2019年7月4日木曜日

憲法学者の判決批判

被害の重大性を踏まえれば、核心部分の調査を誠実に遂行したか否か、が厳しく問われなければならない


札幌控訴審第2回口頭弁論で植村弁護団が陳述した「準備書面(1)」は、憲法学者の右崎正博・獨協大名誉教授と志田陽子・武蔵野美大教授が提出した意見書と、旧石器発掘捏造事件(編注1)をスクープした毎日新聞記者だった山田寿彦さんが提出した陳述書に基づいている。
法廷で大賀浩一弁護士が読み上げた「要旨」から、主な部分を要約して掲載する。

▽名誉権は、憲法13条の保障する「個人としての尊重」や「幸福追求に対する国民の権利」の重要な内容をなしているのみならず、情報化が高度に進展した現代社会にあっては、いったん名誉権が不当に侵害されれば被害は重大なものとなり、その回復が非常に困難となる場合が多いから、十分な配慮が必要である。=右崎教授意見書


▽ある発言者の論説の誤りを指摘し批判することは、表現の自由に合致するものではあるが、言論空間への参加ないし発言の足場を相互に認め合った上で成立する批判と、言論空間への参加が不可能となるような社会的制裁を招く表現を用いることは、問題の位相が異なる。=志田教授意見書

▽報道における「捏造」とは、悪意ある故意に基づく確信犯を意味するものであり、書かれる対象にとっては、単なる誤りと「捏造」とは次元を全く異にすることである。社会正義のためとはいえ、書かれる側の人間を破滅的に追い込みかねない報道は、報道する側にも痛みと覚悟を伴う。慎重なうえにも慎重を期し、批判や反論を想定した上で言葉を選択しなければならない。=山田陳述書

▽ダイオキシン事件最高裁判決(編注2)に代表されるように、社会的制裁を招く表現を用いた批判によって深刻な被害が生じている場合、真実性および真実相当性の判断基準を非常に厳しくする、いわば相関的な判断方法が採用されているものとみることができる。=志田教授意見書

▽「捏造」という表現の持つ意味と、それによって植村氏が受けた被害の重大性を踏まえれば、本件では、歴史検証に関する調査の真実性・真実相当性だけでなく、「捏造」と断定する部分が真実か否か、真実でないとした場合には核心部分の調査を誠実に遂行したか否かが厳しく問われなければならない。=同上

▽ジャーナリズムの世界では「捏造」と断定するためには、たとえ「故意と判断し得る蓋然性の高い客観的事実」があってもなお、取材の常道として、本人に直接問いただしてその言い分ないし弁解を聞く作業が求められる。=山田陳述書

▽ロス疑惑事件の報道をめぐる最高裁判決(編注3)が示した判断基準に照らせば、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評の域を逸脱したもの、例えばヘイトスピーチのような他者攻撃的言論は、最初から「公正な論評」の認定対象から除外されるべきである。櫻井による「捏造」表現は、植村に言論空間からの撤退を余儀なくさせる排撃的な効果を持つものであり、まさしく意見ないし論評の域を逸脱したものである。=志田教授意見書

▽なぜ23年後になって突然「捏造記事」という激越な表現で批判・攻撃の対象とされるに至ったのか(それまでは「誤報」という批判がなされていた)、なぜ6本の論文によって批判・攻撃が繰り返されたのか。その背景についてはほとんど語られていないが、植村氏をターゲットして選び出し、バッシング対象とするような「人格攻撃」的性格も否定できないように思われる。=右崎教授意見書

※編注
1 旧石器発掘捏造事件

2 ダイオキシiン事件(テレビ朝日報道による風評被害賠償請求)についての最高裁判決

3 ロス疑惑事件の報道(夕刊フジ)をめぐる最高裁判決