2016年9月18日日曜日

植村隆のソウル通信第4回

「ほぼ満月」とウイスキー



秋の気配が漂い始めました。
きょうは、《ちょっと遅めの中秋の名月@韓国カトリック大学》の写真を皆様にごらんにいれたいと思います。

本日18日午前6時前に、キャンパス内の木立の間から見える月を望遠レンズで撮りました。
韓国の報道によれば、この時期にいちばんまるくなる満月の日は、17日午前4時5分。きのうの未明です。この月をとろうと、カメラを準備していたのですが、きのうは曇っており、満月が見られませんでした。

今朝、自宅のあるゲストハウスを出て、研究室に向かって歩いていたら、西の空に、 この「ほぼ満月」が出ていたのでした。
「そうだ、一日遅れでもいいんだ」。
そう思って、あわてて研究室に置いていたカメラを取りに行き、キャンパス内の坂道を上って、この「ほぼ満月」を撮ったのでした。

もうすぐ夜明けです。
写真を撮り終えて、月と反対側にある研究室のほうへ歩くと、東の空が赤くなっていました。
朝焼けです。

研究室に戻って、パソコンでこの写真を見ました。薄暗い空に浮かぶ月の写真はなかなか、雰囲気がありました。デスクトップの背景にちょうどいいなと思って、設定してみたら、いい具合になりました。当分、この「ほぼ満月」をパソコンの画面で、楽しもうと思います。

■秋夕5連休の帰省ラッシュ

旧暦の8月15日を日本では中秋といいますが、韓国では秋夕(チュソク)といいます。
この秋夕は、韓国では重要な名節のひとつで、家族が集まり祖先祭祀をしたり、墓参をしたりします。今年の秋夕は、9月15日でした。前後3日間が休日となるので、土日とあわせ、9月14日~18日まで5連休となっています。

大学も休みになります。韓国の人口は、8月現在で5164万人で、ソウル市の人口は997万人です。近郊も含めた首都圏の人口はさらに多くなります。この首都圏の人びとの中で、地方出身者は、秋夕の連休には故郷に戻ります。いわば民族大移動の時期なのです。
日本でもお盆の時期には帰省ラッシュとなりますが、韓国はそのラッシュの具合がもっとすごいです。

ソウルに隣接する富川市に本部キャンパスがあるカトリック大学では、秋夕連休の前日の9月13日、運動場に大型バスが8台集結していました。バスのフロントガラスにはそれぞれ「大邱」「釜山」「光州」などと行き先がかかれています。
これは、秋夕に帰省する地方出身の学生のために、大学が手配した臨時バスなのです。
驚きました。日本では、さすがにお盆に帰省する学生のために、大学が臨時バスを手配するということは聞いたことがありませんよね。

実は、この9月13日は火曜日で、私の後期第3回目の講義の日でした。午後3時から、3時間の授業です。その1週間前の6日に、一部の学生たちが、「先生、13日午後2時に大学から帰省のバスが出るので授業に出られないのです」などと話していたので、この臨時バスのことを私も知りました。
13日、講義を始めて出席をとると、37人登録のうち出席者は22人。出席率は約6割 。4割のほどの学生が、欠席です。たぶん、かなりの学生が、あのバスに乗って帰省するのでしょう。
まあ、よかよか。

もちろん、地方に勤務している、ソウル出身者はこの逆で、この時期に、ソウルへ戻ってくることになります。そういうケースの青年が、13日、私を訪ねてくれました。

■北星の教え子、いま部下30人の少尉

講義が始まる前、昼前のことでした。
今年春、カトリック大学を卒業して職業軍人になった青年が研究室に顔を出してくれたのです。彼は、地方勤務なのですが、実家はソウルにあるのです。
「秋夕の休みで戻ってきました。これ軍隊なので安く買えました」と言って、お土産のウイスキーを手渡してくれました。紙ケースに「軍納用」とかかれてあるスコッチウイスキーです。ありがとう。でも申し訳ないなあ。

彼は北星学園大学への留学生で、同大の非常勤講師だった私の講義を受講していました。
あの北星バッシングの激しい時期には、彼なりのやり方で、私を励ましてくれました。授業の光景だけでなく、一緒に大通公園を歩いて、スーパー銭湯へ行ったことや、バーベキューをやったことなどを思い出しました。

彼の心遣いに思わず涙が、出そうになりました。
彼はいま少尉だということや部下が30人ほどいるなどと軍隊生活の話をしてくれました。「自分専用の部屋があります。今度、テレビを買おうと思っています」とも。
この日は授業があるので、彼とはゆっくり話ができませんでした。「15日に昼食を一緒にとろう」 という約束をしました。ご馳走しなきゃ。

ところが、翌14日の夜、彼からメールが送られてきました。「久しぶりの休みで飲みすぎたら、二日酔いが強すぎて……」
酒が過ぎて、体調を崩して、これなくなったとのことでした。「無理をしないで」と返事のメールを打ちました。

つもる話もあったけれど、それはまた別の機会にすることにしましょう。教え子を訪ねて、軍隊に面会に行くのもいいな、と思いました。彼の持ってくれたウイスキーは研究室の机の上で、私を見守っています。

飲まずに、飾っ ておこうと思います。

2016.9.18記