植村隆氏のたたかいの日々に密着したドキュメンタリー映画「標的」(西嶋真司監督、ドキュメントアジア制作)が、今年度のJCJ賞を受賞しました。JCJ賞は日本ジャーナリスト会議(JCJ)が1954年から毎年、優れたジャーナリズム作品・活動に贈っている賞です。今年度は8月31日の選考会議で「標的」ほか計6点が選ばれました。贈賞式は9月25日(土)13時から東京・水道橋の全水道会館で開催されます。
「標的」の制作にあたっては、支える会も取材協力、資金カンパ、宣伝などの面で、全面支援をしてきました。西嶋監督ほかスタッフの皆さん、”主演”の植村氏とともに、受賞の喜びを分かち合いたいと思います。
「捏造」批判は許されるのか?
ドキュメンタリー映画「標的」支援プロジェクト - 日本ジャーナリスト会議賞を受賞
ドキュメンタリー映画「標的」が今年度の「日本ジャーナリスト会議賞」を受賞しました。「日本ジャーナリスト会議賞」は優れたジャーナリズム活動に対して毎年贈られるもので、今年で64回目を迎えます。クラウドファンディングを通じて多大なご支援をいただいた皆さまに、受賞の報告と共にあらためてお礼を申し上げます。
今回受賞した6つの報道は、いずれも、闇に閉ざされたこの国の一面を鋭く追求したものばかりです。映画「標的」は捏造バッシングに怯まなかった元新聞記者と、日本のジャーナリズムを守るために立ち上がった市民や弁護士、メディア関係者の行動を追った内容です。不都合な報道に対して圧力をかけようとする国家権力に堂々と立ち向かった人々の勇気が評価され、今回の受賞に繋がったものだと思います。
映画は劇場公開に向けた準備が進んでいます。9月中旬には「標的」のホームページが開設されます。是非ご覧ください。
2021.9.8 updated 映画「標的」公式サイトが公開されました。最新情報、予告編、メッセージ、自主上映案内などを収録。英語、韓国語表記もあります。 公式サイト
2021年JCJ賞受賞作一覧 (JCJ発表資料による)
【JCJ大賞】2点(順不同)
● キャンペーン連載『五色のメビウス ともにはたらき ともにいきる』 (信濃毎日新聞社)
農業からサービス産業、製造業まで、「低賃金」の外国人労働者の存在なくして明日はない、日本の産業界。新型コロナ禍によって、その現実が改めて浮き彫りにされた。「使い捨て」にされ、非人間的な扱いをされている彼らの危機的な実態に迫ったのが、本企画である。「命の分岐点に立つ」外国人労働者の迫真ルポ、送り出し国の機関から日本の入管、雇用先、自治体など関連組織への徹底取材。半年にも及ぶ連載は、日本ではとかく軽視されがちな外国人労働者問題の深刻さを、私たち1人1人が真剣に考えていくための新たな視座を提供してくれる。
● 平野雄吾『ルポ入管―絶望の外国人収容施設』 ちくま新書
外国人を人間扱いしない入国管理制度の現場の実態を生々しく伝えるとともに、憲法や国際的な常識を逸脱した各種の判決を含め、入管制度が抱える法的な問題点をも明らかにしたルポである。日本の政治と人権をめぐる状況の象徴のひとつといえる入管制度であるが、入管制度の法改悪はいったん頓挫した。それはスリランカ人女性の死という犠牲があったうえのことだ。出入国在留管理庁という機関が誕生したいま、今後も改悪の動きは出てくることが予想される。そのためにも多くの人に読んでほしい1冊であり、グローバルな視点を持ったルポとして賞にふさわしい。
【JCJ賞】3点(順不同)
● 菅義偉首相 学術会議人事介入スクープとキャンペーン (しんぶん赤旗)
2020年10月1日付1面トップで、就任したばかりの菅義偉首相が、日本学術会議から推薦を受けた次期会員候補数人を任命拒否した問題をスクープした。同日付の赤旗電子版で、任命拒否された6氏の氏名を報じ、続くキャンペーン報道で、学問の自由への不当介入を厳しく批判し、任命拒否の6氏は安倍内閣の安保法制、共謀罪の反対者であると明らかにした。当事者だけでなく幅広い研究者団体の声を紹介。1983年に学術会議法を改定した際の政府文書で、首相の任命は形式的と明記していたことを報じ、任命拒否の不法性を告発した。昨年の「桜を見る会」(赤旗日曜版)問題に続く、権力者トップの違法行為を暴いた傑出したスクープといえる。メディア各社が後追いし、国会の追及に菅首相は答弁不能に陥る事態となった。
● ETV特集「原発事故“最悪のシナリオ”~そのとき誰が命を懸けるのか~」(NHK)
2011年3月、東日本大震災で東京電力福島原発爆発事故が発生した。番組は当時、この事故による「最悪のシナリオ」が首相官邸・自衛隊・米軍でそれぞれ作られていたことを明らかにする。菅直人首相、北沢俊美防衛相ら100名以上の関係者に取材した証言を積み重ね、事態が「最悪のシナリオ」寸前の危機にあったことを浮かび上がらせる。番組は、東京電力の無責任・不誠実な対応を暴き出す。自衛隊幹部は、東電の勝俣恒久会長(当時)から「(爆発した)原子炉の管理を自衛隊に任せたい」と依頼された事実を証言するが、勝俣氏をはじめ東電幹部は誰一人、インタビュー要請に応じない。原発再稼働を画策する人たちは、この番組を見て思考停止を解き、もう一度考える必要がある。
● 映画「標的」(監督・西嶋真司 製作・ドキュメントアジア)
元朝日新聞記者の植村隆は1991年8月、「元慰安婦 重い口を開く」と記事を書いた。約四半世紀後の2014年、櫻井よしこらによる植村へのバッシング攻撃が突然始まった。映画「標的」は植村に対する卑劣かつ凶暴な攻撃の実態と、植村の訴えに背を向け、不当判決を繰り返す司法の不当な姿を映し出す。歴史修正主義の逆流を剝き出しにした攻撃と闘う植村に、一筋の光となる記事が見つかった。「週刊時事」(92年7月18日号)に櫻井寄稿の原稿が掲載されている。その中で櫻井は「売春という行為を戦時下の政策の一つとして、戦地にまで組織的に女性たちを連れて行った日本政府の姿勢は言語道断」と書いている。植村の記事と同じ内容だ。植村は、朝日新聞阪神支局で赤報隊の銃弾に斃れた(1987年5月)小尻記者の墓に足を運び、手を合わせた。小尻とは同期入社の仲だ。「バッシングは許せないと、多くの人が支援してくれる。私には喜びであり、感謝しかない」と植村。ジャーナリズムは植村を孤立させてはならない。
【JCJ特別賞】1点
● 俵義文 日本の教科書と教育を守り続けた活動
子供たちを再び戦争に送り込む教育は断じて許せない。その信念のもとに俵義文氏は「子どもと教科書全国ネット21」の事務局長(のち代表委員)として政府の教科書検定や教育基本法の改悪などと闘い、「新しい歴史教科書をつくる会」や「日本会議」による教科書採用圧力などの攻撃に対して粘り強く運動を展開し反撃してきた。活動の集大成として昨年末に『戦後教科書運動史』(平凡社新書)を出版し、多様な教科書攻撃の実態とその害毒の深刻さ、社会的反撃などを克明に記録し、的確な分析を加えた。しかし本年6月7日、惜しまれながらその80年の生涯を終えた。文字通り人生を捧げて日本の教科書と教育を守り続けた活動の意義は大きく、故人とその業績に対してJCJ特別賞を送る。