2019年8月4日日曜日

「少女像」展示中止

展示風景の一部。左が「平和の少女像」。隣の空席の椅子に観客が座り、
作品の一部となることが意図されている(写真=美術手帖.com)



8月1日に開幕した国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が、テロ予告や脅迫を受け、3日、展示中止となりました。
▼同展を企画した実行委員5氏(アライ=ヒロユキ、岩崎貞明、岡本有佳、小倉利丸、永田浩三)は8月3日、声明を発表し、「歴史的暴挙と言わざるを得ない」「戦後日本最大の検閲事件となるだろう」と強く抗議しています。 =全文下記に掲載
▼日本ペンクラブ(吉岡忍会長)も同日、声明を発表し、河村・名古屋市長や菅官房長官のコメントが政治的圧力になった、このような発言は憲法21条に反する検閲につながることになる、と批判しています。 =全文下記に掲載
※展示内容については、「美術手帖com」headline2019.8.2に詳しい説明があります。
慰安婦問題の解決に取り組んでいる団体からも8月4日、抗議文、声明が発表されました。
▼「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクション・センター VAWW RAC)は、河村市長の発言「(少女像展示は)日本人の心を踏みにじる」について、「被害女性の人権と表現の自由を踏みにじっている」と批判し、主催者側に展示継続を求めています。 =全文下記に掲載
▼日本軍「慰安婦」問題解決全国行動は、「展示中止は最悪の選択。犯罪は取り締まり、検閲は毅然としてはねのけるべき」と訴え、展示の即時再開を求めています。 =全文下記に掲載

update 2019/8/4 21:15
▼日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)が、声明「「表現の不自由展」が続けられる社会を取り戻そう」を発表しました。 全文はこちら
▼大学教員、研究者、市民運動家ら有志グループが声明を発表し、「「表現の不自由展」及び《平和の碑》展示中止反対」の署名を呼びかけています。 全文はこちら



声明■企画展実行委

「表現の不自由展・その後」の一方的中止に抗議する

 あいちトリエンナーレ2019実行委員会会長の大村秀章知事と津田大介芸術監督が、「表現の不自由展・その後」を本日8月3日で展示中止と発表したことに対して、私たち「表現の不自由展・その後」実行委員会一同は強く反対し、抗議します。
本展は、ジャーナリストである津田大介芸術監督が2015年に私たちが開催した「表現の不自由展」を見て、あいちトリエンナーレ2019でぜひ「その後」したいという意欲的な呼びかけに共感し、企画・キュレーションを担ってきました。
今回、電話などで攻撃やハラスメントがあり、トリエンナーレ事務局が
苦悩されたことに、私たちも心を痛め、ともに打開策を模索してきました。しかし、開始からわずか3日で中止するとは到底信じられません。16組の参加作家のみなさん、そして企画趣旨に理解を示して下さる観客のみなさんに対する責任を、どのように考えての判断なのでしょうか。
今回の中止決定は、私たちに向けて一方的に通告されたものです。疑義があれば誠実に協議して解決を図るという契約書の趣旨にも反する行為です。
何より、圧力によって人々の目の前から消された表現を集めて現代日本の表現の不自由状況を考えるという企画を、その主催者が自ら弾圧するということは、歴史的暴挙と言わざるを得ません。戦後日本最大の検閲事件となるでしょう。
私たちは、あくまでも本展を会期末まで継続することを強く希望します。一方的な中止決定に対しては、法的対抗手段も検討していることを申し添えます。

201983

「表現の不自由展・その後」実行委員会
アライ=ヒロユキ、岩崎貞明、岡本有佳、小倉利丸、永田浩三


声明■日本ペンクラブ http://japanpen.or.jp/statement0803/

あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展・その後」の展示は続けられるべきである

 制作者が自由に創作し、受け手もまた自由に鑑賞する。同感であれ、反発であれ、創作と鑑賞のあいだに意思を疎通し合う空間がなければ、芸術の意義は失われ、社会の推進力たる自由の気風も萎縮させてしまう。
あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展・その後」で展示された「平和の少女像」その他に対し、河村たかし名古屋市長が「(展示の)即刻中止」を求め、菅義偉内閣官房長官らが同展への補助金交付差し止めを示唆するコメントを発している。
行政の要人によるこうした発言は政治的圧力そのものであり、憲法212項が禁じている「検閲」にもつながるものであることは言うまでもない。また、それ以上に、人類誕生以降、人間を人間たらしめ、社会の拡充に寄与してきた芸術の意義に無理解な言動と言わざるを得ない。
いま行政がやるべきは、作品を通じて創作者と鑑賞者が意思を疎通する機会を確保し、公共の場として育てていくことである。国内外ともに多事多難であればいっそう、短絡的な見方をこえて、多様な価値観を表現できる、あらたな公共性を築いていかなければならない。       

201983
一般社団法人日本ペンクラブ
会長 吉岡 忍












抗議文■「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクション・センター

愛知県知事 大村秀章さま
あいちトリエンナーレ2019 芸術監督 津田大介 さま

〈平和の少女像〉展示中止に抗議し、展示の継続を求めます!

 〈平和の少女像〉(正式名称「平和の碑」、以下〈少女像〉)が、81日からはじまった国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」で展示されました。これが報道されるや、抗議の電話が殺到したとされ、河村たかし名古屋市長が〈少女像〉の展示を「日本国民の心を踏みにじる行為」として展示中止を求めました。また、菅義偉官房長官も展示に関して補助金交付差し止めを示唆しました。8月3日、大村秀章愛知県知事と津田大介芸術監督がテロ予告や脅迫電話・メールが来たとして、〈少女像〉を含む企画展「表現の不自由展・その後」を一方的に中止すると通告しました。

以上のように、公然と「表現の自由」への政治介入が行われたのであり、憲法21条で禁止された「検閲」にほかなりません。まさに歴史的な暴挙です。また、卑劣なテロ予告や脅迫で展示中止になったとすれば、歴史修正主義者によって民主主義の根幹である「表現の自由」が奪われたことを意味します。

しかし、そもそも〈平和の少女像〉は、民衆芸術家であるキム夫妻によって、2011年に「「慰安婦」被害者の人権と名誉を回復するために在韓日本大使館前で20年間続いてきた水曜デモ1000回を記念し、当事者の意志と人権の闘いを称え継承する追悼碑として市民団体が構想し建てられた」もので、今や「戦争と性暴力をなくすための「記憶闘争」のシンボル」になりました(「平和の不自由展・その後」の説明から)。

つまり、〈平和の少女像〉は、戦争と性暴力被害のない、女性の人権が実現される平和な世界を願ってつくられた芸術作品です。これはジェンダー平等を核心的なテーマとする「あいちトリエンナーレ2019」の精神に合致するものです。

また、〈平和の少女像〉は、美術館のなかに芸術作品として展示されているのであって、日本政府の言うウィーン条約違反にもあたりません。河村市長の言う「日本国民の心を踏みにじる」という発言もお門違いです。河村市長が踏みにじったのは、被害女性の人権であり、表現の自由です。

日本に「表現の自由」があるのかを問い直す「表現の不自由展」で、行政の「検閲」そのものである〈少女像〉を含む芸術作品の展示中止を許してはならないと考えます。戦争と性暴力のない女性の人権が実現される平和な世界、そして「表現の自由」を求める私たちは、〈少女像〉と「表現の不自由展」展示の継続を求めます。

201984
 「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクション・センター VAWW RAC
運営委員一同


声明■日本軍「慰安婦」問題解決全国行動 

「表現の不自由」を再び立証させていいのか!? 「表現の不自由展・その後」の即時再開を求める


81日に開幕した「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」がわずか3日で中止されることが発表されました。
「平和の少女像」の撤去を求める抗議電話やメール、河村たかし名古屋市長ら政治家たちの検閲発言、補助金交付差し止めを示唆した菅官房長官の圧力発言、そして「ガソリン携行缶を持ってお邪魔する」といった脅迫文に屈してこのような決定をしたことは、結局、この日本社会が「表現の不自由」な状況に陥っていることを世界に示す結果しかもたらしません。また、政治家の検閲や圧力に屈すること、犯罪的な脅迫文に屈することは、今後に累を及ぼす判断と言わざるをえません。これらを助長させないためには、犯罪に対しては取り締まり、検閲に対してははねのける、毅然とした対応を取る以外に方法はないと考えます。中止は最悪の選択です。

私たちは、このような決定を行った「あいちトリエンナーレ2019」実行委員会会長の大村秀章知事及び津田大介芸術監督に対し、直ちにこの決定を撤回し、表現の自由とこの社会の民主主義を問う、本来素晴らしい趣旨の同展示を即刻再開させるよう求めます。

ところで、いずれも何らかの理由で過去に展覧会などで撤去された経緯のある作品ばかりを集めた企画展で、日本軍「慰安婦」被害者を表象した「平和の少女像」だけがターゲットになったことに、私たちは強い怒りと落胆を感じずにはいられません。他はともかく日本軍「慰安婦」制度という戦争犯罪についてだけは絶対に認めたくないという強い意思が示されたものと考えざるをえないからです。

アジア各国の日本軍「慰安婦」被害者たちは、日本が事実を認め、再発防止のための教育と記憶・継承をたゆまず続けて行くことを訴えてきました。「平和の少女像」も、そのような被害者たちの願いを反映して、被害者を追悼し記憶・継承するために製作されたものです。日本政府と日本の市民こそが、その趣旨を最もよく理解し、尊重し、世界と共に守って行こうとした時にはじめて、被害者たちの赦しを得ることができるのに、政治家をはじめとする一部の人々が再び真逆の言動をとって、その本心をさらけ出してしまいました。

「日本人の心を踏みにじる」(河村たかし市長)、「日本で公金を投入しながら、我々の先祖がけだもの的に取り扱われるような展示物を展示されるのは違うのではないか」(松井一郎・大阪市長)といった倒錯した「被害者意識」は、加害の歴史を直視せず反省もしていないことを示すもので、これこそが世界に対して日本の「不名誉」となる発言に他なりません。

日本政府と日本の市民に求められているものは、事実を直視し、事実を深く学び、これを記憶し継承することによって、再発を防止する取り組みを率先して行うことだということを、この機に改めて強く訴えます。

201984
日本軍「慰安婦」問題解決全国行動
共同代表     梁澄子 柴洋子