2016年5月27日金曜日

「週刊金曜日」集刷版

「植村バッシング」の正体を多角的、多面的に伝える

植村隆さんをペンの力で支え、励ましてきたメディア「週刊金曜日」が、これまでの関連記事を総まとめした特別号(集刷版)を発行しました。
本文全66ページ、収録記事は掲載日付順に25本。植村さんへのバッシングがいかに虚妄に満ちたものであるかが、この2年間の動きとともによくわかる構成になっています。
記事執筆者は、能川元一、中島岳志、辛淑玉、西野瑠美子、吉方べき、神原元、徃住嘉文、長谷川綾のみなさん。学者、ジャーナリスト、弁護士、運動家などさまざまな立場から「植村問題」に向き合って書かれた記事の集大成です。全体を通じて「植村バッシング」の正体が多角的、多面的に検証されています。
能川さんは、ほとんどのメディアが植村問題を無視する状況の中で、産経新聞とSAPIOの記述を「卑劣で低次元のデマ」と断じました(2014年7月)。「週刊金曜日」のトップランナーとなった記念すべき記事です。中島岳志さんは、北星問題を戦前の言論弾圧「矢内原事件」と重ね合わせ、「正義と良心」による解決を訴えました(同11月)。吉方べきさんは、朝日新聞の報道が慰安婦問題の発端だと主張する「歴史修正主義者」たちを徹底的に批判しました(2015年4、9月)。ふたりの新聞記者(徃住、長谷川さん)は、東京と札幌で裁判、集会を取材し、米国にも同行し、4本の記事を書いています。
そして植村さん。8回にわたって書いた産経新聞、読売新聞批判が完全収録されています。8回分の連載を通して読むと、産経、読売両紙のいい加減さがよくわかります。「植村問題」をめぐる理非曲直がみごとに浮かび上がってきます。憤りを越えて、痛快な読後感と臨場感を得ることができました。これこそが、まとめて読むことができる集刷版のありがたさです。
この集刷版(正式には抜き刷り版と呼びます)は、「支える会」が編集人となっています。たくさんの方にこの雑誌を読んでいただき、植村さんへの理解と支援をさらに盛り上げるための裁判支援ツールです。定価600円。限定出版のため、書店で購入することはできません。そこで、イベント会場などで直接買っていただくほか、「支える会」を通じてお求めください。申し込み方法は、次の通りです。

■郵送申し込み
氏名、送り先住所、冊数を明記して、「植村裁判を支える市民の会」の振替口座02700-3-70778に、下記料金をお振り込みください。
■料金(送料込み)
1冊780円、2冊1500円、3冊2100円、4冊2750円、5冊3350円 (6冊以上はご相談ください)

札幌での会場販売は、6月10日(金)の「裁判報告集会」(午後6時、札幌市教育文化会館)と、同12日(日)の「負けるな北星!の会」総括シンポジウム(午後1時30分、北大学術交流会館)で予定しています。
「週刊金曜日」抜き刷り版目次

 

2016年5月18日水曜日

東京訴訟第5回速報





五月晴れのもと、東京地裁を出る植村さん(中央)と中山武敏弁護士(左=東京弁護団長)、上田絵理弁護士(右=札幌弁護団)。5月18日午後3時半すぎ。









植村隆さんが西岡力・東京基督教大学教授と文藝春秋を訴えた名誉棄損訴訟の第5回口頭弁論が5月18日午後3時から、東京地裁103号法廷で開かれた。開廷前に長い行列ができたが、傍聴定員96に対して希望者は97人。落選者がたったひとりとは珍しい。
冒頭に原裁判長が裁判官の交代を告げた。前回までは左陪席(正面右)が女性だったが、今回から両陪席とも女性になった。角田由紀子弁護士によると、このような構成は、女性裁判官が24%という法曹の現状の中では、あまり例がないそうだ。

口頭弁論

この日の審理は、植村さん側が提出した第三準備書面の陳述(朗読)が中心となった。
この陳述は前回被告側が提出した準備書面(主張)への反論となるもの。西岡氏が植村さんの記事を「捏造」だとする3つの「論拠」(①女子挺身隊の名で連行された、と書いたこと、②キーセン学校の履歴を書かなかったこと、③義母が遺族会の幹部であったこと)は、いずれも事実に基づくものではないことを具体的に指摘した。とくに③について、植村さんの記事は慰安婦賠償裁判に有利になるように書かれた、とする西岡氏側の主張を厳しく批判し、「裁判所は訴状を読んで判決を書くのであって、朝日新聞を読んで判決を書くのではない。本件で被告による批判の根拠となる事実は存在しないのであり、原告の悲痛な訴えに耳を傾けてほしい」(神原弁護士)と述べた。
被告側は2人の弁護士が出席した。いつものように、裁判長との訴訟進行についてのやりとり以外での発言はまったくなかった。終了は3時15分。
次回(第6回、8月3日)は、北星学園大学と松蔭女子学院大学あてに送られたメールやファクスなどの脅迫文書が取り上げられる。植村さんが実際に受けた被害が法廷で具体的に証明されることになる。北星はすでに東京地裁に脅迫文書類を提出しており、その数は3500通にもなるという。

報告集会

裁判終了後の報告集会は、午後4時から6時30分まで、衆議院第二議員会館第3会議室で開かれた。会場には定員を超える約60人が参加し、補助椅子もすべて埋まった。
集会は、植村応援隊の今川かおるさんが司会して行われた。発言者は順に、
角田由紀子弁護士(東京)
神原元弁護士(同)
上田絵理弁護士(札幌)
七尾寿子さん(植村裁判を支える市民の会事務局長)
崔善愛さん(同会共同代表、ピアニスト)
近藤昭一さん(民進党衆院議員)
徳島県教組元書記長(在特会を訴えた損害賠償請求訴訟の原告女性)
佐高信さん(評論家、「櫻井よしこ氏と背後勢力」と題して約50分間講演)
植村隆さん
の9人。この中から、東京集会に初めて参加した上田弁護士、七尾事務局長と、植村さんの発言要旨を収録する。

上田絵理弁護士
訴訟提起から1年2カ月もたって、ようやく札幌でも第1回口頭弁論が4月22日に開かれた。時間もたってしまい、傍聴人が集まるのか、弁護士が結束できるのか不安もあったが、当日は57人の傍聴席に198人が並んで3・5倍の抽選。多くの方に傍聴していただいた。弁護団109人のうち28人が出席し、札幌の法廷は一回り小さいが、弁護団の席が真ん中まで出てきてしまうほどだった。
被告側も計6人。桜井さんも意見陳述、植村さんも陳述し、最初から最大のクライマックスを迎えるという、双方が裁判に向かっていく気迫のある法廷になった。
最初に手続きがあったのち、意見陳述を始めますというときに、「ここは裁判所なので、拍手やヤジを飛ばしたくなっても、心の中にとどめてください」と裁判長がおっしゃった。どちらに偏るでもなく、司法としてどう判断するかを見きわめていきますよ、とのメッセージ。われわれも闘いやすいという雰囲気だった。双方が主張をたたかわせようという空気が感じられる法廷だった。
植村さんからの意見陳述は、堂々と落ち着いていた。内容は大きく分けて2点。被害の実態、裁判を訴えるまでにどれほどの状況があったのか、娘さんに攻撃の矛先が向いていった経過。「千枚通しで胸を刺されるような痛みを感じた」と聞いたときは、当時、いっしょにやらなければならないという気持ちになったことをあらためて実感した。もうひとつは、言論の場で植村さんが伝えても、バッシングが止まらない、脅迫が止まらないという中、裁判で闘わざるを得ないということ。植村さんには、裁判所も事実に向き合ってもらいたい、と訴えていただいた。
弁護団の共同代表の一人である伊藤誠一弁護士も陳述した。伊藤弁護士は、われわれがなぜ裁判を起こしたのか、どういった訴訟進行をしてほしいか、について述べた。植村さんと朝日新聞だけが特定されて激しく攻撃され、マスメディア全体が萎縮している状況であり、その結果、言論空間が狭められている、と。原告の権利や自由だけでなく、自由な言論の交換によって成り立つ民主主義の危機的状況について、正面から向き合っていただきたいと、訴えた。
これから戦いに突入していくわけです。争点は名誉毀損だが、民主主義とは何か、言論のありかたはどういうものかという大きなテーマを抱えている。東京訴訟はかなり進んでおり、札幌にもいい影響をもたらしている。連携して闘いに臨んで行けたらと思っている。

七尾寿子事務局長
「植村裁判を支える市民の会」は4月22日の裁判に向けて4月12日に立ち上がった。裁判というのは裁判所の中で内向きになるが、傍聴者がいないとダメだよね、ということで集まって、支える会ができた。労組や市民団体、宗教関係、大学もまわって、傍聴の協力をお願いした。57席に198人が駆けつけて並び、裁判のあとの報告集会も220席びっちり集まった。
札幌で裁判をしたかった。札幌に北星学園大があり、私の娘も女子高校にお世話になった。地域に根ざした卒業生も多い。地域が萎縮した状況を打破したいという思いもあった。それと、マケルナ会が活動を開始した当初、植村さんは毎日無言電話が鳴り続けるということで、顔が真っ白で、そのつらさも目にしていて、札幌での裁判が大事と思っていた。
植村さんとともにさらに前へということで、共同代表に上田前札幌市長、さきほどの上田弁護士のお父さんです、ほかに小野有五さん、神沼公三郎さん、結城洋一郎さん、東京からも崔善愛さん、香山リカさん、北岡和義さんで計7人です。
次回は6月10日に札幌の第2回口頭弁論、12日にマケルナ会の総括シンポジウム、7月29日に第3回弁論がある。「支える会」にもご参加いただけたらと思っています。

植村隆さん
ソウルに行く前に「真実」という本を岩波書店から出したところ、岩波の読者センターにメールで感想が寄せられた。ある弁護士は、感銘を受けた、一緒に闘いたい、市民運動のレベルで勉強会をやろうと。東京でやってくれることになり、大集会も考えている。
もう一つ、朝日新聞の販売店さんから、「植村さんの本を読んで、植村さんのような記者がいる朝日新聞を配ることに誇りを感じている」と岩波を通じてメールをいただいた。涙が出た。朝日新聞が吉田清治証言を取り消したときに、私もバッシングを受けた。読売は当時「朝日をやめて読売にしろ」といって販売キャンペーンをした。朝日新聞のなかでも誤解している人もいたし、販売店は防戦一方で大変だったと思う。
試練があったが、その試練からさまざまな出会いがあった。その出会いがなければ私は二流の記者のままだった。みなさんと出会えて世界が広がった。一冊の本がさまざまな出会いをつくってくれた。
私が直面している問題は私だけの問題ではない。4月には国連人権理事会から「表現の自由」調査官が来て、私の名を出して暫定報告を出した。世界も注目しているということが分かった。
「週刊金曜日」(5月13日号)に、桜井さんと私の対決の記事が出ている。札幌の裁判で私は、はじめて桜井さんと対面した。本人が来ると聞いて、意見陳述書を書き換えた。彼女は産経のコラムの中でウソを書いている。私は金学順さんのことを、記事では強制連行と書いていない。読売や産経は強制連行と書いている。それを抜きにして桜井さんは「訴状で14歳で継父に売られたとあるのに、植村は書いていない」と主張しているが、真っ赤なウソで、そんなことは訴状に書かれていない。産経新聞は訴状を読まず、桜井さんの言う通りに出している。
桜井さんは「間違っていたら訂正します」と言っているが、結局、私を標的にした罠は、日本を変えて戦前に戻そう、日本を美しい国にして、日本は悪いことをしていないということを一般化したい、という流れ。その流れの中で標的にされているのではないかと思っている。
去年は産経、読売とやりあって、記事を週刊金曜日に載せた。能川元一さんは私をバッシングしている人を批判してくれた。暗闇に光を見た思い。それらの記事を集刷して、週刊金曜日の別冊が5月末に発行されることになり、きょうゲラ刷りが出てきた。能川さんのほかに、道新の徃住記者、北大の中島岳志さん、辛淑玉さん、神原元弁護士。私の連載もある。
われわれが負けたら、植村は捏造記者、朝日は捏造新聞、慰安婦問題はなかった、ということになってしまう。そういう流れを止めたい。みなさんに勇気をいただいている。どうもありがとうございます。

written by R.T
edited by H.N
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支援サイト「植村裁判準備室」には以下の各氏の発言を収録してあります。
植村隆さん(報告集会発言)
神原弁護士(弁論と集会)
角田弁護士(集会)
上田弁護士(同)
七尾事務局長(同)
崔善愛さん(同)

2016年5月8日日曜日

東京訴訟第5回迫る

東京訴訟(被告西岡力、文藝春秋)の第5回口頭弁論は、5月18日(水)午後3時から東京地裁で行われます。終了後の報告集会では、佐高信さんの講演「櫻井よしこ氏と背後勢力」があります。

2016年5月4日水曜日

週刊新潮の下品度

(前回5月1日記、「櫻井コラムの詐術」承前)

週刊新潮(5月5、12日号)の櫻井よしこコラム「朝日慰安婦報道の背景を分析する」の詐術はさらに迷走しながら続く。櫻井氏は、前半の最後にとつぜん持ち出した「強制連行プロパガンダ」の分析をわずか10行ほどでさらりと片づけたあと、急ぎ足で後半に入っていく。「朝日新聞の罪は重く、その中で植村氏も重要な役割を担ったと言うのである。それにしても朝日新聞はなぜ、このような慰安婦報道をしたのか」という疑問を投げ、「そのことを理解する一助となる」もののひとつとして、「長谷川熙著「崩壊 朝日新聞」(ワック)はとりわけ深い示唆を与えてくれる」と書いている。
櫻井コラムの特徴は次から次へと事柄を羅列し、深い吟味を加えずに印象操作の材料にすることである。元ニュースアナ時代に身につけた手口である。さあ、こんどは「崩壊 朝日新聞」を引っ張り出してきた。しかし櫻井流急ぎ足文体につられてはいけない。つられて読んでいると、前段フレーズにある「植村氏も重要な役割を担った」という部分の重大なウソを見落としてしまいかねない。

この「植村氏も重要な役割を担った」という言い回しは桜井側が繰り返し使ってきたキャッチコピーであり、ウソも100回繰り返すと真実になる(ナチス宣伝相ゲッペルスの言)の典型例である。植村さんは、じっさい、重要な役割を担ったのか。答えは、と、とんでもない、である。植村さんが慰安婦関連で署名記事を書いたのはたったの2回きりである。それも、25年前の1991年の8月と12月のことである。8月の記事はたしかに大阪本社版では大きな扱いだったが、東京本社版では小さかった。桜井側はこの記事を「世紀のスクープ記事」と大げさに表現するが(口頭弁論の意見陳述でもそう強調した)、当時は日本でも韓国でも話題にはならなかった。むしろ、植村さんの記事の4日後に、元慰安婦女性の単独インタビューを初めて実名で報じた北海道新聞のほうが有名なのである。植村さんは後にソウル特派員として韓国に滞在し、韓国発の記事を書きつづけたが、その当時も、そしてその後も、慰安婦報道の重要な役割を担ってはいない。もちろん、「吉田清治」証言について書いたことは1度もない。植村さんの記者としてのすぐれた仕事はほかの分野にたくさんあり、編著書もある。早大の博士学位論文のテーマも、慰安婦問題ではない。

櫻井氏が持ち出した長谷川熙著「崩壊 朝日新聞」は、書店で立ち読みしただけであり、大昔の話をよくもまあ、ぐじぐじと蒸し返して、往生際の悪いおっさんだなあ、という読後感しかなかった。朝日の記者の9割は共産党員だ、というようなことも書かれていて、この人、気は確かか、とも思った。アエラでは有名な記者だったというが、へーそうだったの、という感じ。古巣の昔話を蒸し返す人はどこでも嫌われる。だいたい、職業上知り得た事柄とか秘密はみだりに洩らさないのが職業人の倫理、規範であり、とくに個人の秘密を知りえる機会の多い公務員や医師、弁護士などは法できびしく律せられているではないか。新聞記者だから許される、と長谷川氏は思っているのだろうか。それだけで、朝日記者失格であろう(もう辞めてるか)。時流に乗ることを便乗という。出来の悪い新聞記者の得意技である。朝日バッシングに便乗し、朝日つぶしに奔走する花田紀凱氏率いる出版社ワックから朝日崩壊礼賛本を出す。いやはや、みっともない。

櫻井コラムが長谷川著書から引用しているのは、女性差別や人権の問題を書きつづけた朝日の松井やより記者についてである。長谷川氏はシンガポールで中年の華人から思いがけない訴えを聞いた、という。「『シンガポールにいるという日本の朝日新聞の女性記者が、虐殺は日本軍がやったことにしておきなさい、かまわない、と言ったんです』。そして、その女性記者の名前を『マツイ』と述べた」。引用がややこしくなったが、これだけではもちろん真偽のほどはわからない。櫻井氏が松井記者の言動を公にし、問題にするのであれば、引用ですませるのではなく、きちんと取材をするべきであろう。松井記者はもうこの世にいないが、長谷川氏は健在である。取材をせずにアシスタントが集めた資料だけで書くのは、ジャーナリストの作法に反している。そういう人はジャーナリストと自称してほしくない。
櫻井コラムの結語はこうである。「このような朝日の元記者、植村氏との裁判は恐らく長い闘いになるだろう。私はこれを慰安婦問題を生み出した朝日の報道、朝日を生み出した日本の近現代の歪みについて、より深く考える機会にしようと思う」。
「このような」とはどのようなものか。その前節に「条件反射的な人間」「パブロフの犬」が朝日には大勢いた、との長谷川氏の記述を引いているから、植村さんはつまりは(パブロフの)犬だということか。そして、朝日を生み出した日本の近現代の歪み、も酷い。そこまでおっしゃるのなら、言わせてもらおう。あなたは、なんなのか。カルト教祖めいた日本の近現代の魔女、という人がいる。こっちのほうが正鵠を射ている。

次に、週刊新潮の3ページにわたる記事である。正直言って、気が重い。前回書いたように、取り上げるに値しない藻屑のようなものであるから、読み直すことは苦痛を伴う。こんな記事のためにキーボードをたたくことすら躊躇われる。しかし、乗りかけた船である。せめて快適な船旅を楽しむために、逐条解説ふうに問題個所を順に指摘し、ついでに下品度を5段階で評価してみよう。

1 記事の見出し【元朝日「植村隆」記者の被害者意識ギラギラ】⇒ギラギラは、たぎらせる憎悪という表現に使うもの。被害者でもないのに本人はそう意識している、と言わんばかり。加害者意識ドロドロ、見出しセンスはゼロ。下品度満点の5点。
2 記事の副見出し【100人の弁護士を従えて法廷闘争!慰安婦誤報に反省なし!】⇒「を従えて」ではなく「に守られて」である。「誤報」ではない(以前は「捏造」と言っていたが、これはさすがに撤回したのか)。「反省」する必要はない。反省すべきは被告新潮社であろう。これも下品度5点。
3 裁判の焦点について【櫻井さんが『捏造』などど論評したこと】⇒被告側は、論評は表現の自由の範囲にとどまる、と逃げの主張をする。これに対して、植村さん側は、「捏造」と表現したことは事実の摘示であり、被告はそれ(捏造)を証明しなければならない、と主張している。肝心のことを書かない。同じく下品度5点。
4 櫻井氏を取材しないことについて【先生、櫻井さんがぁ、いっぱい、いーっぱい、いじわるしてくるんだよー、と駄々っ子のように、相手の悪口ばかり言っているワケだ】⇒これは下品の極み。下品度は特A級の10点である。幼児語を用い、駄々っ子と決めつける週刊新潮記者、編集者の幼児性こそが問われる。小学校でこうやって、弱い者いじめをしたんだろう。老舗の一流出版社の誇り、矜持はどこに行った。悲しい。
5 支援者について【不幸なことに彼の周囲にはそんな普通の感覚を持った人はいないようだ】⇒普通の感覚を持っているからこそ、私たちは支援している。私たちは不幸ではない。下品度再び5点。
6 「挺身隊」の誤用について【当時、他のメディアがそう書いていたからと言って、自分が誤用しても仕方ないと言わんばかりの態度は潔くない】⇒「仕方ないと言わんばかりの態度」をとったことはない。当時の状況説明として、控えめに語っただけである。下品度まだまだ5点。
7 取材対応について【そもそも植村氏が長い間、メディアの取材から逃げ回っていたことは周知の事実。元朝日新聞ソウル特派員の前川恵司氏は言う】⇒おいおい、なにが周知の事実なのか。逃げ回ったことはない。読売や産経の長時間インタビューにも応じている。暴力的・脅迫的メディアの取材を拒否したことはある。それは身を守るために当然の権利だから。この前川氏は、植村バッシング記事の常連筆者で、先の独立検証委員会のヒアリングに応じているお仲間でもある。前川コメントは後段にもあり、「間違いをおかしたのであれば、反省する。これは子どもでもわかること」だとさ。下品度はふたつ加算して、5+5=10点。
8 元毎日記者のコメント【植村さんは特ダネが取れる、という意識であの記事を書いたのではないでしょうか】⇒その通りである。義母の団体を利するために書いたのではない。記者たる者、特ダネを取れなければただの人である。下品度ゼロとしたいが、「テープを聞いただけで記事を書いてしまった」などと余計な難癖をつけている(つけさせられている)ので、下品度1点をつけておく。
9 京大・中西輝政名誉教授のコメント【植村さんの記事はその(軍関与記事)5カ月前。「吉田証言」に続き、被害者の立場からそれを裏付け、「軍関与」の報道を導いた大きな存在でした】⇒櫻井コラムに出てきた「強制プロパガンダ」と米国紙の報道に、植村記事は関係はないし、きっかけでもない。「吉田証言」も無関係である。それなのに、中西氏は強引に結び付けようとしている。下品度5点。
10 早大・重村智計名誉教授のコメント【言論の世界で生きているのであれば、言論には言論で答えれば良い。公権力で相手の主張を封じ込めようとするのは、ジャーナリストとしての役割をわかっていない】⇒植村さんはいつも言論で答えようとしてきた。ところが、ある勢力が、植村さんを暴力で封じ込めようとした。その事実と現実を、重村氏は知らないはずがない。知らなければコメントする資格はない。植村さんが受けた人権侵害被害、不安、恐怖は、家族も含め甚大である。その苦痛と傷の深さを思いやることのできない人は、想像力を失った悲しい人だと言わざるを得ない。怒りをこめて、下品度10点。
おまけ 記事の結び【さあ、待望のGWが来た。植村氏も忙しいであろうが、講演の合間に冒頭の映画でも見て来てはいかがだろうか。謙虚な気持ちで眺めれば、自らの「闘争」が「英雄譚」として映画になる代物ではないことが、よーくわかるであろうから】⇒下品度5点。これ以上、あんたに説教されたくない! 植村さんはGWが来る前、4月23日に札幌のシアターキノでちゃーんと鑑賞している。週刊新潮記者よ、よーく取材してから記事を書きなさい!

(注)11項目で計66点となった。下品度は超満点というわけ。こちらの筆致も下品になってしまったが、毒を以て毒を制す、ということでお許しいただきたい。


text by 北風三太郎

2016年5月1日日曜日

櫻井コラムの詐術


発売中の週刊新潮(5月5、12日号)が5ページにわたって朝日新聞と植村さんを最大級の表現で罵り、貶めている。コラム「朝日慰安婦報道の背景を分析する」(櫻井よしこ「日本ルネサンス」、2ページ)と特集記事「元朝日植村記者の被害者意識ギラギラ」(無署名、3ページ)である。櫻井コラムには荒唐無稽な詐術的話法があり、特集記事には3流週刊誌の面目躍如たる下品さがあふれている。
このような言説(というより単なるヨタ話)は、本来まともに取り上げるに値しない藻屑のようなものだが、これは、桜井氏側が裁判のスタートを期して仕掛けてきた挑発でもある。ならばと意を決し、不本意ではあるが、今回に限り、コラムと記事に突っ込みを入れさせていただく。

札幌地裁の法廷で「世に言う従軍慰安婦問題と、悲惨で非人道的な強制連行の話は、朝日新聞が社を挙げて作り出したものであります」と断言した被告櫻井氏は、このコラムでも「旧日本軍が戦時中に朝鮮半島の女性たちを強制連行し、慰安婦という性奴隷にして、悲惨な運命に突き落としたという濡れ衣の情報が、主にアメリカを舞台として流布されている」「その原因を作ったのは、どう考えても朝日新聞である」「慰安婦に関する国際社会の誤解や偏見を、どれだけ朝日が増幅させたかは、『朝日新聞慰安婦報道に対する独立検証委員会』が明らかにしたとおりであろう」と書き、独立検証委員会なる組織の報告書を得々と引用している。

「同報告書は朝日新聞が内外の慰安婦報道を主導したことを明白に示した」「例えば、朝日、毎日、読売とNHKの慰安婦報道を調べた結果、1985年から89年までの5年間で朝日新聞の記事が全体の74%を占めていた。90年にはなんと77%を占めた」「朝日は間違いなく国内の慰安婦報道を先導していた」

というのである。74とか77という比率はたしかに高い。しかし、だからどうしたというのだろう。この比率の高さが、「濡れ衣」とどう関係するのかはまったく論じられていない。さらに、問題なのは実数を書いていないことである。そこで、同報告書にあたってみると、その時期の朝毎読とNHKの記事総本数は85~89年が42本、90年が30本と明記されていた。その翌年からの数字(91年252本、92年1730本、93年1029本)に比べ、桁違いに少ない数である。全体の数が少ない時に比率の高さを強調するとは、まことに胡散臭い。さて、プロ野球で年間わずか4打数で3安打の選手を「7割5分の高打率バッター」ともてはやすだろうか。「90年になんと77%を占めた」と書くのは、子供だましの詐術である。

ところで、そもそも、この独立検証委員会とはなんなのか。「独立」というネーミングは公平で客観な組織をイメージさせる。知らない読者は、素直にそう受け取るだろう。しかし、この委員会の副委員長は西岡力氏(東京基督教大教授、植村裁判被告)であり、西岡氏は報告書の執筆陣にも名を連ねているのである。つまり、植村裁判東京訴訟の被告が中心メンバーとなって作ったお仲間組織なのである。そのことを櫻井氏は伏せて、「独立委員会が明らかにした」と言っている。「なんと77%」という数字で印象を操作しようという魂胆に加えて、お仲間の名を伏せて正体を明かさない卑怯。これこそ詐術話法の典型であろう、と言わざるを得ない。

櫻井コラムはさらに「海外メディアも朝日に大きく影響されていたことを、独立検証委員会は明らかにした」とも書いている。「委員の一人は、朝日が報道した『92年1月強制連行プロパガンダ』が間違いなく米国紙に多大な影響を与えた、と結論づけた」「米国主要3紙は朝日が『92年1月強制連行プロパガンダ』を行う以前は、慰安婦問題をほぼ無視し、取り上げていなかった事実を示した」「こういう事実があるからこそ、朝日新聞の罪は重く、その中で植村氏も重要な役割を担ったというのである」と決めつけている。

プロパガンダという刺激的な用語が突然出てきてびっくりぽんである。これまで「ねつ造だ」とさんざん問題にしてきた「吉田証言」「植村記事」ではなく、「プロパガンダ」を持ち出してきたのはどういうことなのだろう。論点のすり替え? 争点の拡大? ついでに書いただけ? 意味不明、理解不能の一節である。海外メディアへの影響は簡単に検証できることではない。この点について、朝日新聞の第三者委員会の報告書は、「国際社会に与えた影響」の項でふたつの見解を併載し、その難しさを正直に明らかにしている。こういうことである。

「米国には慰安婦に対する定型化した概念がある。例えば2014年12月2日のニューヨークタイムズ紙は慰安婦問題について在京特派員発の大きな記事を掲載したが、そこには次のように記されている。『主流に位置するほとんどの歴史家の見解は、日本軍が征服した領土の女性を戦利品として扱い、彼女たちを拘束し、中国から南太平洋地域にかけて軍が経営していた慰安所と呼ばれる売春宿で働かせていたという点で一致している。女性達の多くは、工場や病院で働くとだまされて慰安所に連れてこられ、兵士たちへの性行為を強制された』。本件記事にしても、今回インタビューした海外有識者にしても、日本軍が、直接、集団的、暴力的、計画的に多くの女性を拉致し、暴行を加え、強制的に従軍慰安婦にした、というイメージが相当に定着している。このイメージの定着に、吉田証言が大きな役割を果たしたとは言えないだろうし、朝日新聞がこうしたイメージの形成に大きな影響を及ぼした証拠も決定的ではない。しかし、韓国における慰安婦問題に対する過激な言説を、朝日新聞その他の日本メディアはいわばエンドース(裏書き)してきた。その中で指導的な位置にあったのが朝日新聞である。それは、韓国における過激な慰安婦問題批判に弾みをつけ、さらに過激化させた。第三国からみれば、韓国におけるメディアが日本を批判し、日本の有力メディアがそれと同調していれば、日本が間違っていると思うのも無理はない。朝日新聞が慰安婦問題の誇張されたイメージ形成に力を持ったと考えるのは、その意味においてである」岡本行夫委員=外交評論家、北岡伸一委員=東大教授。(報告書52~53ページ)
「そもそも、特定の報道機関による個別テーマの記事が、いかに国際社会に影響を与えたかを調べることはほとんど不可能である。メディア研究の歴史において、性急な『メディアの効果論』を持ち出すことは、禁物だと見られてきた。特定の小説や芸術作品が、人々や社会に『悪影響を与える』という理由が弾圧の方便に使われた例は枚挙にいとまがない。弾圧までいかずとも、そのような物言いは、言論の自由を委縮させかねない。もともと、日本語というローカルな言語で発信された情報が、他言語の異文化空間においてどのような影響を及ぼしたかとする問いの立て方も、それ自体に無理がある」林香里委員=東大教授。(72ページ)

岡本、北岡委員は朝日の報道の影響力を認めてはいるが、決定的証拠はないという。林委員は、短兵急に影響評価に走ることを戒めている。この双方を虚心坦懐に読めば、櫻井コラムがいかに一方的、断定的であり、危ういかがよくわかる。

と書いてきて、ブログ文としては長くなりすぎたことに気がついた。櫻井コラムの後段部分と週刊新潮の記事についても突っ込みを入れるつもりで書き始めたが、正直、あまりの荒唐無稽と下品に向き合う気力が失せた。ここらでいったん筆を擱くことにする。

text by 北風三太郎

(注)両報告書ともPDFが公開されている
朝日新聞第三者委員会報告書 2014.12   独立検証委員会報告書 2015.2