2016年11月13日日曜日

植村隆のソウル通信第5回

ローソク大集会で考えたこと

大統領府に近いデモの最前線。警察当局はバリケードをつくって
デモ隊の進入を防いでいた(11月12日夜、ソウルで)
光化門広場の李舜臣(イ・スンシン)銅前では
13日に日付が変わっても集会が開かれていた








































ソウル市内での講演会に向かうため、11月12日午後、カトリック大学の地元・駅谷(ヨッゴク)駅から地下鉄1号線に乗った。私の大学は、ソウルにすぐ隣接している富川(プチョン)市にある。仁川(インチョン)とソウルの間にある都市だ。この地下鉄1号線は、その仁川とソウル中心部を結んでいる。地下鉄は超満員だった。

この日は、ソウル市中心部の光化門(カンファムン)周辺で、朴槿恵(パク・クネ)大統領の退陣を求める大規模なローソク集会が計画されていた。この1号線は、集会の集結場所であるソウル広場のある市庁(シチョン)駅に直通で行けるのだ。

私は途中で、地下鉄2号線に乗り換えなければならなかったが、超満員で身動きが簡単にとれず、下車するのに苦労した。車内で誰かが、「大統領一人のためにこんなに混んだ」という趣旨の言葉を発した。この車内の多数の人びとも、集会に向かっているようだった。

私も集会に行きかったが、私が講師の講演会なので、キャンセルするわけにはいかない。集結場所とは反対の江南(カンナム)地区にある講演会場へ向かった。
講演は午後6時すぎから、8時ごろまであった。日本人や日本語を解する韓国人が30人以上集まってくれた。質問も相次ぎ、盛り上がった。講演会の後、近くのビヤホールで懇親会が開かれた。

■主催者発表100万人 ビヤホールでは壁面の大きなスクリーンで、デモを生中継するテレビの映像を映していた。まるで、パブリックビューイングである。
「主催者発表100万人、警察の推計26万人」などという情報も字幕で流れていた。
私はその映像を食い入るように見た。しかし、画面で見る限り、大きな混乱はなく、警察側も、デモ参加者に対して、力で対応している感じはなかった。デモ隊も暴力的ではなかった。
懇親会参加者の韓国人の男性が「韓国のデモもレベルが上がった」と話していた。
テレビの画面では、「地下鉄1号線も終電を延長する」と伝えていた。

「やはり現場に行こう」。懇親会が終わった後、集会の現場に行くことにした。友人の日本人と二人で江南駅から地下鉄に乗った。
午後11時20分ごろ、デモの最前線にあたる地下鉄景福宮(キョンボックン)駅に着いた。4番出口は、警官隊が階段に集結し、封鎖していた。「これは大変だ」と思って、反対側の出口から、地上に出た。周辺には、まだ多数の人々が集まり、「朴大統領は下野しろ」などと叫んでいた。

大統領の住む青瓦台(大統領府)に一番近い、交差点付近が最前線だった。そこで集会参加者と警官隊が対峙していた。人々が密集していたが、比較的簡単に最前線まで行けた。
大統領府に向かう道には、警官隊が巨大なフェンスを設置し、それより前に進めないようにしていた。その場所で、集会参加者はフェンスを開けろとか、大統領下野のスローガンを繰り返していた。しかし、デモ隊も警察官隊も暴力を使うことはなかった。

■解放区の祝祭のよう 民主化運動が高揚していた1987年当時、私はソウルに留学していた。その時は、デモには催涙弾がつきものだったが、今回の集会ではそういうものもなく、人は多いが平和的なムードが漂っていた。恋人同士や、家族連れの姿も見えた。光化門周辺は、交通が遮断され、広い道を人々が行きかっていた。複数の場所で、コンサートをしていた。
まるで解放区で祝祭をしているような雰囲気が漂っていた。その一方で、集会で出たゴミを集めている人々もいた。デモ参加者のようだった。

光化門広場の李舜臣銅像周辺にはたくさんのテントが張られていた。ここで泊まるのだろうか。銅像前では13日に日付が変わっても集会が開かれていた。 
「終電に遅れるかもしれない」。急に不安になって、地下鉄市庁駅に急いだ。途中、たくさんの屋台が出ていた。焼き鳥、焼きイカ…、カップヌードル、ビールなども売っていた。いいにおいがしている。うまそうだ。腹ペコだったが、乗り遅れると困るので、じっと我慢。

午前0時15分ごろ、駅のホームに下りたが、もう富川駅まで行くのはなかった。手前の九老(クロ)駅までの終電に乗った。そこから苦労して、タクシーに乗って、大学のゲストハウスに戻った。

翌13日、日曜の朝、韓国の新聞がどんな報道をしているか、読もうと思ったが、毎週日曜日は休刊日だったことに気づいた。購読している韓国経済新聞も、日曜日は休みだ。仕方ないので、ネットで見ることにした。
韓国経済新聞電子版の見出しは、「『大韓民国は偉大だった』 100万人ローソク集会平和的に終わる」とあった。ゴミも残さず、混乱もなく、集会が終了したことを讃えていたのだった。
同紙は、集会参加者の女子高生の声も伝えていた。朴大統領の母校である聖心女子高校の生徒たちが、集会で壇上にあがり、こう発言し、下野を求めたのだという。
「『真実、正義、愛』という校訓は、先輩(朴大統領)のどの行動からも見出せません。私たちはあなたを大韓民国の代表と思って生きていく、自信がありません」

■燃えたぎる反朴感情 朴大統領が親友の崔順実(チェ・スンシル)容疑者に機密文書を渡していた疑惑や文化やスポーツに関する二つの財団の設立をめぐる不正疑惑などで、韓国の人びとの朴大統領に対する怒りが激化している。
12日の集会は、21世紀に入って最大の規模だったという。
10月29日、11月5日に続き3週連続の退陣要求集会だ。その度に参加者が増えている。その一方で、朴大統領の支持率は、落ちている。韓国ギャラップの世論調査によると、最新の調査(8日~10日)では、支持率は歴代大統領最低の5%で、否定的な評価は90%。20代の支持率は0%だという。まるで、「風前の灯」のような支持率ではないか。
デモは平和的でも、韓国の人びとの反朴感情は燃えたぎっている。


青瓦台(大統領府)と書かれた棺のようなものが、路上に
置かれていた。市民たちは、その前にローソクをささげていた

地下鉄市庁駅に貼られたポスター。朴大統領が
崔順実氏にマリオネットのように操られている


休刊日明けの14日付の韓国経済新聞が伝えたローソク大集会の記事。
ローソクの灯の流れを多重撮影して、合成した写真を大きく載せた。
写真上の建物が青瓦台(大統領府)
14日付の韓国経済新聞の別ページ。
「1987年『6月抗争』以後、最大の人波 青瓦台に向かった『平和な憤怒』」

という見出しを付けている