2020年2月6日木曜日

不当判決に抗議する


弁護団声明■

1 本日、札幌高等裁判所第3民事部(冨田一彦裁判長)は、元朝日新聞記者植村隆氏がジャーナリストの櫻井よしこ氏及び週刊新潮、週刊ダイヤモンド、WiLL発行の出版3社に対して、名誉毀損を理由として慰謝料の支払いなど名誉回復を求めた訴訟で、植村氏の控訴を棄却する不当判決を言い渡した。

2 控訴審の審理において、櫻井氏が記事執筆にあたり、資料を誤読・曲解したり、植村氏に取材の申し込みすら行わないなど、取材の杜撰さなどが一層明らかになった。
しかしながら、本判決は、櫻井氏が誤読・曲解した資料の「総合考慮」により金学順氏は検番の継父にだまされて慰安婦になったと信じたことに相当の理由があるとした。さらに、いわゆる吉田供述を前提に、朝鮮人女性を女子挺身隊として強制的に徴用したと報ずれば、戦争責任に関わる価値が高い反面、単なる慰安婦が名乗り出たにすぎないのであれば、報道価値が半減するとしたうえで、植村氏は女子挺身勤労令の規定による女子挺身隊と慰安婦を関連づけて報じたと信じたことには相当の理由があると判断した。
また、植村氏が事実と異なることを知りながら記事を執筆していないにも関わらず、櫻井氏がそのように信じたことについては、櫻井氏が誤読・曲解した資料の存在を理由に、植村氏本人に取材をする必要性はないとして、この点を免責した。
そもそも判例は真実相当性はこれまで相当に厳格に判断されており、本人への直接 取材などを含め、詳細な取材がなければ認められないとされてきた。本判決は、最高裁が積み上げてきた真実相当性の判断枠組みから大きく逸脱した判断であり、到底許されるものではない。

3 私たち弁護団は、本日の不当判決を受け入れることはできない。植村氏及び弁護団はこの不当判決に上告をし、植村氏の名誉回復のために全力で闘う決意である。

2020年2月6日
植村訴訟札幌弁護団


支える会声明■
「卑劣なバッシング惹起」再び免責に抗議する

一人のジャーナリストを標的とする卑劣なバッシングを惹起した言説を、札幌高裁判決はまたもや免責した。旧日本軍による性暴力被害者の悲痛な訴えを報じた朝日新聞記事を「捏造」と断じた言説に、証拠によらずに「真実相当性と公益性はある」とした一審判決をそのまま踏襲したことに驚きと憤りを禁じ得ない。市民感覚では到底理解できない判断を続ける札幌地裁・高裁に強く抗議する。

記事を執筆した原告の植村隆氏はいわれなく「捏造記者」の汚名を着せられた。得体の知れない無数の人々から「売国奴」「国賊」の罵声を浴び、家族を「殺す」と脅された。植村氏を「捏造記者」と非難し、バッシングの発火点となった被告の櫻井よしこ氏はジャーナリストを自称しながら、「社会の怒りを掻き立て、暴力的言辞を惹起しているものがあるとすれば、それは朝日や植村氏の姿勢ではないでしょうか」(『週刊文春』20141023日号)と信じがたい人権感覚を露呈した。櫻井氏が「捏造」の根拠として示したものは、植村氏本人や元慰安婦に対する丹念な取材によって積み重ねたものではなく、資料のつまみ食いと邪推のつなぎ合わせに過ぎない。しかし、控訴審判決はジャーナリストの基本動作ともいえる当事者への直接取材の必要性すら否定した。「事実を認めて、間違ったことは謝罪して」。植村氏が初報した元慰安婦、金学順氏=故人=がふり絞った魂の叫びと尊厳をも踏みにじったに等しい。

植村裁判には歴史認識の相克というもう一つの争点がある。日本の戦後民主主義は侵略戦争と植民地支配への反省から、専横の限りを尽くした国家の戦争責任と向き合う努力を重ねてきた。戦後ジャーナリズムの主要な流れもまた同様である。国家ぐるみの証拠隠滅によって生じた歴史の空白を、埋もれた資料や当事者の勇気ある証言の発掘によって地道に埋める作業が今も営々と続いている。植村氏の記事もその文脈に位置付けられる。

そうした立ち位置からの真摯な言論・報道を「国家の名誉を貶める」として排撃する歴史修正主義者たちが一部の政治勢力や知識人と呼応している。そのオピニオンリーダーの一人として櫻井氏の影響力は小さくない。櫻井氏らの言説の手法は一見美しい「愛国」の衣をかぶりながら、歪んだナショナリズムを煽動する。煽動に加担する一部メディアとの共同作業によって惹起される暴力や人権侵害に司法が寛容であれば、戦後民主主義が構築してきた自由で公正な言論空間は危殆に瀕する。植村裁判への支援を通して、日本社会に巣くう深刻な病理との闘いをこれからも継続していきたい。

2020年2月6日
植村裁判を支える市民の会