2016年8月30日火曜日

植村さんの九州講演

植村隆さんが9月7日から九州の4市で講演を行います。8月の北海道、東海(計8市町)につづくスピーキングツアー第2シリーズです。

◆慰安婦問題からみた言論弾圧~私は「捏造記者」ではない
時間:14:30 ~16:30(開場14:00
会場:西南学院大学博物館2階講堂(福岡市早良区西新3丁目3-13-1
参加:500円(資料代)
主催:「慰安婦問題」と取り組む九州キリスト者の会
協賛:I女性会議福岡県本部、「慰安婦」問題にとりくむ福岡ネットワーク、排外主義にNO!福岡、公人のヘイトスピーチを許さない会
連絡先:080-6410-3311(木村)、080-1760-4008(池田)
   
8日(木)
熊本市
◆歴史修正主義と闘うジャーナリストの報告~不屈の民主主義をつくるために
時間:18:30~20:30
会場:くまもと県民交流館パレア 会議室1(熊本市中央区手取本町8-9
参加:500
主催:報道と表現の自由を考える講演会実行委員会
連絡先:はみんぐ法律事務所 TEL096-362-8309


























9日(金)水俣市
◆「慰安婦」問題と言論弾圧を考える
時間:18:30~20:30
会場:水俣市公民館(水俣市浜町2丁目10-26)3階第2研修室
資料代:500
連絡先:TELFAX 0966-63-8779(水俣・ほたるの家 伊東)

11日(日)北九州市
第27回 小田山墓地・朝鮮人遭難犠牲者追悼集会
*第1部 講演会
◆慰安婦問題からみた言論弾圧~私は「捏造記者」ではない
講師:植村隆さん
時間:15:00~17:00(開場14:00
会場:若松バプテスト教会(北九州市若松区栄盛川町9番1 TEL093-761-1492)
*第2部 現地追悼会(小田山墓地)
演奏・発言・碑文朗読・献花
主催:小田山墓地・朝鮮人遭難犠牲者追悼集会実行委員会
連絡先:093-521-7271 (朱) 093-771-3471(田中)


2016年8月25日木曜日

植村さんの津市講演

植村隆さんが三重県津市で行った講演「歴史修正主義と闘うジャーナリストの報告 ―私は『捏造記者』ではない」を会員制ネットメディアIWJ(Independent Web Journal)がアップしています。この講演は、「報道と表現の自由を考える三重県集会実行委員会」が主催し、津市市民活動センターで8月21日(日)午前10時から行われたものです。

◆講演要旨は「IWJエリアチャンネル」に連続ツイート方式でアップされています。 
◆動画は約5分間のハイライト映像がアップされています。

以下に、連続ツイートの全文を引用します。引用にあたっては、ツイートの逆順に並び替え、改行と段落を付しました。
おことわり:一部に誤りがあり、8月26日に追記と訂正(下線部)をしました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
<引用開始>

植村氏 私は現在、韓国カトリック大学校の客員教授をしています。植村バッシングとは、私が25年前、朝日新聞の大阪社会部時代に書いた記事『韓国慰安婦が証言を始めた』が元で、今、大バッシングを受けていることです。

20141223日、TBS『ニュース23』が植村バッシングを特集。当時のアンカー、岸井成格氏が『一連の圧力の背景に、歴史の事実を書き換えようとする勢力がいる』と的確なコメントをされた。結局、岸井氏も番組を追われてしまいました。

バッシングは嫌がらせメールや電話にとどまらず、『マンガ大嫌韓流』にも。『植村隆の罪は吉田清治にも劣らない』『靖国神社の英霊たちの前で土下座させる』と。吉田氏は、日本軍が慰安婦にするため女性を強制的に連行した、と証言した人です。
朝日新聞はこの吉田証言を元に、16本の記事を掲載。だが、20148月、真偽が確信できないとして、それを取り消した。当時、私が勤めていた北星学園大学には、『反日ねつ造記者は、死をもって償え』などの投書がありました。

しかし、私は吉田証言で記事は書いていない。書いたのは慰安婦の証言記事です。1991811日、朝日新聞の大阪社会面に『元朝鮮慰安婦ー思い出すと今も涙』と題し、韓国の団体が元慰安婦に聞き取り調査をしていることを書きました。記事の前文『日中戦争や第二次大戦の際、女子挺身隊の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた朝鮮人従軍慰安婦のうち、1人がソウル市内に生存していることがわかり、韓国挺身隊問題対策協議会が聞き取り調査を始めた』。
『同会のユン代表によれば、この女性は満州生まれ。17歳の時、騙されて慰安婦にされた』。元慰安婦が、戦後、半世紀たってやっと証言を始めたという記事です。慰安婦にされた女性たちは沈黙を守っていたので、これは画期的でした。

彼女たちは、自分の被害体験を克明に話すことはありませんでした。199066日、日本では衆院予算委員会で労働省局長が、『慰安婦は民間業者が軍と共に連れ歩いた。民間業者の仕業だ』としていた。
新聞記者時代の私は人権問題をテーマにし、大阪の在日コリアン問題を追っていました。当時、在日コリアンは就職などで差別を受けており、彼らの権利が侵害されることは、日本人にとっても幸せではないと考えたからです。

19908月、私は韓国に2週間滞在し、元慰安婦に話を聞こうとしましたが、誰も話してくれません。その時、取材した太平洋戦争犠牲者遺族会で、妻になる女性に出会います。韓国人の妻がいることも、私へのバッシングを加速させた。
1991年夏、朝日新聞ソウル支局長から、韓国挺身隊問題対策協議会が元慰安婦の聞き取り調査をしてテープもある、と聞いた。そこで取材に行き、証言をした金学順(キム・ハクスン)さんには会えなかったが、1本目の記事を書きました。

その後、1125日に韓国の弁護団の聞き取り調査に同席。1225日、朝日新聞の大阪版にだけ2本目の記事を掲載。これもあとで、『キムさんが14歳の時にキーセン学校に入学、芸人を目指したことを書いていない』と非難された。
キーセン学校と慰安婦は関係ないから書かなかっただけ。その記事の3日後、キムさんが実名で証言。その姿は韓国のドキュメンタリー映画に残っている。インドネシアで強制連行されたオランダ人女性も、キムさんに勇気づけられ証言した。

私の記事の主旨は、キムさんらが証言を始めた、ということでした。しかし、私へのバッシングの最大の契機になったのは、201426日号の週刊文春に掲載された『“慰安婦捏造” 朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に』という記事です。
文春は『植村氏の記事をきっかけに、朝日新聞は慰安婦問題を次々と取り上げ、元陸軍軍人(吉田氏)の証言を根拠に、日本軍による強制連行があった、との主張を大々的に展開。これに韓国世論が激高する』と書きました。
『韓国世論が激高したので、日本政府は根拠のないまま、1993年の河野談話を発表。日本政府が強制連行を認めたと世界に印象づけ、今日まで日本がいわれなき批判を浴び続ける事態を招いた』として、私を糾弾したのです。

慰安婦報道が私から始まった、というのはまったくのウソで、80年代から松井やより記者が書いています。それに、朝日新聞の記事は韓国で紹介されていない。キム・ハクスンさんが世界に向かって発言したので、韓国世論が注目したのです。
それを歴史修正主義者が巧妙に歪曲した。植村・朝日バッシングをやる人たちは同時に河野談話も断罪する。河野談話は、199112月から日本政府が関係省庁の資料を調べ、元慰安婦、軍人らに聞き取り調査をしてまとめたものです。
河野洋平官房長官は、慰安所は軍当局の要請により設置し、旧日本軍が直接、間接に関与したと認め、意志に反し連行された多数の女性の名誉、尊厳を傷つけたとして謝罪と反省を表明。将来にわたり記憶にとどめる、と語っています。

バッシングする人たちは、私や朝日新聞、河野談話を糾弾するが、日本政府が調査して、謝罪、反省することが、なぜ、日本を貶めることになるのか? ここが、歴史修正主義者の大きな問題です。

東京基督教大学教授の西岡力氏は、朝日新聞の報道には、後に重大な誤りがあったことが判明した、と言う。『植村氏の記事には、挺身隊の名で連行されたとあるが、挺身隊は勤労奉仕をする組織だ』と主張しています。
西岡氏は『女性(キム氏)は親に身売りされたと訴状に書いたが、植村氏はこうした事実には触れずに、強制的と書き、ねつ造記事といっても過言ではない』と。しかし、当時の韓国では、慰安婦を女子挺身隊と呼んでいたのです。
身売りされた件は訴状にも書いていないし、韓国の取材にも答えていません。19848月の朝日新聞の記事では『挺身隊、または軍慰安婦』と表現。19878月の読売新聞も『昭和17年以降、女子挺身隊の名のもと』と書いています。
『日韓併合で無理矢理、日本人扱いをされた朝鮮の娘たちは、多数、強制的に戦場に送り込まれた。彼女たちは、砲弾の飛びかう戦場の仮設小屋や塹壕のなかで、1日に何十人もの将兵に体をまかせた』と、読売も同じ言い回しをしている。

日本で最初にキムさんを取材した北海道新聞ソウル特派員の19918月の記事は『日本政府は責任を。戦前、女子挺身隊の美名のもとに従軍慰安婦として、戦地で日本軍将兵たちに陵辱されたとソウルに住む韓国人女性が挺対協に名乗り出た』と。
1991123日の読売新聞も、韓国人被害者35人が日本政府を相手取り総額7億円の被害請求訴訟を東京地裁に起こしたという記事で、『従軍慰安婦で提訴へ。第二次大戦中に女性挺身隊として強制連行』と書いています。
当時の韓国では『慰安婦』より『挺身隊』と言っていたのです。私の記事がねつ造ならば、北海道新聞も読売新聞も同じだ。(歴史修正主義者は)一部分だけを取り上げて、慰安婦の存在を否定しようとする。

バッシングする人たちは北海道新聞や読売新聞は攻撃しない。西岡氏は、あたかも強制連行があったように書いたと批判。産経自身も199112月、提訴したキムさんの記者会見を取材しています。<一部削除>
その時の産経の記事は、『キムさんが日本軍に強制的に連行された。日本の若者たちに過去の侵略の歴史を知ってもらいたい、日本政府は従軍慰安婦の存在を認め、謝罪して欲しいと強く訴えた』と書いています。
『キムさんは、17歳のとき日本軍に強制的に連行され、中国の前線で軍人の相手をする慰安婦として働いた』。見出しは『日本政府は謝罪を。若人に知って欲しい』です。素晴らしい記事ですよね。新聞記者は、事実の前では皆同じです。

特に90年代の大阪の産経新聞記者は、非常に熱心に人権問題に取り組んでいて、連載シリーズは関西の有名な報道関係の賞まで受けています。強制連行であれ、人身売買であれ、戦場に連れ出され、慰安婦をさせられたことが問題なんです。
今、産経新聞や読売新聞は『強制連行はなかった。慰安婦は商行為だから謝罪する必要はない』と誘導しているんです。これが本当の歴史修正主義者のやり方です。植村が強制連行をこじつけた、というのが彼らの言い分です。

週刊文春が『植村の記事はねつ造』と報じた時、朝日新聞は沈黙していました。私は、そういう態度の会社に憤慨しました。ねつ造と言われた記者は、死刑判決を受けたも同然です。私は、社から事情聴取を何回も受けました。
201485日、朝日新聞は『(植村氏の)記事に事実のねじ曲げはない』と結論づけた。第三者委員会報告書でも『縁戚関係(義母)を利する目的で事実をねじ曲げたとはいえない』とねつ造を否定しました。
ただし、『強制的に連行されたという印象を与え、安易かつ不用意な記載があった』とした。これには承服できない。産経新聞、読売新聞が『強制的に』としたんです。それで、西岡氏のほか、櫻井よしこ氏も私を攻撃してきた。

彼らは『社会の怒りを掻き立て、暴力的言辞を惹起しているものがあるとすれば、それは朝日や植村氏の姿勢』だとバッシング。読売新聞も、キムさんがキーセン学校に通っていたことを植村氏は書いていないと、3回も攻撃している。
しかし、同じ紙面の慰安婦問題検証記事では『読売新聞はキーセンの経歴に触れていなかった』と書く。だから、『ねつ造記事』は言いがかりです。それで私が裁判を起こすと、ジャーナリストなのに、なぜ、裁判に頼るのかと、また叩く。

朝日新聞がねつ造を否定し、これですべて解決したと思った。支援者もとても喜んでくれた。ところが朝日新聞の同じ紙面で、吉田清治氏の記事を取り消した。それでまた、私への激しいバッシングが復活し、さらにひどくなったんです。
自分の娘の顔写真までインターネットに晒された。本当に耐えられなかった。私は、支援者の支えで何とか立ち直ることができたんです。20151月、保守的な月刊『文藝春秋』に手記を書きました。それでも真実は伝わらない。

私をバッシングする西岡氏、櫻井氏たちは、私の言い分をきちんと聞いていない。自分たちに都合よく解釈し、徹底的に叩く。訴訟の目的は、家族への攻撃を止めること。また、私の記事への攻撃は、慰安婦の尊厳を傷つけるのと同じなのです。
言論の自由、報道の自由、大学の自治という、日本が戦後70年守り続けてきた民主主義に対する攻撃です。私は読売新聞北海道支社のインタビューに応じ、仲間たちは懸念しましたが1人で乗り込みました。向こうは5人で待っていました。
カメラマンと2人の地元記者、政治部、社会部の記者です。私がキーセン学校の件を聞くと、彼らは全部の記事を読んでいないという。では、なぜ、そういうことを書くのかと尋ねると、読売の記者は何も答えられなかった。

産経新聞とは2時間のインタビューで徹底的に闘いました。彼らは『強制連行、挺身隊について書いたことについては間違いだった』と言い訳をしながら、のちに『キム氏の証言は次々に変遷、信ぴょう性が揺らいだ』と記事にした。
でも、変遷したことを立証しない。恥をかいたのは産経新聞だ。それで質問状を送ると『個別の記事に関することにはお答えできません』と返してきた。読売新聞は記事にすらしなかった。つまり、記事にしたら不利になるからです。

朝日新聞が彼らのような答え方をしたら、袋だたきです。バッシングは、最初、怖かった。でも、今は歴史修正主義者と闘っています。1997年に『新しい歴史教科書をつくる会』『日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会』が発足。安倍晋三議員が事務局長で、その頃から西岡氏が『ねつ造』発言を始めた。つまり、河野談話、村山談話などで歴史を直視したら、歴史修正主義者たちの反動が起きた。どんどん慰安婦問題を削除しはじめました。
2001年、NHKの番組『女性国際戦犯法廷』に政治家が介入、番組内容が改変されました。2010年、山田宏参議院議員が私の国会招致を求める、という記事が産経新聞に載る。2014年、櫻井よしこ氏は、朝日新聞を廃刊にすべきと発言。

ジャーナリズムの弾圧が、ジャーナリストから起こっている。私は歴史修正主義者の標的になり、慰安婦問題は教科書から削除。NHK、朝日新聞への弾圧。戦後民主主義の破壊です。バッシングをする人たちの共通項は、改憲勢力ということ。
リベラルなジャーナリズムを潰し、憲法を変えようとしている。私の件は世界からは注目されていますが、報道の自由は悪化している。国連『表現の自由』特別報告者のデビット・ケイ氏からはヒアリングを受けました。

2016424日に出た暫定報告では、『慰安婦問題を報じた元朝日新聞記者・植村氏とその娘に対し、殺害予告を含む脅迫が加えられた。当局はもっと強く非難すべきだ』と。現在は、多少、状況は改善しました。
弁護団がボランティアで立ち上がってくれた。ツイッターに娘への誹謗中傷を書き込んだ男性の裁判にも勝ちました。娘は本当に辛い思いをした。精神的苦痛100万円を弁護団は要求したが、裁判官は200万円とまで言った。
今後も札幌と東京で自分の裁判があり、苦しい闘いはまだまだ続きます。ご支援、協力をお願いいたします。 

(ここから質疑応答) 
質問者「慰安婦は本当にいたのか。真実とは何か。追求してほしい」
植村氏 強制連行したという書類を、首謀者が残すでしょうか。慰安婦問題を否定する人たちの一番の問題は、元慰安婦の証言を信用しないことです。1993年の河野談話は、日本政府が調査をして発表したのに、後から信用できないと否定し始めた。
これは国際的にもおかしいと言われている。河野談話のあとも、いろいろ資料が見つかっている。ちゃんと調査をすればいい。アメリカの研究者は連名で『歴史家の中には、慰安婦は日本軍が直接関与したのかと異論を唱える方もいます。しかし、大勢の女性が意思に反して拘束され、暴力を受けたことは、すでに資料と証言が明らかにしている。特定の用語に焦点を当て、狭い法律的な議論を重ねることや、被害者の証言に反論するために極めて限定された資料にこだわることは、被害者が蒙った残忍な行為から目を背け、非人道的制度を取り巻く、より広い文脈を無視するに他ならない』と主張。強制連行があったかどうかではなく、たくさんの被害者の証言ときちんと向きあうことが大事だということなんです。
その証言と向きあわず、瑣末な問題ばかりに目を向け、被害者の尊厳を踏みにじっていることがおかしい。 
司会者「今まで当たり前にできた改憲反対などの集会を、行政はバックアップしなくなった。または、横やりが入って中止になる。植村さんのバッシングと重なる部分があるのでは」   
植村氏 植村バッシングも、政府の見解や歴史修正主義に反する言動を封殺しようとする根っこは同じ。いろんな意見があっていいが、事実を歪曲したり、ねつ造する行為は許されない。
彼らは匿名で批判や誹謗中傷をする。行政や大学は萎縮する。非常に危機感を持っています。今、記者たちは萎縮している。植村バッシングは、他の記者に影響を与えています。時代が悪くなる時は、まず、記者の萎縮から始まります。
記者は、拷問されたりペンを折られることはない。自らペンを折るんです。それは、すごく危険なこと。だから、皆さん、良い記事があったら褒めてほしい。みんなで助けあってほしい。小さな勇気がたくさんある社会のほうが健全です。
ジャーナリズムだけに任せたらダメ。産経新聞の阿比留瑠比記者は私とのインタビューで、元慰安婦に直接、会って話を聞いていない、と言う。それで慰安婦問題を批判する。元慰安婦の証言を信じていないか、関係ないという立場なのです。
これが歴史修正主義者のもっとも悪いところです。

<引用終わり>

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 



IWJは、月額1000円。集会、デモ、抗議行動、記者会見のライブ中継、インタビュー、ニュースなど、100本以上の番組が視聴可能です。アーカイブ映像も豊富です。
入会はこちらから

2016年8月22日月曜日

植村さん名古屋講演

8月9日から始まった植村さんのスピーキングツアー(講演の旅)は、明日(23日)夜の倶知安町で一区切りとなります。旭川、岩見沢、札幌、新ひだか、室蘭、名古屋、津、そして倶知安の8市町を2週間でかけまわる強行軍でした。のべ1000人を超える人が耳を傾けてくれました。ほとんどの人が初めて植村さんと接する人たちでしたが、どの会場でも植村さんの説明と主張、訴えに共感の拍手が起こっていた、とのことです。【植村さん自身の報告は後日掲載する予定です】
地元の新聞記者の取材と記事掲載もありました。裁判以外では、ひさしぶりのことです。以下に、その記事を引用します。

<引用開始>

◆北海道新聞(室蘭版)8月20日付=慰安婦記事、捏造でない 元朝日・植村氏が講演 室蘭
 従軍慰安婦報道に関わった元朝日新聞記者で韓国カトリック大客員教授の植村隆さんが18日夜、室蘭市内で「歴史修正主義とたたかうジャーナリストの報告~私は『ねつ造記者』ではない」と題して講演した。
 植村さんは1991年、韓国在住の元従軍慰安婦の証言を巡る記事を執筆。2014年に雑誌や一部ジャーナリストが「記事は捏造(ねつぞう)で、これを発端に慰安婦問題が国際化して日本批判が広がった」と指摘。植村さんは、非常勤講師を務めていた北星学園大(札幌)に脅迫状が送りつけられるなどした。
 講演で植村さんは記事を捏造とする雑誌やジャーナリストの主張の誤りや矛盾点を指摘し、「元慰安婦の取材をしたこともない人がバッシングしている。元慰安婦のおばあさんたちの尊厳を傷つけている」と述べた。
 従軍慰安婦を否定する勢力について「教育、メディア統制を通じて戦後民主主義を破壊し、改憲への地ならしをしようとしている」と批判。「歴史研究や歴史教育を通じて同じ過ちを繰り返さない固い決意をあらためて表明すべきだ」と訴えた。
 講演会は市民団体「憲法を守る室蘭地域ネット」の主催で、約100人が詰めかけた。
◆中日新聞(愛知県版)8月21日付=元記者の植村さん 慰安婦報道で講演 名古屋
 慰安婦に関する報道で激しいバッシングを受けた元朝日新聞記者で韓国カトリック大客員教授の植村隆さん(58)の講演会「私は『捏造記者』ではない」が20日、名古屋市瑞穂区の市博物館であり、約150人が耳を傾けた。
 植村さんは元慰安婦の証言を報じた1991年の記事を巡り、週刊誌に「捏造」などと批判された。名誉棄損を訴える裁判を起こしており、講演会は名古屋の支援者らが主催した。
 植村さんは非常勤講師として勤務していた北星学園大(札幌市)に届いた「死をもって償え」「売国奴」などの脅迫文を紹介。自身が報じた元慰安婦の証言について「人権侵害問題として国際社会の注目を集め始めた」と意義を強調した。
◆朝日新聞(名古屋版)8月21日付=「戦い続ける」植村さん講演 瑞穂
 慰安婦問題の記事を書いた元朝日新聞記者の植村隆さん(58)が20日、名古屋市瑞穂区の市博物館で講演した。25年前の記事を「捏造」と批判され、「殺す」などの脅迫が家族や勤務先にも及んだ。植村さんは「捏造などしていない。攻撃に屈せず、戦い続ける」と話した。
 県内の平和団体などが主催し、約130人が参加。
 植村さんは「記事は捏造」との週刊誌報道などで名誉を傷つけられたとして、昨年、発行元の出版社などを相手に損害賠償を求める2件の訴訟を起こした。今月3日には、ツイッターで顔写真などをさらされた長女(19)が起こした別の訴訟で、東京地裁は投稿した男性に、170万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。
 植村さんは「家族まで脅され、司法の判断を求める決断をした。攻撃は私個人でなく、歴史を掘り起こす報道や言論の自由に向けられている」と話した。
 朝日新聞は2年前の特集記事で、植村さんの記事について「慰安婦」と「女子挺身隊」の混同があったと認めた上で、「意図的なねじ曲げ」はなかったと説明、その後の第三者委員会も否定した。

<引用終わり>

中日新聞8月21日付
朝日新聞8月21日付

2016年8月21日日曜日

朝日「声」欄の投書

植村隆さんの娘さんへのネット上での中傷に対して損害賠償を命じた東京地裁判決(8月3日)について、元大学教授の男性が朝日新聞「声」欄で「今回の判決はネット世界の無法状態に大きな警鐘を鳴らしたことは間違いない。裁判長の英断に敬意を表したい」と述べています。
朝日新聞8月21日付朝刊14面「声」
同判決については、当ブログの記事をご参照ください。
◆8月3日 植村さん家族、全面勝訴!
◆8月7日 ネット中傷訴訟の判決全文




2016年8月16日火曜日

植村さんの講演の旅

「植村裁判を支える市民の会」公式FB(フェースブック)より転載します
<おことわり:この記事は一部に追記があります。8月18日>



植村裁判を支える市民の会さんの写真
植村隆さんの全道スピーキングツアーは8月9日の旭川から始まりました。10日の岩見沢に続き、15日には「不戦の日 8.15北海道集会]が自治労会館で開かれました。お盆にも関わらず会場は補助いすを出しても足りないぐらの参加者300人で埋まりました。(写真上)
植村隆さんは映像データを駆使して話し始めました。
まずはNEWS23(2014.12.23放映)で、北星と植村さんへのバッシングをテーマにして6分にわたって詳細を伝えた映像です。
キャスターの岸井さんは「一連の圧力の背景に歴史の事実を書きかえようとする勢力がいる」と鋭い指摘をしていると語りました。
次に写しだされたのはDVDドキュメンタリー「終わらない戦争」の中で紹介された1991年8月14日の金学順(キム・ハクスン)さんの記者会見の様子です。植村さんを攻撃する歴史修正主義者らは、キムさんは挺身隊として連行されたとは言っていない、と主張していますが、本人が挺身隊として連行されたと言っている大事な映像です。
最新のニュースも盛り込みました。それは植村さんの娘さんの裁判の結果を伝えた8月3日のNHKニュースです。
植村隆さんの娘さんが、ネットで中傷の書き込みをした投稿者を相手取って起こした裁判の判決が8月3日午後、東京地裁で言い渡されました。原告(娘さん)が請求した170万円満額が認められ原告側全面勝訴の判決です。代理人の弁護士が次のように読み上げました。匿名の不特定多数からのいわれのない誹謗中傷は、まるではかり知れない『闇』のようなものでした」「こうしたことは他の人にも起こりうる出来事。こうした攻撃にさらされることのない社会になってほしい。今回の判決が、そのきっかけになってほしいと思います」。
娘の毅然として戦った姿に植村さんは励まされた、と語りました。自身の裁判も負けられないと。
何故、植村さんが標的にされたのかについても、客観的に語りました。一つには1990年代後半から歴史修正主義のバックラッシュがあります。
植村さんは、国連のデービット・ケイ氏が4月に政府や報道関係者の聞き取りをもとに調査結果を発表し、日本の報道の自由が脅かされていると指摘したことに触れました。その中には「慰安婦問題を報じた元朝日新聞記者の植村隆氏やその娘に対し、殺害予告を含む脅迫が加えられた。当局は脅迫行為をもっと強く非難すべきだ」と指摘したことを紹介。 報道の自由度が世界で72位と低いのは報道者が圧力に屈していることを物語っています。世界が日本をどう見ているか、私たちに何ができるのか?と考えさせられました。
慰安婦問題の日韓問題にも触れました。「少女」像を移転させては駄目だと考える市民が76パーセントもいること。特に若い世代が多く、少女像の前で交代でテントを張って守っている写真も紹介しました。植村さんは、日本人の心のなかに「少女像」を、という考えを述べていました。
植村さんのお話は日々進化中。不屈の精神で闘っています。支える人の輪も大きくなっています。今日もこれから新ひだか町で講演します。
uploaded on 2016.8.16,  text and photo by M.Higuchi 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2016年8月 植村隆さんスピーキングツアー
◆旭川 8月9日(火)18:30~ 旭川建設労働者福祉センター 主催:旭川平和運動フォーラム
◆岩見沢 8月10日(水)18:00~ 岩見沢自治体ネットワークセンター 主催:平和運動フォーラム空知地域協議会
◆札幌 8月15日(月)18:00~ 北海道自治労会館 主催:北海道平和運動フォーラム
◆新ひだか町 8月16日(火)18:30~ 同町コミュニティセンター 主催:北海道平和運動フォーラム日胆地域協議会
◆室蘭 8月18日(木)18:30~ 東町中小企業センター 主催:拳法を守る室蘭地域ネット
◆名古屋 8月20日(土)13:30~ 市博物館講堂 主催:植村裁判支援名古屋集会実行委員会
◆四日市 8月21日(日)
◆倶知安 8月23日(火)18:30~ 後志労働福祉センター 主催:後志平和フォーラム後志連絡会
(9月には福岡、熊本、水俣、北九州市で開催予定)

2016年8月13日土曜日

崔牧師の生涯描く劇

「支える会」の在京共同代表のひとり、崔善愛(チェソンエ)さんがきょう(8月13日)の朝日新聞朝刊で紹介されています(2面「ひと」欄)。崔善愛さんは、在日への差別と闘った父親のキリスト教牧師、崔昌華さんの生涯を舞台化した「Kyokai 心の38度線」公演に音楽監督として参加します。この記事で崔善愛さんはインタビューに答えて、幼少期の父とピアノの思い出、いまは亡き父への娘の思いを語っています。
朝日新聞8.13朝刊2面より
「Kyokai 心の38度線」公演は、8月18日(木)から22日(月)まで、東京・池袋の東京芸術劇場・シアターウェストで。
チケット前売り料金は一般5,000円。申し込み・問い合わせは、東京芸術座へ。
電話03-3997-4341、メールtg@tg-za.com、HPはhttp://www.tokyogeijutsuza.co.jp

追記8月17日付朝日新聞朝刊の東京版でも大きく報じられています。こちら


おすすめ情報崔昌華牧師の生涯を描いた小説『行動する預言者 崔昌華――ある在日韓国人牧師の生涯』(田中伸尚著)は岩波書店から2014年に刊行されています。3000円+税。

2016年8月11日木曜日

8.11は植村さんの日

25年前の1991年8月11日、朝日新聞の朝刊(大阪本社版)社会面トップに、植村隆さんの署名記事が掲載されました。植村隆さんは当時33歳。社会の弱者や差別を受ける人たちの声を読者に届けることに使命感をもつ心やさしき社会部記者でした。記事は、元朝鮮人従軍慰安婦のひとりが韓国の団体の聞き取りに応じて証言を始めた、というものでした。その慰安婦のおばあさん(金学順さん)は3日後に単独インタビュー(北海道新聞)と共同記者会見で自身の辛く悲しい体験を語りました。それまで韓国社会で閉ざされていた従軍慰安婦の存在はこうして大きくクローズアップされ、元慰安婦が次々と名乗り出ることになったのでした。

四半世紀の歳月が流れました。植村さんはいま58歳。この25年前のスクープ記事を「捏造」と誹謗中傷し、植村さんの記者生命と名誉を傷つけようとした大学教授(西岡力氏)とジャーナリスト(櫻井よしこ氏)、文藝春秋など出版4社を相手取って、東京と札幌で名誉棄損訴訟を闘っています。
NY同時多発テロの9.11、東日本大震災の3.11と同じように、8.11は私たち「植村裁判を支える市民の会」にとって、大きな意味をもっています。植村裁判の原点ともいうべき日、それが8.11です。
「私は捏造記者ではない」との植村さんの叫びと、支える会の参加呼びかけ「不屈の民主主義をつくるために」を、きょうあらためて胸に刻み、さらに支援の輪を広げ、絆を強く固くしていこうと思います。
25年前の8.11、朝日新聞朝刊社会面(大阪)。
右肩のトップに植村さんの署名記事がある













































2016年8月9日火曜日

小野寺弁護士の寄稿

札幌弁護団事務局長の小野寺信勝弁護士が、法学館憲法研究所(JICL)のホームページの「今週の一言」欄に寄稿し、植村裁判への理解と支援を全国に呼びかけています(8月8日付)。
http://www.jicl.jp/hitokoto/index.html
植村裁判のポイントと経過、支援の意味を法律家の立場からわかりやすく簡潔にまとめられた文章です。その全文を転載収録します。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

植村さんと植村裁判を支える市民の会にご支援を

小野寺信勝さん(弁護士・植村隆氏名誉毀損裁判札幌訴訟弁護団事務局長)


http://www.jicl.jp/search/img/0.gif
1 直接対決

 2016422日午後330分、札幌地方裁判所805号法廷。朝日新聞元記者の植村隆氏が、自身の書いた慰安婦の証言記事を「捏造した」などと繰り返し非難するジャーナリストの櫻井よしこ氏及び出版社であるワック、新潮社、ダイヤモンド社に対し、損害賠償や謝罪広告等を求めた名誉毀損訴訟の第1回口頭弁論は、植村氏、櫻井氏がそれぞれ法廷で意見を述べる直接対決となった。
 「櫻井さんは、訴状にないことを付け加え、慰安婦になった経緯を継父が売った人身売買であると決めつけて、読者への印象をあえて操作したのです。これはジャーナリストとして許されない行為だと思います」
 植村氏は、法廷で櫻井氏のジャーナリストとしての姿勢をこのように非難した。植村氏の指摘は次のようなものだ。
 植村氏は1991年に元従軍慰安婦である金学順氏の証言を記事にした。櫻井氏はこの記事について201433日の産経新聞に「真実ゆがめる朝日報道」と題したコラムを発表し「この女性、金学順氏は後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている」にも関わらず、「植村氏は彼女が人身売買の犠牲者であるという重要な点を報じ」ていないと非難した。
 ところが、金学順氏が日本国に戦後補償を求めた訴状には人身売買されたなどどこにも書かれていない。つまり、櫻井氏は金学順氏の訴状に書かれていない事実を引用し、植村氏が慰安婦の真実を歪めて報じたという印象を強調しようとしたのである。
 他方、櫻井氏は、法廷での意見陳述で「『従軍慰安婦問題』と、悲惨で非人道的な強制連行の話は、朝日新聞が社を挙げて作り出したものであります」と、「慰安婦問題=朝日捏造説」を全面展開した。そして、「まるで運動家のように司法闘争に持ち込んだ植村氏の手法は、むしろ、言論・報道の自由を害するものであり、言論人の名に悖る行為ではないでしょうか。」と批判した。 
 まるでネットの言論をなぞるように朝日捏造説を滔々と述べ、事実に基づかない記事を平気で書く。どちらが言論人の名に悖るかは明らかだろう。

2 なぜ裁判に踏み切ったのか?

 櫻井氏は、意見陳述で「言論には言論」ともっともらしい理屈をもって司法に救済を求めた植村氏を難じた。しかし、櫻井氏の言説は「言論」といえるだろうか。
 
 櫻井氏の言説の一例を紹介する

 「過去、現在、未来にわたって日本国と日本人の名誉を著しく傷付ける彼らの宣伝はしかし、日本人による『従軍慰安婦』捏造記事がそもそもの出発点になっている」「 植村隆氏の署名入り記事である」(雑誌WiLL20144月号)
 「植村氏は金氏が女子挺身隊として連行された女性たちの生き残りの一人だと書いた。一人の女性の人生話として書いたこの記事は挺身隊と慰安婦は同じだったか否かという一般論次元の問題ではなく、明確な捏造記事である」(20141023日週刊新潮)
 「若い少女たちが強制連行されたという報告の基となったのが「朝日新聞」の植村隆記者(すでに退社)の捏造記事である。植村氏は慰安婦とは無関係の女子挺身隊という勤労奉仕の少女たちと慰安婦を結び付けて報じた人物だ」(2014913日週刊ダイヤモンド)

 ところで、なぜ櫻井氏は植村氏の記事を「捏造」と断定するのか。その出発点となったのが1991811日付朝日新聞大阪版の以下の記事である。
 思い出すと今も涙 元朝鮮人従軍慰安婦 戦後半世紀重い口開く 【ソウル10日=植村隆】日中戦争や第二次大戦の際、『女子挺(てい)身隊』の名で戦場に連行され 、日本軍人相手に売春行為を強いられた「朝鮮人従軍慰安婦」のうち、一人がソウル市内に生存していることがわかり「韓国挺身隊問題対策協議会」(尹貞玉・共同代表 、十六団体約三十万人)が聞き取り作業を始めた。」(1991811日朝日新聞大阪版社会面1面)

 これが「捏造」批判の対象となっている記事の一つである。その主な論拠は、勤労動員する「女子挺身隊」と無関係の従軍慰安婦とを意図的に混同させて日本が強制連行したかのような記事にしたというものである。櫻井氏もこの論拠に依っている。
 しかしながら、植村氏が記事を書いた当時、韓国では「挺身隊」という言葉は「慰安婦」を意味し、日本のメディアもそれを踏襲していた。朝日だけでなく、読売、産経などの他紙も慰安婦のことを「挺身隊」と表記していたのである。
 過去の慰安婦報道を調べれば植村批判に根拠がないことがわかるはずであるし、せいぜい言葉遣いという枝葉の問題に過ぎない。
 つまり、櫻井氏は、植村氏を慰安婦問題捏造の象徴に祭り上げて意図的に批判を加えているのである。そして、櫻井氏は、植村氏が歴史修正主義者から「捏造記者」と苛烈なバッシングを受け、娘を「殺す」と脅迫され、勤務する北星学園大学も「暴力」に晒されるなかで、あたかもその流れに便乗するように、執拗に植村氏を攻撃し続けたのである。これは言論ではなく人身攻撃に他ならない。植村氏は司法に救済を求めざるを得なかったのである。

3 札幌訴訟の提訴と移送を巡る攻防

 札幌訴訟が提起されたのは2014210日であり、裁判が始まるまで1年以上かかったことになる。それは提訴後、櫻井氏側が、植村氏が札幌訴訟提訴前に文藝春秋、西岡力氏(東京基督教大学教授)を相手に東京地裁に提訴提起していたことなどを理由として、東京地裁への移送を申し立てていたからである。
 札幌地裁は、櫻井氏側の移送申立てを受けて、事件を東京地裁に移送する不当決定を下した。しかし、植村さんは捏造記者という汚名を受け激しい誹謗中傷、更には脅迫まで受けている。こうした被害と社会的影響力のある櫻井氏の言説とは切り離して考えることができないはずである。弁護団は、札幌高裁に不服を申立てて植村さんの被害実態を繰り返し主張した。また、北星大卒業生の有志が短期間で2629通を超える署名を集めてくれた。こうした主張と活動が功を奏し、札幌高裁は東京地裁への移送を認めない逆転勝利決定を下し、札幌地裁で審理されることになった。これは裁判管轄に留まらない大きな勝利である。

 札幌訴訟は第3回口頭弁論期日まで進行している。現時点では櫻井氏の表現が「事実の摘示」か、「論評」かについて、それぞれの主張を整理している段階である。これは前者であれば櫻井氏は植村氏が捏造したことが真実であること等の立証が必要であり、後者であればそこまでの立証は必要ないことになる。極めて法技術的論点ではあるが、訴訟の帰趨に関わる重要な争点について、双方の主張を闘わせている。

4 市民に支えられて

 2014年は異様な年であった。同年85日、朝日新聞の「慰安婦問題を考える」・「読者の疑問に答えます」と題した検証記事をきっかけに巻き起こった朝日バッシングは、植村氏や北星大に飛び火して苛烈な「暴力」に晒され、大学は植村氏の雇用継続を決めかねていた。他方、報道機関の多くは火の粉が降りかかるのを恐れてか報道を自粛し、地元紙ですら北星大を取り巻く異様な状況を積極的に報じようとしなかった。

 こうした状況下で、暴力に毅然と立ち向かったのは市民であった。2014106日、学者、ジャーナリスト、弁護士等が発起人となり「負けるな北星!の会」(略称マケルナ会)が発足し、国内外の賛同者は1000名以上に膨らんだ。また、同年117日には、北星大に届いた脅迫状に関して、全国の弁護士380名が札幌地検に威力業務妨害で刑事告発し、同年1226日にも全国352人が告発人、全国の弁護士438人が告発代理人となり、北星大への電凸※1の模様を動画サイトで公表した人物を札幌地検に刑事告発した。暴力による言論弾圧、歴史の書き換え、大学の自治への圧力を許さないという社会の意思を示したのである。
 そして、植村氏の雇用継続に揺れ続けた北星大は、20141217日に記者会見を開き、2015年度の契約更新を発表したが、記者会見で方針転換の理由について、マケルナ会の激励や弁護士の告発、弁護士会の支援表明などの支援を挙げた。
また、上田文雄元札幌市長や香山リカ氏らは、植村氏の裁判は報道・表現の自由、民主主義を守るための闘いであるとして広く支援を呼びかけ、「植村裁判を支える市民の会」を設立した(ブログで裁判期日等を詳しく報告しているので、ぜひご覧頂きたい)。

 つまり、植村氏は、慰安婦問題を否定したい人々にとっては慰安婦捏造の象徴であるが、私たちにとっては自由の象徴であり、植村裁判は日本の右傾化への抵抗なのである。私たちはこの問題を裁判と支援の両輪で抗していきたい。

1デントツ。「電話突撃取材」あるいは「電話突撃」の意味で、企業・宗教団体・公的機関・政治家・政党などに対して電話し、それらの組織の活動(主に広報・報道など)について「組織としての意見を問いただす」行為のこと。インターネットスラング。

◆小野寺信勝(おのでら のぶかつ)さんのプロフィール
2006
年弁護士登録。
北海道合同法律事務所所属。
自由法曹団、青年法律家協会、日本労働弁護団所属。
外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表
日弁連人権擁護委員会技能実習問題PT嘱託委員
植村隆氏名誉毀損札幌訴訟弁護団事務局長



<転載終わり>

2016年8月7日日曜日

ネット中傷訴訟の判決全文

 ツイッターで植村隆さんの娘さんを誹謗中傷した男性に対し、170万円の損害賠償金支払いを命じた東京地裁判決(8月3日)の全文を、以下に掲載します。(■部分の固有名詞は不掲載)
 判決は、「実名、学校名、写真を掲載された当時17歳の高校生にとって、恐怖と不安は耐え難いものであったと考えられ、精神的損害を慰藉するには200万円が相当というべき」と断じています。
 判決についての記事「植村さん家族、全面勝訴!」は当ブログ8月3日付に掲載ずみです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

平成28年(ワ)第5885号 損害賠償請求事件

判   決

原告 植村■

同訴訟代理人弁護士 坂口徳雄
同             西岡弘之
同             廣田智子
同             大西啓文
同             出口裕規
同             斎藤悠貴

      被告 

主   文

1 被告は、原告に対し、170万円及びこれに対する平成26年9月8日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。


事   実

第1 当事者の求めた裁判

1 請求の趣旨
  主文と同旨。

2 請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求を棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする


第2 当事者の主張

 1 請求原因

(1)被告は、平成26年9月8日、インターネット上のサービスであるツイッターにおいて、原告の写真を掲載し、「朝日新聞従軍慰安婦捏造の植村隆の娘、2年植村が、高校生平和大使に選ばれた。詐欺師の祖母、反日韓国人の母親、反日捏造工作員の父親に育てられた超反日サラブレッド。将来必ず日本に仇なす存在になるだろう。」との投稿をした(以下「本件投稿」という。)、
 本件投稿は、原告の親族に犯罪者や日本を害する思想を有する者がおり、原告自身も将来日本を害する存在になる人物であるとの事実を摘示するものであり、原告の社会的評価を低下させ、原告の名誉権を侵害するものである。
 また、本件投稿は、原告の父が元朝日新聞記者の植村隆であること、原告の氏名、所属する高校名及び学年を原告の容姿が写った写真とともに明らかにするものであるところ、これらは、原告の私事に関する事実であり、原告の立場に立たされた一般人において公開を望まない事柄である、特に、原告の父は、かつて作成した記事により、不特定多数の者から脅迫等を受け、インターネット上の書き込みの中には、家族への攻撃を示唆するものも多数存在したのであり、本件投稿により、原告の生命及び身体に危険が生じる可能性があるから、原告の立場に立たされた一般人において絶対に公開を望まない事柄を摘示したものといえる。したがって、本件投稿は、原告のプライバシー権を侵害するものである。
さらに、本件投稿は、原告の容貌が写った写真を添付して行われているところ、これは、原告の意に反し、原告の容貌及び姿態をみだりに公表するものであるから、原告の肖像権を侵害する。
 
(2)本件投稿による損害の発生
 ア 精神的損害
 本件投稿は、原告の社会的評価を低下させ、同人の父に対するバッシングなどの攻撃が原告に及ぶことを意図してされたものであること、不特定多数の者に容易に閲覧され、伝播性が強いインターネット上のツィッターにおいてされたものであること及び原告の写真や所属する学校名や学年を特定してされたものであることなどに照らせば、本件投稿当時17歳の高校生であった原告の恐怖及び不安は耐え難いものであり、原告の精神的損害は300万円を下らない。
イ 鯛査費用及び弁護士費用
(ア)訴外ツィッターインクに対する発信者情報開示の仮処分に関する弁護士費用 20万円
(イ)訴外ツィッターインクに対する発信者情報開示の仮処分に関ずる翻訳費用 20万円
(ウ)経由プロバイダに対する発信者情報開示手続に関する弁護士費用 20万円
(エ)本件訴訟の弁護士費用 10万円

(3)よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づき、一部請求として、精神的損害300万円のうち100万円及びその他の損害70万円の合計170万円並びにこれに対する不法行為の日である平成26年9月8日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 請求原因に対する認否
 認める。
 本件投稿を行ったこと、その違法性及び損害額については争わない。ただし、本件投稿のみが原因で原告の生命及び身体に対する危険が増加したわけではない。


理   由

1 請求原因に争いはなく、本件投稿が、原告のプライバシーや肖像権を侵害する違法なものであることは明らかである。
2 損害額についても当事者間に争いがないが、精神的損害の額については、弁論主義の適用がないことから、この点について、以下検討する。
 証拠(甲2及び甲3)によれば、原告の父は、平成26年2月頃から、自身が執筆した従軍慰安婦に関する記事がねつ造であるなどとして、不特定多数の者からバッシングを受け、同年5月頃には、生命に危害を加える旨の脅迫状が勤務先に送付されてきたこと及び家族に対する攻撃を示唆するインターネット上の書き込みも多数存在していたことが認められる。このような状況下において、被告は、原告について、「朝日新聞従軍慰安婦捏造の植村隆の娘」と記載した上で、原告の容姿が写った写真とともに、原告の氏名、通学先の高校名及び学年を摘示して原告の特定が容易にされるようにしたものであり、また、原告の父がその仕事上した行為に対する反感から未成年の娘に対する人格攻撃をしたものであって、その行為態様は、悪質で違法性が高いものというべきである。
 そして、上記各情報による原告の特定可能性の高さや、ツイッター利用による伝搬可能性の高さからすれば、本件投稿がされた当時17歳の高校生であった原告の恐怖及び不安は耐え難いものであったと考えられる。さらに、本件投稿自体は削除されたものの、平成28年6月16日の時点においても、本件投稿をスクリーンショットによって撮影した画像がインターネット上に残存しており(甲18及び甲19)、本件投稿による権利侵害の状態が継続していると認められること等、本件に顕れた事情に照らすと、本件投稿によって被った原告の精神的損害を慰藉するには、200万円が相当というべきである。

3 結論
以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第24部

裁判長裁判官 朝倉佳秀
     裁判官 奥田大助
     裁判官 佐々木康平

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2016年8月4日木曜日

東京訴訟第6回期日

法廷で初めて示された誹謗中傷の全容

■文春側の「積極的な害意」を厳しく追及

植村裁判(東京)の第6回口頭弁論が、8月3日午後3時から東京地裁民事33部で開かれた。96席ある大きな103号法廷の傍聴席はこの日ほぼ満席。傍聴席から見て左側の原告席に、韓国から帰国中の植村隆さんと、弁護団が10余人。対する被告席には、相変わらず喜田村洋一弁護士ら代理人だけが2人。
裁判官が定刻に入廷した。陪席裁判官の交代によって、原克也裁判長の両側は前回からいずれも女性裁判官となっている。

まず、原告側代理人が準備書面と証拠多数を提出した。
提出証拠の主なものは、神戸松蔭女子学院大学と北星学園大学に殺到した、植村さんを非難し大学を脅す匿名のメールやはがきのたぐいだ。段ボール箱2箱にもなったという誹謗中傷の全容が、初めて法廷で白日の下にさらされた。

植村弁護団の永田亮弁護士はこれらの証拠を出した理由として、「原告の植村さんに向けられた苛烈なバッシングの内容を明らかにし、それが週刊文春の記事に起因していること、及び被告文藝春秋にバッシングを発生させようとの積極的な『害意』があったことを主張・立証する」として、準備書面要旨を朗読した。その要点は次の通りだ。

主張・立証■■■バッシングは週刊文春の記事に起因している

1.     植村さんは2014年4月から神戸松蔭女子学院大学で教鞭をとることになっていた。ところが同年1月30日、被告文藝春秋発行の週刊文春に「”慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢さま女子大教授に」という記事が掲載されると、記事は瞬く間にインターネット上に拡散し、同大学への激しいバッシングが始まった。

2.     1月30日のうちに、ブログに同大学の電話、ファクス番号などが載り、「本日、神戸松蔭女子学院大学の方に電凸(電話での抗議)してみました」というコメントが付された。「週刊文春、読みました。みなさんの声が大きければ、採用取り消し、ということになるかも……楽観的すぎるかな?」などの投稿がなされた。
メール、ファクスは、1月30日から2月5日までに計247件に及んだ。「貴学は朝日新聞記者・植村隆氏を教授として迎へられるといふ週刊誌報道がありましたが、それは事実でせうか。植村氏は……所謂『従軍慰安婦』問題の禍根を捏造した人物の一人です。いはば彼は証明書付き、正真正銘の『国賊』『売国奴』です」といった内容だ。これらのメールやファクスは、週刊文春の記事を引用していることなどの点で共通する。

3.     同大学は、「週刊文春の記事が出てからは抗議の電話、メールなどが毎日数十本来ている。学校前で右翼の行動も危惧される。マイナスイメージが出たら存亡の危機にかかわる」などとして、植村さんに雇用契約の解除を申し出た。植村さんは、同大学も被害者と考え契約解除に応じざるを得なかった。

4.     2014年8月1日、文藝春秋は今度は、植村さんが以前から非常勤講師を続けていた北星学園大学に対し、取材と称して「大学教員としての適性には問題ないとお考えでしょうか」とする文書を送り付け、植村さんとの雇用契約の解除を迫った。同月6日には週刊文春に「慰安婦火付け役朝日新聞記者はお嬢様女子大クビで北の大地へ」と題する記事を掲載し、「韓国人留学生に対し、自らの捏造記事を用いて再び”誤った日本の姿”を刷り込んでいたとしたら、とんでもない売国行為だ」などと書いた。

5.     8月6日当日のうちに、「『韓国人留学生に対し、自らの捏造記事を用いて再び誤った日本の姿を刷り込んでいたとしたら、とんでもない売国行為だ』と文春。つまり貴校にはねつ造を教え込まれ『日本人には何をしても無罪』と思い込んだ韓国人学生がいる可能性があると言う事?」などといった攻撃メールが、同大学に相次いだ。みるみるエスカレートし、「くぎ入りガスボンベ爆弾を仕掛ける」などの脅迫状も届いた。この記事が載る前の7月に北星学園大学に送られた抗議のメールは19件、電話は7件だったが、記事掲載のあった8月には、メールが530件、電話が160件に激増した。

6.     さらに植村さんの高校生の娘さんの写真をブログに掲載し、「晒し支持!断固支持!」「こいつの父親のせいでどれだけの日本人が苦労したことか。親父が超絶反日活動で何も稼いだで贅沢三昧で育ったのだろう。自殺するまで追い込むしかない」などと記すものもあった。

7.     バッシングが少しずつ社会問題化すると、2014年10月23日付け週刊文春は、「朝日新聞よ、被害者ぶるのはお止めなさい~”OB記者脅迫”を錦の御旗にする姑息」と題する記事を載せ、その記事の中で櫻井よしこ氏は「社会の怒りを掻き立て、暴力的言辞を惹起しているものがあるとすれば、それは朝日や植村氏の姿勢ではないでしょうか」と述べ、西岡力氏は「脅迫事件とは別に、記者としての捏造の有無を大学は本来きちんと調査する必要がある」と発言。文藝春秋は、植村さんとその家族の受けた被害を知ってもなお、その被害を嘲笑って、さらなるバッシングを扇動した。

8.     2015年2月には、北星学園大学に「6会場で実施される一般入学試験会場とその周辺において、その場にいる教職員及び受験生、関係者を無差別に殺傷する」「『国賊』植村隆の娘である〇〇(実名)を必ず殺す。期限は設けない。何年かかっても殺す。何処へ逃げても殺す。地の果てまで追い詰めて殺す。絶対にコロス」という殺害予告状まで届いた。

9.     北星学園大学は度重なる脅迫などへの対応の為、警備費用として2年間で5千万円近くの負担を余儀なくされた。同大学は植村さんとの契約更新を躊躇せざるを得ず、植村さんは大学への影響も踏まえて苦渋の決断をし、韓国のカトリック大学の客員教授に就任することになった。

10. 以上の経緯に照らせば、週刊文春の記事により、植村さんへのバッシングが引き起こされ、植村さんの名誉と生活の平穏が害されたことは明らかだ。植村さんがこの裁判を起こさざるを得なかったのは、被告文藝春秋によって引き起こされた激しいバッシング、中傷、脅迫が、植村さんとその職場、そして愛する娘さんにまで及んだからである。

永田弁護士の陳述で改めて聞くバッシングのひどさに、廷内は水を打ったように静まった。果たして裁判官たちの胸には、どの程度届いたか。

裁判の今後の進行予定は、被告側が反論を11月末までに提出することになった。
次回口頭弁論は、12月14日の15時から開くことも決まった。

法廷は15時18分で終了。閉廷直後に、傍聴していた男性1人が立ちあがって声をあげ「週刊文春は正しい」などと二言、三言口走ったが、誰も相手にすることはなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ネット中傷訴訟」勝訴に沸いた報告集会 
■シンポジウムでは「メディアの萎縮」を論議












100人近い傍聴者のほとんどが、そのまま東京地裁に隣接する弁護士会館へ移動し、この日16時10分から、報告集会が同会館5階会議室で開かれた。

正面の壁には、おなじみの「植村隆裁判報告集会 『私は捏造記者ではありません』」の横断幕。しかし、この日はそれに並んで、「ネット中傷訴訟判決 勝訴」という新しい垂れ幕が掲げられた。この日に判決があったばかりの勝訴の速報である。
実は、植村さんが起こした東京、札幌の名誉棄損訴訟のほかに、植村さんの娘さんが、ツイッターに自身の顔写真や誹謗中傷の投稿をされたとして、投稿主の中年男性に損害賠償を求めた「ネット中傷訴訟」が水面下で進められていた。植村さん側からのいわば「第三の訴訟」と言えるが、匿名の投稿者をIPアドレス、プロバイダーから割り出し追及する上で仮処分などを繰り返す難しい過程を辿り、プライバシーにも配慮して、これまでは公にされてこなかった。
奇しくも、植村さんの名誉棄損裁判の弁論で、娘さんが受けた人身攻撃が法廷に引き出された8月3日に、その娘さんが原告の「第三の訴訟」の判決が、東京地裁の別の部で言い渡されたのだ。
判決は、「投稿は、プライバシー、肖像権を侵害する違法なもの。未成年の高校生に対する人格攻撃であり、悪質だ」として、投稿した男性に原告の請求通りの170万円を支払うように命じた。植村さんの娘さんの全面勝訴である。この日、判決後の記者会見で娘さんの次のようなコメントが読み上げられた。「匿名の不特定多数からのいわれのない誹謗中傷は、まるではかり知れない『闇』のようなものでした」「こうしたことは他の人にも起こりうる出来事。こうした攻撃にさらされることのない社会になってほしい。今回の判決が、そのきっかけになってほしいと思います」
思いがけない娘さんの「第三の訴訟」の勝訴の報告に、弁護士会館で始まったばかりの報告集会の会場は沸いた。
植村弁護団事務局長の神原弁護士が立ち、、「この種事案で認められた慰謝料としては、きわめて高い」と、娘さんが勝ち取った判決の意義の大きさを補足説明した。
続いて、永田亮弁護士が、この日の植村裁判第6回口頭弁論についての報告をした。「植村さんは名誉のみならず、生活の平穏も破壊された。植村さんの損害の中核にバッシングがある。裁判官に損害に向き合ってもらうよう、きょうの書面を出した」と語った。
新崎盛五さん■■■「委縮」しない記者と記事をもっと応援しよう
岩崎貞明さん■■■放送界の現場では「圧迫」を自覚する人が少ない
香山リカさん■■■ヘイトスピーチ支持者は「集団催眠」にかかっている


一連の報告が終わると、報告集会のもう一つの目玉であるシンポジウムに移った。
テーマは「メディアの委縮を打ち破れ」。新聞労連前委員長でマスコミ文化情報労組会議議長の新崎盛吾さん、放送レポート編集長の岩崎貞明さん、放送倫理・番組向上機構(BPO)前委員で精神科医の香山リカさんがパネリストだった。3人は、みな植村裁判支援に中心的に加わってきた人でもある。司会は、やはり東京の支援の中心を務めている朝日OBの佐藤和雄さん。
放送界の現状について、岩崎さんは「現場の委縮は深刻だという声がある。ただ、それを言う記者はまだ自覚的であり、考える時間さえないという人たちもいる」と話した。また、「放送界への政府の圧迫は、振り返れば93年の椿発言問題のころからすでに始まっていたことがわかる」と指摘した。
新崎さんは、新聞界の現状を「委縮している」と断じたうえで、その要因について、①会社の管理強化で行儀がよくなってしまった②ネットで記事が攻撃されやすくなった③現在の政権の問題。特に取材先が委縮して情報を得にくくなっている状況がある、と説明した。
香山さんはまず、「植村裁判を支援する市民の会」の共同代表の一人になった理由に触れ、北海道出身であること、発言すると自身も誹謗に遭ったため他人事ではないと思ったと話した。さらに現在のメディアの委縮をつくっているものとして、3つのレイヤー(層)がある、と指摘。①権力の介入②スポンサー(広告代理店)③ネットの無数の匿名者を挙げた。
こうした委縮状況を打破するためにはどうしたらよいのか。
新崎さんは、例として、朝日新聞社が福島原発の吉田調書記事を取り消したのは行きすぎだとし、調書を取ってきたこと自体は十分評価されるべきだと述べて、新聞労連があえてこのチームに労連特別賞を贈ったことを報告。「応援」の大切さを強調した。
岩崎さんは、「首相との会食などから、メディアは権力の一角のように思われている。これを自ら打破しないと、市民からの信頼回復はおぼつかない。とくに幹部が委縮している」。
香山さんは「1000通も誹謗メールが来ると、『こんなに来てしまって…』と委縮しがちだが、実際には10人くらいが何度もメールしているだけなのかもしれない。実態をよく知って、そういう攻撃に対しては、もっとタフになるべきだ」と話した。また、「ヘイトスピーチなどを支持する人はいわば集団催眠にかかっている。『事実を見ろ』と言ってもなかなか通じないかもしれない。そういう人には別の夢を見せることも大事だ」と、精神科医らしい見方を語った。
右から=香山さん、岩崎さん、新崎さん、佐藤さん














集会の最後に植村隆さんがあいさつに立ち、「娘の圧勝でますます元気になった。産経が嘘を書いたのでいま訂正要求も突き付けている。この闘いをがんばり、産経も我々の側に立つようになるといい。ジャーナリズムの再生を目指す」と、決意を語った。
text by K.F.