2017年9月30日土曜日

高裁でも朝日が勝訴

慰安婦報道をめぐって朝日新聞が訴えられている民事訴訟(賠償請求)で、また原告敗訴、朝日勝訴の判決がありました(9月29日)。

【朝日新聞9月30日朝刊】
慰安婦訴訟 二審も本社勝訴
朝日新聞の慰安婦に関する報道で「国民の名誉が傷つけられた」として、国内外の56人が朝日新聞社に1人1万円の慰謝料を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(村田渉裁判長)は29日、原告の請求を棄却した昨年7月の一審・東京地裁判決を支持し、原告の控訴を棄却した。
 対象は、慰安婦にするため女性を無理やり連行したとする故吉田清治氏の証言記事など、1982~94年に掲載された計13本の朝日新聞記事。原告側は「日本国民の国際的評価を低下させ、国民的人格権や名誉権が傷つけられた」と主張し、2015年1月に提訴した。一審では2万5722人が原告に名を連ねた。
 判決で高裁は「旧日本軍の行為や政府の対応を指摘する内容で、原告を対象とした記事とはいえず、原告の名誉を侵害したとはいえない」と判断した。また、「国民一般が、知る権利を根拠として、報道機関に対し誤った報道の訂正を求める権利を有するとは解されない」とも述べた。
 朝日新聞社広報部は「弊社の主張が認められたと考えています」との談話を出した。

朝日新聞を訴えた訴訟はこの裁判を含めて3つあり、いずれも1審は原告が敗訴、2審も2つめの敗訴、計5連敗ということです。なお、この裁判の原告弁護団長、高池勝彦弁護士は、植村裁判の札幌訴訟では被告櫻井よしこ氏の代理人をつとめています。

2017年9月24日日曜日

『真実』必読の書評

ひとつの書評がいま共感の輪を広げています。関西で活動している「日本軍『慰安婦』問題・関西ネットワーク」のブログに掲載されている植村さんの著書『真実』の書評です。掲載日はことし3月4日ですからもう半年たっていますが、最近になって初めて目にした人たちの間で、評判になっています。「目線が温かくて、率直に共感を寄せられていて、力づけられた」「とても良い紹介ですね」「植村バッシングの本質を簡潔明快に突いている」「植村さんが勇気をもって再び慰安婦報道を『再開』したことの意味をしっかり伝えてくれている」「植村さんの生き方は確実に人々の共感を呼ぶのだと確信しました」……。
筆者のおかだだいさん、ありがとうございます。書評の全文を以下に掲載させていただきます。

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植村隆著『真実 私は「捏造記者」ではない』(岩波書店)を読みました。

植村さんは言わずと知れた、産経新聞や右派論壇に「捏造記者」と猛バッシングを受けた人。1991811日、金学順さんが名乗り出る3日前に彼女の証言テープを聴いて朝日新聞にその第一報を書いたために言われもない批判を受けることになりました。朝日新聞を退職し松蔭女子学院に就職が決まっていた植村さんに対するバッシングは苛烈を極め、娘までもが殺害予告を受け、松蔭の職を失うことになりました。現在は西岡力と週刊文春に対する名誉毀損裁判を東京地裁で、櫻井よしこと週刊新潮・WiLL・週刊ダイヤモンドに対する名誉毀損裁判を札幌地裁で闘っています。

日本軍「慰安婦」問題という側面でだけみれば、植村さんが特筆した仕事をしたとは思えません。日本軍「慰安婦」問題がここまで大きな問題になったのは金学順さん自身が名乗り出たからであり、「記事が」ではなく、金学順さんの存在そのものが社会にインパクトを与えたからです。それに植村さん自身が書いているように、植村さんの配偶者が太平洋戦争犠牲者遺族会の幹部の子だということもあって、「慰安婦」問題からは距離をおいていたのだといいますし。

植村さんの記事は「強制連行」とは書いていませんし、「挺身隊」という言葉は当時の韓国では「慰安婦」と同義でした。当時の記事に接した人も、「慰安婦」か「挺身隊」かということで「捏造」などと思った人はいないのではないでしょうか。ましてや植村さんの記事では「強制連行」とは書いていないのに、批判する当の産経新聞では「強制連行」と書いているのですから。植村さんに対する誹謗中傷は、全く的外れです。

結局は、第一報を朝日新聞に書いたのが植村さんだったということと、植村さんの義母のことがあって「叩きやすかった」というだけにすぎません。そして奴らにとってみれば「慰安婦」問題の事実が何かということよりも、「慰安婦」問題を「叩く」ことこそが必要だったということなのでしょう。

今でも「強制連行はなかった」「性奴隷ではない」と、右派論壇ばかりか安倍首相自身が公言してはばかりません。もちろんそれは事実ではないのですが、「捏造記者」というレッテルと同様、事実が事実として通用しないのが今の日本です。

しかし、そういういわれなきバッシングを受けた被害者……というイメージだけで植村さんの人となりを捉えてはいけないのだということが、この本を読んでよくわかりました。

学生時代から韓国の民主化運動に関心を寄せ、ソウルでの語学留学時代にも手書きのミニ新聞で韓国情勢と日本の戦争責任を発信したそうです。大阪社会部時代には夕刊に「이우 사람(隣人)」というコラムを書き、在日コリアンの置かれた状況を報じました。特に在日韓国人政治犯問題には強い関心をもって取り組んだのだそうです。

その流れでの「慰安婦」問題です。金学順さんが名乗り出る前の1990年には「慰安婦」被害者の証言を取るために訪韓するも空振り。1991年に先述の第一報を報じますが、その後「慰安婦」問題については記事を一つ書いただけでテヘランへ異動することとなり、先述の通り本人の意志もあって距離をおくことになります。

韓国の民主化運動と在日コリアンの社会に対する植村さんの姿勢には、強く共感します。また1990年の取材中に知り合った彼女と、彼女の親の反対を押し切って駆け落ち同然で一緒になった愛を貫く生き方にも、感銘を覚えます。

金学順さんが名乗り出た直後、植村さんが当時雑誌「MILE」に書いた記事にこうあります。
「太平洋戦争開戦から50年たって、やっと歴史の暗部に光が当たろうとしている。この歴史に対して、われわれ日本人は謙虚であらねばならないし、掘り起しの作業を急がねばならない。放置することは、ハルモニたちを見殺しにすることに他ならないのだ」

「慰安婦」問題からいったん距離をおいた植村さんは、先日、週刊金曜日に(自身の裁判等のことではなく)「慰安婦」問題の記事を書きました。25年たって、初めてのことだそうです。
その記事のことはこの本で知ったのではなく、この本を買う機会になった223日の大阪での集会で、植村さん自身がおっしゃっていたこと。

バッシングを受けた人間が立ち上がり、理不尽な攻撃をした者を裁判で訴えるなかで自分の正しさを再確認し、そして今また日本軍「慰安婦」被害者に向き合い、記事を書いています。とても素晴らしいことだし、わたしたちも勇気をもらったような気持ちになります。

きっと裁判には勝利するだろうし、またそうなるために私たちも努力しなければならないと改めて思いました。植村さんにかけられた攻撃は植村さん個人に対する攻撃ではなく、日本軍「慰安婦」被害者に対する攻撃であるし、日本の民主主義にかけられた攻撃です。

植村隆さんを応援しましょう!

そのためにも、この本をぜひ読んでください。


おかだ だい(日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワーク)



2017年9月17日日曜日

東京第10回の案内

東京訴訟の第10回口頭弁論と報告集会は
10月11日(金)に開かれます。
報告集会では、日本報道検証機構代表理事の楊井人文さん(弁護士)が「フェイクニュースにどう向き合うか」と題して講演します。


2017年9月10日日曜日

10.13札幌報告集会

植村裁判札幌訴訟報告集会は1013日も開催します

10月13日に予定されていた札幌訴訟第10回口頭弁論が進行協議(非公開)に切り替わり、この日の口頭弁論はなくなりました。これに伴い、傍聴もなくなりましたが、裁判報告集会は開催時間を変更して予定通り開催します。会場と講演には変更はありません。
▽10月13日(金)午後6時半から(開場午後6時)
▽高教組会館(北海道高等学校教職員センター)4階ホール(中央区大通西12丁目、電話011-271-3627)
▽弁護団報告(進行協議について)+植村さんのお話し
▽講演 高嶋伸欣・琉球大名誉教授(著書に「教科書はこう書き直された」「教育勅語と学校教育」「拉致問題で歪む日本の民主主義など多数)
▽演題「1981年から取り組み始めた慰安婦問題の学習――明治以来の『脱亜入欧』の差別的アジア認識の払拭をめざして」

2017年9月8日金曜日

第9回札幌訴訟速報

決定! 証人尋問を来年2月16日に実施

札幌訴訟第9回口頭弁論は9月8日、札幌地裁803号法廷で開かれた。
前回までに論点はほぼ整理され、双方の主張は出尽くしていたため、この日は今後の進め方について双方で意見が交わされた。その結果、岡山忠弘裁判長は、次回弁論を来年2月16日(金)に開き、証人尋問を行うことを決めた。10月に設定されていた口頭弁論は取りやめとなった。証人尋問の輪郭も明らかになった。原告側は証人として喜多義憲氏(元北海道新聞ソウル特派員)、吉方べき氏(言語心理学者、ソウル在住)と北星学園大学関係者1人の計3人を申請する、と小野寺信勝弁護団事務局長が法廷で明らかにした。一方、被告側は櫻井氏について1~2人、新潮社は1人(編集者)、ワックは2人(社長と研究者)、ダイヤモンド社はなし、との予定を示した。

次回の口頭弁論が10月に設定されていたため、証人尋問の日どりが決まるのは早くてもその日ではないかとみられていた。ところが、この日、櫻井氏側から提出された準備書面に対し、植村氏側は、すでに主張と反論は十分に尽くしたとして「同書面への反論はしない(必要ない)」と応対したため、岡山忠弘裁判長は次回弁論予定を取りやめ、証人尋問の日程の話し合いに一気に進んだ。原告側はこれまでずっと迅速な審理を求めてきた。この日の応対もその考えに沿うものだった。一方、被告側は書面提出に手間取るなど、ゆっくりペースだったから、急転直下の決定には肩透かしを食らったのではないか。
2月16日の証人尋問は朝から夕方までの終日行われる。証人の陳述をめぐる主尋問と反対尋問がぶつかり合い、大詰めの緊迫した対決と応酬の場面となる。1日では終わらずさらに期日が追加されることも予想されるが、ともかく証人尋問期日が確定したため、判決の時期も見えてきた。小野寺事務局長は口頭弁論後の報告集会で、「順調にいけば、来年5~6月に最終準備書面提出(最終弁論)、夏季休暇明け(9月ころ)に判決となるかもしれない」との見通しを示した。

この日正午の札幌の気温は24度。汗ばむほど穏やかな秋日和だった。午後3時30分開廷、同50分閉廷。弁護団席には原告側17人、被告側7人が座った。
傍聴券を手に入れるための行列には70人が並んだが、定員(71人)には満たなかった。抽選なしは札幌訴訟では昨年4月の第1回以来初めて。岡山裁判長が次回10月の弁論を取りやめたことについて、「傍聴席のみなさんは(その日も)適宜、集会を開いてください」と語りかけると、ほぼ満席の傍聴席に笑いが巻き起こる一幕もあった。

裁判の後の報告集会は午後5時から7時過ぎまで、北海道自治労会館で開かれた。上田文雄弁護士(「支える会」共同代表、前札幌市長)のあいさつの後、弁護団報告(小野寺事務局長)と植村隆さんの「夏の講演ツアー」報告、田中宏・一橋大名誉教授の講演「アジアと日本が共存するには―ー繰り返される差別の源流をさぐる」があった。詳報は後日掲載。また、灘中学校の教科書採択への攻撃に反対し、同校の姿勢に連帯するアピールを採択した。

【写真】上=入廷する植村さんと弁護団、下=報告集会(左)と田中宏さん
photo by Kazuhiro ISHII






























灘中問題でアピール

9月8日に開いた植村札幌訴訟報告集会で、つぎのアピールが採択されました。アピールは、植村裁判を支える市民の会事務局が起案し、集会で読み上げて説明した後、参加者の拍手で採択されました。
全文を掲載します。


歴史教科書採択にかかわる灘中学校への

バッシングに反対し、

灘中学校の姿勢に連帯するアピール


 私立灘中学校・高等学校(神戸市)が、中学校の歴史教科書『ともに学ぶ人間の歴史』(学び舎)をめぐって、「日本会議」系と思われる右翼グループから、不当な攻撃を受けています。学園の自治、教育の自由を脅かす、危機的な状況は他校にも広がる可能性があり、3年前、北星学園大学に対して行われたバッシングとも似た様相を示しています。
 私立である同校の教科書採択は、毎回、検定済教科書の中から担当教科の教員たちが相談して候補を絞り、最終的には校長を責任者とする採択委員会で決定しています。『ともに学ぶ人間の歴史』は2015年からの新規参入ですが、同校のルールに従い公正に決められ、16年度から使用しています。担当教員たちは、同書が歴史の基本である「読んで考えること」に主眼を置いていることや、執筆者が現場を知る教員・元教員であること等を評価したそうです。しかし、同書の採択が決まった15年末から、政治的圧力や匿名の誹謗中傷が多数寄せられはじめました。
ネット上でも公開されている和田孫博校長による論稿「謂れのない圧力の中で──ある教科書の選定について──」では、灘校を襲ったバッシングと煽動者の調査・分析が綿密になされており、それらの詳細を知ることができます。例えば、教科書採択後のある会合で、自民党の県会議員から「なぜあの教科書を採用したのか」と詰問されたことや、灘校OBの自民党衆議院議員から電話がかかり、「政府筋からの問い合わせなのだが」と断った上で同様の質問を投げかけてきたことが述べられています。
和田校長は、この自民党衆院議員に対して「検定教科書の中から選択しているのになぜ文句が出るのか分かりません。もし教科書に問題があるとすれば文科省にお話し下さい」と返答したそうですが、それもそのはず、国立や私立学校の教科書の採択の権限は校長にあり、直近の15年度検定に合格した同書を学校が採択したことに何ひとつ問題などありません。にもかかわらず、現在まで同校には、「「学び舎」の歴史教科書は「反日極左」の教科書であり、将来の日本を担っていく若者を養成するエリート校がなぜ採択したのか? こんな教科書で学んだ生徒が将来日本の指導層になるのを黙って見過ごせない。即刻採用を中止せよ」「OBだが今後寄付はしない」等といったほぼ同文のハガキが200枚以上、散発的に寄せられているとのことです。
和田校長の調査によって、誹謗中傷の煽動者は、日本会議とも関係の深い自称「近現代史研究家」水間政憲氏であることが明らかにされました。水間氏は自身のブログ上で「学び舎」の教科書を採択した学校を名指し、各校に対して、抗議の「緊急拡散」を呼びかけており、そこに掲載された抗議文例や「指南」は、実際、灘校に寄せられたハガキの文面とほぼ同一のものだといいます。
このようにネット上で広く誹謗中傷を呼びかける手法は、朝日新聞元記者の植村隆氏や北星学園大学が日本軍「慰安婦」問題をめぐって受けたバッシングと同様のものであり、私たちは、仮想空間で膨れ上がる一方的な他者への排撃や不寛容さ、反知性主義の噴出を見過ごすわけにはいきません。
さらに、同校が誹謗中傷のターゲットとされた要因のもうひとつには、和田校長も指摘するとおり、『産経新聞』(2016319日、1面)の「慰安婦記述 三十校超採択̶――「学び舎」教科書 灘中など理由非公表」という見出し記事の影響もあるようです。そこからは、思想的背景にとどまらず、フジ・サンケイグループ傘下の「育鵬社」が発行する『新しい日本の歴史』に対し、いわゆる進学校を中心に採択が進んだ「学び舎」の教科書への危機意識も読み取れます。
和田校長をはじめ、灘中学校教職員のみなさんの教科書採択に関わる誠実な対応と、理不尽なバッシングに屈せず教育者として教育の自由、学問の自由を堅持する揺るぎない姿勢と見識に深い感銘を覚えるとともに、それらの自由を侵害し、教育現場を萎縮させるいかなる圧力にも断固として反対することを表明します。

201798日 
植村裁判札幌訴訟 第9回口頭弁論報告集会 参加者一同

2017年9月4日月曜日

口頭弁論は終盤に!

9~10月の裁判日程は次の通りです。
裁判はいよいよ終盤の大詰めにさしかかっています。
傍聴と集会参加をよろしくお願いします。

■札幌訴訟第9回口頭弁論=9月8日(金)午後3時半、札幌地裁
 報告集会=午後5時、北海道自治労会館(北区北6条西7丁目)
 講演・田中宏氏(一橋大名誉教授、マケルナ会呼びかけ人)
 「アジアと日本が共存するには――」

■東京訴訟第10回口頭弁論=10月11日(水)、午後3時、東京地裁
  報告集会=午後4時、参議院会館講堂
    講演・楊井人文氏(弁護士、日本報道検証機構代表理事)

■札幌訴訟第10回口頭弁論=10月13日(金)、午後3時半、札幌地裁
※口頭弁論は進行協議(非公開)に切り替わりました。傍聴はありません。
 報告集会は、午後6時30分から開催します。
 報告集会=午後5時→6時30分、高教組会館、講演・高嶋伸欣氏


2017年9月3日日曜日

朝日新聞社への訴訟

慰安婦報道をめぐって朝日新聞社が訴えを起こされた3つの集団訴訟のうち、東京高裁での審理が残されていた「朝日・グレンデール訴訟」の控訴審判決が2月8日(2018年)にあり、原告の控訴は棄却された。この結果、朝日新聞社に対する集団訴訟は、1、2審ともすべて原告敗訴、朝日新聞勝訴となった。3つの訴訟のうち2つは、すでに上告棄却もしくは上告断念により判決が確定している。
<2018年2月11日現在>
原告側は、いずれの訴訟でも、朝日新聞の慰安婦報道は「誤報」だとし、人格権や、知る権利、日本と日本人の名誉が傷つけられた、などと主張した。また、朝日新聞の報道が国際的に大きな影響を与えたかどうか、も争点となった。しかし、朝日新聞の記事が名誉棄損にはならず、海外での影響にも因果関係はない、と司法が繰り返し判断した。原告側の主張はことごとく否定された。

訴えを起こした団体・個人はみな、従軍慰安婦が存在した事実を否定しようとする「歴史修正主義」勢力と密接な関係を持っている。とくに「朝日新聞を糺す国民会議」弁護団の高池勝彦氏は、植村裁判では櫻井よしこ氏の弁護人をつとめている。これらの集団訴訟は植村裁判とは直接の関係はなく、植村氏の記事は争点にもなっていない。しかし、慰安婦報道を巡る名誉棄損訴訟であり、「歴史修正主義」人脈が背景に見え隠れしている点は共通している。その意味で、ほぼ同じ時期に進められてきた植村裁判にとっても重要な意味を持つ司法判断となった。

3つの訴訟の概要・経過は次の通り。

この記事は随時更新しています <最新更新日:2018年2月11日>

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「朝日新聞を糺す国民会議」による訴訟
朝日新聞の誤報によって人格権や名誉権を毀損されたとして、2万5千人が原告となって朝日新聞社を訴えた。「チャンネル桜」や「頑張れ日本!全国行動委員会」が主導し、朝日新聞東京本社と大阪本社前で毎週、街宣活動をしているグループだ。
口頭弁論は2016年3月17日の第3回で打ち切られ、結審した。原告は裁判官忌避や弁論再開を申し立てたが、いずれも却下された。判決は2016年7月28日(木)午後3時から東京地裁103号法廷で言い渡され、原告の請求を棄却した。
原告は控訴人を57人に絞り込んで控訴した。控訴審判決は、2017年9月29日に言い渡され、控訴を棄却した。原告は期限までに上告しなかったので、原告敗訴で確定した。

■1審原告敗訴の記事(朝日新聞2016年7月29日付) 
朝日新聞の慰安婦に関する報道で「国民の名誉が傷つけられた」とし、渡部昇一名誉教授ら国内外の2万5722人が朝日新聞社に謝罪広告や1人1万円の慰謝料を求めた訴訟の判決で、東京地裁(脇博人裁判長)は28日、原告の請求を棄却した。原告は控訴する方針。
対象は、慰安婦にするため女性を無理やり連行したとする故吉田清治氏の証言記事など、1982~94年に掲載された計13本の記事。原告側は「日本国民の国際的評価を低下させ、国民的人格権や名誉権が傷つけられた」と訴えた。
判決は、記事は旧日本軍や政府に対する報道や論評で、原告に対する名誉毀損(きそん)には当たらないとした。報道によって政府に批判的な評価が生じたとしても、そのことで国民一人一人に保障されている憲法13条の人格権が侵害されるとすることには、飛躍があると指摘した。また、掲載から20年以上過ぎており、仮に損害賠償の請求権が発生したとしてもすでに消滅している、とも述べた。
朝日新聞社広報部は「弊社の主張が全面的に認められた、と受け止めています」との談話を出した。
■控訴審判決=記事略 原告は控訴人を57人に絞り込んで東京高裁に控訴した。控訴審第1回は2017年2月21日、第2回は6月2日、第3回は7月21日に開かれ、結審した。原告側が求めていた証人尋問の申請は1審と同様に退けられた。判決は9月29日(金)午前11時、東京高裁101号法廷で言い渡され、野山宏裁判長は控訴を棄却した。
■判決確定の記事(朝日新聞2017年10月18日付)
朝日新聞の慰安婦に関する報道で「国民の名誉が傷つけられた」として、国内外の56人が1人1万円の慰謝料を朝日新聞社に求めた訴訟で、朝日新聞社を勝訴とした二審・東京高裁判決が確定した。原告側が13日の期限までに上告しなかった。一連の報道をめぐる訴訟で、判決が確定するのは初めて。
訴訟で対象になったのは、慰安婦にするため女性を無理やり連行したとする故吉田清治氏の証言記事など、1982〜94年に掲載された計13本の記事。昨年7月の一審・東京地裁判決は「記事は旧日本軍や政府に対する報道や論評で、原告に対する名誉毀損(きそん)には当たらない」と判断。今年9月の二審・東京高裁判決も一審判決を支持し、原告の控訴を棄却した。
朝日新聞の慰安婦報道をめぐっては、三つのグループが朝日新聞社に対し集団訴訟を起こしていた。

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「朝日新聞を正す会」による訴訟
480人余が朝日新聞社を相手取り訴えた。2016年6月24日に結審し、9月16日に原告は敗訴。二審の東京高裁も2017年3月1日に控訴を棄却した。原告は上告したが、最高裁は10月24日付で上告を棄却し、原告敗訴判決が確定した。

■1審原告敗訴の記事(朝日新聞2016年9月17日付)
朝日新聞の慰安婦に関する報道で「知る権利を侵害された」として、購読者を含む482人が朝日新聞社に1人あたり1万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は16日、原告の請求を棄却した。北沢純一裁判長は「記事は特定の人の名誉やプライバシーを侵害しておらず、原告は具体的な権利侵害を主張していない」などと述べた。原告側は控訴する方針。
対象は、慰安婦にするために女性を無理やり連行したとする故吉田清治氏の証言記事など。判決は、新聞社の報道内容について「表現の自由の保障のもと、新聞社の自律的判断にゆだねられている」と指摘。「一般国民の知る権利の侵害を理由にした損害賠償請求は、たやすく認められない」と述べた。
朝日新聞広報部は「弊社の主張が全面的に認められた、と受け止めています」との談話を出した。

■2審控訴棄却の記事(2017年3月2日付)
朝日新聞の慰安婦に関する報道で「知る権利を侵害された」として、東京都や山梨県などに住む238人が朝日新聞社に1人あたり1万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(野山宏裁判長)は1日、原告の控訴を棄却した。「記事は特定の人の名誉やプライバシーを侵害していない」などとして原告の請求を棄却した昨年9月の一審・東京地裁判決を支持した。
訴えの対象は、慰安婦にするため女性を無理やり連行したとする故吉田清治氏の証言などの朝日新聞記事。
この日の判決は「記事への疑義を速やかに検証し報道することは、報道機関の倫理規範となり得るが、これを怠ると読者や一般国民に対して違法行為になるというには無理がある」などと述べた。朝日新聞社広報部は「一審に続いて弊社の主張が全面的に認められた、と受けとめています」との談話を出した。
■最高裁、原告の上告退け判決は確定(2017年10月24日付)=記事略

※同会による甲府訴訟
「朝日新聞を正す会」の呼びかけで150人が甲府地裁に提訴した集団訴訟の第1回口頭弁論が2016年11月8日午前10時30分から、同地裁211号法廷で開かれた。この日の法廷に出たのは弁護士1人のみで、提訴時に県庁で会見した「正す会」の事務局長や埼玉県内在住の原告らの姿はなし。多数の傍聴を予想した裁判所側は10人ほどの職員を動員して警備にあたったが、行列に並んで傍聴券を受け取ったのはたった1人(朝日新聞甲府総局長)、記者席に座ったのはたった2人だった 
判決は2017117日(火)午後115分、甲府地裁211号法廷で言い渡され、原告の請求を棄却した。原告は控訴せず、判決は確定した。
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いわゆる「朝日・グレンデール訴訟」
在米日本人ら2500人が、「朝日が慰安婦問題の誤報を国際的に拡散させたことから米国のグレンデールという町などで慰安婦像が建立され、日本と日本人の名誉が傷つけられた」などとして朝日新聞社を訴えた。日本会議系の人々が支援している。2016年12月22日まで9回の口頭弁論が開かれ、2017年4月27日、東京地裁522号法廷で判決が言い渡された。
原告側側は控訴した。控訴審第1回は10月26日午後2時、東京高裁809号法廷で開かれる。控訴人の人数は62人に絞り込まれ、このうち在外原告は26人。グレンデール市近郊に住み、市議会で慰安婦像設置に反対したことで「侮辱され損害を受けた」などと訴えて筆頭原告となっていた在米日本人の作家・馬場信浩氏ら2人が、控訴を取り下げた。その間の経緯は馬場氏のフェイスブックに書かれている。慰安婦像をめぐって「いじめがあったかどうか」で見解の相違があったといわれる。
控訴審判決は2018年2月8日にあり、原告の控訴は棄却された。

1審原告敗訴の記事(朝日新聞2017年4月28日付)
朝日新聞慰安婦報道で誤った事実が世界に広まり名誉が傷つけられ、また米グレンデール市に慰安婦像が設置されて在米日本人が市民生活上の損害を受けたなどとして、同市近郊に住む在米日本人を含む2557人が朝日新聞社に対し損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は27日、原告の請求を棄却した。佐久間健吉裁判長は、記事は名誉毀損(きそん)にも在米日本人らへの不法行為にもあたらない、と判断した。原告側は控訴する方針。
訴えの対象は「慰安婦にするため女性を無理やり連行した」とする吉田清治氏の証言に関する記事など朝日新聞記事49本と英字版記事5本。佐久間裁判長は判決で「記事の対象は旧日本軍や政府であり原告ら現在の特定個人ではない。問題となっている名誉が原告ら個人に帰属するとの評価は困難」とし、「報道で日本人の名誉が傷つけられた」とする原告の主張を退けた。
また、報道機関の報道について「受け手の『知る権利』に奉仕するもので、受け手はその中から主体的に取捨選択し社会生活に反映する」と位置づけた。
それを踏まえて「記事が、国際社会などにおける慰安婦問題の認識や見解に何ら事実上の影響も与えなかったということはできない」とする一方で、「国際社会も多元的で、慰安婦問題の認識や見解は多様に存在する。いかなる要因がどの程度影響を及ぼしているかの具体的な特定は極めて困難」と指摘。そのうえで、在米の原告が慰安婦像設置の際に受けた嫌がらせなどの損害については「責任が記事掲載の結果にあるとは評価できない」と結論づけた。
朝日新聞慰安婦報道をめぐっては、三つのグループが朝日新聞社に対し集団訴訟を起こした。いずれも東京地裁や高裁の判決で請求が棄却されている。
判決は、吉田証言などを取り上げた朝日新聞の報道が海外で影響を与えたかについても言及した。
原告側は裁判で、慰安婦問題について日本政府に法的責任を認めて賠償するよう勧告した国連クマラスワミ報告(96年)や、歴史的責任を認めて謝罪するよう求めた米国の下院決議(07年)が、朝日の慰安婦報道の影響によるものと主張した。
これについて判決は、クマラスワミ報告での慰安婦強制連行に関する記述は吉田証言が唯一の根拠ではなく、元慰安婦からの聞き取り調査もその根拠であることや、クマラスワミ氏自身、「朝日が吉田証言記事を取り消したとしても報告を修正する必要はない」との考えを示している、と認定。米下院決議については、決議案の説明資料に吉田氏の著書が用いられていないことも認定した。
また原告は、「朝日新聞が80年代から慰安婦に関する虚偽報道を行い、92年の報道で、慰安婦と挺身(ていしん)隊の混同や強制連行、慰安婦数20万人といったプロパガンダを内外に拡散させた」などと主張した。この点について判決は、韓国においては「慰安婦の強制連行」が46年から報じられた▽45年ころから60年代前半までは「挺身隊の名のもとに連行されて慰安婦にされた」と報道された▽「20万人」についても70年には報道されていた、と認めた。

■控訴棄却の記事(朝日新聞2018年2月9日付)
朝日新聞の慰安婦に関する報道で誤った事実が世界に広まり名誉を傷つけられたなどとして、国内外に住む62人が朝日新聞社に謝罪広告の掲載などを求めた訴訟の控訴審判決が8日、東京高裁であった。阿部潤裁判長は請求を棄却した一審・東京地裁判決を支持し、原告側の控訴を棄却した。
訴えの対象とされたのは、慰安婦強制連行したとする吉田清治氏の証言に関する記事など。米国グレンデール市近郊に住む原告らは「同市などに慰安婦像が設置され、嫌がらせを受けるなど、市民生活での損害を受けた」として、1人当たり100万円の損害賠償も求めていた。
高裁判決はまず、一審判決を踏襲し、「記事の対象は旧日本軍や政府で、原告らではない」として名誉毀損(きそん)の成立を否定した。
原告側は、記事により「日本人が20万人以上の朝鮮人女性を強制連行し、性奴隷として酷使したという風評」を米国の多くの人が信じたため、被害を受けたとも訴えていた。
高裁判決はこの点について、「記事が、この風聞を形成した主要な役割を果たしたと認めるには十分ではない」と指摘。さらに、「読者の受け止めは個人の考えや思想信条が大きく影響する」などと述べ、被害と記事の因果関係を否定した。
一審の原告は2557人だったが、このうち62人が控訴していた。朝日新聞の慰安婦報道を巡っては、他に二つのグループも訴訟を起こしていたが、いずれも請求を棄却する判決が確定している。原告側は判決後に会見し、代理人弁護士は「大変残念だ。上告するか検討する」と話した。<朝日新聞社広報部の話> 弊社の主張が全面的に認められたと考えています。
<解説記事>国際的影響、「主な役割」否定
今回の裁判の争点の一つは、朝日新聞の慰安婦報道が国際的に影響を及ぼしたかどうかだった。「主要な役割を果たしたと認めるには十分ではない」と高裁判決は認定した。
朝日新聞社が委嘱した第三者委員会は2014年12月の報告書で「国際社会に対してあまり影響がなかった」「大きな影響を及ぼした証拠も決定的ではない」とする委員の意見を紹介。韓国への影響については見解が分かれ、「韓国の慰安婦問題批判を過激化させた」「韓国メディアに大きな影響を及ぼしたとはいえない」と両論を併記した。
16年2月の国連女子差別撤廃委員会で外務省の杉山晋輔外務審議官(当時)は、慰安婦を狩り出したと述べた吉田氏について「虚偽の事実を捏造(ねつぞう)して発表した」と説明。「朝日新聞により事実であるかのように大きく報道され、日本、韓国の世論のみならず国際社会にも大きな影響を与えた」と述べた。これに対し朝日新聞社は「根拠を示さない発言で、遺憾だ」と外務省に申し入れた。
今回の訴訟で原告側は、杉山氏の発言を証拠として提出。8日の東京高裁判決では「朝日報道が慰安婦問題に関する国際社会の認識に影響を与えたとする見解がある」とした昨年4月の東京地裁判決を引用しつつ、吉田氏の証言(吉田証言)について「国際世論にどう影響を及ぼしたかについては原告らと異なる見方がある」と述べた。
原告側はまた、慰安婦問題を報じた朝日新聞の記事が、1996年に国連人権委員会特別報告者クマラスワミ氏が提出した「クマラスワミ報告」に影響を与えたとも主張。この報告は慰安婦問題について、法的責任を認め被害者に補償するよう日本政府に勧告していた。
高裁判決は一審判決を踏まえ、「クマラスワミ報告は吉田証言を唯一の根拠としておらず、元慰安婦からの聞き取り調査をも根拠としている」と指摘。慰安婦問題をめぐり日本政府に謝罪を求めた07年の米下院決議についても、「説明資料に吉田氏の著書は用いられていない」とした。

さらに、朝日新聞の報道が韓国に影響したとの原告側の主張に対しては、高裁判決は「韓国では46年ごろから慰安婦についての報道がされていた」と認定した。

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資料■ 1審判決理由要旨
朝日新聞の慰安婦報道をめぐり、米国・グレンデール市近郊に住む日本人らが損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁が2017年4月27日に言い渡した判決理由の要旨は次の通り。
1 在米原告らを除く原告らの名誉毀損(きそん)にかかる請求について
不法行為としての名誉毀損(きそん)が成立するためには、問題となっている名誉、すなわち、品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価が特定の者に帰属するものと評価することができ、かつ、その特定の者についての名誉が被告の表現行為によって低下したと評価できることが必要である。
本件各記事の対象は、旧日本軍ひいては大日本帝国ないし日本政府に関するものであり、原告らを始めとする現在の特定個々人を対象としたものではない。また、日本人としてのアイデンティティーと歴史の真実を大切にし、これを自らの人格的尊厳の中核に置いて生きている日本人という原告らのいう日本人集団の内包は主観的であって、原告らのいう日本人集団の外延は不明確であり、原告らのいう日本人集団自体ひいてはその構成員を特定することができない。したがって、本件で問題となっている名誉が原告ら個々人に帰属するものと評価することは困難であり、原告ら個々人についての国際社会から受ける社会的評価が低下したと評価することもまた困難である。
2 在米原告らの名誉毀損にかかる請求について
本件各記事の掲載は、在米原告らの名誉を毀損するとはいえず、在米原告らとの関係で我が国民法709条及び同710条所定の不法行為を構成しない。したがって、法の適用に関する通則法22条1項により、米国法を検討するまでもなく、在米原告らは、被告に対して米国法に基づく損害賠償その他の処分の請求をすることができない。
3 在米原告らの一般不法行為にかかる請求について
報道機関による報道が、さまざまな意見、知識、情報を広く情報の受け手に対して提供することを目的とし、実際においてもそのような機能を果たしていることに加え、クマラスワミ報告の内容等の各認定事実をも考慮すると、被告の本件各記事掲載が、原告がいう国際社会、具体的には国連関係機関、米国社会や韓国社会などにおける慰安婦問題にかかる認識や見解あるいはその一部に対し、何らの事実上の影響をも与えなかったということはできない。しかしながら他方で、吉田証言がいわゆる従軍慰安婦問題にかかる国際世論に対していかなる影響を及ぼしたのかに関して原告らとは異なる見方があること等の各認定事実を考慮すると、国際社会でのいわゆる従軍慰安婦問題にかかる認識や見解は、原告がいう内容のものに収斂(しゅうれん)されているとまではいえず、多様な認識や見解が存在していることがうかがえる。そして、それら認識や見解が形成された原因につき、いかなる要因がどの程度に影響を及ぼしているかを具体的に特定・判断することは極めて困難であるといわざるを得ない。しかも、在米原告らに対する侮辱、脅迫、いじめや嫌がらせ等の行為は特定の者による行為であるところ、当該行為者は人として自由な意思に基づき自らの思想信条を形成し、また行動する存在であって因果の流れの一部として捉えることができるものではない。在米原告らの具体的被害の法的責任を被告の本件各記事掲載行為に帰せしめることはできない。

2017年9月2日土曜日

各紙が産経問題報道

植村隆さんがきのう(9月1日)、産経新聞に訂正を求めて東京簡裁に調停を申し立てたことについて、各紙が電子版と本紙で報じています。産経新聞もきちんと記事にしています。

産経新聞
見出し:
元朝日記者・植村氏、調停申し立て
記事:
慰安婦報道をめぐる産経新聞のコラムに誤りがあったとして、元朝日新聞記者の植村隆氏(59)が1日、産経新聞社に訂正広告の掲載などを求める調停を東京簡裁に申し立てた。コラムはジャーナリスト、櫻井よしこ氏の「美しき勁き国へ」(平成26年3月3日付)。産経新聞社広報部は「申立書が届いていない現時点でのコメントは差し控えます」としている。

北海道新聞、毎日新聞、東京新聞、琉球新報ほか(電子版)=いずれも共同記事
見出し:
慰安婦報道 元朝日の植村隆氏、産経に訂正求める調停
記事:
元朝日新聞記者で慰安婦報道に関わった植村隆氏(59)が1日、産経新聞に掲載されたジャーナリスト桜井よしこ氏のコラムに誤りがあるとして、産経新聞社に訂正広告の掲載を求める調停を東京簡裁に申し立てた。
植村氏は1991年、慰安婦として韓国で初めて名乗り出た女性の記事を執筆。桜井氏は2014年3月3日付の産経新聞1面で、この女性について「東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている」と指摘した。
産経新聞社広報部は「申立書が届いていないのでコメントは差し控える」としている。(共同)

朝日新聞(デジタル版)
見出し:
慰安婦報道巡り産経新聞に訂正求め申し立て 元朝日記者
記事:
経新聞の事実に反する記事で名誉を傷つけられたとして、元朝日新聞記者の植村隆・韓国カトリック大客員教授が1日、産経新聞社に訂正を求める調停を東京簡裁に申し立てた。
記事は2014年3月3日付産経新聞に掲載されたジャーナリスト櫻井よしこ氏のコラム記事「美しき勁(つよ)き国へ 真実ゆがめる朝日報道」。櫻井氏は、韓国人元慰安婦の金学順(キムハクスン)さんのことを植村氏が朝日記者時代の1991年8月に朝日新聞で報じたことを紹介したうえで「金学順氏は後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている」と記した。
しかし金さんが91年12月に東京地裁に提訴した際の訴状に、そうした記述はない。植村氏は「訴状にないことを、あたかも訴状にあるかのように書いて、私の記事を批判している」と述べた。
植村氏は昨年7月から産経新聞社に訂正を求めてきたが、拒否する回答書が今年5月に送られてきたため、調停を申し立てたという。産経新聞社広報部は「申立書が届いていない現時点でのコメントは差し控えます」とのコメントを出した。(編集委員・北野隆一

2017年9月1日金曜日

産経新聞は訂正を!

櫻井コラムは「フェイクニュースの類」

植村さんが東京簡裁に「調停」申し立て


産経新聞が一面に掲載した櫻井よしこ氏のコラムに誤りがあるのに訂正に応じないとして、植村隆さんが91日、記事の訂正を求める調停を東京簡裁に申し立てました。

金学順さんの訴状にないことを櫻井氏は書いた

問題になっているのは、産経新聞が201433日付けの一面で掲載した櫻井よしこ氏の「美しき勁き国へ『真実ゆがめる朝日新聞』」と題するコラムです。その中で、櫻井氏は元慰安婦の金学順さんについて「東京地裁に裁判を起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたと書いている」と書いていますが、金さんの訴状にはそうした記述はまったくないのです。

植村さんは記者会見で、「『訴状にない』ことを、あたかも「訴状にある」かのように書いて、私の名誉を毀損し、故金学順さんの尊厳を冒涜している」と述べ、櫻井コラムと産経新聞の対応について「ウソに基づいたフェイクニュースの類。明らかなルール違反で、情報の改ざんです」と厳しく批判しました。

訂正を拒否するなら裏付け資料を提出せよ

櫻井氏本人も、2016422日の札幌訴訟の第一回期日後の記者会見では、「訴状にそれが書かれていなかったことについては率直に改めたい」と述べていました。その後も訂正がないため、植村さんは同年6月に内容証明で訂正を要求しました。しかし、産経新聞は「重要な点は、訴状にそのとおりの表現で明記されているかどうかではない」として応じていません。それどころか、「当社は、各種資料からも、『金学順さんが家族による人身売買の犠牲者であること』は明確に裏付けられていると認識しております」と主張しています。

これに対し、植村さんの代理人である神原元弁護士は、当時の新聞記事や聞き取り調査などの金学順さんの証言を列挙したうえで「『家族による人身売買』を裏付けるような資料は見当たりません」と述べ、産経側が訂正を拒否し続けるなら、その裏付けとなる『各種資料』をすべて証拠として提出するよう求めました。

「一発でレッドカードの記事ですね」

民事調停は、裁判官と調停委員が双方の言い分を聴いた上で,公正な判断のもとに調整する手続き。裁判の判決と異なって、双方の合意が必要になります。

記者会見で、なぜ裁判ではなく調停を申し立てたのかという質問に対して、植村さんは「誤りを訂正するという当然のことを求めているので、裁判以前の問題だと思うから」と答えました。また、金さんの訴状に問題の部分が記載されていないことを確認したY紙記者が、産経側の対応について「サッカーでいえば一発でレッドカードですね」と発言。植村さんも「その通り。『訴状によると』という原稿を書いている司法記者の皆さんなら、この問題の重みがわかると思う」と応じる一幕もありました。
(T.M記)

「調停申立書」全文は記録サイト「植村裁判資料室」に収録 こちら



記者会見する植村さんと神原元弁護士
(9月1日、東京・霞が関の司法記者クラブで)
今回の申立ては、慰安婦問題についての論争ではありません。訴状に書いてあるのか、ないのか、という極めて客観的な事実確認の問題なのです。速やかに確認をしていただき、「訴状にはそうした情報はありませんでした」という趣旨の訂正をして欲しいということだけです。
いま世の中では、フェイクニュースという言葉が流布しております。ウソを基にしたニュースということです。この櫻井氏の記述も、その類ではないでしょうか。しかし、私はそれを看過するわけにはいきません。

【記者会見で読み上げた植村さんの声明】

私が書いた慰安婦問題の記事(1991年8月11日付朝日新聞大阪本社版社会面=「週刊金曜日」抜き刷り版のp24)について、2014年3月3日付の産経新聞のコラム記事「真実ゆがめる朝日報道」(筆者は櫻井よしこ氏)は、明らかに事実ではない情報を基に、私を批判しております。これは私の名誉を著しく傷つけるものです。今回の調停申立ては、この櫻井氏のコラム記事を掲載した新聞社に、訂正を求めるものです。

この産経新聞の記事で、櫻井氏は、「この女性、金学順氏は後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている。植村氏は彼女が人身売買の犠牲者であるという重要な点を報じず、慰安婦とは無関係の『女子挺身隊』と慰安婦が同じであるかのように報じた。それを朝日は訂正もせず、大々的に紙面化、社説でも取上げた。捏造を朝日は全社挙げて広げたのである」と書いています。

この櫻井氏の書いた訴状のくだりの部分、つまり「この女性、金学順氏は後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている」とありますが、訴状にはそのようなことは全く書かれていません。訴状には慰安婦になった経緯について、こうあります。

《 原告金学順(以下、「金学順」という。)は、一九二三年中国東北地方の吉林省で生まれたが、同人誕生後、父がまもなく死亡したため、母と共に親戚のいる平壌へ戻り、普通学校にも四年生まで通った。母は家政婦などをしていたが、家が貧乏なため、金学順も普通学校を辞め、子守りや手伝いなどをしていた。金泰元という人の養女となり、一四歳からキーセン学校に三年間通ったが、一九三九年、一七歳(数え)の春、「そこへ行けば金儲けができる」と説得され、金学順の同僚で一歳年上の女性(エミ子といった)と共に養父に連れられて中国へ渡った。トラックに乗って平壌駅に行き、そこから軍人しか乗っていない軍用列車に三日間乗せられた。何度も乗り換えたが、安東と北京を通ったこと、到着したところが、「北支」「カッカ県」「鉄壁鎭」であるとしかわからなかった。「鉄壁鎭」へは夜着いた。小さな部落だった。養父とはそこで別れた。金学順らは中国人の家に将校に案内され、部屋に入れられ鍵を掛けられた。そのとき初めて「しまった」と思った。》

訴状には金学順さんが「人身売買の犠牲者である」と断定するような記述はありません。櫻井氏の書いたような、「この女性、金学順氏は後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている」という記載は、見当たらないのです。

つまり「訴状にない」ことを、あたかも「訴状にある」かのように書いて、私の記事を批判しているのです。それは故金学順さんの尊厳を冒涜し、名誉を毀損することです。本人が言ってないことを、言ったことにしているからです。みなさんは司法担当記者をされているので、「訴状によると」という記事をよく書かれると思います。訴状にないことを、「訴状で」と書いた場合のことを想像してください。そして、当事者からその誤りを指摘された時は、どうされるでしょうか。通常はすぐに訂正を出すと思います。「訴状で」として、訴状にないことを書くのは、明らかにルール違反です。それは、情報の改ざんです。

今回の申立ては、慰安婦問題についての論争ではありません。訴状に書いてあるのか、ないのか、という極めて客観的な事実確認の問題なのです。速やかに確認をしていただき、「訴状にはそうした情報はありませんでした」という趣旨の訂正をして欲しいということだけです。しかし、その前提情報が削除された場合、櫻井氏の主張が説得力をもつのか、どうか。櫻井氏、産経新聞、読者の皆さんにもう一度ご判断いただければということも願っております。

この訴状は、アジア女性基金のデジタル記念館で一般公開もされています。誰でも簡単に見られるものです。


この事実の間違いについて、私は櫻井氏らを訴えた訴訟の第1回口頭弁論が2016年4月22日に札幌地裁であった際、記者会見で、指摘しました。同じ日に櫻井氏は札幌で開いた記者会見で、「訴状にそれが書かれていなかったということについては率直に私は改めたいと思います」と語っておられています。また、ご自身が訴状を持っていることや再度確認するとも表明されていました。そうした事実は、デジタルの「産経ニュース」(2016年4月25日付)で報じられています。お手元にその抜粋を配布しました。この「産経ニュース」は現在もネットで見られます。

しかし、その後も、訂正されませんでした。このため、私は代理人を通じて、①この櫻井氏のコラム記事の訂正②産経新聞が私の札幌訴訟について報じた記事で、賠償金額を間違えたことの訂正――の二つの訂正を要求しました。産経は②については2017年4月8日付社会面で、訂正しましたが、①の櫻井のコラム記事については、いまだに訂正を出していません。

産経新聞は2015年2月23日付の記事(筆者、秦郁彦氏)でも、私に関して事実誤認の報道をしました。これについて、代理人を通じて、訂正要求をしましたところ、同年6月8日付紙面に「おわび」が掲載され、訂正されました。配布した資料のとおりです。この件の経緯については、「週刊金曜日」抜き刷り版のp44~p47に詳しく書いております。

私としては一刻も早く、このような訂正を櫻井氏の記事についても、実行して欲しいと思います。もとより、この記事は私の名誉を毀損するものですが、私としては、訂正されれば、それで終わりにしようと思っています。別に産経新聞から、損害賠償金をいただこうと考えているわけではないのです。新聞社としての基本的なルール、事実に基づいて記事を書くようにして欲しいというだけであります。

いま世の中では、フェイクニュースという言葉が流布しております。ウソを基にしたニュースということです。この櫻井氏の記述も、その類ではないでしょうか。しかし、私はそれを看過するわけにはいきません。

皆さん、想像してください。もし、皆さんが他者から、「虚偽事実」あるいは「改ざんされた根拠」に基づいて非難されたら、どう思われますか。それを新聞の一面で書かれたら、どうされますか。それを考えてみてください。言論は自由だ、と思います。私を批判することも、もちろん自由です。しかし、「事実に基づかない根拠」で批判をしないでいただきたい。報道や論評は、事実に基づいて欲しいと思います。それが報道機関、ジャーナリストのルールだと思います。