神原元弁護士が読み上げた「進行意見」
本件の進行について以下のとおり意見を述べます。
裁判所におかれては、
1 2019年2月22日に弁論を再開した上で乙第24号証を採用した理由を明らかにされた上
2 乙第24号証に記載された事実に反論するため、1ヶ月半ほどの準備期間の後、再度、期日を指定してください。
以下、理由を述べます。
1 はじめに
本件審理は、2018年11月28日に結審となり、あとは2019年3月20日の判決言い渡しを待つのみとなっていました。ところが、判決言い渡しの1ヶ月半前、2019年2月8日になって、裁判所から被告に示唆して、同年2月22日に弁論を再開し、朝日新聞第三者委員会報告書全文(乙第24号証)を証拠提出させ、証拠採用する運びとなりました。
乙24号証には原告に不利に援用されかねない他の多数の事実が記載されており、裁判所は、判決の起案にあたって被告の立証の不足に気づいてこれを補うべく、同号証を採用したとみるほかありません。原告は乙24号証のどの部分が自己に不利に援用されるか裁判所の意図するところが分からず、反証ができません。
よって、頭書のとおり、裁判所が乙24号証を採用した理由を明らかにした上で、続行期日を入れるよう意見を述べるものです。
以下、詳述します。
2 裁判所の釈明権行使義務の存在
前記のとおり、乙24号証は原告に不利に援用されかねない多数の事実が記載されているものですが、原告は同号証のどの部分がどのように判決に援用されるか分かりません。これは原告にとって不意打ちであり原告の防御権を著しく侵害しています。
そもそも民事訴訟は弁論主義を採用し攻撃防御方法の提出は当事者の責任であるのに、裁判所が一方当事者に証拠提出を促し、その証拠を他方当事者に不利に援用するというのは釈明権(民訴法149条)行使としては異例です。本件においてあるべき姿は、なにより原告に攻撃防御の機会を保障することである。
すなわち、本件ではすでに裁判所に促されて被告が乙24号証を提出しているのです、裁判所としては、乙24号証を採用した理由(乙24号証のどの部分が新たに問題になったのか)を明らかにした上で、原告に対して、適正な釈明権の行使として反証するよう促すべきなのです。
釈明権はたんなる裁判所の便宜的見地から認められたものではなく、当事者、ひいては国民の司法に対する信頼を保持するために認められたものです。よって、釈明権の行使は一種の公益的要請であり、義務となる場合もあります。
本件で乙24号証は裁判所の指示により証拠採用されたものであり、そこに重要な記載があるからこそ採用したはずです。そうであれば、どの点が本件で重要なのかを当事者双方に明らかにした上で、主張・反証を尽くさせるのが前記釈明義務の内容なのです。
なお、乙24号証には、これまで本件訴訟の審理において立証されていなかった、朝日新聞の吉田証言の報道状況が詳細に記載されており(同5から19頁)、判決においても、朝日新聞の吉田証言報道の事実が、原告に不利に援用されることがあり得ます(乙23号証参照)。これについても原告としては対応せざるを得ないことになるのです。
3 反論の機会を与えることが適正手続の要請であること
原告は、裁判所が乙24号証を採用した理由について説明を受けた上で、これらについて精査し反論する必要があるところ、原告にこのような主張・立証の機会を与えることは適正手続の要請です。
すなわち、本件審理において、乙24号証の要約版(乙8号証)は2016年2月17日(第4回期日)に、乙24号証の一部である甲64号証も2016年5月18日(第5回期日)に法廷に証拠提出され、証拠調べがなされています。遅くとも2016年中には、裁判所は乙24号証の存在について知っていたのです。ところが、裁判所は、2016年中はもちろん、2018年11月28日の結審に至るまで乙24号証の存在に言及せず、判決を3月20日に控えた本年2月22日、突如、弁論を再開して乙24号証を証拠採用したのです。この手続は異常であり、原告の防御権の観点から見て重大な瑕疵があるといわざるを得ません。乙24号証には吉田証言朝日新聞報道等原告に不利に援用されかねない多数の事実が記載されているのですから、これに対する反論の機会を十分に与えることが適正手続の要請であり、民事訴訟における手続的正義の要求するところです。
4 結論
以上から、原告としては、裁判所より、乙24号証を採用した理由、すなわち乙24号証のどの部分が判決において援用される箇所なのかを明らかにして頂いた上、
① そこで重要であることが明らかにされた事実に対する反証する準備のため、
② その他原告に不利に援用されかねない他の多数の事実を精査し反証する準備のため、
さらに準備期間を1月半程度頂いた上で、次回期日を指定されたく意見を述べるものです。