身隊」という言葉を「慰安婦」を意味する言葉として使用することがあることを認めている。
櫻井氏が、「女子挺身隊の名で戦場に連行され」という植村氏の記事の記述を女子挺身勤労令に規定する「女子挺身隊」と誤読することはありえない。したがって、「植村は、何の関係もない女子挺身隊を結びつけ、女子挺身隊の名で金学順氏が日本軍によって戦場に強制連行されたものと報じたと信じる」ことに相当の理由はない。
櫻井氏は執筆にあたって、植村氏本人への取材が必要不可欠であり、なおかつ取材が可能であったにも関わらず、取材どころかその申込みさえ行っていない。このことからも、「植村が意図的に慰安婦と挺身隊、女子挺身隊とを結び付けて報じたと信じる」ことに相当の理由がないことは明らかである。

縁戚便宜説■単なる憶測を「相当」と判決が認定
判決は、植村氏の義母が遺族会の常任理事であり、植村氏の記事が報じられた4カ月後に金学順氏を含む遺族会会員が訴訟提起したことを根拠として、「事実と異なる記事を敢えて執筆した」と櫻井氏が信じてもやむを得ないとの結論を導いている。しかし、この根拠は、単なる憶測に過ぎない。「捏造」という記者としての重大な職業倫理違反を決めつけるための、客観的で信頼できる根拠と評価することはできない。
植村氏が義母や遺族会の活動を有利にするために記事を書いたのであれば、縁戚関係を利用して特権的に取材源にアクセスして報道したり、継続的に義母の活動等を有利にするための記事を書いたはずである。ところが、植村氏は金学順氏のインタビューや実名報道ができなかった。情報を入手していれば当然参加しているはずの共同記者会見にも参加できなかった。
このように植村氏の取材状況、報道状況に鑑みても、縁戚関係を利用して義母や遺族会の訴訟を有利にする記事を執筆したと評価ができないことは明らかである。
櫻井氏はこの点についても必要な取材を行わず、根拠になり得ない事実をもとに、「植村が事実と異なる記事を敢えて書いた」と信じた。「そう信じたことに相当の理由がある」と認定した判決は誤りである。

一般読者が基準■櫻井はジャーナリストなのか
 判決は植村記事について「一般読者の普通の注意と読み方を基準」として判断するが、記事内容が事実と異なると主張する櫻井氏は、一般読者ではなく慰安婦問題を精力的に発信するジャーナリストのはずだ。その櫻井氏が23年前の植村記事を「捏造記事」とした2014年に、専門的立場から記事をどう読んだのか。
 金学順氏が慰安婦になったのは1939年。女子挺身勤労令が発効する5年前である。女子挺身勤労令で慰安婦になったのではないことを櫻井氏は当然承知していただろうし、金学順氏のことが報道される以前から「女子挺身隊」という言葉が慰安婦を意味すると認識していた。植村記事の「女子挺身隊の名で戦場に連行」という表記を、女子挺身勤労令に基づく「女子挺身隊」と読み取ることはあり得ない。
 判決は、櫻井氏がジャーナリストであることを無視している。客観的に信頼できる資料や根拠に基づき、取材を尽くし、言論に責任を負うジャーナリストが、一般読者の普通の注意と読み方で足りるとすることはできない。裏付けの努力を怠り、可能で、容易なはずの取材、資料の調査検討もしない櫻井氏は、限りなく一般読者に近い「ジャーナリスト」である。

杜撰な取材■「基本のキ」をないがしろに
 判決は、「捏造記事」という表現が名誉棄損にあたると認めたが、櫻井氏が摘示した事実を「真実と信じたことに相当の理由がある」として植村氏の訴えを退けた。
 捏造とする論拠は、慰安婦だったと記者会見した金学順氏を報じた一部の韓国紙、日本政府を訴えた訴状、それに彼女との面談をもとにまとめた論文。金学順氏は強制連行された慰安婦ではなく、人身売買から売春婦となった女性という論理だ。櫻井氏が「金学順氏は継父によって人身売買された」と信じたとしている。
 しかし「日本軍人に強制連行され慰安婦にさせられた」と金学順氏は供述している。はっきりしているのは櫻井氏が、自説を裏付ける取材、資料の調査検討をしていないことだ。
 金学順氏の供述(日本軍人が連行)に沿った日本の報道は多々あるが、その内容を確かめようとしていない。植村記事を捏造というのであれば、植村本人への取材は不可欠だが、その申し入れもしていない。金学順氏から聞き取り調査した韓国挺身隊問題対策協議会に対しても同様だ。
 慰安婦問題で発信を続ける著名な櫻井氏であれば、容易で、可能な取材であり調査だ。立場が異なる相手に対する取材は、ジャーナリズムの世界では「基本のキ」、必須なのだ。

公正な論評とは■人身攻撃は免責されない
櫻井氏の論評は、真実ではない事実や合理的関連性のない事実を前提にし、かつ、植村氏が意図的に虚偽の記事をでっちあげたとする、植村氏の内心に結びつく事実を何ら提示していないものである。このような論評は、人身攻撃に等しく、意見ないし論評の域を逸脱したものであるから、公正な論評の法理によっては免責されない。

公共性と公益性■一私人の適格性には及ばない
櫻井氏は、植村氏が私立大学に非常勤講師として勤務していることをとらえ、教員としての適格性を問題にした。当時、植村氏は非常勤講師として国際交流講義を担当する一私人にすぎなかった。学内で大学運営に直接的に携わるものでもなく、学内や社会に対して権力や権限を行使する立場にもなかった。植村氏の大学教員としての適格性に関する事実は、多数一般の利害に関係せず、多数一般が関心を寄せることが正当とも認められない。したがって、櫻井氏が書いた大学教員としての適格性に関する事実は、「公共の利害に関する事実」ではない。
判決は、櫻井氏が「慰安婦問題に関する朝日新聞の報道姿勢」を批判することに「公益目的」を認めた。仮に櫻井氏が言うように、朝日新聞の報道姿勢に対する批判を本件各記事執筆の目的としたとしても、その目的の下に、記事を執筆してから23年が経過し、既に朝日新聞を退職した一私人である植村氏に対し、大学教員の適格性がないなどと論難することにまで目的の公益性を認めることは相当ではない。

最重要証言■不採用は明白な経験則違反
植村氏と同時期に、ほぼ同内容の記事を書いた喜多義憲氏(元北海道新聞ソウル特派員)の証人尋問は、植村裁判の最重要なポイントであるといえる、1991年当時、植村氏が金学順氏の証言テープに基づいて「女子挺身隊の名で戦場に連行された」と報道したことが、「捏造」ではあり得ないことを示す、最も重要な証言であった。この証言部分につき、その信憑性について何らの説明もしないまま採用せず、いわば無価値なものとして扱っているのであって、そこには、事実認定における明白な経験則違反がある。
                      
※まとめ文責=H.N、H.H
「植村裁判NEWS」2019春号より転載

2019年4月12日金曜日

5月10日に東京弁論再開!

裁判長交代せず、強引に再結審か
判決言い渡し期日も指定の公算?

中断していた東京訴訟の口頭弁論が5月10日(金)午後3時から東京地裁706号法廷で開かれることになりました。

東京訴訟は3月20日に予定されていた判決言い渡しが延期された後、裁判官忌避申し立ての即時抗告が東京高裁で却下されたため(同26)、最高裁への特別抗告と事態は進み、弁論は中断していました。一方、裁判所にも動きがあり、東京地裁でこの訴訟を担当する克也裁判長が4月1日付人事異動で東京高裁に、佐古剛裁判官(右陪席)が鹿児島地裁に転出したことが明らかになりました。この異動により裁判官は交代するものと植村弁護団は予想していました。ところが、裁判所からの連絡では、原裁判長ほか裁判官全員に変更はない、とのことです。
植村弁護団によると、どういう方法かはわかりませんが、裁判官は異動してもこの訴訟は引き続き担当し、交代はしない、ということになったようです。5月10日の期日には、2月に再開されたまま忌避申し立てで中断していた口頭弁論が再び結審され、判決日が指定されることが予想されます。
裁判所の2月以降の強引で性急な進め方からすると、判決文すでに原裁判長名でほぼ完成しているのかもしれません。だとすれば、言い渡し自体は別の裁判官による代読になったとしても判決内容はそのまま言い渡されることになるのではないか、と植村弁護団は警戒しています。


2019年4月3日水曜日

名誉棄損に賠償命令

 東京地裁判決               
 信州大・元医学部長が訴えた裁判で 

「捏造」と決めつけた雑誌と筆者に

賠償、謝罪、記事削除を命令!


医学分野の研究成果を雑誌やウェブで「捏造」と決めつけられた大学教授が、発行元の出版社と筆者、編集長を名誉毀損で訴えた裁判の判決が3月26日東京地裁であり、裁判所は被告に慰謝料の支払いと謝罪広告の掲載、ウェッブ記事の削除を命じました。原告の請求をすべて認めた「完全勝訴」です。
この判決を報じた記事を以下に引用します。また、この裁判の重要な書面(原告の訴状、原告と被告の尋問調書、原告の最終準備書面)と、敗訴した筆者のコメントがインターネットで公開されています。そのURLも記しておきます。
は編注です。

 ■朝日新聞の記事(朝日新聞デジタル3月27日)
(見出し)
子宮頸がんワクチン研究めぐる記事
月刊誌側に賠償命令
(記事)
子宮頸(けい)がんワクチンの副作用に関する研究発表を「捏造(ねつぞう)」と報じた月刊誌「ウェッジ」の記事で名誉を傷つけられたとして、信州大医学部の池田修一・元教授が発行元と、執筆したジャーナリストらに約1100万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が26日、東京地裁であった。男沢聡子裁判長は「記事の重要な部分が真実とは認められない」と述べ、ウェッジ側に330万円の支払いと謝罪広告の掲載などを命じた。
ウェッジの2016年7月号やウェブマガジンは、池田氏が同年3月に発表した研究について、ワクチンの影響が強く出たマウス実験の結果を意図的に抽出したと報じた。判決は「池田氏が虚偽の結論をでっちあげた事実は認められない」と指摘。裏付け取材も不十分で、ウェッジ側が「捏造」だと信じた「相当な理由はない」と述べた。
池田氏は「私の主張を的確に捉えてくれた判決」と評価。同社は「判決を真摯(しんし)に受け止めつつ、対応を検討する」とコメントした。

■弁護士ドットコムニュース(3月26日) https://www.bengo4.com/c_7/n_9425/
(みだし)
HPVワクチン名誉毀損 
出版社などに330万円の支払いを命じる 東京地裁
(記事)
子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するための「HPVワクチン」の副反応を研究している元信州大医学部長の池田修一氏が、月刊誌「Wedge」の記事で名誉を毀損されたとして、出版社や医師でジャーナリストの村中璃子氏らを訴えていた裁判は326日、東京地裁で判決があった。
男澤聡子裁判長は、出版元(ウエッジ)や村中氏、当時の編集長に対し、330万円の支払いと謝罪広告の掲載、ネット記事中の記述の一部削除を命じた。
●「捏造」の表現が争点に
村中氏らは、「Wedge」の2016年7月号や関連するネットの記事で、池田氏が厚労省の成果発表会(2016年3月)で行なった発表の問題点を指摘し、見出しも含め「捏造」という言葉を複数回使った。
池田氏は、意図的な不正はしていないと主張し、「捏造」は名誉棄損に当たるとして、約1100万円の損害賠償や謝罪広告の掲載などを求めて提訴。対する村中氏は、スラップ(いやがらせ)訴訟だと反訴していた。
判決では、池田氏が「自分に都合が良いスライドだけを選び出した」などとする記述について、事実とは認められないと判断。裏付け取材も不足しているとして、真実相当性も否定した。
なお、研究発表そのものについては、厚労省が「国民の皆様の誤解を招いた池田氏の社会的責任は大きく遺憾」と発表。所属していた信州大が設けた外部有識者による調査委員会も「混乱を招いたことについて猛省を求める」などと報告している。

■NHK(長野放送局)のニュース(3月26日)
(みだし)雑誌記事は名誉棄損 賠償命じる
(以下、記事と映像)

■WEBニュースサイト「Buzzfeed」(3月26日)
(みだし)
HPVワクチン「捏造」報道の名誉毀損訴訟 村中璃子氏らが全面敗訴
「判決の内容と子宮頸がんワクチンの安全性はまったく関係ない」
(以下記事URL
裁判の争点と判決の骨子、判決に対する原告、被告のコメントなどが詳しく書かれている

■「守れる命を守る会」訴訟記録公開 
訴訟記録の一覧 URL=https://www.mamoreruinochi.com/top/publication/
「守れる命を守る会」は「科学的根拠に基づいた言論を支援する」ことを掲げる団体で、この裁判では原告ではなく、被告側を支援している。代表は産婦人科医の石渡勇氏。同会は、訴訟の経緯解説と、訴状、調書、準備書面、証拠、意見書などの重要書類をホームページで公開している。なお、判決文は公開していない(4月3日現在)


以下は同会HP上のURL

■原告(池田修一氏)の訴状
2016年8月17日付。名誉毀損とされた記事も資料として収録されている。池田氏は、当時、信州大学の副学長と医学部長を兼ねていた。厚生労働省の子宮頸がんワクチン研究班の統括責任者もつとめていた。専攻は神経内科。雑誌発売後に、副学長と医学部長を辞任し、2018年定年退官。現在は同大で特任教授として勤務している。
ウエッジはJR東海系の出版社が発行する月刊ビジネス誌。東海道新幹線のグリーン車内で無料常備されるほか一般書店でも販売されている。


■原告(池田修一氏)の尋問調書
2018年7月30日に行われた池田氏の本人尋問調書。捏造決めつけによって受けた被害について次のように語っている。「ああいう訴えが出た途端に私はもうそれは罪人のような扱いになっちゃって一切医学部長室のパソコンとか、そういうことも凍結されてしまって、使えなくなっちゃいましたから、通常の診療業務に大きな支障を来しました。とうとう挙げれば枚挙にいとまがないようになりましたし、結局、捏造、不正という言葉のレッテルを言葉を貼られて、私は日常診療、日常の研究活動も実際にできなくなったということです。さらに、私子供も同じ領域で働いているんですが、子供たちも診療の時に、あ、捏造先生の息子ですか、というようなことまで言われて、私はかなりの名誉を毀損されています」

■被告(村中璃子氏)の尋問調書
7月31日に行われた村中氏の本人尋問調書。同氏は記事の筆者。尋問の後半では、裁判長と裁判官が執筆に至る取材経過について、詳細な説明を求めている。当該記事によるとプロフィルは
「むらなか・りこ 医師・ジャーナリスト。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める」
とある。

■被告(大江紀洋氏)の尋問調書
同日に行われた大江氏の本人尋問調書。同氏は当時、JR東海から出向し、雑誌「Wedge」の編集長を務めていた。「捏造」表現は同氏が主導していたことが尋問で明かされている。

■原告側の最終準備書面
原告(池田氏)が2018年11月1日付で提出した書面。被告側の強引で一方的な取材方法や事実関係の確認が不十分だったことを指摘し、被告側には真実性、真実相当性、公益目的性がないことを論述している。村中氏については、結審に至るまで、本名や住所・連絡先など本人の基本情報を明らかにしなかったことを問題にし、ジャーナリストとしての責任から逃れている、と厳しく批判している。大江氏については、当該記事掲載号の発売前に同誌を信州大学と厚生労働省に送付し、処分や調査を求めていたことも問題とした。同氏は信州大学学長に書状を添えて「大学として何らかの措置をとるべき」と圧力を加えていたという。このような振る舞いは編集者にあるまじき行為であり、神戸松蔭女学院大学に就職が内定していた植村隆氏への妨害攻撃と同じではないか。最終準備書面は、大江氏のこの行動を植村バッシングに火をつけた週刊文春に重ね合わせて、次のように批判している。「攻撃相手である原告の勤務先に圧力を加える被告大江の手法は、『週刊文春』2014年2月6日号が「“慰安婦捏造”朝日記者がお嬢様女子大学教授に」という記事を掲載し、当該大学に対して「重大な誤り、あるいは意図的な捏造があり、日本の国際イメージを大きく損なったとの指摘が重ねて提起されています。貴大学は採用にあたってこのような事情を考慮されたのでしょうか」と書いた質問状を送った『週刊文春』の手法に酷似している」(同書面10ページ)

■敗訴した村中氏のコメント
2019年3月26日に発表した。英文も併記されている。


雑誌「Wedge」2016年7月号の
目次(上)と記事トビラページ(下)



2019年3月30日土曜日

3月20日東京集会

植村裁判報告集会は3月20日、東京・日比谷公園内の図書文化館で開かれた。平日午後2時からの開催にもかかわらず会場(同館地下1階小ホール)には130人ほどの市民、支援者らが集まり、弁護団報告と、対談などに耳を傾けていた。

この日に予定されていた東京訴訟判決は延期となり、弁論もなかった。集会では最初に、東京訴訟の判決延期の背景にある裁判所の異例な対応について弁護団から詳しい説明があり、さらに、4月25日に始まる札幌訴訟控訴審についての報告があった。対談では、青木理氏(ジャーナリスト)と中島岳志氏(東京工業大教授)が「植村裁判をめぐる日本社会の底流」を1時間、語り合った。この後、植村氏の近況報告、映像ドキュメント「標的」短縮版の上映、訴訟費用カンパの呼びかけがあり、集会は午後4時15分に終わった。

対談「植村裁判をめぐる日本社会の底流

東京工大教授中島岳志氏  ジャーナリスト青木理

青木、中島両氏とも、植村バッシングとそれに続く植村裁判には、早い時期からかかわってきた。青木氏は2014年12月に、植村氏と朝日新聞関係者へのロングインタビューをもとにした『抵抗の拠点から――朝日新聞「慰安婦報道」の核心』(講談社)を出版した。中島氏は北海道大に勤務していた当時、植村氏と北星学園大への脅迫や攻撃を間近にし、植村氏と北星を守る運動の先頭で積極的に発言してきた。戦中戦後の論壇と社会の動向を主な研究テーマとし、昨年8月には『保守と大東亜戦争』(集英社新書)を出版した。
この日の対談で両氏は、植村バッシングとの関わりを振り返ったあと、①植村氏が書いた記事と吉田清治証言記事の社会的影響、②植村氏と朝日新聞だけが標的にされた理由、③日本社会のバックラッシュ(反動、逆流)と自民党政治との関係、④植村裁判が問うことの意味、について意見を交わした。
以下は主な発言の要約。
■植村記事と吉田証言の社会的影響
青木:植村さんの記事は飛び跳ねた記事ではない。各社同じように、産経にも読売にも出ている。当時植村さんがいた大阪は私の初任地だった。大阪の空気はよくわかっている。それが23、4年たって、あたかもとんでもない遺物のように扱われるようになってしまった。時代の風潮がものすごい勢いで逆回りしている中で、たまたまとばっちりを受ける立場に植村さんが立たされたのではないか。メディア対権力という議論もあるが、植村さんはとばっちり、それだけのこと。支援している人がいることに敬意を持ちつつ、時代状況がおかしくなっていることの象徴だととらえている。
中島:慰安婦報道で大きな影響を与えたという意味では、北海道新聞の2つの記事の方が大きい。金学順さんを初めて実名で独占インタビューした喜多義憲特派員の記事(1991年8月15日付)と、吉田清治証言を報じた記事(同年11月22日付)だ。とくに吉田証言の記事には、「アフリカの黒人奴隷のように朝鮮人を狩り出した」という個所があり、これが韓国メディアに大きく取り上げられた。朝日新聞の吉田証言記事が国際社会に影響を与えたと右派は言うが、実証主義的にはそうはいえない。吉田証言は偽証だった、というところから飛躍と拡大で慰安婦問題はなかったという議論が横行するようになった。
■植村氏と朝日新聞だけが標的にされた理由
青木:朝日新聞の慰安婦報道で唯一問題があったのは、吉田証言記事だ。吉田証言は虚偽ではあったが、裏付けをきちんととらなかった。ただ、「首相や官房長官が『辺野古に赤土は入れていない』と語った」と書いても、(事実は虚偽でも)誤報ではないように、吉田清治が言っていることを書いたのだから誤報ではない、という見方もある。朝日新聞が批判されるべきは、歴史修正主義勢力に対して意固地になって、訂正、軌道修正が遅れたことだ。朝日は自分たちの新聞が一番なのだという意識が強い。だから、象徴としてたたかれるというふうになった。
中島:植村さんの記事が世論をリードしたとは言えない。吉田証言の記事を植村さんは1本も書いていない。朝日新聞が火をつけたわけでもない。二重の意味で関係がないのに、朝日新聞をたたくという政治運動があって、朝日が標的とされた。植村さんは朝日の記者だから、朝日をバッシングすることで象徴的な何かを獲得しようとし、標的にされた。
■90年以降のバックラッシュと自民党政治
中島「重要なポイントは1980年代にある。それまでの保守派論客は青春期に体験した戦争がいやでしょうがなかった、すべて戦争に反対していた。そのような戦中派保守が退場し、世代交代すると、戦後教育の中で歴史を学んだ反発として、戦争には意義があったと言い始めた。幼少期の戦争体験がかなり違っていて、大東亜戦争は植民地の解放戦争という考えを押し出すようになった。80年代のそういう動きの中で育ってきたものが90年代に開花した。その先端にいるのが、いまの首相、安倍晋三氏だ。
青木:80年代から90年代にかけてバックラッシュは起きていたが、2002年の小泉訪朝時の日朝首脳会談でそれが公然化した。戦争責任を問われる「加害者」だった日本が、拉致問題が契機となって、戦後初めて「被害者」の立場になり、鬱積していたものが出てきて、いまの首相の地位を上げていった。
中島:3年前の総選挙の時、吉祥寺での街頭演説でヤジを浴びた安倍氏は、「私は小さい時にお母さんに人の話はよく聞きなさいと言われましたよ」と反論していたという。お母さんの話を持ち出す政治家はあまりいない。安部氏はそういう幼児期の体験が土台となって大きなマグマの中に入っていたということだろう。
青木:安倍氏が初当選して衆院議員になった1993年7月の総選挙で自民党は負けて、自民党は下野した。だから安部氏は野党議員としてスタートした。彼は神戸製鋼の社員時代は上司に忠実に従う子犬のような存在だったが、オオカミの仲間の中で右派のプリンスとして育てられ、オオカミになった。
■植村裁判が問うこと
青木:誤報をしたことのない新聞記者などいない。もしいたとしたら、よほどのウソつきか、まったく仕事をしなかったかだろう。そういうときにどうふるまうべきか、メディアはどうあるべきか、こういう時代だからこそ、後の歴史家にあの時何をしていたの、と笑われないようにがんばらなければならない。
中島:植村裁判は時代の大きなマグマの典型だ。私たちは後の歴史家から検証される舞台に立たされている。この流れを許してしまっていいのか。私たちの子や孫に、あの時どうしていたのか、何と言ったのか、と問われる時が必ず来ると思う。

この対談の詳しい内容は、「週刊金曜日」が掲載する予定です(掲載号発行日は未定)


弁護団報告要約


穂積剛弁護士◆東京訴訟「裁判官忌避」について
原克也裁判長ら3裁判官の審理には「公正な裁判が妨げられる事情」がある、として忌避申し立て手続きを進めている。東京に先がけて出された札幌訴訟の判決は、櫻井よしこを免責する理由の中で吉田清治証言を使っている。裁判所はそれを東京訴訟でも使おうとして、弁論再開までして被告側に新証拠を出させようとしたのではないかと、弁護団は疑っている。忌避には十分な理由がある。忌避の主な理由は次の4点だ。
①すでに結審し、判決言い渡しが迫っているのに、弁論を再開したことはきわめて異例だ。結審後の弁論再開が認められるのは、当事者(原告と被告)が、判決に重大な影響を及ぼす証拠を提出したいと申し入れ、裁判所が認めた場合が通常である
②今回は当事者からの申し出ではなく、裁判所から被告側に要請して新証拠を提出させた。これは、民事訴訟の基本的な大原則である「弁論主義」に反する。裁判所は当事者が提出した証拠事実のみを基礎としなければならない
③その新証拠は、「慰安婦報道に関する朝日新聞社第三者委員会報告書の全文」である。しかし、その要約版はすでに被告側が証拠提出している。また、植村側も、植村記事にかかわる部分の抜粋は証拠提出している
④裁判所はなぜこのようなことをするのか。新証拠「第三者委員会報告書全文」の重要なテーマである「吉田清治証言」の経緯や影響は、東京訴訟の弁論では原告、被告側双方とも争点にすることなく結審した。それなのに、あえて新証拠として採用するのは、報告書全文のうち当事者が提出した植村記事関連部分以外の個所に被告側に有利と思われる部分があり、それを材料として判決を導き出すため、と疑わざるを得ない
東京高裁への抗告は3月28日却下された。弁護団は同日、最高裁に特別抗告状を提出した。

小野寺信勝弁護士◆札幌訴訟「控訴審開始」について
控訴理由書は1月10日に提出した。総ページ数は100を超える。さらに控訴理由補充書を2通用意している。控訴理由のポイントはふたつある。
①櫻井を免責した札幌地裁の「真実相当性」の判断は、これまで最高裁が積み上げてきた判断の枠組みから大きく外れている。「真実だと信じるにやむを得ない事情」の「やむを得ない事情」を認めるには高いハードルがある。真実相当性を認めなかった代表的な判例としては、警察がリークした事件が冤罪だった事案や、やロス疑惑報道の名誉毀損などがある。ところが札幌地裁判決は、ハードルを軽々と越えてしまった。
②櫻井の慰安婦についての表現が大きく変遷していることが、その後の調べでわかった。櫻井は1992年に「週刊時事」コラムで「強制徴用された従軍慰安婦」などと書き、慰安婦問題に同情的だった。「強制連行」は否定していなかった。92年というのは、植村さんが金学順についての記事を書いた翌年だ。櫻井はその後、「強制連行」に否定的になり、2014年には植村記事を「捏造」と決めつけるまでになった。しかし、櫻井はこの変遷の理由をはっきり説明していない。札幌地裁判決は、櫻井の「真実相当性」の根拠として韓国紙ハンギョレの記事などの資料をあげているが、これらは92年当時に櫻井が読んでいたものである。同じ資料をもとに「強制連行」について真逆のことを言っていることになり、「真実相当性」が崩れることになる。
札幌訴訟と高裁とのかかわりでいうと、地裁の裁判が始まる前、櫻井側が申し立てた東京への移送を地裁が認めたが、その決定を高裁は逆転却下した。また、地裁判決は櫻井の名誉毀損表現の多くを「論評・意見」ではなく「事実の摘示」と認定しており、この点でも「真実相当性」で免責するためのハードルは高くなっている。これらは、控訴審での好材料だと思う。
秀嶋ゆかり弁護士◆札幌訴訟「控訴審開始」について
地裁判決には、従軍慰安婦を「公娼制度の下での売春婦」と認定する記述がある。裁判官のこのような歴史認識と人権感覚の欠落を、控訴理由補充書では厳しく批判している。また、「捏造」決めつけにより植村氏が大学での教育研究者の道を閉ざされたことは重大な人権侵害だ、との主張を盛り込んだ憲法学者の意見書も準備している。高裁の審理は1回では結審させない、という考えで進める。
控訴理由補充書2通は、3月22日に提出されている



植村隆さんの話

私は吉田清治さんを取材したこともないし記事を書いたこともない。その吉田証言が亡霊のように出てきた。結審したらもう証拠は出せないのに裁判所は吉田証言を証拠に出させ、それ使って判決を書くのではないか。
私はいまも、巨大な敵と闘っている。私のほかにも、攻撃を受けている人がいる。根っこでは、戦争中の人権侵害の記憶を抹殺しようというテロリズム、記憶を継承しようという作業に対するテロリズムが起きている。裁判の勝訴をめざし、そのような時代の風潮とも闘っていく。


映像ドキュメンタリー「標的」

植村さんがたたかいの様々な場面で発する言葉を、植村さんの豊かな表情とともに記録したヒューマンドキュメンタリー。映像ジャーナリスト西嶋真司さん(元RKB毎日放送ディレクター)が集会、記者会見、自宅などで植村さんに密着して制作を続けている。集会では12分に短縮された試作版が初めて公開された。

訴訟費用カンパ呼びかけ

札幌控訴審開始を機に新たに設立された組織「植村隆名誉回復裁判を応援する会」の発起人、植田英隆氏(グリーン九条の世話人、札幌市)が集会で、訴訟費用支援のカンパへの参加を呼びかけた。同会の発起人には、上田文雄(前札幌市長)、木村真司(札幌医大教授)、早苗麻子(精神科医)、鶴田昌嘉(北海道画廊代表)、ノーマ・フィールド(シカゴ大名誉教授)各氏が名を連ねている。
カンパは1口1000円以上、何口でも可。
受付口座=ゆうちょ銀行振替口座 02760-0-101987 
(他行からの振り込みは、ゆうちょ銀行279店、当座預金0101987)
口座名義=植村応援隊
事務局=makenaiuemura3@gmail.com


2019年3月29日金曜日

最高裁に特別抗告

東京訴訟の裁判官忌避申し立ては、3月26日、東京高裁が即時抗告を却下した。植村弁護団は28日、最高裁への特別抗告の手続きをした。

2019年3月25日月曜日

東京訴訟中断の理由


植村裁判東京訴訟は3月20日、予定されていた判決言い渡しが延期となり、弁論も行われなかった。「20日には法廷を開かない」との連絡が裁判所からあったのは前日の19日だった。
裁判官の交代を求める忌避申し立ての審理は、東京地裁民事37部での却下を経て、東京高裁に移っている。高裁への即時抗告理由書の提出期限は3月25日である。植村弁護団によると、高裁の判断が下されるのは早ければ翌26日以降になるが、高裁で却下された場合はすぐに最高裁への特別抗告と進むので、裁判の事実上の進行停止状態はさらに続くことになる。

では、停止している裁判の再開はいつになるのか。
再開は、最高裁の決定が出た後になる。それに要する期間はわからないが、東京地裁の最近の例では、昨年7月に「安保法制違憲・東京国賠訴訟」で忌避申し立てがあり、東京高裁を経て最高裁で却下が確定して弁論が再開されたのはことし1月だった。半年かかったことになる。
ただ、いまの時期は裁判所の人事の定期異動時期に重なっている。また、過去には忌避申し立てを無視して判決を言い渡した裁判例もある。そうしたことから、植村弁護団によると、3月中に弁論再開や期日指定を強行するなどの急展開もあり得るし、裁判官の人事異動による交代も考えられるという。

裁判所は、西岡・文春側に有利な証拠を
提出させようとしたのではないか?! 
植村弁護団は忌避申し立てについて、すでに声明を発表し、原克也裁判長ら3裁判官の審理には「公正な裁判が妨げられる事情」がある、と強く批判している。3月20日に開かれた裁判報告集会でも、植村弁護団の穂積剛弁護士から詳しい説明があった。要点は次の通り。

①すでに結審し、判決言い渡しが迫っているのに、弁論を再開したことはきわめて異例だ。結審後の弁論再開が認められるのは、当事者(原告と被告)が、判決に重大な影響を及ぼす証拠を提出したいと申し入れ、裁判所が認めた場合が通常である
②今回は当事者ではなく、裁判所が被告側に要請して新証拠を提出させた。これは、民事訴訟の基本的な大原則である「弁論主義」に反する。裁判所は当事者が提出した証拠事実のみを基礎としなければならない
③その新証拠は、「慰安婦報道に関する朝日新聞社第三者委員会報告書の全文」である。しかし、その要約版はすでに被告側が証拠提出している。また、植村側も、植村記事にかかわる部分の抜粋は証拠提出している
④裁判所はなぜこのようなことをするのか。新証拠「第三者委員会報告書全文」の重要なテーマである「吉田清治証言」の経緯や影響は、東京訴訟の弁論では被告側も争点にすることなく結審した。それなのに、あえて新証拠として採用するのは、報告書全文のうち当事者が提出した植村記事関連部分以外の個所に被告側に有利と思われる部分があり、それを材料として判決を導き出すため、と疑わざるを得ない

穂積弁護士は、「札幌訴訟の判決は、櫻井よしこを免責する理由の中で吉田清治証言を使っている。裁判所はそれを東京訴訟でも使おうとして、被告側に出させようとしたのではないかと、弁護団は疑っている」と語り、「忌避には十分な理由がある」と強調した。

※この日の報告集会では、穂積弁護士の報告に続き、札幌弁護団の小野寺信勝、秀嶋ゆかり両弁護士から札幌判決の問題点と控訴審に向けての取り組みについての報告があった。その後、ジャーナリスト青木理氏と東京工業大教授・中島岳志氏との対談、植村隆氏の報告などがあった。
<報告集会のまとめレポートは月内に掲載します>

報告集会には130人が参加した(3月20日、日比谷図書文化館)



2019年3月11日月曜日

3月20日東京集会

3月20日に判決言い渡しはありません
弁論の開廷もありません
集会は予定通り開催します
 
DL用のPDFはこちら

2019年3月9日土曜日

屋山太郎の名誉毀損

日韓関係に関する静岡新聞のコラム記事で評論家の屋山太郎氏に「徴用工問題を政争の具にしている」「実妹が朝鮮にいる」などと書かかれた福島瑞穂参院議員が3月6日、屋山氏を名誉毀損で東京地裁に提訴しました。福島議員のフェースブック上のコメントと、関連記事を引用します。
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福島みずほ議員のコメント
本日3月6日、屋山太郎氏に対し、名誉毀損の裁判を起こしました。
2月6日付けの静岡新聞「論壇」に、私に関して虚偽の事実を書いたためです。
「ギクシャクし続ける日韓関係」と題した記事では、こう書かれています。
「徴用工に賠償金を払えと言うことになっているが、この訴訟を日本で取り上げさせたのは福島瑞穂議員。日本では敗訴したが韓国では勝った。
福島氏は実妹が北朝鮮に生存している。政争の具に使うのは反則だ。」
しかし、私は徴用工の訴訟に関わったことはありません。そもそも妹はおらず、全くの虚偽です。
また、これらを政争の具にしたこともなく、明らかな名誉毀損にあたります。
少し調べればわかるような事実であるにもかかわらず、政治評論家でもある人物が新聞に堂々と虚偽を述べているのです。
こうしたフェイクニュースが蔓延することを止めるためにも、今回の提訴に踏み切りました。
ぜひ応援してください。
(3月6日、福島みずほfacebook

――引用開始――
共同通信の記事
社民・福島氏が評論家提訴 「コラムで名誉毀損」

社民党副党首の福島瑞穂氏は6日、政治評論家の屋山太郎氏に新聞のコラムで「実妹が北朝鮮にいる」などと虚偽を書かれ、名誉を傷つけられたとして、屋山氏に330万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。
訴状によると、屋山氏は「ギクシャクし続ける日韓関係」と題するコラムを執筆し、静岡新聞の26日付朝刊に掲載された。コラムでは、元徴用工訴訟を日本で取り上げさせたのは福島氏だとし、「福島氏は実妹が北朝鮮に生存している。政争の具に使うのは反則だ」と書いた。
福島氏は、そもそも妹がおらず、自身は生まれも育ちも国籍も日本だと指摘。元徴用工訴訟には関与しておらず、内容は虚偽で名誉毀損に当たると主張した。
屋山氏は「違う人を福島さんだと思い込んでしまった。間違えて申し訳なかった」とのコメントを出した。
静岡新聞は、29日付朝刊で謝罪し、訂正している。
(3月6日1838配信)
――引用おわり――

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静岡新聞の訂正記事(2月9日付、朝刊2面下1段)はこうである。
<6日付朝刊2面論壇「ギクシャクし続ける日韓関係」で、「徴用工に賠償金を払えということになっているが、この訴訟を日本で取り上げさせたのは福島瑞穂議員」「福島氏は実妹が北朝鮮に生存している」とあるのは、いずれも事実ではありませんでした。おわびして訂正します。>
ところが、屋山氏自身の訂正記事(同氏が主宰する「日本戦略研究フォーラム」のホームページ)はこうである。
<文中、「福島氏の実妹は北朝鮮に生存している。」との記載がありましたが、ご本人より、実妹はいないとの申し出がありましたので、当該部分を削除致しました。訂正してお詫び申し上げます。>
これが「訂正とお詫び」なのだろうかしらん。