2016年12月29日木曜日

植村隆のソウル通信第8回

キタリスの住むキャンパスで

12月27日、カトリック大学のキャンパスを歩いていたら、樹木を駆け上る小動物の姿が見えた。よくみると、リスだ。北海道のエゾリスによく似ている。耳の毛が長く、尻尾もふんわりと長い。
私は、ポケットからスマホを取り出して、カメラを作動させ、リスの動きを追った。
すばしっこくて、中々、レンズに入らない。それでも何枚か、可愛い姿を捕らえたので、皆様にお見せしたいと思う。とてもラッキーだった。
この春にも、キャンパス内でこのリスの姿 を見かけた。そのときは残念ながら、カメラを持っておらず、写真を写すことはできなかった。

昨年4月末から5月上旬にかけて、米国の各地の大学で講演をした。その旅行中、プリンストン大学前の住宅街でリスを見かけた。そのときも、心が和んだ。大学のキャンパスに、リスはとてもよく似合うと思う。

■ユーラシアの東端で 札幌の円山動物園のHPを見ると、このリスは北海道のエゾリスと同じ種類のリスで、キタリスというようだ。HPには、エゾリスについて、こう書いてある。
「ヨーロッパからロシア、朝鮮半島、中国北東部にかけての広い範囲に生息するキタリスの一種です」

このリスたちは、つまり、ユーラシアのあちこに住んでいるというわけだ。この朝鮮半島がユーラシアの東端にあることを改めて、想起した。
 
大学の裏に、遠美(ウォルミ)山という標高120メートルほどの山がある。この山の散策路の近くの木にこの種類のリスがいるのを何度か見た。この山のふもとの斜面に、私の勤めるカトリック大学の聖心キャンパスが広がっているのだ。リスたちは、山とキャンパスを行き来しているのだろう。

人文・芸能、社会、国際、自然、生活、工学、薬科の7系列の学部があり、1万人近い学生が、学んでいる。ソウルにある医学部や神学部のキャンパスに比べると、この聖心のキャンパスは学生数も断然多く、大学の本部も、ここに置かれている。
しかし、山のふもとにあるだけに、このように自然に恵まれているのが特徴だ。山好き、自然好きの私としては、このキャンパスがとても気に入っている。登山好きの市民たちも、このキャンパスを通って、遠美山に登っているのをよく見かける。

先月、このキャンパスの音楽科の学生たちのコンサートが行われた。ビバルディの「四季」を演奏した。私は目を閉じて、彼らの 演奏を聴きながら、このキャンパスでみた1年間の風景を振り返った。

ここを最初に訪問したのは、昨年11月だった。この大学が私を客員教授として招いてくれるという話があり、仲介人を務めてくれた友人と一緒に来たのだった。地下鉄駅から大学まで行く途中、街の街路樹のイチョウが黄色く色づき、美しかったことを覚えている。

3月が新学期だった。4月には、遠美山の散策路の桜が満開になった。校外学習と称して、講義の時間に皆で、桜で満開の散策路を歩いた。
2学期は8月末に始まり、小さな教室は学生で満員になり、とても暑かった。残暑に我慢できない学生から不満の声があがった。クーラーのスイッチを入れてもらおうと、事務所に走ったこともあった。外は緑があふれていた。
そして、また秋となり、樹木が様々な色合いに紅葉したときには、ため息がでそうだった。

そんなことを思い出しながら、「四季」のメロディーに聞きほれていた。なんだか、心が洗われるような気持ちになった。

そして、きょう12月29日、朝起きて、キャンパス内のゲストハウスを出たらキャンパスは白い化粧をまとっていた。札幌の豪雪と比べたら、なんでもない。しかし、このキャンパスは坂道が多く、すべらないように朝早くから、大学の警備の人々が雪かきをしていた。

■契約を1年延長、日本語学科でも教える 2日前、キタリスを見た場所のすぐ反対側に大学の教会の入り口があり、白いキリスト像がある。そのキリスト像の前はクリスマスシーズンのいま、24時間小さな電球の明かりがついている。その像の前にも、白い雪が積もり、幻想的な風景だった。誰かが、雪の上に英語で落書きをしていた。

2学期も終わり、受講生たちの成績もつけ終わった。大学教員としての1年間の仕事も、ほぼ終わり、いま、少し、ほっとしている。

キタリスを目撃した27日、大学の幹部と、次年度の契約をした。客員教授は1年契約だったので、それがもう1年延びたことになる。講義の時間も、これまでの週1回から、週2回に増える。火曜日の3時間に加え、月曜日の3時間。
これまでの一般教養「東アジアの平和と文化」に加え、新学期からは、日本語学科の専門科目を教えることになった。どんなふうに授業を進めるか、いま構想を暖めているところだ。これについては後日、報告したい。

■わが身のもてる力を振り絞り… というわけで、このキタリスのいるユーラシア大陸東端の大学で来年も教員を続けることになった。この自然に恵まれたキャンパスで、再び四季を楽しめる機会を得たことを感謝している。
「主よ、来年もわが身のもてる力を振り絞って励みます」
そう白いキリスト像に誓っている。