2018年12月27日木曜日

■回顧■2018年

NEWS & TOPICS
ネトウヨ、ヘイト、差別、妨害とたたかう!

この1年、 ネットやテレビにはヘイトや嫌韓スピーチが流れ、書店にはリベラルたたきや歴史修正主義の雑誌や本が並びました。講演会や映画上映会を妨害する動きも各地で起きました。その一方で、市民や弁護士の運動と取り組みの成果も目立ちました。へイトスピーチに賠償を命ずる判決が相次ぎ、大手動画サイトは差別表現の規制を始めるようになりました。それらのトピックスをまとめて並べ、平成最後の年2018年の回顧とします。

以下の引用はすべて、ことし朝日新聞に掲載された記事をダイジェストしたものです。

=引用開始(月日順)
2月■朝鮮総連本部に銃弾発砲
東京都千代田区の在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部に銃弾が撃ち込まれた。事件発生は23日午前3時50分ごろ。男2人が中央本部前に車で乗り付け、門扉に向け5発を発砲。建造物損壊容疑で現行犯逮捕された。けが人はなかった。
警視庁によると、車を運転していた右翼活動家の桂田智司容疑者(56)は「北朝鮮のミサイル発射に堪忍袋の緒が切れた。車で突っ込むつもりだった」と供述。助手席から発砲した元暴力団員の川村能教容疑者(46)は「拳銃は自分のもの」と話しているという。
公安関係者によると、桂田容疑者は在日コリアンを非難する右派系団体の排外主義的デモに参加。中央本部前でも北朝鮮のミサイル発射に対する抗議活動を行っており、直近では昨年11月に抗議していたのを確認しているという。<朝日新聞3月1日付>

5月■ネット上で在日女性を脅迫した男を書類送検
ヘイトスピーチに反対する活動を続ける川崎市の在日コリアン3世、崔江以子(チェカンイヂャ)さん(44)をツイッター上で脅したとして、神奈川県警が同県藤沢市の無職の男(50)を、脅迫容疑で書類送検したことがわかった。崔さんは24日に会見し、「捜査に感謝している。普通に暮らしたい」「危険を感じて、バスでも子どもと離れて座らざるを得なかった。生きるのを諦めたくなったこともあったが、子どもや関係者に支えられた」と言葉を詰まらせながら語った。
崔さんや代理人弁護士によると、川崎市では2016年1月、ヘイトスピーチに反対する市民団体が結成され、崔さんの発言がメディアで紹介された。翌月から、ツイッターで崔さんを中傷したり脅したりする投稿が始まったという。
投稿は昨年12月までに数百件に上り、「ナタを買ってくる予定。レイシストが刃物を買うから」といった内容もあった。17年8月には崔さんの勤め先にゴキブリやガの死骸が届き、翌9月には「死骸送りつけたの誰よ」などと投稿されたこともあった。崔さんは不眠や難聴などを発症し、病院でストレス起因と診断された。16年8月には県警川崎署に告訴状を提出した。 <朝日新聞デジタル5月25日>

6月■ヘイト講演会を数百人の抗議行動で中止に
川崎市で排外主義的なデモを繰り返している男性らが計画した講演会が3日、中止になった。講演会でヘイトスピーチが行われるとして、会場の市教育文化会館周辺には、反ヘイトスピーチの市民団体のメンバーら数百人が集まり、入り口を塞ぐなどの抗議行動を展開した。
抗議は市民団体「ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワーク」が呼びかけ、講演会開始の1時間前から「レイシスト(人種差別主義者)帰れ!」と連呼。講演会への参加者を見つけては取り囲み、押し返した。団体によると、約600人が抗議に参加したという。
この日はヘイトスピーチ対策法が施行されて2年。川崎市は今春、ヘイトスピーチの恐れがある場合、公的施設の利用を事前規制できる全国初のガイドライン(指針)を施行した。市民団体は指針による使用の不許可を求めたが、市は要件を満たさないとして利用を許可していた。<朝日新聞デジタル6月4日>

6月■地震後に差別ツイート相次ぐ
近畿地方を18日に襲った大阪北部地震後に、ツイッター上で外国人に対する差別的な投稿が相次いでいる。「地震に乗じてヘイトをあおっている」などと批判も出ており、法務省も「真偽をよく確かめて」と注意を呼びかけている。
「地震が起きると外国人が悪事を働く可能性が高い」「重要文化財が壊れている。地震のせい!? 外国人の可能性も!?」――。地震後、ツイッターにはこうした投稿が相次いだ。
これに対し、ネット上では「震災をダシに差別をあおるな」などと批判が殺到。法務省人権擁護局もツイッターで「災害発生時には、インターネット上に、差別や偏見をあおる意図で虚偽の情報が投稿されている可能性もあり得ます」などと冷静に行動するよう呼びかけた。
同省によると、災害時にこうした投稿をするのは初めて。「災害時はデマがありうるため、いち早く注意喚起した」という。ツイッター日本法人によると、人種差別的な投稿などがあった場合は投稿者に削除を求め、応じなければアカウントを永久に凍結するなどの措置をとっているという。
過去には、2016年の熊本地震の際に「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」といったデマがネット上で出回った。95年前の関東大震災でも、同様のデマにより朝鮮人らが殺害される事件が起きたとされる。<朝日新聞6月19日付>

7月■通報によって差別動画の削除と広告停止が相次ぐ
ネット空間の差別的な表現にどう対処するか。利用者の「通報」をもとに、運営者側が投稿動画を削除したり、広告主が問題を指摘されたサイトへの広告を停止したりする動きが広がっている。差別表現がなくなると歓迎する声がある一方、対象の拡大には言論の自由の観点から慎重さを求める声もある。
「ネトウヨ(ネット右翼)動画を報告しまくろう」。匿名掲示板サイトで呼びかけが始まったのは5月中旬。きっかけは動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿された、ある殺人事件の容疑者が「在日」だ、と根拠なく言及した動画だ。ユーチューブ運営者に規約違反が報告され、この動画が削除された、という書き込みがあった。これを受け、他の動画も通報する動きが広がった。
ユーチューブは、差別を扇動するような「悪意のある表現」は認めないとしており、視聴者が報告できる仕組みもある。違反した動画は削除し、当事者に通知。3回続くとアカウントが停止される。
ユーチューブを運営するグーグル日本法人は、取材に「個別の対応はお話ししていない」と回答。ただ、一昨年から、規約違反への対応を強化した、という。
差別的な内容を含んだまとめサイト「保守速報」への広告掲載も問題化した。(中略)
通報の動きが広がり、通販サイト「通販生活」を運営するカタログハウスや映像配信のU―NEXTも保守速報への広告を停止。ネット広告大手のファンコミュニケーションズ(東京都)も、「規約に違反している」として、契約を解除した。保守速報のサイトには、管理人からのお知らせとして、「現在広告がない状態で運営しております。このままだと存続が危うい状態です」と書かれている。<朝日新聞デジタル7月6日>
 
7月■仙台地裁がヤフーに虚偽の投稿の削除を命令
ヤフーの掲示板に虚偽の情報を書き込まれたとして、宮城県内の60代男性が同社に投稿削除と慰謝料を求めた訴訟の判決が9日あり、仙台地裁の村主隆行裁判官は「虚偽の事実が記載されていると知った時点で投稿を削除する義務があった」とし、同社に投稿削除と約15万円の支払いを命じた。
判決によると、2016年2月、何者かによって、男性の実名や職歴とともに「在日朝鮮人である」という虚偽の内容が投稿された。男性はヤフーに対し、日本国籍を証明する自身の戸籍抄本などを送って投稿の削除を求めたが、応じてもらえなかった。
ヤフーは弁論で「同姓同名の他人である可能性がある」などと反論したが、村主裁判官は「書証などから容易に(虚偽と)認定できる」と指摘。「人格的利益より、虚偽の事実を示した表現の自由を保護する理由は全くない」とした。 <朝日新聞デジタル7月9日>

7月■「ニュース女子」制作会社と司会者を名誉毀損で提訴
沖縄の米軍基地反対運動を取り上げた番組「ニュース女子」で名誉を傷つけられたとして、人権団体「のりこえねっと」の共同代表・辛淑玉(シンスゴ)さんが31日、番組を制作したDHCテレビジョン(東京)と、司会を務めた東京新聞元論説副主幹の長谷川幸洋さんを相手取り、計1100万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
訴状によると、問題としているのは東京メトロポリタンテレビジョン(MX)で昨年1月2日と同9日に放送された番組と、同年3月13日にインターネット配信された番組の計3本。基地反対運動の参加者が暴力を繰り返し、辛さんの団体が金銭面で支援していると表現されたとして、「社会的評価を低下させられた」と主張している。損害賠償のほか、ネット番組の配信停止や謝罪も求めている。
番組をめぐっては、放送倫理・番組向上機構(BPO)放送人権委員会が3月、人権侵害を認定し、MXに再発防止を勧告した。提訴後に記者会見した辛さんは「BPOに指摘されても、DHCテレビはネット配信を続けている。侮辱された沖縄の人の分も裁判を戦いたい」と語った。MXからはBPOの勧告後に謝罪されたため、訴訟の被告にはしなかったという。 <朝日新聞デジタル7月31日>

8月■国連委が日本にヘイト対策強化勧告
国連人種差別撤廃委員会は30日、日本の人権状況と政府の取り組みへの見解をまとめた報告を公表し、ヘイトスピーチ対策の強化などを勧告した。ヘイトスピーチについては、2016年に日本が対策法を施行した後もなくならない現状に懸念を表明。対策が限定的で不十分だとの認識を示し、集会などでの差別的言動を禁止するよう求めた。
日本のヘイトスピーチ問題をめぐって、委員会は前回14年に法規制を勧告した。今回、対策法の施行を歓迎しつつも、効力は限定的だと指摘し、法を改正して救済対象を外国出身者以外にも広げるよう勧告。集会やデモでのヘイトスピーチや暴力をあおる発言を禁止し、インターネット上でのヘイトスピーチに対しても効果のある対策を取るように求めた。さらに、司法部門で差別犯罪の捜査や処罰について研修を行うことも勧告した。
慰安婦問題では、15年12月の日韓合意といった解決努力を評価しつつ、「被害者を中心に置くアプローチが十分でなかった」との認識を示し、元慰安婦が納得するような解決を求めた。<朝日新聞デジタル8月30日>

9月■LGBT差別寄稿掲載した新潮45休刊に
LGBTをめぐる寄稿や企画で批判を浴びていた月刊誌「新潮45」が、最新号発売から約1週間で休刊に追い込まれた。雑誌ジャーナリズムの老舗の一翼を担ってきた新潮社。社長が「あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現」と説明する企画がなぜ掲載されたのか。
 「編集長の編集権を重んじ、自主性を信じていた」。休刊を受けて取材に応じた伊藤幸人・広報担当役員は25日夜、そう話した。その自主性の尊重が今回、裏目に出る。8月号の自民党杉田水脈(みお)衆院議員の寄稿に批判が殺到しても、当初は幹部の危機感は薄かった。ところが、10月号に掲載した特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」では新潮社を支えてきた作家からの批判が相次ぎ、執筆取りやめを表明する人も出る事態になった。<朝日新聞デジタル9月27日>

11月■大量懲戒請求した900人超を提訴
全国の弁護士会に大量の懲戒請求が出された問題で、東京弁護士会の弁護士2人が「不当な請求で業務を妨害された」として、900人超の請求者に各66万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こすことを決めた。請求者1人ごとに訴えるため、900件超の訴訟となる。まずは2日、6人を相手に提訴する予定だ。
訴訟を起こすのは北周士、佐々木亮の両弁護士。昨年以降、計4千件の懲戒請求を受けた両弁護士は今年4月、約960人の請求者を相手に訴訟を起こす考えをツイッターで表明。同時に和解も打診したが、応じたのが約20人にとどまったため、残る人について提訴する方針を決めた。北弁護士は朝日新聞の取材に「件数が多いので、裁判所の対応を見ながら随時提訴したい」と話している。
弁護士への懲戒請求は昨年、全国で約13万件に上った。各地の弁護士会が、朝鮮学校に交付する補助金の再考を促した国の通知を批判する声明を出したことなどへの反発とみられる。請求者を募るブログも存在し、まず佐々木弁護士に大量の請求が出された。両弁護士が批判すると、さらに請求が膨らんだ。同種の訴訟では、同会の金竜介弁護士が「在日コリアンを理由に懲戒請求された」と都内の男性を訴え、同地裁が10月に33万円の賠償を命じている。 <朝日新聞デジタル11月1日>

11月■香山リカさんの講演会が妨害電話で中止に
京都府南丹市は22日、精神科医で立教大教授の香山リカさんの講演会を中止したことをホームページで明らかにした。市などでつくる実行委員会が24日に開く子育てイベントで「子どもの心を豊かにはぐくむために」と題し講演予定だったが、妨害をほのめかす電話などがあったためという。
市によると、「日の丸の服を着て行ってもいいか」などとする電話が市に5件あり、「当日大音量を発する車が来たり、会場で妨害や暴力があったりしたら大変やろ」と市役所を訪れて告げる男性もいたという。市は京都府警に相談したうえ、別の講師を招くことを決めた。取材に西村良平市長は「圧力に屈したわけではない。子どもや母親らに穏やかに参加してもらうことが大事ということを考慮した」、香山さんは「精神科医としての事例を踏まえ、地方で子育てする保護者のみなさんを励ますような講演を準備していたので残念で不本意。一体どういう抗議があったのか詳しい内容を知りたい」と話した。<朝日新聞デジタル11月22日>

12月■慰安婦テーマの映画上映妨害に禁止命令
慰安婦問題をテーマにしたドキュメンタリー映画の上映会が妨害される危険性があるとして、神奈川県横須賀市で上映会を企画した男性が右翼団体を相手取り、妨害行為の禁止を求めた仮処分申し立てで、横浜地裁(宮沢睦子裁判官)は6日、この団体に対し、上映会場から半径300メートル以内での妨害行為を禁ずる決定を出した。
映画は同県在住の朴寿南(パクスナム)さん(83)が監督し、韓国人元慰安婦らが日本に謝罪を求めて訴える姿を描いた「沈黙―立ち上がる慰安婦」。 昨年から各地で上映会が開かれ、横須賀市でも市民らによる実行委員会が8日の上映会開催を予定している。
映画をめぐっては、10月16日の同県茅ケ崎市での上映会で、街宣車が会場周辺で上映中止を要求。11月28日の横浜市での上映会でも、右翼団体の構成員とみられる男性が会場内に入ろうとし、主催者に制止される騒ぎが続いた。
横浜地裁は決定で、それぞれの上映会は「(団体の)構成員または関連団体が妨害行為をしたと認められる」と認定したうえで、「(8日も)妨害行為をするおそれがある」と判断した。<朝日新聞12月7日付>

12月■差別サイトへの賠償命令、最高裁で確定
ネット上の差別的な投稿を集めたまとめサイト「保守速報」で名誉を傷つけられたとして、在日朝鮮人のフリーライター李信恵(リシネ)さんがサイト運営者に損害賠償を求めた訴訟で、運営者に200万円の支払いを命じた判決が確定した。最高裁第三小法廷(宮崎裕子裁判長)は11日付の決定で運営者の上告を退け、李さんが勝訴した一、二審判決が確定した。
一、二審判決によると、運営者は2013年7月から約1年間、匿名掲示板「2ちゃんねる」やツイッターから、李さんについて「朝鮮の工作員」などと書き込んだ投稿を引用し、編集を加えて掲載した。
一審・大阪地裁は、表現の一部が、名誉毀損(きそん)、人種差別、女性差別にあたると指摘。まとめサイトで編集する際、差別的な文言を拡大したり、色をつけたりして強調したことで、新たな権利侵害が生まれたと認定した。二審・大阪高裁もこの判断を支持した。<朝日新聞デジタル12月12日>

12月■「九条俳句」不掲載は違法、最高裁で確定
「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」。こう詠んだ俳句が秀句に選ばれたのに公民館だよりに載らず、精神的苦痛を受けたとして、作者の女性(78)がさいたま市に200万円の慰謝料などを求めた訴訟で、不掲載を違法とした判断が確定した。最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)は、5千円の賠償を命じた二審判決を支持し、20日付の決定で市と女性の上告を退けた。
一、二審判決によると、女性は2014年6月、集団的自衛権の行使容認に反対するデモに加わった経験から句を詠んだ。地元の句会で秀句とされたが、公民館は「公平中立の立場から好ましくない」として公民館だよりに載せなかった。
一審・さいたま地裁は、公民館では3年以上、秀句を公民館だよりに載せ続けていたと指摘。秀句を掲載しなかったことは、思想や信条を理由にした不公正な取り扱いで「句が掲載されると期待した女性の権利を侵害した」として、5万円の慰謝料を認めた。
二審・東京高裁は、集団的自衛権の行使について世論が分かれていても、不掲載の正当な理由とはならないとし「女性の人格的利益の侵害にあたる」と判断。不掲載の経緯などを踏まえ、慰謝料の額を減額した。<朝日新聞デジタル12月21日>

12月■辛淑玉氏を中傷したジャーナリストに賠償命令
在日コリアン3世で人権団体「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉(シンスゴ)氏が、フリージャーナリストの石井孝明氏のツイッターで「スリーパーセル(潜伏工作員)」などと中傷されたとして、550万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、東京地裁であった。鈴木正弘裁判長は、石井氏に55万円の支払いを命じた。

石井氏は2016年11月~18年2月、ツイッターで辛氏に言及。辛氏の代理人によると、判決は、名誉毀損(きそん)を訴えた「北朝鮮のパシリ」などという10件の投稿について、辛氏の主張を認めた。脅迫だと訴えた「普通の先進国だったら、極右が焼きうちにしかねない」という1件については、脅迫には当たらないと判断したという。 <朝日新聞デジタル12月25日>
=引用終わり

2018年12月26日水曜日

発売3週間後の反響

12月5日に発行された「慰安婦報道『捏造』の真実」は、発売から3週間がたつ。版元の花伝社の担当編集者によると売れ行きは「いい動き」だという。
全国どこの書店でも、ベストセラーや売れ筋の本を並べる一般書コーナーではなく、マスコミ、ジャーナリズムという専門ジャンルの区画に置かれているようだ。札幌の大型書店、紀伊国屋書店札幌本店とジュンク堂書店札幌店でも専門書扱いだ。しかし、表紙が正面に見えるように置く「面陳列」となっていて、少しでも目立つようにという書店側の配慮が感じられる。紀伊国屋書店ではポップ広告も飾られている(写真右上と右下)。花伝社が販促用に作ったものだが、「不当判決」の幟を掲げる写真が踊っている。コピーには「ジャーナリズムの根底を揺るがしかねないこの裁判の真実を改めて世に問う!」「戦いはまだまだ、これからだ」とあって、力が入っている。書店のポップ広告は、専門書コーナーでは辞書やガイドブック以外は少ないから、これは破格の扱いといえようか。(ポップ広告とは、pop=point of purchase 店頭で商品のそばに置く飾り広告のこと)
花伝社は先週末22日に朝日新聞に広告を出した(写真下左)。読書面の下の大きな広告欄に、筑摩書房や第三書館、彩流社、共同通信社、新日本出版社など12社の新刊本と並んでいた。「5段12割」という小さな枠ではあるが、上段の中央にあり、目立つ扱いとなっていた。キャッチコピーは「誰が何を捏造したのか。朝日新聞の慰安婦報道をめぐり、法廷で明かされた保守派論客の杜撰な言論。事実をめぐる論戦はまだ続く」と訴えている。花伝社には読者からの感想も届き始めた(写真下右)。ある読者カードには次のような感想が書かれている。「本書を読むと、植村さんの記事に誤りはなかったわけで、なのに捏造という記者生命にかかわる非難を受け、家族も危険な目にあったのにこの判決かと、あらためて憤りを覚えます」。
読者の感想は、アマゾンにも2件のカスタマーレビューが載っている。2件とも5つ星、満点の評価。ミスター・ディグ氏は、「不当判決だ、公益性があればデマを流してもいいのか」と判決を批判し、風の邑人氏は「デタラメとウソとデマを可視化した貴重な記録」と同書を評価している。この2人の書評には計12人が「役に立った」のボタンを押している。さて、もうすぐお正月休みです。まだ読んでいない方は、旅行や帰省などの道中で、また寝正月の合間などに、ぜひ手に取って読んでみて下さい。





2018年12月10日月曜日

妨害なく上映会実施

映画「沈黙――立ち上がる慰安婦」の上映会が8日横須賀、9日東京・渋谷であり、両会場とも右翼の妨害はなく無事に終了した、と実行委員会がフェースブックで伝えています。その記事から、横須賀、渋谷の上映会の様子と、製作委員会・朴寿南監督の声明を転載します。
【12月8日、横須賀】東京、大阪、新潟、神奈川各地から90名もの市民が、『沈黙立ち上がる慰安婦』上映会を守るために集まりました!(加工写真の集まりは上映会ではなく、応援に来た人たちの打ち合わせなのです。)写真の通り警備体制も厳重に敷かれました。今日は寒かったです。1日立ってくれた皆様、弁護士の先生、会場の中で防衛し続けていただいた皆様本当に有難うございました。こうして約150名がぶじに鑑賞。夜、右翼団体が駅周辺に現れましたが結局、一つの団体も会場半径300m以内に近寄ることができませんでした。韓国メディアがトップニュースで報道しています!弁護団、市民の勝利を誇りに思います。ありがとうございました。
 【12月9日、渋谷】10時からの『沈黙立ち上がる慰安婦』上映は右翼団体の妨害行動はいっさいなく、満席近く上映を終えました。昨日の横須賀上映に応援に来てくれた方や、他にも入場券を買って中で鑑賞しつつ見守ってくれた皆様がいます。本当にありがとうございました。トークにかえ昨日横須賀会場でインタビューに答えた監督コメント5分をDVDに焼き放映してもらいました(本日会場のみ限定放映)。拍手喝采!!でした。渋谷署の護衛もありました。周りを警戒しながら映画が上映される社会は異常です。1213日(木)13時より上映があります!ぜひこの機会にご覧ください。 
【声明】(中略)抗議内容は、朝鮮人「慰安婦」は、強制 連行ではなかった、捏造映画である、日本の政府見解に反する映画であり上映そのものに断 固抗議するというものです。憎悪に満ちたヘイトスピーチでもあります。 こうした事実ではない誹謗中傷、公然となされる妨害行為は、映画に登場する「慰安婦」被害者を傷付け、尊厳を踏みにじるセカンドレイプそのものです。今こうした抗議、妨害行為に対して私達がなしうることは、1人でも多くの人を集めて『沈 -立ち上がる慰安婦』を上映することです。 いったいどういう映画なのか、みなさんぜひ映画をみにきてください。地域で自主上映を開き、皆様の手でこの映画の上映会をぜひ開催してください。この上映運動の自由と権利までをも脅かすあらゆる行為行動に対し、私たちは弁護団、そして日韓の市民の皆さんと力を合わせて立ち向かいたいと思っています。
※声明は、12月6日、横浜地裁仮処分決定後の記者会見で配布された




2018年12月7日金曜日

右翼の妨害に仮処分

横須賀市で市民主催の映画上映会を妨害しようとしている右翼団体に対して、横浜地裁は会場近くでの妨害行為を禁じる仮処分決定を出しました。
この仮処分申し立ては、神原元弁護士が全国の弁護士に呼びかけて行われました。神原弁護士は植村裁判では東京訴訟の弁護団事務局長をしています。申し立てには100人の弁護士が名を連ね、札幌訴訟弁護団の小野寺信勝事務局長も加わりました。
仮処分決定を報じる朝日新聞記事を以下に引用します。


【朝日新聞2018.12.7朝刊、第3社会面】

慰安婦テーマの映画、上映妨害に禁止命令 横浜地裁、仮処分決定

慰安婦問題をテーマにしたドキュメンタリー映画の上映会が妨害される危険性があるとして、神奈川県横須賀市で上映会を企画した男性が右翼団体を相手取り、妨害行為の禁止を求めた仮処分申し立てで、横浜地裁(宮沢睦子裁判官)は6日、この団体に対し、上映会場から半径300メートル以内での妨害行為を禁ずる決定を出した。

映画は同県在住の朴寿南(パクスナム)さん(83)が監督し、韓国人元慰安婦らが日本に謝罪を求めて訴える姿を描いた「沈黙―立ち上がる慰安婦」。
昨年から各地で上映会が開かれ、横須賀市でも市民らによる実行委員会が8日の上映会開催を予定している。
映画をめぐっては、10月16日の同県茅ケ崎市での上映会で、街宣車が会場周辺で上映中止を要求。11月28日の横浜市での上映会でも、右翼団体の構成員とみられる男性が会場内に入ろうとし、主催者に制止される騒ぎが続いた。
横浜地裁は決定で、それぞれの上映会は「(団体の)構成員または関連団体が妨害行為をしたと認められる」と認定したうえで、「(8日も)妨害行為をするおそれがある」と判断した。
朴さんは決定後の記者会見で、「生きた心地がしませんでした。映画を守ろうと応援してくださる市民に感謝します」と語った。(編集委員・北野隆一)
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■横須賀の上映会案内



■映画「沈黙――立ち上がる慰安婦」上映日程




2018年12月5日水曜日

緊急出版!本日発売

「慰安婦報道『捏造』の真実」
植村裁判取材チーム・編、花伝社・刊
12月5日、全国いっせい発売
amazonでもOK!



内容・筆者(植村裁判取材チーム)・ページ

 問われる「慰安婦報道」とジャーナリズム(北野隆一) p3-5
――植村裁判を検証する目的と意義

 個人攻撃の標的にされた「小さなスクープ」(水野孝昭) p6-17
――報道の歴史に特筆すべき「植村記事」の大きな価値

 櫻井よしこが世界に広げた「虚構」は崩れた(佐藤和雄) p18-31
――「慰安婦=強制連行ではない」というストーリーの崩壊

 西岡力は自身の証拠改変と「捏造」を認めた(水野孝昭) p32-44
――「ない」ことを書き、「ある」ことを書かなかった「利害」関係者

 櫻井と西岡の主張を突き崩した尋問場面(構成・中町広志) p45-100
――法廷ドキュメント
(1)櫻井よしこ尋問 自ら認めた杜撰な取材と事実の歪曲
(2)西岡力尋問  明らかになった重要証拠の重大改変

 「真実」は不問にされ、「事実」は置き去りにされた(長谷川綾) p101-111
――しかし、「植村記事は捏造」を判決は認めていない

 植村裁判札幌訴訟判決 判決要旨 p112-116

 
発行
花伝社(東京都千代田区西神田2-5-11、電話03-3263-3813) HP

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〒101-0065 東京都千代田区西神田2-5-11 出版輸送ビル2F
電話03-3263-3813、FAX03-3239-8272、
E-mail info@kadensha.net

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2018年11月30日金曜日

植村さんの最終陳述

11月28日にあった東京訴訟の第14回口頭弁論で植村隆さんが行った最終意見陳述の全文を再掲します。植村さんは3年7カ月にわたった裁判(東京訴訟)の結審にあたって、西岡力氏と文春をあらためて強く批判し、最後に裁判長に対して「正義が実現する判決を」と求めました。約10分間の陳述が終わると、法廷では3、4人から拍手が起こりました。法廷での拍手は、東京と札幌で計27回におよんだ植村裁判で初めてでした。

「植村捏造バッシング」は
様々な被害をもたらした
巨大な言論弾圧、人権侵害事件だ



■最終意見陳述全文
「私の書いた慰安婦問題の記事が、捏造でないことを説明させてください」。いまから、4年10か月ほど前の2014年2月5日、神戸松蔭女子学院大学の当局者3人に向かって、私はこう訴えました。場所は神戸のホテルでした。私は同大学に公募で採用され、その年の春から、専任教授として、マスメディア論などを担当することになっていました。テーブルの向かいに座った3人の前に、説明用の資料を置きました。しかし、誰も資料を手に取ろうとしませんでした。「説明はいらない。記事が正しいか、どうか問題ではない」というのです。 緊張した表情の3人は、こんなことを言いました。「週刊文春の記事を見た人たちから『なぜ捏造記者を雇用するのか』などという抗議が多数来ている」「このまま4月に植村さんを受け入れられる状況でない」

要するに大学に就職するのを辞退してくれないか、という相談でした。採用した教員である私の話をなぜ聞いてくれないのか。怒りと悲しみが、交錯しました。面接の後、「70歳まで働けますよ」と言っていた大学側が、180度態度を変えていました。

その週刊文春の記事とは、1月30日に発売された同誌2014年2月6日号の「“慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」のことです。その記事が出てから、大学側に抗議電話、抗議メールなどが毎日数十本来ているという説明でした。私は、この週刊文春の記事が出たことで、大学当局者に呼び出されたのです。当局者によれば、産経新聞にもこの文春の記事が紹介され、さらに拡散しているとのことでした。私の記事が真実かどうかも確かめず、教授職の辞退を求める大学側に、失望しました。結局、私は同大学への転職をあきらめるしかありませんでした。

打ち砕かれた私の夢
この週刊文春の記事で、日本の大学教授として若者たちを教育したいという私の夢は実現を目前にして、打ち砕かれました。そして、激しい「植村捏造バッシング」が巻きおこったのです。「慰安婦捏造の元朝日記者」「反日捏造工作員」「売国奴」「日本の敵 植村家 死ね」など、ネットに無数の誹謗中傷、脅し文句を書き込まれました。自宅の電話や携帯電話にかかってくる嫌がらせの電話に怯え、週刊誌記者たちによるプライバシー侵害にもさらされました。私自身への殺害予告だけでなく、「娘を殺す」という脅迫状まで送られてきました。殺害予告をした犯人は捕まっておらず、恐怖は続いています。いまでも札幌の自宅に戻ると、郵便配達のピンポンの音にもビクビクしてしまいます。週刊文春の記事によって、私たち家族が自由に平穏に暮らす権利を奪われたのです。そして、家族はバラバラの生活を余儀なくされました。私は日本の大学での職を失い、一年契約の客員教授として韓国で働いています。

神戸松蔭との契約が解消になった後、週刊文春は、私が札幌の北星学園大学の非常勤講師をしていることについても、書き立てました。このため、北星にも、植村をやめさせないなら爆破するとか学生を殺すなどという脅迫状が来たり、抗議の電話やメールが殺到したりしました。このため、北星は2年間で約5千万円の警備関連費用を使うことを強いられました。学生たちや教職員も深い精神的な苦痛を受けました。北星も「植村捏造バッシング」の被害者になったのです。
 
責任回避する西岡力、文春竹中氏に強い憤り
私を「捏造記者」と決めつけた週刊文春記者の竹中明洋氏、そして週刊文春の記事に「捏造記事と言っても過言ではありません」とのコメントを出した西岡力氏の2人が今年9月5日の尋問に出廷しました。神戸松蔭に対し電話で、私の「捏造」を強調した竹中氏は、「記憶にありません」と詳細な回答を避けました。本人尋問では、西岡氏が私の記事を「捏造」とした、その根拠の記述に間違いがあったことが明らかになりました。また、西岡氏自身が自著の中で、証拠を改ざんしていたことも判明しました。それこそ、捏造ではありませんか。「捏造」と言われることは、ジャーナリストにとって「死刑判決」を意味します。人に「死刑判決」を言い渡しておいて、その責任を回避する2人の姿勢には強い憤りを感じています。

「植村捏造バッシング」には、当時高校2年生だった私の娘も巻き込まれました。ネットに名前や高校名、顔写真がさらされました。「売国奴の血が入った汚れた女。生きる価値もない」「こいつの父親のせいでどれだけの日本人が苦労したことか。(中略)自殺するまで追い込むしかない」などと書き込まれました。娘への人権侵害を調査するため、女性弁護士が娘から聞き取りをした時、私に心配かけまいと我慢していた娘がポロポロと大粒の涙を流し、しばらく止まりませんでした。私は胸が張り裂ける思いでした。


「植村捏造バッシング」の扇動者である西岡力氏と週刊文春に対する裁判がきょう、結審します。慰安婦問題の専門家を自称して様々な媒体で、私を「捏造」記者だと繰り返し決め付けてきた西岡氏と、週刊誌として日本最大の発行部数を誇る週刊文春がもし、免責されるなら、「植村捏造バッシング」はなぜ起きたのかわからなくなります。「植村捏造バッシング」は幻だった、ということになります。しかし「植村捏造バッシング」は幻ではなく、様々な被害をもたらした巨大な言論弾圧・人権侵害事件なのです。

言論の自由が守られ、正義が実現する判決を
私は1991年に当時のほかの日本の新聞記者が書いた記事と同じような記事を書いただけです。それなのに、二十数年後に私だけ、「捏造記者」とバッシングされるのは、明らかにおかしいことです。こんな「植村捏造バッシング」が許されるなら、記者たちは萎縮し、自由に記事を書くことができなくなります。こんな目にあう記者は私で終わりにして欲しい。そんな思いで私は、「捏造記者」でないことを訴え続けてきました。「植村捏造バッシング」を見過ごしたら、日本の言論の自由は守られないと立ち上がってくれた弁護団の皆さん、市民の皆さん、ジャーナリストの皆さんたちの支えがあって、ここまで裁判を続けて来られました。

裁判長におかれては、弁護団が積み重ねてきた「植村が捏造記事を書いていない」という事実の一つ一つを詳細に見ていただき、私の名誉が回復し、言論の自由が守られ、正義が実現するような判決を出していただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

2018年11月28日水曜日

東京判決は来年3月

update 11/29   7:00am
update 11/29 21:00pm

2019年3月20日(水)午前11時、判決言い渡し
東京訴訟 審理14回、3年7カ月で結審

植村裁判東京訴訟の第14回口頭弁論は11月28日午後2時から、東京地裁103号法廷であり、原告被告双方が最終準備書面の陳述(提出)を行って、すべての審理を終了した。判決言い渡しは2019年3月20日午前11時に行われる。2015年4月27日に始まった東京訴訟は、3年7カ月の時間を費やして結審し、判決を待つことになった。

この日の法廷に、植村弁護団は中山武敏団長はじめ17人が出廷した。被告側席には、いつものように西岡氏の姿はなく、喜田村洋一、藤原大輔の2弁護士が座った。ふたりの席のテーブルには青と黄の10冊のファイルが積み上げられていた。傍聴抽選はなかったが、傍聴席はほぼ満席となった。
植村弁護団は、神原元・事務局長が最終準備書面の要旨を口頭で補足し、続いて植村氏が最後の意見陳述を約10分にわたって行った。植村氏の陳述が終わると、傍聴席の3、4人が拍手をした。法廷で拍手が起きたのは東京、札幌訴訟を通じて初めてだった。原克也裁判長は「これで弁論は終了します」と宣言し、判決言い渡しを2019年3月20日(水)午前11時に行う、と述べ、午後2時20分閉廷した。


東京地方はこの日、初冬とは思えぬおだやかな小春日和となった。報告集会は、午後3時から、紅葉が映える日比谷公園の一角、日比谷図書文化館の4階スタジオプラス小ホールで開かれ、約80人の参加者で満員となった。
集会では、神原弁護士の報告の後、札幌弁護団の渡辺達生弁護士が札幌判決の問題点を説明し、控訴審で争点になるポイントを解説した。続いて東京弁護団の穂積剛、泉澤章、角田由紀子、梓沢和幸、宇都宮健児、吉村功志、殷勇基、永田亮弁護士が、西岡尋問の要点、判決の見通しや、司法を取り巻く最近の状況、植村裁判と支援の意味、などについて、語った。
集会の後半では、北星バッシングのころから植村氏を支援してきた内海愛子氏(恵泉女学園大学名誉教授)が挨拶し、植村氏を励ました後、12月5日に発売されるブックレット「慰安婦報道「捏造」の真実」(花伝社、120ページ、1000円)の執筆陣4人が、発行のねらいや内容の紹介をした。集会の最後に植村氏はこう語った。「この本(花伝社ブックレット)にも記録されているが、櫻井さんや西岡さんの誤りは札幌と東京の裁判で明らかになっている。私たちのたたかいは正しいたたかいであったことが現代史の中で記録され続けている。私は(札幌敗訴に)失望していない。これから東京の判決、札幌の控訴審と続くが、常識があれば、常識が通じれば、勝てる、それを信じてたたかい続ける」
photo by TAKANAMI

■神原元弁護士の陳述(要旨説明)
①被告西岡氏の「捏造」決めつけは、論評・意見ではなく、事実の摘示である。
②「捏造」は、意図的に事実をねじ曲げることであるから、被告西岡氏は植村氏に故意があったことを立証しなければならないが、できていない
③植村氏の記事にある「女子挺身隊として送られた」は、地の文として書かれており、金学順さんの発言をそのまま引用したものではなく、金さんの立場や境遇を植村氏が要約して表現したものだから、金さんが録音テープの中でそのように語ったかふどうかを被告側が問題とするのはナンセンス(誤り)だ、
④被告西岡氏は、金さんのキーセン学校の経歴を書かなかったことを「捏造」決めつけの根拠のひとつとしているが、植村氏はそれがどうしても書かなければならない重要なことだとは考えていなかったのだから、その決めつけはあたらない。1991年当時、他紙の報道もキーセン学校の経歴は書いておらず、それが一般的な解釈であったことは、西岡氏も本人尋問で認めていることではないか
④西岡氏の植村氏に対するバッシングはあまりにも理不尽で、根拠がない

植村氏の最終意見陳述(全文)
「私の書いた慰安婦問題の記事が、捏造でないことを説明させてください」。いまから、4年10か月ほど前の2014年2月5日、神戸松蔭女子学院大学の当局者3人に向かって、私はこう訴えました。場所は神戸のホテルでした。私は同大学に公募で採用され、その年の春から、専任教授として、マスメディア論などを担当することになっていました。テーブルの向かいに座った3人の前に、説明用の資料を置きました。しかし、誰も資料を手に取ろうとしませんでした。「説明はいらない。記事が正しいか、どうか問題ではない」というのです。 緊張した表情の3人は、こんなことを言いました。「週刊文春の記事を見た人たちから『なぜ捏造記者を雇用するのか』などという抗議が多数来ている」「このまま4月に植村さんを受け入れられる状況でない」

要するに大学に就職するのを辞退してくれないか、という相談でした。採用した教員である私の話をなぜ聞いてくれないのか。怒りと悲しみが、交錯しました。面接の後、「70歳まで働けますよ」と言っていた大学側が、180度態度を変えていました。

その週刊文春の記事とは、1月30日に発売された同誌2014年2月6日号の「“慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」のことです。その記事が出てから、大学側に抗議電話、抗議メールなどが毎日数十本来ているという説明でした。私は、この週刊文春の記事が出たことで、大学当局者に呼び出されたのです。当局者によれば、産経新聞にもこの文春の記事が紹介され、さらに拡散しているとのことでした。私の記事が真実かどうかも確かめず、教授職の辞退を求める大学側に、失望しました。結局、私は同大学への転職をあきらめるしかありませんでした。

この週刊文春の記事で、日本の大学教授として若者たちを教育したいという私の夢は実現を目前にして、打ち砕かれました。そして、激しい「植村捏造バッシング」が巻きおこったのです。「慰安婦捏造の元朝日記者」「反日捏造工作員」「売国奴」「日本の敵 植村家 死ね」など、ネットに無数の誹謗中傷、脅し文句を書き込まれました。自宅の電話や携帯電話にかかってくる嫌がらせの電話に怯え、週刊誌記者たちによるプライバシー侵害にもさらされました。私自身への殺害予告だけでなく、「娘を殺す」という脅迫状まで送られてきました。殺害予告をした犯人は捕まっておらず、恐怖は続いています。いまでも札幌の自宅に戻ると、郵便配達のピンポンの音にもビクビクしてしまいます。週刊文春の記事によって、私たち家族が自由に平穏に暮らす権利を奪われたのです。そして、家族はバラバラの生活を余儀なくされました。私は日本の大学での職を失い、一年契約の客員教授として韓国で働いています。

神戸松蔭との契約が解消になった後、週刊文春は、私が札幌の北星学園大学の非常勤講師をしていることについても、書き立てました。このため、北星にも、植村をやめさせないなら爆破するとか学生を殺すなどという脅迫状が来たり、抗議の電話やメールが殺到したりしました。このため、北星は2年間で約5千万円の警備関連費用を使うことを強いられました。学生たちや教職員も深い精神的な苦痛を受けました。北星も「植村捏造バッシング」の被害者になったのです。
 
私を「捏造記者」と決めつけた週刊文春記者の竹中明洋氏、そして週刊文春の記事に「捏
造記事と言っても過言ではありません」とのコメントを出した西岡力氏の2人が今年9月5日の尋問に出廷しました。神戸松蔭に対し電話で、私の「捏造」を強調した竹中氏は、「記憶にありません」と詳細な回答を避けました。本人尋問では、西岡氏が私の記事を「捏造」とした、その根拠の記述に間違いがあったことが明らかになりました。また、西岡氏自身が自著の中で、証拠を改ざんしていたことも判明しました。それこそ、捏造ではありませんか。「捏造」と言われることは、ジャーナリストにとって「死刑判決」を意味します。人に「死刑判決」を言い渡しておいて、その責任を回避する2人の姿勢には強い憤りを感じています。

「植村捏造バッシング」には、当時高校2年生だった私の娘も巻き込まれました。ネットに名前や高校名、顔写真がさらされました。「売国奴の血が入った汚れた女。生きる価値もない」「こいつの父親のせいでどれだけの日本人が苦労したことか。(中略)自殺するまで追い込むしかない」などと書き込まれました。娘への人権侵害を調査するため、女性弁護士が娘から聞き取りをした時、私に心配かけまいと我慢していた娘がポロポロと大粒の涙を流し、しばらく止まりませんでした。私は胸が張り裂ける思いでした。

「植村捏造バッシング」の扇動者である西岡力氏と週刊文春に対する裁判がきょう、結審します。慰安婦問題の専門家を自称して様々な媒体で、私を「捏造」記者だと繰り返し決め付けてきた西岡氏と、週刊誌として日本最大の発行部数を誇る週刊文春がもし、免責されるなら、「植村捏造バッシング」はなぜ起きたのかわからなくなります。「植村捏造バッシング」は幻だった、ということになります。しかし「植村捏造バッシング」は幻ではなく、様々な被害をもたらした巨大な言論弾圧・人権侵害事件なのです。

私は1991年に当時のほかの日本の新聞記者が書いた記事と同じような記事を書いただけです。それなのに、二十数年後に私だけ、「捏造記者」とバッシングされるのは、明らかにおかしいことです。こんな「植村捏造バッシング」が許されるなら、記者たちは萎縮し、自由に記事を書くことができなくなります。こんな目にあう記者は私で終わりにして欲しい。そんな思いで私は、「捏造記者」でないことを訴え続けてきました。「植村捏造バッシング」を見過ごしたら、日本の言論の自由は守られないと立ち上がってくれた弁護団の皆さん、市民の皆さん、ジャーナリストの皆さんたちの支えがあって、ここまで裁判を続けて来られました。

裁判長におかれては、弁護団が積み重ねてきた「植村が捏造記事を書いていない」という事実の一つ一つを詳細に見ていただき、私の名誉が回復し、言論の自由が守られ、正義が実現するような判決を出していただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。


2018年11月24日土曜日

東京訴訟28日結審

元朝日新聞記者の植村隆さんが、元東京基督教大教授・西岡力氏と文藝春秋を名誉毀損で訴えた「植村裁判東京訴訟」は、28日に開かれる第14回口頭弁論で審理が終了します。2015年4月に始まり、結審まで3年7カ月の時間を費やしたことになります。この後、来春に予想される判決言い渡しの日時は、この日の法廷で明らかになるものとみられます。

この弁論で双方の弁護団は、これまでの主張を整理補足した最終準備書面を提出するものとみられます。植村弁護団は同書面で、本人尋問(前回9月5日)で西岡力氏が重大な証拠改変を認めたことをふまえ、「被告西岡による名誉毀損行為の悪質性」についての主張を大幅に補充するものとみられます。また、植村氏は最終の意見陳述書を提出する予定です。一方、被告側は、植村氏に対する「捏造」との批判は、意見・論評の域を逸脱していない、との従来の主張を展開するものとみられます。

11月28日(水)の日程

■第14回口頭弁論 午後2時開廷、東京地裁103号法廷
傍聴希望者は早めに裁判所にお越しください

■報告集会 午後3時~4時30分、日比谷図書文化館・スタジオプラス小ホール map
前半)弁護団報告・最終準備書面で訴えたもの
後半)執筆チームが語る緊急出版『慰安婦報道「捏造」の真実』の読みどころ
主催:植村東京訴訟支援チーム
共催:新聞労連、メディア総合研究所、日本ジャーナリスト会議
資料代500円 




2018年11月22日木曜日

札幌高裁に控訴!

 札幌訴訟  新たなステップへ

植村弁護団は、札幌地裁(岡山忠広裁判長)の判決を不服として、控訴期限の11月22日、札幌高裁に控訴しました。植村さんと3人の弁護団共同代表(伊藤誠一、渡辺達生、秀嶋ゆかり弁護士)は揃って記者会見し、控訴の理由を説明しました。植村さんは「高裁で勝利を目ざす」と語りました。今後の審理日程は、未定です。
北海道司法記者クラブで、11月22日午後5時すぎ(撮影・石井一弘)















各紙電子版の報道を引用します。

朝日新聞
慰安婦報道巡る訴訟、植村氏が札幌高裁に控訴
元慰安婦の証言を伝える記事を「捏造(ねつぞう)」と断定され名誉を傷つけられたとして、元朝日新聞記者で「週刊金曜日」発行人兼社長の植村隆氏がジャーナリストの櫻井よしこ氏や出版3社に損害賠償などを求めた訴訟で、植村氏が22日、請求を棄却した9日の札幌地裁判決を不服とし、札幌高裁に控訴した。
地裁判決は、櫻井氏の論文などが植村氏の社会的評価を「低下させた」と認めた一方、櫻井氏が植村氏の記事は事実と異なると信じたことには「相当の理由がある」などと結論づけた。植村氏は22日に札幌市内で記者会見し、「到底納得できず、高裁で逆転勝訴を目指したい」と話していた。

北海道新聞
慰安婦報道訴訟 元朝日記者が控訴 一審判決の問題点訴え
朝日新聞元記者の植村隆氏が、従軍慰安婦について書いた記事を「捏造」と書かれ名誉を傷つけられたなどとして、ジャーナリストの桜井よしこ氏と出版社3社に損害賠償を求めた訴訟で、原告の植村氏は22日、請求を棄却した一審札幌地裁判決を不服として札幌高裁に控訴した。原告側は控訴審で一審判決の問題点を訴える考えだ。
一審判決によると、桜井氏は2014年、週刊新潮など3誌で、植村氏が記者時代の1991年に韓国の元慰安婦の女性の証言を取り上げた記事を「意図的な虚偽報道」などと批判した。女性は日本政府を相手に訴訟を起こしているが、桜井氏は14年、訴状と異なる内容の記事を新聞や雑誌に掲載。今年3月の本人尋問では「訴状を十分に確認していなかった」と述べ、その後、訂正記事を出した。
原告側は、桜井氏が植村氏の批判記事を書く際にも資料の正確な確認を怠っていたと主張。だが今月9日の一審判決は、名誉毀損(きそん)を認める一方、桜井氏がジャーナリストであることを考慮せず、植村氏の義母が慰安婦への補償を求める団体の幹部だったことなどから「桜井氏が植村氏の記事の公正さに疑問を持ち、植村氏が捏造記事を書いたと信じたとしても相当な理由があった」として賠償請求は退けた。
植村氏は22日、札幌市中央区で記者会見し「桜井氏は事実に基づかない認識で批判しており、徹底的に戦いたい」と述べた。桜井氏側は「コメントは特にない」としている。(野口洸)

読売新聞
慰安婦報道「捏造」訴訟、元朝日記者側が控訴
朝日新聞社のいわゆる従軍慰安婦問題の報道を巡り、元朝日記者の植村隆氏(60)が自分の記事を「捏造」と記述されて名誉を傷つけられたとして、ジャーナリストの櫻井よしこ氏(73)と出版3社に計1650万円の損害賠償などを求めた訴訟で、原告側は22日、請求を棄却した札幌地裁判決を不服として、札幌高裁に控訴した。

産経新聞
元朝日新聞記者の植村隆氏が控訴 慰安婦記事巡り、札幌
元朝日新聞記者の植村隆氏(60)が、従軍慰安婦について書いた記事を「捏造」とされ名誉を傷つけられたとして、ジャーナリストの櫻井よしこ氏(73)と出版社3社に謝罪広告の掲載と損害賠償などを求めた訴訟で、植村氏側は22日、請求を棄却した札幌地裁判決を不服として札幌高裁に控訴した。
9日の判決は「桜井氏が植村氏の記事の公正さに疑問を持ち、植村氏が事実と異なる記事を執筆したと信じたのには相当な理由がある」として訴えを退けた。
植村氏は22日、札幌市内で記者会見し「桜井氏は私に取材せず、事実に基づかない批判をした。正しい判決を得るべく努力する」と述べた。

共同通信
慰安婦記事巡り元朝日記者が控訴
元朝日新聞記者の植村隆氏(60)が、従軍慰安婦について書いた記事を「捏造」とされ名誉を傷つけられたとして、ジャーナリストの桜井よしこ氏(73)と出版社3社に謝罪広告の掲載と損害賠償などを求めた訴訟で、植村氏側は22日、請求を棄却した札幌地裁判決を不服として札幌高裁に控訴した。
9日の判決は「桜井氏が植村氏の記事の公正さに疑問を持ち、植村氏が事実と異なる記事を執筆したと信じたのには相当な理由がある」として訴えを退けた。
植村氏は22日、札幌市内で記者会見し「桜井氏は私に取材せず、事実に基づかない批判をした。正しい判決を得るべく努力する」と述べた。

この記事は、東京、中日、信濃毎日、中国、山陰中央新報、高知、宮﨑日報、沖縄タイムスほか各地の新聞電信版にも掲載されている>

時事通信
元朝日記者が控訴=慰安婦報道訴訟-札幌
従軍慰安婦報道に関わった元朝日新聞記者の植村隆氏(60)が「捏造(ねつぞう)記事」などと指摘され名誉を傷つけられたとして、ジャーナリストの櫻井よしこ氏(73)と櫻井氏の記事を掲載した雑誌の発行元に損害賠償などを求めた訴訟で、植村氏側は22日、請求を棄却した札幌地裁判決を不服として札幌高裁に控訴した。
植村氏は控訴後に会見し、「到底納得できず、逆転勝訴を目指して頑張りたい」と語った。弁護団によると、同日から50日以内に控訴理由書を高裁に提出する。
札幌地裁は9日の判決で、櫻井氏が自身の取材などから記事を捏造と信じたことには「相当な理由がある」と判断していた。

  

2018年11月20日火曜日

緊急出版のお知らせ

「慰安婦報道『捏造』の真実」
植村裁判取材チーム・編
12月5日、花伝社から全国いっせい発売
amazonでも予約受付開始!



内容・筆者(植村裁判取材チーム)・ページ

 問われる「慰安婦報道」とジャーナリズム(北野隆一) p3-5
――植村裁判を検証する目的と意義

 個人攻撃の標的にされた「小さなスクープ」(水野孝昭) p6-17
――報道の歴史に特筆すべき「植村記事」の大きな価値

 櫻井よしこが世界に広げた「虚構」は崩れた(佐藤和雄) p18-31
――「慰安婦=強制連行ではない」というストーリーの崩壊

 西岡力は自身の証拠改変と「捏造」を認めた(水野孝昭) p32-44
――「ない」ことを書き、「ある」ことを書かなかった「利害」関係者

 櫻井と西岡の主張を突き崩した尋問場面(構成・中町広志) p45-100
――法廷ドキュメント
(1)櫻井よしこ尋問 自ら認めた杜撰な取材と事実の歪曲
(2)西岡力尋問  明らかになった重要証拠の重大改変

 「真実」は不問にされ、「事実」は置き去りにされた(長谷川綾) p112-116
――しかし、「植村記事は捏造」を判決は認めていない

 植村裁判札幌訴訟判決 判決要旨 p114-118

 

発行
花伝社(東京都千代田区西神田2-5-11、電話03-3263-3818) HP
販売
共栄書房(同上)

発行日
2018年12月5日、全国書店で発売
アマゾンで予約受付中

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おことわり】内容の連載プレビューは取りやめとなりました

2018年11月17日土曜日

判決報告集会の詳報

update:2018/11/18 10:00 & 15:00
2018年11月9日、かでる2.7にて
集会発言者(各段左から=敬称略)
1段目:小野寺信勝、上田文雄、植村隆、伊藤誠一、神原元
2段目:安田浩一、新西孝司、姜明錫と韓国大学生
3段目:北岡和義、水野孝昭、原島正衛、崔善愛、新崎盛吾、南彰
4段目:植田英隆、喜多義憲、七尾寿子、三上友衛、岩上安身
判決報告集会は、11月9日、記者会見の後、午後6時過ぎから道庁近くの「かでる2・7」4階大会議室で開かれた。夕方から降り出した雨の中、約180人が集まり、会場はほぼ満席となった。
最初に弁護団小野寺事務局長が判決内容を解説し、問題点を指摘した。つぎに、「支える会」共同代表の上田文雄さんと植村隆さんが判決に対する考えと今後の決意を語った。その後、裁判を支援してきた人々がリレートーク形式でそれぞれの思いを語った。
判決は期待を裏切るものだったが、会場に重苦しい空気はなく、植村裁判を力強く支えていく思いを共有し、決意を固める集会となった。集会は午後9時前に終わった。 
text by HH

19人の発言 要旨=発言順

【弁護団報告】 小野寺信勝弁・弁護団事務局長
判決は、「植村さんが記事を捏造した」と櫻井氏が 書いたことを、名誉棄損に当たると判断した。しかし櫻井氏に免責される事情を認定し、請求は退けられた。「植村さんが記事を捏造した」と判断されたのではない。
金学順さんがどういう経緯で慰安婦になったか、裁判所は認定できないとした。その上で、櫻井氏がいろいろな記事や訴状を見て、継父によって慰安婦にさせられたと信じたのは、やむを得ないとした。また植村さんの妻が太平洋戦争犠牲者遺族会の幹部の娘という親族関係から、植村さんが公正な記事を書かないと信じてもやむを得ない、としている。
判決はさらに、植村さんが意図的に事実と異なる記事を書いたと、櫻井氏が信じたのもやむを得ないとした。だが一足飛びに「捏造したと信じた」というのは論理の飛躍だ。それに櫻井氏が、事実に基づいて物事を評価するのが職責のジャーナリストであることを考慮していない。
櫻井氏の本人尋問では、杜撰な取材ぶりが明らかになったが、これでは、不確かな事実であっても信じてしまえば名誉棄損は免責されてしまうことになる。櫻井氏の職責を無視した非常に不当な判決だ。
控訴審で争うことになるが、「事実の摘示か論評か」ではなく、「植村氏が捏造したと櫻井氏が信じたことはやむを得なかったかどうか」、その1点が争点になる。
一読するだけで判決には論理の飛躍があり、十分乗り越えられると思う。今日の判決は非常に残念だし不当な判決だが、控訴審で勝利判決を報告できるよう努力したい。ぜひご支援いただきたい。

【あいさつ】 上田文雄「植村裁判を支える市民の会」共同代表
北星事件と植村バッシングの当初から、私たちは民主主義社会における許し難い言説として、問題の真相を語り、闘う意味を伝え、多くの支援を得てきた。支援された方々に心から感謝します。だが判決は、市民の良識と正義感を打ち砕く、まったく不当な判決となった。
私は司法が、櫻井よしこ氏の杜撰な取材を叱り、ジャーナリズムに高い水準を強く求める判決が欲しかった。控訴審でも、この裁判が持つ意味をさらに多くの方々と共有していきたい」

【あいさつ】 植村隆さん
悪夢のようだった。典型的な不当判決だ。私は承服できない。高裁で逆転判決を目指すしかないと思っている。櫻井氏が自分に都合のいい理屈で私を捏造記者に仕立てようとしたが、本人尋問(3月23日)でその嘘がボロボロ出てきた。裁判でただ1人の証人、元北海道新聞記者の喜多義憲さんは、私が書いた数日後、金学順さんにインタビューした。当時の状況を証言し、櫻井氏らの植村攻撃を「言いがかり」と証言した。
新聞労連や日本ジャーナリスト会議は支援を組織決定した。ジャーナリストの世界では、植村は捏造記者ではない、櫻井氏がインチキしていることは知られているが、それが法廷では通用しない。私は言論の世界では勝っているが、この法廷では負けてしまった。
私が怒っているのは、櫻井氏らの言説によって、名乗らないネット民たちが娘の写真を流したり、大学に脅迫状を送るなど、脅迫行為が広がったことだ。こんなことを放置したら、家族がやられる。20年前、30年前の記事に難癖つけられたら、ジャーナリスト活動ができなくなる。
困難な戦いだったが、私は皆さんと出会えた。敗訴した集会でこんなふうに会場が満員になる。市民は我々の側にある。我々は絶対に負けない。ありがとうございました。

【リレートーク】

■こんな判決がまかり通る社会
安田浩一さん(ジャーナリスト=判決を傍聴席最前列で聞いた)
ふざけた判決だ。「これはダメ」と思いこめば、それがまかり通る。こんな判決を許してはいけない。だが裁判官だけの問題でも、被告だけの問題でもない。いま私たちはどういう社会の中で生きているのか、それを自覚して反撃しなければならない。植村さんの家族が脅迫を受けたが、私たち社会はこれを放置してきた。多くのジャーナリスト、メディア、書き手、安田純平が、取材をするだけで叩かれる。取材をしない人間が堂々と記事を書いて逃げ切る。そんな社会を許さないという強い覚悟が必要だ。

■妖怪をバックにしている櫻井
新西孝司さん(「負けるな!北星の会呼びかけ人=植村さんは「北海道の僕のおやじ。新西さんの書斎は僕の応接間代わりだった」と紹介した)
子どもがいない私は、喜んで一種の疑似親子を演じてきたが、今日から本当の親子になったし孫もできた。相手は安倍政権や右翼勢力という妖怪をバックにした櫻井よしこ。これからも一緒に闘いを広げていきましょう。

■若者同士の冷たい視線
姜明錫さん(早稲田大学大学院生=北星学園大の植村さんの教え子。判決の取材で来た韓国カトリック大学新聞部の学生記者4人の自己紹介を通訳した)
判決を知った時、これでネット右翼は櫻井勝利で炎上していくと思い、悲しくなった。東京で留学生活をしていると、若者同士でも冷たい視線を経験する。僕はこの後も長く日本に住むと思うが、安心して暮らせるかと不安になる。その意味でこの裁判は僕にとって大事な裁判です。植村先生を応援し、一緒に戦っていくつもりです。

■判断力失った日本社会 
北岡和義さん(支える会共同代表=判決を傍聴席で聞いた)
植村裁判は、日本で言論がいい加減なものになっていることを示している。社会全体が、正しいか正しくないかの議論が出来なくなってきた。植村裁判は時代が大きく変わろうとしているとき、自分たちがこれからどう歩んでいくかを分ける事件だ。私は癌の治療を続けている。生きるか死ぬかとなったら、病気もメディアも同じで、もうだめだと思ったら負ける。これだけの皆さんが集まっているのだ。必ず前進する。

■私たちは負けていない
水野孝昭さん(神田外語大教授=朝日新聞で植村さんと同期入社)
4年前の今ごろ、北星学園大学の彼のポストが危なかった。札幌のみなさんが立ち上がって、北星学園はポストを守り、学問の自由を守ってみせた。娘さんを脅したネトウヨの男は罰金刑をくらい、秦郁彦や櫻井よしこは訂正を次々に出した。植村さんの記事は捏造だなんて、もうだれも書けなくなった。私たちは負けていない。植村さんが戦い続ける限り、私たちはついて行く。

■民主主義を鍛える運動
原島正衛さん(北星学園大教授=植村さんの非常勤講師の職を守るために尽力した)
植村さんが韓国カトリック大学に移ることになった時は、韓国に追いやってしまったと、内心忸怩たるものがあった。植村さんの処遇をめぐって学内は2分し、植村さんの心の起伏が大きいのが気掛かりだったこともあった。この5年間で植村さんは成長した。彼を鍛えたのは皆さんだと思うが、櫻井氏かも知れない。この裁判は植村個人のための裁判ではない。絶対に負けてはならない裁判だ。私たちの運動は民主主義を鍛える運動だと強く思う。

■歴史を語り続ける責任
崔善愛さん(支える会共同代表=東京と札幌のたたかいを支え続けているピアニスト)
私は、外国人登録法の指紋押捺を拒否し、米国留学からの再入国不許可の取り消しを求める裁判を経験した。当時、この日本社会ではどんなに声をあげても伝わらないと思った。しかし裁判という機会を得て多くの人と出会い、成長することができた。今日の裁判でもし勝ったとしても、今の日本では一時的に変化しても根本的には変わらない状況にある。私たちは裁判に勝っても負けても、ずっと歴史を語らなければならない責任があると思う。

■ジャーナリストの仕事を否定
新崎盛吾さん(元新聞労連委員長=東京訴訟の支援を続ける共同通信記者)
判決は残念だ。しっかり取材し、裏を取り、正しい情報を世の中に送り出そうとする記事が、単なる伝聞で書いた記事に負けたからだ。櫻井氏がどのような取材をし、どう裏取りしたのか。それが違っていたことは法廷で見事に立証された。植村さんの記事はウソではなく、名誉棄損に当たることまで認めながらの判決だった。プロ意識を持って取材している記者、ジャーナリストの仕事を否定するものだ。

■市民と共にしっかりと
南彰さん(新聞労連委員長=9月に就任した、朝日新聞記者出身)
タブー化強制社会へ日本がどんどん進んでいる。正しい歴史認識を市民と共有しながら、しなやかな社会を目指す記者が出て来るのを妨げかねない判決だ。今後も市民といっしょに、しっかりと支援を続けていく。

■闘い方に問題はなかったか
植田英隆さん(グリーン九条の会=8月に市内の交差点に植村さんの著書『真実』の広告看板を出した)
この看板は勝訴の判決で差し替える予定だったが、東京訴訟の判決が出るまで続けるつもりだ。これまで9回くらい傍聴してきて、勝訴を信じていた。こちらの闘い方に問題はなかったのだろうか。

■我々こそ全員野球で
喜多義憲さん(元北海道新聞記者=札幌訴訟唯一の証人として2月に法廷に立った)
日本のジャーナリズムは腹をくくらなければならないと感じる。権力の側とジャーナリズム側の力は、メジャーリーグと高校野球ほどの差がある。われわれは会社の壁、活字と電波の境を超え、連帯してやっていかないと、とても相手に及ばない。今の内閣を安倍さんは全員野球内閣と言った。次々ぼろが出てきているが、全員野球は我々にこそ必要だ。そうでなければ、この問題だけでなく憲法、原発などの問題に間に合わない」
 
■超党派で運動を支えた
七尾寿子さん(「支える会」事務局長=支援市民グループをまとめ、先頭で率いてきた)
植村裁判を支える運動は超党派だった。毎回傍聴席を埋めて市民の注目度を裁判官に理解してもらおうと、多くの団体を回り、傍聴の抽選の列に並んでもらった。連合も道労連も一緒に並んでくれた。櫻井さんの言説がどう変化していったか、櫻井さんが書いている本90冊を買って読んだ。多くの市民が協力してくれた。市民、労働者の力でここまで来ることができた。金学順さんが慰安婦だったと名乗り出た時は67歳だった。私は今65歳です。がんばります。

■事実の探求は絶対条件
三上友衛さん(道労連議長=傍聴支援や集会参加をサポートしてきた)
権力におもねた、相当に権力を気遣った判決だ。民主主義の根幹は、少なくとも事実を探求したうえで議論し、決めていくのが絶対条件と考えている。そんなプロセスはどうでもいいと言われた気がする。根拠がなくても発言し、決着がつく前に執行してしまうことが労働現場でもある。私たちは事実を積み重ね、事実を突きつけて対抗していく。私たちは諦めるわけにはいかない。

■疑心暗鬼の目で権力監視を
岩上安身さんIWJ代表=植村さんのインタビュー番組をライブ中継するために札幌に来た)
判決は櫻井よしこをジャーナリストとみなしていないことになる。名誉棄損と認めながら植村敗訴となったのは忖度か政治の介入か。彼女は日本会議の看板広告塔だ。今は傷をつけず温存するという政治的意思が働いたのではないかと、非常にうがった見方をしている。日本会議は「憲法改正が発議されたら国民投票に行く」という草の根署名活動に全力で取り組んでいる。権力はあらゆる手だてを使う、三権分立なんて知ったことじゃないと。私たちは疑心暗鬼の目で権力を監視すべきだと思う。

■控訴審でがんばる
伊藤誠一弁護士(札幌訴訟弁護団共同代表) 
さきほど植田さんから、こういう判決を予測できなかったのかと発言があった。本当に申し訳ない。植村さんを敗訴させた「真実相当性」に、こちらはきちんと論陣を張った、やるだけのことをやったけど、こういう結果になったことを申し訳なく思う。札幌高裁の控訴審でがんばる。

■ただの通過点に過ぎない
神原元弁護士(東京訴訟弁護団事務局長) 
東京では慰安婦問題のデマの大元になっている西岡力と、週刊文春を発行している文藝春秋を訴えて、今月28日に最終弁論があり結審する。そこで判決日が示されるだろう。今日の判決は、本人が捏造だと思っているのだから捏造だ、と言っているだけだ。ただの通過点に過ぎない。
update:2018/11/18 10:00am