update:2018/11/18 10:00 & 15:00
2018年11月9日、かでる2.7にて
集会発言者(各段左から=敬称略)
1段目:小野寺信勝、上田文雄、植村隆、伊藤誠一、神原元
2段目:安田浩一、新西孝司、姜明錫と韓国大学生
3段目:北岡和義、水野孝昭、原島正衛、崔善愛、新崎盛吾、南彰
4段目:植田英隆、喜多義憲、七尾寿子、三上友衛、岩上安身
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判決報告集会は、11月9日、記者会見の後、午後6時過ぎから道庁近くの「かでる2・7」4階大会議室で開かれた。夕方から降り出した雨の中、約180人が集まり、会場はほぼ満席となった。
最初に弁護団小野寺事務局長が判決内容を解説し、問題点を指摘した。つぎに、「支える会」共同代表の上田文雄さんと植村隆さんが判決に対する考えと今後の決意を語った。その後、裁判を支援してきた人々がリレートーク形式でそれぞれの思いを語った。
判決は期待を裏切るものだったが、会場に重苦しい空気はなく、植村裁判を力強く支えていく思いを共有し、決意を固める集会となった。集会は午後9時前に終わった。
text by HH
19人の発言 要旨=発言順
【弁護団報告】 小野寺信勝弁・弁護団事務局長
■判決は、「植村さんが記事を捏造した」と櫻井氏が
書いたことを、名誉棄損に当たると判断した。しかし櫻井氏に免責される事情を認定し、請求は退けられた。「植村さんが記事を捏造した」と判断されたのではない。
金学順さんがどういう経緯で慰安婦になったか、裁判所は認定できないとした。その上で、櫻井氏がいろいろな記事や訴状を見て、継父によって慰安婦にさせられたと信じたのは、やむを得ないとした。また植村さんの妻が太平洋戦争犠牲者遺族会の幹部の娘という親族関係から、植村さんが公正な記事を書かないと信じてもやむを得ない、としている。
■判決はさらに、植村さんが意図的に事実と異なる記事を書いたと、櫻井氏が信じたのもやむを得ないとした。だが一足飛びに「捏造したと信じた」というのは論理の飛躍だ。それに櫻井氏が、事実に基づいて物事を評価するのが職責のジャーナリストであることを考慮していない。
■櫻井氏の本人尋問では、杜撰な取材ぶりが明らかになったが、これでは、不確かな事実であっても信じてしまえば名誉棄損は免責されてしまうことになる。櫻井氏の職責を無視した非常に不当な判決だ。
控訴審で争うことになるが、「事実の摘示か論評か」ではなく、「植村氏が捏造したと櫻井氏が信じたことはやむを得なかったかどうか」、その1点が争点になる。
■一読するだけで判決には論理の飛躍があり、十分乗り越えられると思う。今日の判決は非常に残念だし不当な判決だが、控訴審で勝利判決を報告できるよう努力したい。ぜひご支援いただきたい。
【あいさつ】 上田文雄「植村裁判を支える市民の会」共同代表
■北星事件と植村バッシングの当初から、私たちは民主主義社会における許し難い言説として、問題の真相を語り、闘う意味を伝え、多くの支援を得てきた。支援された方々に心から感謝します。だが判決は、市民の良識と正義感を打ち砕く、まったく不当な判決となった。
■私は司法が、櫻井よしこ氏の杜撰な取材を叱り、ジャーナリズムに高い水準を強く求める判決が欲しかった。控訴審でも、この裁判が持つ意味をさらに多くの方々と共有していきたい」
【あいさつ】 植村隆さん
■悪夢のようだった。典型的な不当判決だ。私は承服できない。高裁で逆転判決を目指すしかないと思っている。櫻井氏が自分に都合のいい理屈で私を捏造記者に仕立てようとしたが、本人尋問(3月23日)でその嘘がボロボロ出てきた。裁判でただ1人の証人、元北海道新聞記者の喜多義憲さんは、私が書いた数日後、金学順さんにインタビューした。当時の状況を証言し、櫻井氏らの植村攻撃を「言いがかり」と証言した。
■新聞労連や日本ジャーナリスト会議は支援を組織決定した。ジャーナリストの世界では、植村は捏造記者ではない、櫻井氏がインチキしていることは知られているが、それが法廷では通用しない。私は言論の世界では勝っているが、この法廷では負けてしまった。
■私が怒っているのは、櫻井氏らの言説によって、名乗らないネット民たちが娘の写真を流したり、大学に脅迫状を送るなど、脅迫行為が広がったことだ。こんなことを放置したら、家族がやられる。20年前、30年前の記事に難癖つけられたら、ジャーナリスト活動ができなくなる。
■困難な戦いだったが、私は皆さんと出会えた。敗訴した集会でこんなふうに会場が満員になる。市民は我々の側にある。我々は絶対に負けない。ありがとうございました。
【リレートーク】
■こんな判決がまかり通る社会
安田浩一さん(ジャーナリスト=判決を傍聴席最前列で聞いた)
ふざけた判決だ。「これはダメ」と思いこめば、それがまかり通る。こんな判決を許してはいけない。だが裁判官だけの問題でも、被告だけの問題でもない。いま私たちはどういう社会の中で生きているのか、それを自覚して反撃しなければならない。植村さんの家族が脅迫を受けたが、私たち社会はこれを放置してきた。多くのジャーナリスト、メディア、書き手、安田純平が、取材をするだけで叩かれる。取材をしない人間が堂々と記事を書いて逃げ切る。そんな社会を許さないという強い覚悟が必要だ。
■妖怪をバックにしている櫻井
新西孝司さん(「負けるな!北星の会呼びかけ人=植村さんは「北海道の僕のおやじ。新西さんの書斎は僕の応接間代わりだった」と紹介した)
子どもがいない私は、喜んで一種の疑似親子を演じてきたが、今日から本当の親子になったし孫もできた。相手は安倍政権や右翼勢力という妖怪をバックにした櫻井よしこ。これからも一緒に闘いを広げていきましょう。
■若者同士の冷たい視線
姜明錫さん(早稲田大学大学院生=北星学園大の植村さんの教え子。判決の取材で来た韓国カトリック大学新聞部の学生記者4人の自己紹介を通訳した)
判決を知った時、これでネット右翼は櫻井勝利で炎上していくと思い、悲しくなった。東京で留学生活をしていると、若者同士でも冷たい視線を経験する。僕はこの後も長く日本に住むと思うが、安心して暮らせるかと不安になる。その意味でこの裁判は僕にとって大事な裁判です。植村先生を応援し、一緒に戦っていくつもりです。
北岡和義さん(支える会共同代表=判決を傍聴席で聞いた)
植村裁判は、日本で言論がいい加減なものになっていることを示している。社会全体が、正しいか正しくないかの議論が出来なくなってきた。植村裁判は時代が大きく変わろうとしているとき、自分たちがこれからどう歩んでいくかを分ける事件だ。私は癌の治療を続けている。生きるか死ぬかとなったら、病気もメディアも同じで、もうだめだと思ったら負ける。これだけの皆さんが集まっているのだ。必ず前進する。
■私たちは負けていない
水野孝昭さん(神田外語大教授=朝日新聞で植村さんと同期入社)
4年前の今ごろ、北星学園大学の彼のポストが危なかった。札幌のみなさんが立ち上がって、北星学園はポストを守り、学問の自由を守ってみせた。娘さんを脅したネトウヨの男は罰金刑をくらい、秦郁彦や櫻井よしこは訂正を次々に出した。植村さんの記事は捏造だなんて、もうだれも書けなくなった。私たちは負けていない。植村さんが戦い続ける限り、私たちはついて行く。
■民主主義を鍛える運動
原島正衛さん(北星学園大教授=植村さんの非常勤講師の職を守るために尽力した)
植村さんが韓国カトリック大学に移ることになった時は、韓国に追いやってしまったと、内心忸怩たるものがあった。植村さんの処遇をめぐって学内は2分し、植村さんの心の起伏が大きいのが気掛かりだったこともあった。この5年間で植村さんは成長した。彼を鍛えたのは皆さんだと思うが、櫻井氏かも知れない。この裁判は植村個人のための裁判ではない。絶対に負けてはならない裁判だ。私たちの運動は民主主義を鍛える運動だと強く思う。
■歴史を語り続ける責任
崔善愛さん(支える会共同代表=東京と札幌のたたかいを支え続けているピアニスト)
私は、外国人登録法の指紋押捺を拒否し、米国留学からの再入国不許可の取り消しを求める裁判を経験した。当時、この日本社会ではどんなに声をあげても伝わらないと思った。しかし裁判という機会を得て多くの人と出会い、成長することができた。今日の裁判でもし勝ったとしても、今の日本では一時的に変化しても根本的には変わらない状況にある。私たちは裁判に勝っても負けても、ずっと歴史を語らなければならない責任があると思う。
■ジャーナリストの仕事を否定
新崎盛吾さん(元新聞労連委員長=東京訴訟の支援を続ける共同通信記者)
判決は残念だ。しっかり取材し、裏を取り、正しい情報を世の中に送り出そうとする記事が、単なる伝聞で書いた記事に負けたからだ。櫻井氏がどのような取材をし、どう裏取りしたのか。それが違っていたことは法廷で見事に立証された。植村さんの記事はウソではなく、名誉棄損に当たることまで認めながらの判決だった。プロ意識を持って取材している記者、ジャーナリストの仕事を否定するものだ。
■市民と共にしっかりと
南彰さん(新聞労連委員長=9月に就任した、朝日新聞記者出身)
タブー化強制社会へ日本がどんどん進んでいる。正しい歴史認識を市民と共有しながら、しなやかな社会を目指す記者が出て来るのを妨げかねない判決だ。今後も市民といっしょに、しっかりと支援を続けていく。
■闘い方に問題はなかったか
植田英隆さん(グリーン九条の会=8月に市内の交差点に植村さんの著書『真実』の広告看板を出した)
この看板は勝訴の判決で差し替える予定だったが、東京訴訟の判決が出るまで続けるつもりだ。これまで9回くらい傍聴してきて、勝訴を信じていた。こちらの闘い方に問題はなかったのだろうか。
■我々こそ全員野球で
喜多義憲さん(元北海道新聞記者=札幌訴訟唯一の証人として2月に法廷に立った)
日本のジャーナリズムは腹をくくらなければならないと感じる。権力の側とジャーナリズム側の力は、メジャーリーグと高校野球ほどの差がある。われわれは会社の壁、活字と電波の境を超え、連帯してやっていかないと、とても相手に及ばない。今の内閣を安倍さんは全員野球内閣と言った。次々ぼろが出てきているが、全員野球は我々にこそ必要だ。そうでなければ、この問題だけでなく憲法、原発などの問題に間に合わない」
■超党派で運動を支えた
七尾寿子さん(「支える会」事務局長=支援市民グループをまとめ、先頭で率いてきた)
植村裁判を支える運動は超党派だった。毎回傍聴席を埋めて市民の注目度を裁判官に理解してもらおうと、多くの団体を回り、傍聴の抽選の列に並んでもらった。連合も道労連も一緒に並んでくれた。櫻井さんの言説がどう変化していったか、櫻井さんが書いている本90冊を買って読んだ。多くの市民が協力してくれた。市民、労働者の力でここまで来ることができた。金学順さんが慰安婦だったと名乗り出た時は67歳だった。私は今65歳です。がんばります。
■事実の探求は絶対条件
三上友衛さん(道労連議長=傍聴支援や集会参加をサポートしてきた)
権力におもねた、相当に権力を気遣った判決だ。民主主義の根幹は、少なくとも事実を探求したうえで議論し、決めていくのが絶対条件と考えている。そんなプロセスはどうでもいいと言われた気がする。根拠がなくても発言し、決着がつく前に執行してしまうことが労働現場でもある。私たちは事実を積み重ね、事実を突きつけて対抗していく。私たちは諦めるわけにはいかない。
■疑心暗鬼の目で権力監視を
岩上安身さん(IWJ代表=植村さんのインタビュー番組をライブ中継するために札幌に来た)
判決は櫻井よしこをジャーナリストとみなしていないことになる。名誉棄損と認めながら植村敗訴となったのは忖度か政治の介入か。彼女は日本会議の看板広告塔だ。今は傷をつけず温存するという政治的意思が働いたのではないかと、非常にうがった見方をしている。日本会議は「憲法改正が発議されたら国民投票に行く」という草の根署名活動に全力で取り組んでいる。権力はあらゆる手だてを使う、三権分立なんて知ったことじゃないと。私たちは疑心暗鬼の目で権力を監視すべきだと思う。
■控訴審でがんばる
伊藤誠一弁護士(札幌訴訟弁護団共同代表)
さきほど植田さんから、こういう判決を予測できなかったのかと発言があった。本当に申し訳ない。植村さんを敗訴させた「真実相当性」に、こちらはきちんと論陣を張った、やるだけのことをやったけど、こういう結果になったことを申し訳なく思う。札幌高裁の控訴審でがんばる。
■ただの通過点に過ぎない
神原元弁護士(東京訴訟弁護団事務局長)
東京では慰安婦問題のデマの大元になっている西岡力と、週刊文春を発行している文藝春秋を訴えて、今月28日に最終弁論があり結審する。そこで判決日が示されるだろう。今日の判決は、本人が捏造だと思っているのだから捏造だ、と言っているだけだ。ただの通過点に過ぎない。
update:2018/11/18 10:00am