2019年6月21日金曜日

東京判決の注目点4

2015年1月の提訴後、植村氏の訴えと主張、たたかいの軌跡、裁判の経過などを記録した書籍、雑誌、資料集が次々に発行された。左から、マケルナ会編「北星バッシング2014-2016市民はかく闘った」、週刊金曜日抜き刷り版「私は捏造記者ではない」(2016年5月)、岩波書店刊・植村隆「真実」(2016年2月)、徹底解説マガジン「植村裁判2015-2017」(2017年11月)、花伝社刊「慰安婦報道捏造の真実」(2018年11月)


東京判決の注目点 4
被告西岡の主張の「真実性」と「真実相当性」❸


西岡は、植村氏が「悪しき動機」に基いて記事を書いた、と主張する。しかし、「悪しき動機」の証拠は提出されていない。また、西岡が当事者と関係団体に取材した形跡も一切みられない。

原告最終準備書面p60~62
❸原告が悪しき動機に基づいて記事を書いたとする点について
真実性の検討

ア■被告西岡は、原告が義母の裁判を有利にするという悪しき動機に基づいて記事を書いたと主張する。
この点、金学順と義母が初めて会うのは91年9月19日であり、金学順が日本政府を訴えると義母に告げるのが91年11月23日であるところ(甲17号証の3)、原告は、妻と知り合う以前の90年から、会社の上司の指示を受けて慰安婦の取材を始めている(甲13、甲118)のだから、義母の裁判を有利にする意図などあろうはずがない。
なお、被告西岡は、原告が義母から金学順に関する情報を得たとくり返し誹謗している(甲4,甲119)が、義母の団体は遺族会であるところ、原告の取材先は挺身隊問題対策協議会であり、原告はソウル支局長から情報を得て取材をしたのであるから(甲57乃至59)、そのような事実はない。

イ■もっとも、原告は、本件記事を書く前の91年2月に今の妻と籍を入れている(甲115 原告陳述書6頁)。そこで、被告西岡は朝日新聞記者行動基準(乙3)を根拠に倫理違反であると主張している。
しかし、利害関係の有無と虚偽の記事を書く動機とは別個のものである。仮に利害関係があるからといって原告には義母の裁判を有利にするという動機があったと直ちにいえるわけでない。そして、前記のとおり原告は、妻と知り合う以前の90年から、上司の指示を受けて慰安婦の取材を始めているのだから、義母の裁判を有利にする意図などあろうはずがない。
そして、そもそも朝日記者行動基準(乙3)は2006年に制定されたもので91年当時なかったところ、仮にあったとしても、そこで要求されているのは、「事前に上司に届け出て了承を得る。」(乙2、2頁1行目)ということである。原告の義母が遺族会の理事であることは周囲の誰もが知っていることであり、原告に記事を書くよう勧めたソウル支局長は当然そのことを知っていた。それでも、原告に記事を書くよう上司から指示が出ており、原告は、指示に従って記事を書いたに過ぎないから(原告本人調書10頁)、会社の規則上全く問題ない。
なお、原告は、92年に西岡氏に批判されて以降、会社に報告して、全く問題がないとの判断が下されている(甲166)。
ウ■以上から、③「原告が義母の裁判を有利にするという悪しき動機をもって記事を書いた」との事実が証明されたとはいえない。

小括・真実性について
以上から、
①原告の記事が金学順の証言と異なること、
②原告がそのことを知りつつあえて記事を書いたこと、
③原告が義母の裁判を有利にするという悪しき動機ないし利害関係に基づいて記事を書いたこと
はいずれも証明されておらず、「原告が義母の裁判を有利にするという悪しき動機をもって金学順の証言を意図的にねじ曲げてこれと異なる記事を書いたこと」との事実の真実性は一切証明されていない。
なお、朝日第三者委員会報告書も「同記者が親戚関係にある者を利する目的で事実をねじ曲げた記事が作成されたともいえない」(甲64号証42頁)と正当に認定している。


原告最終準備書面p76~79
❸原告が悪しき動機に基づいて記事を書いたとする点について
相当性の検討

ア■前記のとおり、被告西岡は、原告が義母の裁判を有利にする目的で記事を書いたと主張するが、原告は、妻と知り合う以前の90年から、会社の上司の指示を受けて慰安婦の取材を始めている(甲13、甲118)のだから、義母の裁判を有利にする意図などない。
そして、被告西岡は、必要な調査・取材を尽くした事実、事情を具体的に主張すべきところ、被告西岡は、原告への取材を含め、原告の執筆動機について一切調査・取材した形跡がみられない。
したがって、この点について被告西岡に相当性は認められない。

イ■また、被告西岡は、原告が義母から金学順に関する情報を得たとくり返し誹謗している(甲4,甲119)ところ、被告西岡は、「遺族会」と「挺対協」とが異なる団体であることを当然知っていたし、専門家である以上知り得べきであった。「挺対協」に対する取材が「遺族会」関係者からの便宜に依るものだったと非難するには、その異なる2つの団体のあいだに、特殊、特別な関係があることについて被告西岡は取材をし証拠を収集しなければならないところ、そのような証拠は提出されておらず、主張自体もなされていない。
したがって、この点についても被告西岡に相当性は認められない。

ウ■なお、被告西岡は記事Aについて、雑誌『正論』の2015年3月号(甲108)で、「義理の母から情報をもらったという私の推測は誤りであったのだろう。そのことは前月号の拙論で訂正したところだ」(199頁)と記載しており、この前月号すなわち2015年2月号の『正論』で訂正したと法廷で述べていた(被告西岡本人調書15頁)。
ところが『正論』2015年2月号(乙13、甲107)の記載は以下のとおりである。

「確かに私は、植村氏が説明をしない前には、金氏に関する情報提供も梁氏が行ったのではないかと考え、そのように書いて来た。しかし、それは推量であって批判ではない。私が批判しているのは、利害関係者が捏造記事を書いてよいのかというジャーナリズムの倫理だ。植村氏と朝日はその点について答えていない。言論による論争が必要な所以だ。」(72頁)

一読して明らかなとおり、これは訂正などではない。単に言い訳をして自己正当化を図っているだけに過ぎない。このような開き直りをしておいて、3月号では自らが訂正したかの如く強弁しているのであって、被告西岡の態度は極めて悪質である。

エ■被告西岡は、公開されている朝日新聞の記者行動基準(乙3)を容易に確認することができた。その「取材方法」の5項に「自分や家族が所属する団体や組織を自らが取材することになり、報道の公正さに疑念を持たれる恐れがある場合は、事前に上司に届け出て、了承を得る」と記載されていることも、簡単に知ることができた。

そうであれば、実際に原告が上司の承諾を得ていたのかどうかを確認しなければ、原告を非難することもできないことを認識すべきであった。
したがって、この点についても被告西岡に相当性は認められない。


--------------------- 第4回 了 ---------------------

次回の内容

22日▼第5回 東京判決の注目点5
原告植村隆氏の最終意見陳述(2018年11月28日)

断たれた夢/激しいバッシングの中で/裁判官の皆様へ