「捏造」や「事実ねじ曲げ」は言いがかりに過ぎぬ
「櫻井、西岡両氏の責任は重大」と批判
札幌訴訟の第10回口頭弁論が2月16日午後、札幌地裁で開かれ、原告側証人の喜多義憲氏に対する尋問があった。
喜多氏は北海道新聞の元ソウル特派員で、植村氏が「元慰安婦名乗り出」の記事を書いた3日後に、元日本軍慰安婦金学順さんに単独インタビューして実名で報じた。
喜多氏は法廷に提出した陳述書で、自身の取材体験と慰安婦問題をめぐる当時の韓国の状況を詳しく説明し、植村氏の記事について「捏造した」とか「事実を故意にねじまげた」などと断じるのは、思想的バイアス(偏見)のかかった言いがかりに過ぎない、と被告側に疑問を投げかけた。また、櫻井よしこ氏の言動については、理不尽な糾弾をつづけた結果、ネット右翼らによって中世の魔女狩りのような攻撃が植村氏と家族に加えられた、その責任は重大だ、と批判した。
この陳述書について、植村弁護団、櫻井氏側弁護団の順で2時間にわたって尋問が行われた。
はじめに植村側から秀嶋ゆかり、伊藤絢子両弁護士による主尋問があった。陳述書に書かれている金学順さん取材の経緯と記事内容について、その趣旨を確認する質問が中心となった。宣誓を終えて証言台の前の椅子に座った喜多氏は終始、静かな口調で淡々と答えた。尋問は予定通り30分で終わった。
喜多氏は最後に質問に答える形で「植村さんと同じ時期に金学順さんのことを同じように書き、片や捏造といわれ、私は不問に付されている。こういう状況に、私はちがうよと言いたかった」「尋問が近づいて、つい最近、現場に戻って記憶を呼び起こそうと、韓国に行ってきたが、金学順さんが私に、ちゃんとほんとうのことを言うんだよ、と言っているような気がした」と語った。
続いて、櫻井氏側弁護団の反対尋問が、新潮社、ダイヤモンド社、ワック、櫻井氏の各代理人弁護士の順に行われた。
合計1時間半の反対尋問でもっとも時間がかかったのは新潮社だった。同社の代理人弁護士はこれまでの口頭弁論ではほとんど発言していなかったが、この日の尋問は延々50分にも及んだ。喜多氏の取材の経緯や様子、記事の微細な部分にこだわる質問が多かった。証言の信用性を揺るがせようという計算が見え隠れした。重要な人名の取り違えもあった。そのため、温厚な喜多氏が語気を強めて答えたり、弁護団から異議が飛び出たりする場面がたびたびあった。
また、ワックの代理人は、喜多氏とは関係のない「吉田清治証言」について質問をし、植村弁護団に質問を封じられていた。元日本軍慰安婦を侮蔑する差別表現もあった。「挺身隊」の意味やとらえ方が日本と韓国では違っていることについても、「日本では虎なのに韓国ではライオンという」などと珍妙な比喩を繰り返し、傍聴席の怒りと失笑を買っていた。結果、被告側弁護団のねらいとは逆に、喜多氏の新聞記者魂と植村弁護団の巧みな援護が際立つことになり、胸のすくような反対尋問となった。
証人尋問は札幌、東京両訴訟を通じて初めて。開廷前、傍聴希望者が長い列を作った。東京からかけつけた人の姿も目立った。地裁1階の待合室から外廊下にまで続いた列は110人。定員71に対して1・5倍の倍率となった。壮観だったのは原告側弁護団席。東京訴訟の弁護士6人を加え34人が4列にびっしりと並んで着席した。被告弁護団は7人。その主任格である高池勝彦弁護士は反対尋問で一度も発言しなかった。
開廷は午後1時32分、閉廷は同3時40分だった。
次回は3月23日に開かれ、植村隆、櫻井よしこ両氏の本人尋問が終日行われる。
裁判後の報告集会で植村弁護団の平澤卓人弁護士は、「きょうの尋問の重要な意味は、金学順さんが自分を挺身隊だと言っていたことを、喜多さんからはっきりと引き出せたことだ。櫻井氏らの「捏造」決めつけの根拠ははっきりと否定された」と語った。
集会ではこの後、植村隆さんのあいさつと池田恵理子さんの講演「「慰安婦」問題はなぜ、タブーにされたのか」があった。会場は、札幌エルプラザ4階大集会室、参加者は120人だった。