2019年9月27日金曜日

文化を殺す文科大臣

萩生田文科相があいちトリエンナーレの文化庁補助金を不交付としたことについて、激しい批判が巻き起こっています。日本ペンクラブ(吉岡忍会長)はいちはやく会長談話を発表し、「補助金不交付は脅迫によって『表現の不自由展』を中断に追い込んだ卑劣な行為を追認することになりかねない」と述べ、決定の撤回と企画展の再開を求めています。ツイッターには、権力による検閲の復活を危ぶむ声があふれています。ネット署名も即日、立ち上がっています。

ツイッターにあふれる声
9月27日午前1時に収録。順不同、敬称略、/は連続投稿
氏名と肩書はツイッター上の表示ママ、@はアカウント名

自己利益のために平然とウソをつく人間が、今の日本では教育行政トップの「文部科学大臣」だという。教育とは何なのか。 検閲庁に成り下がった文化庁は文部科学省の下部組織(外局)。 教育も文化も、言論や表現の自由も、昔の政治思想を共有する集団に私物化されつつある=山崎 雅弘@mas__yamazaki
こんな後出しジャンケンが通るから、誰もが政府の意向を気にして萎縮するわけだ。おたくの大学の教員の授業内容が気に入らないからガソリン持っていくと脅されて休講にでもしたら、大学への補助金もカットされるかもしれないということだろう。怖い世の中になったなあ=井上 雅人@INOUE_MASAHITO
えっ! これ事実なのだろうか? こんなことが許されるなら、実質政府の顔色伺いながらやるしかなくなるじゃないか。これ酷すぎないか。文化庁は脅迫した人たちに手を貸すってこと? これじゃ国の言いなりでしか物が出来ないじゃないか。原発事故のとき以上に怒っている=大友良英 otomo yoshihide@otomojamjam
あり得ない。日本の公共的文化制度が終わります。こんな前例ありますか。これがまかり通って良いのでしょうか。リフリーダムや不自由展や知事や津田さんとかあいトリ関係者だけじゃなく、日本のアート関係者一丸となって動かないと、文化庁も助成制度も表現の自由も国際文化競走も「終わり」ませんか=Chim↑Pom@chimpomworks
これはもうどう考えても検閲でしょう。そしてそれをやってるのが芸大の元学長という=山川冬樹@yamakawafuyuki
これ大丈夫かな=Dai Tamesue (為末大)@daijapan
これはアメリカなら必ず訴訟になる。日本は、というか愛知県は行政訴訟を起こさないのか? すべての文化事業のために、絶対に提訴すべき事案です=北丸雄二@quitamarco
"国への法的措置について、大村氏は「表現の自由」を保障する憲法21条を争点にする考えも強調した" (記事より) たとえ国が相手でも、憲法に則して正しいことをきちんと主張してくれる知事の姿は、いま日本に住む多くの人たちを勇気づけると思います。敬意を払い強く支持いたします=香山リカ@rkayama
【表現の不自由】萩生田が文科大臣になって最初の仕事が、愛知の「芸術の不自由展」への助成金7800万円を不交付。その理由が、ヘイトの川村市長がマッチをつけて、火をつけるだの、石油をまくだのという妨害が起こったことが「安全確保の問題など情報を伝えなかった」という=金子勝@masaru_kaneko
文化庁があいちトリエンナーレへの補助金不交付を決定(朝日新聞)。「文化庁が」てはなく「萩生田文科大臣が」と報じるべきだろう。萩生田極右政策第1弾だ=前川喜平(右傾化を深く憂慮する一市民)@brahmslover
政府に都合のいい文化事業にしか補助金が出ない。今後、戦争の歴史的展示にも同じことが起こるぞ=町山智浩@TomoMachi
萩生田文科相「展示が申請通りでない」 から補助金出さないのだそう。なら、「総理と会った」と愛媛県に虚偽報告した加計学園にも補助金、返してもらったら?=山岸一生 りっけん 立憲民主党@isseiyamagishi
月26日、文化庁が、あいちトリエンナーレについて 「補助金は全額不交付」 と発表したことに、 井上さとし参議院国対委員長、 吉良よし子参議院議員とともに 抗議し、交付を求めました。/「補助金は全額不交付」の理由として、 (1)実現可能な内容になっているか、 (2)事業の継続が見込まれるか、 の2点において、文化庁として適正な審査を行うことができなかったというのです。 円滑な運営などの懸念を文化庁に言っていなかったことも不支給の理由としてあげていました。/では、申請手続きの際に、警備の問題など文化庁に言わなければならないと規定があったのかと聞くと、それはない、と文化庁担当者は答えました。 申請手続きの際に、文化庁に言わなければならない規定もないのに、後から言わなかったから不支給というのはあまりに理不尽です。/円滑な運営ができるかどうかを言わなかったなどの理由で、補助金を不支給にした例があるか問うと、初めてとのこと。 今回の事態が異常な事態であることも浮き彫りになりました=もとむら伸子(本村伸子)@motomura_nobuko
確実に「戦前」に向かっている。表現の自由は民主主義の根幹。検閲、弾圧、思想犯の逮捕・・・。いつか来た道が、すぐそこまで来ているというおぞましい現実を国民が理解しなければ、取り返しのつかない事態となるだろう。言いたいことが何もいえない世界。「結集」で、絶対に阻止しなければならない=小沢一郎(事務所)@ozawa_jimusho
萩生田氏「批判や抗議が殺到し展示継続が難しくなる可能性を把握していながら、文化庁に報告がなかった」。これは文化・芸術の自由を守るべき文科大臣が脅迫者の側に立ち、国家検閲者であることを示すものだ。大臣の資格なし!=志位和夫@shiikazuo
愛知国際芸術祭への補助金不交付の件、現段階では報道でしか確認が出来ていませんが、このような事はあってはならないと考えています。不交付判断の経緯や理由は何か?一度交付決定した責任もあるのではないか?直接文化庁から説明を求めたいと考えています。山田太郎 (参議院議員・全国比例)@yamadataro43
問題はあったにせよ、いったん採択した7800万円を後から不交付決定は、申請書に余程の虚偽記載があったのでもなければ無茶苦茶で、審査する側は一体何を審査していたのかという事になります。申請書類を公表し、この決定が適切か、オープンに検証すべきと思います=米山隆一@RyuichiYoneyama
文化庁による補助金の不交付、NHK経営委員会によるニュースへの圧力。今や日本で表現の自由、言論の自由が公然と圧殺されている。今おかしいと言わなければ、権力にとって無害な表現だけが社会に横溢することになる=山口二郎@260yamaguchi
「表現の自主規制促進政策」なんだろうな…と思います。これをしておけば、今後は各組織が自発的に内部で検閲をしてくれると=KAMEI Nobutaka@jinrui_nikki
愛知県が補助金を申請した時点で、「円滑な運営を脅かすような重大な事実」はなかった。 あったのはアート展示の計画だけ。政権は円滑な運営を脅かした犯罪者を責めず、被害者である愛知県を責めている。 めちゃくちゃだ=阿部岳 / ABE Takashi@ABETakashiOki
愛知の芸術祭への補助金不交付の決定は、文化活動へのすべての補助金は「政権への忠誠度」を基準に採否を決すると文科省が宣言したと僕は解しました。すでに外交、経済、学術の全分野で劣化が止まらない日本にそれでも最後に残っていた文化的発信力もこれでとどめを刺されました。/今後は体制批判と解釈される作品や活動には一切公的資金は支給されないからそのつもりで、という告知だと思います。そこで、僕からの提案ですけれど、この愚劣さを可視化するために、どこかで「阿諛追従展」というのをやりませんか。全篇政権へのおべんちゃらだけで構成された展覧会=内田樹@levinassien
しかし日本の根幹を揺るがす、重大かつ深刻な影響をもたらすであろう大臣の一大決定なのに、ぶら下がりの会見で表明ってどうなんだよ。しかもエレベーターの前、話すだけ話したら逃げる気満々ではないか。聞いてる記者さん達、事の重大さわかってるか?全てが軽い。この耐えられない軽さに目眩がする=ガイチ@gaitifuji
表現内容の如何によって国家による差別的取扱いが罷り通るのなら、日本には最早「表現の自由」は存在しないと宣言しているに等しい。萩生田文科相の愚かな決定は、我が国における全ての表現活動を時の政治権力が選別できる最悪の前例を残す。このような憲法も民主主義も無視した決定は断固粉砕すべき=異邦人オクローシカ@Narodovlastiye
ちなみに「文化庁は内容を批判せず、手続き上の問題だとして補助金の不交付を決めた」というのは、ユネスコ「世界の記憶」への南京大虐殺関連資料や「慰安婦」問題関連資料の登録を阻止しようとした高橋史朗の戦術と同じですね=能川元一@nogawam
この国が完全に文化的先進国から失墜してしまったことの証明。僕は芸術表現の公的組織への全面的な依存には反対だが、この判断は致命的に酷い。これを批判せず、大多数の支持を得られなかったのだから仕方ないとするような識者には、今後文化にかかわる資格はないと思う=佐々木敦@sasakiatsushi
メディアに圧力をかけ、芸術表現の自由を破壊し、警察権力で批判の声を封殺し、解釈改憲を行い、沖縄の民意を無視し、データを改竄し、公文書を隠蔽・破棄し、何をしても大臣は罷免されず、友達優遇、外敵を作って国民を煽動し、……現政権が独裁体制にどこまで近づけるか、挑戦しているのは明らか=平野啓一郎@hiranok
あいちトリエンナーレ2019パフォーミングアーツ部門の参加作家であるクワクボリョウタさんが、あいトリに対する補助金の不交付を事後的に決めた文化庁に抗議。交付が認められない限り文化庁主催の展覧会への出品と今後一切の文化庁メディア芸術祭への関与を拒否するとのこと=津田大介@tsuda
「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金交付中止の撤回を求めるchangeのネット署名が始まりました。今回の措置に疑問をお持ちの皆様方はご署名いただければ幸いです=津田大介@tsuda

発信者:ReFrredomAICHI 宛先:文化庁
Chenge.orgのネット署名賛同の方は
こちら

日本ペンクラブに所属している事を本当に誇りに思います。文化庁のあいちトリエンナーレに対する補助金不交付決定について、日本ペンクラブが即座に会長談話を発表しました=白川優子@yuko_shirakawa

日本ペンクラブ会長談話
「文化庁の補助金不交付決定の撤回を求め、『あいちトリエンナーレ2019/表現の不自由展・その後』のすみやかな再開を期待する」
http://japanpen.or.jp/comment0926/

中断された「あいちトリエンナーレ2019/表現の不自由展・その後」の再開に向けた動きが伝えられている。「いま行政がやるべきは、作品を通じて創作者と鑑賞者が意思を疎通する機会を確保し、公共の場として育てていくことである」(83日声明)と展示継続を訴えてきた私たちは、この動きを注視している。
しかし、一方、文化庁は予定していた「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金を交付しない決定をしたという。理由はどうあれ、これは同イベントを経費の面から締めつけ、「表現の不自由展・その後」を脅迫等によって中断に追い込んだ卑劣な行為を追認することになりかねず、行政が不断に担うべき公共性の確保・育成の役割とは明らかに逆行するものである。
私たちは、文化庁がその決定を撤回するよう求めるとともに、同展が当初の企画通りに確実に、一日も早く再開されることを期待する。

2019926
一般社団法人日本ペンクラブ
会長 吉岡 忍

2019年9月25日水曜日

スラップ訴訟またも

在日コリアンに対するヘイトスピーチを批判する記事を名誉毀損だと訴えた裁判が、川崎市で始まりました(9月24日、※記事①)。訴えたのは、極右団体日本第一党の活動家で川崎市在住の佐久間吾一氏。訴えられたのは、神奈川新聞の川崎総局に勤務する石橋学記者(編集委員)で、140万円の損害賠償を求められています。

石橋記者は川崎市内で頻繁に行われるヘイトデモや集会を取材し続け、民族差別を扇動する言動を厳しく批判するキャンペーンの先頭に立っています。訴えられた記事は、ヘイト集会での佐久間氏の発言を「悪意に満ちたデマによる敵視と誹謗中傷」だと批判したものです(2月14日、※記事②)。この記事のどこが佐久間氏に対する名誉毀損で人権侵害なのか! 一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈しても、佐久間氏の名誉を毀損しているものと解することはできません。
石橋記者の弁護人は神原元弁護士(植村裁判東京訴訟弁護団の事務局長)がつとめています。神原弁護士は「川崎におけるヘイトスピーチ被害の実態や佐久間氏の発言の悪質性を立証し、『悪意あるデマであり、差別扇動』という石橋記事の正当性を主張する。この訴訟の勝利により、全国のヘイト団体は、川崎南部地域において差別扇動を決して許さない活動の力強さを、思い知るだろう」とツイートしています(9月19日)。

ジャーナリストを相手取った名誉毀損裁判の判決が今月2件ありました。IWJ岩上安見氏の敗訴(大阪地裁、9月12日、※注1)と、フリーライターちだい氏の勝訴(千葉地裁松戸支部、9月19日、※記事③)です。名誉毀損の内容と結果(勝敗)は異なりますが、言論封じを狙った訴訟であることは共通しています。石橋記者の裁判も、極右団体をバックにした言論妨害のスラップ訴訟ですが、業務妨害を伴っている点できわめて悪質です。
川崎市ではいま、差別的言動を刑事規制する条例の制定に向けた論議が市議会で進んでいます。その条例は「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」(仮称、※注2)といい、国の法律(ヘイトスピーチ解消法)にはない罰則規定が盛り込まれています。差別集団の側が川崎で起こした裁判の背景には、全国に先駆けたそのような動きがあります。


民主主義を壊そうとするスラップ訴訟
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記事① 神奈川新聞 
差別報じた記事、名誉毀損と提訴 本紙記者争う姿勢
報告集会で話す石橋記者(右)と

神原弁護士=写真、神奈川新聞
在日コリアンに関する講演会での自身の発言を悪質なデマなどと報道され、名誉を毀損(きそん)されたとして、今春の川崎市議選に立候補した佐久間吾一氏が神奈川新聞社の石橋学記者に140万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が24日、横浜地裁川崎支部(飯塚宏裁判長)であった。石橋記者側は請求棄却を求め、争う姿勢を示した。
訴えによると、佐久間氏は自身が代表を務める団体が同市内で主催した2月の講演会で、「旧日本鋼管の土地をコリア系が占領している」「共産革命の橋頭堡(ほ)が築かれ今も闘いが続いている」と発言。この発言に対し、「悪意に満ちたデマによる敵視と誹謗(ひぼう)中傷」と石橋記者に報じられたことで、立候補予定者である佐久間氏の名誉が著しく毀損されたと主張している。
口頭弁論で、石橋記者側は「佐久間氏の発言は事実に反している」と指摘。「そうした発言は在日コリアンを敵とみなし、在日コリアンを傷つける差別の扇動である」とした上で、「記事は、佐久間氏の言動が人権侵害に当たるとの意見ないし論評の域を出ていない」と反論した。

市施設でヘイト団体集会 差別言動繰り返し
【時代の正体取材班=石橋 学】
川崎市の公的施設がまたもヘイトスピーチによる人権侵害の舞台と化した。11日、極右政治団体・日本第一党最高顧問、瀬戸弘幸氏らの団体が主催した集会。市は差別的言動をしないよう2度目の「警告」を行った上で市教育文化会館の使用を許可したが、在日コリアンへの差別扇動は繰り返され、その悪辣(あくらつ)さはいや増している。
インターネット上の動画には、冒頭のあいさつで代表の佐久間吾一氏が口火を切る様子が収められている。「旧日本鋼管の土地をコリア系が占拠している」「共産革命の拠点が築かれ、いまも闘いが続いている」。悪意に満ちたデマによる敵視と誹謗(ひぼう)中傷。続いて登壇した鈴木信行葛飾区議、岡野俊昭元銚子市長が侮蔑と排外主義むき出しのヘイト発言を重ねた。「新たに外国人がやって来ると困る」「日本語を覚えないなら帰った方がいい」「韓国はたくさん人を殺せば英雄になれる野蛮国」
同時刻の会館前。プラカードを手にした市民が抗議の意思を示していた。横浜市から駆け付けた女性(65)は「同じことの繰り返し。行政が不許可にせず、どうやってヘイトを止めさせられるというのか」と悔しがった。差別的言動があったら次回は不許可にするといった「条件付き許可」の選択肢もあった。警告は前回に続くもので、より強い措置がなぜ取れないのか女性は解せなかった。
ペナルティーのない警告が歯止めにならないことは明らかだった。昨年12月の集会で警告を受けた佐久間氏は「(使用許可に反対する市民への)アリバイ」と逆宣伝に利用。今回、警告が会場に伝えられたのは集会終了の直前だ。瀬戸氏は「冒頭で読み上げる必要はない」と自身が制したと明かし、2度目の警告にも「何とも思わない。私は関係ない」「ヘイト発言はなかった」と言ってのけた。
そもそも瀬戸氏は市のヘイト対策の無効化を狙って市内の公的施設で集会を繰り返す。今回も警告にとどめた妥当性を市教育文化会館の豊田一郎館長が「ヘイトスピーチを行わせない確約を得た」「周知するよう伝え、団体側は『分かりました』と答えた」と強調すればするほど、手玉に取られているようにしか映らない。実際、瀬戸氏は「会館の職員はわれわれに好意的だ」と公言し、弱腰の対応をまたも逆手に取る物言いまで許している。
公的施設での差別的言動を防ぐガイドラインを施行するなど「さすが多文化共生の川崎市」と感心していたという男性(67)は「会館の対応からは知恵を振り絞って被害を食い止めるという姿勢が見られず、内実のちぐはぐさに失望した」。佐久間氏は講師の肩書を示して「『警告』の経緯の説明を市長から受けたい」とツイッターに投稿、臆面もなく圧力をかけてみせる。寒空の下、抗議に立ち続けた男性は言う。「足元を見られているのだろう。差別を許さないというのなら、具体的にやめさせる策を講じなければならない。行政だけでなく議会も一丸となって毅然(きぜん)と対峙(たいじ)すべき時だ」
ヘイト集会に抗議する市民のプラカード=2月11日 写真・神奈川新聞
※注1 岩上氏の敗訴 
http://sasaerukai.blogspot.com/2019/09/blog-post_14.html

記事③ 弁護士ドットコムニュース
https://www.bengo4.com/c_23/n_10162/
N国市議に勝訴したライター「スラップ訴訟は民主主義をぶっ壊す」
全国の選挙を取材している選挙ウォッチャーちだい氏(41)が9月24日、NHKから国民を守る党(N国)所属の立川市議との裁判に勝訴したことを受け、記者会見を開いた。
ちだい氏は、ネット記事の記述が名誉毀損にあたるとして、立川市議の久保田学氏から200万円を求める裁判を起こされたが、言論活動の萎縮をねらった「スラップ訴訟」だとして反訴していた。
千葉地裁松戸支部(江尻禎裁判長)で9月19日にあった判決は、久保田氏の請求を棄却。さらに提訴自体が不法行為になるとして久保田氏に約78万5000円の支払いを命じた。
●アダルトグッズなどの送りつけ被害も
ちだい氏の自宅には、N国とのトラブルの過程で何者かからアダルトグッズや果物などが代引きで送られてくるようになり、大学や専門学校などの案内資料も毎日のように届いているという。
ちだい氏は、裁判について「弁護士に依頼することになり、経済的負担が大きかった」。裁判を起こすことだけでなく、大人数での嫌がらせなども問題視し、「議論ができなくなってしまう。民主主義を損ねる行為だ」と警鐘を鳴らした。
控訴するかどうかについて、久保田氏に電話取材したところ「お答えする言葉を持ち合わせておりません」との回答があり、「忙しいのでいいですか」と電話は切られた。ちだい氏側は仮に控訴された場合、「慰謝料の額を不服として、こちらも控訴する」としている。
なお、ちだい氏は同じ記事の別の記述についても、N国と立花孝志党首から名誉毀損で裁判を起こされており、係争中だ。
●N国・立花党首「スラップ訴訟」と動画で発言
ちだい氏はN国の立花党首が当選した、2017年11月の東京都葛飾区議選から本格的にN国の動向を取材しはじめた。
判決によると2018年6月、久保田氏が立川市議選に立候補したことについて、ネットメディアに「立川市に居住実態がほとんどない」とする記事を書いたところ、久保田氏から名誉毀損で訴えられていた。
裁判で久保田氏は代理人をつけず、居住実態を示すものとして住民票しか提出しなかった。選挙前に配信した自身の動画の中でも立川市に住んでいないかのような発言をしていたことなどもあり、裁判所は名誉毀損を認めなかった(真実性の判断はせず、真実相当性を認めた)。
この点について、ちだいさんの代理人・馬奈木厳太郎弁護士は「たとえば、公共料金の領収書など、格別の負担もなく証明できるのに、証拠を出さなかった」と指摘した。
また、久保田氏が2019年5月12日に配信した動画の中で、立花党首が今回の裁判について次のように発言していたことなどを踏まえ、裁判所は久保田氏による提訴自体が不法行為を構成すると判断している。
「この裁判は、そもそも勝って、ちだい君からお金を貰いにいくためにやった裁判じゃなくて、いわゆるスラップ訴訟、スラップっていうのは、裁判をして相手に経済的ダメージを与えるための裁判の事をスラップ訴訟と言うんですよ」(判決文ママ)

川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例 
市が6月に公表した素案によると、人種や性的指向、障害などを理由にしたあらゆる差別的取り扱いを禁じ、外国にルーツのある人への差別的言動に最高50万円の罰金を科す条例。処罰対象のヘイトスピーチを場所や類型、方法から絞り込み、勧告、命令に違反した場合、市が刑事告訴する。行政の恣意的な判断と表現の自由の過度な規制を防ぐため、有識者の付属機関や検察庁、裁判所の判断を経る仕組みも取り入れている。市が実施したパブリックコメントには約1万8千通が寄せられ、賛意を示すものが多数を占めた。市は12月議会で条例案を提出し、同月と2020年4月に一部を施行した上、同7月の全面施行を目指している。

2019年9月20日金曜日

穂積弁護士のコラム

被害国と被害者の訴えに圧力をかけ、
過去の加害責任を否定し続ければ、日本は経済力を失いアジアで取り残されるだろう

戦後補償をめぐる裁判に数多くかかわってきた弁護士の穂積剛さんが、所属するみどり共同法律事務所のHPに、「悪化する日韓関係は日本側にこそ原因と責任がある」と題するコラムを掲載しています。http://www.midori-lo.com/column_lawyer_134.html

穂積さんはこのコラムで、徴用工問題について、こう書いています。
この問題に責任があるのはほぼ間違いなく日本側だ。日本の方が圧倒的に悪い。責任の重い側である日本が、責任の軽い側である韓国に対して嫌韓感情の大合唱を繰り広げている様は、あまりに醜悪極まりない。

そして、日本政府の姿勢をこう批判しています。
日本政府が今やっているのは、被害を訴えている被害者たちや被害国の訴えの方に圧力をかけ、それによって被害の訴えを圧殺しようとすることだ。こんな恥知らずなやり方はない。しかしそんなことで、被害者たちの声を抹殺することなどできはしない。さらに恨みを買って、さらに根深く問題が残り続けるだけだ

また、日本経済の深刻な損失と悪影響を、こう憂えています。
こうした紛争による損害額がどの程度の範囲にまで及ぶものなのか私には正確にわからないが、少なくとも韓国に進出した加害企業が賠償請求されるであろう金額よりは、比較にならないほど莫大な額となるだろう。
非人道的な残虐行為をやった加害企業のために、どうして現在の私たちがこのような損害を被らなければならないのか。被害者に対する賠償は、加害企業にやらせればいいではないか。そのとばっちりをどうして無関係の半導体関連企業や貿易会社、航空会社や観光業界が受けなければならないのだろうか。

昨年10月、新日鉄住金に賠償を命じた判決が出された時、多くの日本メディアが日本政府に同調して判決批判の論陣を張りました。11月には三菱重工に対しても同様の判決が出され、韓国批判は過熱しました。そのような情勢の中、穂積さんは「韓国の徴用工問題に関する大法院判決についての日本国内の論調が、完全に間違っている」と題するコラムを書きました(12月、同HP)。
ここでは、安倍首相や一部メディアがこの判決を「国際法違反」と決めつけたことについて、こう批判しています。

この判決は意外でも何でもない。むしろ法律論的観点からするとこの判決は、日本の最高裁判決での論理と、それほど相違のない判断が前提となっている。日本の論調においてもっとも首肯できないのは、このような大法院がこんな判決を出すような韓国という国は、いったいどういう国なんだという批判のあることだ。
そもそも、立法機関や行政機関が司法機関の判断に口出ししたり、これを制御しようとすることなど許されないのだ。したがって、文在寅大統領に大法院の判断を何とかしろというような論調は、そもそも三権分立を理解していないとしか言いようがない。

その上で、「国際法違反」「日韓請求権協定」について論を進め、日本政府(外務省条約局)の一貫した見解や最高裁の判断によっても、「個人の賠償請求権は消滅していない」ことを、わかりやすく、具体的に説明しています。そして、問題解決の道筋と考え方を具体的に提案しています。

このふたつのコラムを読んで気がついたのは、徴用工問題や日韓関係を語る政府の役人やテレビのコメンテーターたちが隠したり間違って伝えていることがいかに多いか、ということです。
日本のメディアとくにテレビや週刊誌では「国際法違反」と「請求権協定」のたった二つの言葉が殺し文句のように語られ、いまも韓国バッシングが続いています。しかし、基本的な問題や事実の確認は置き忘れられたままです。ネット上ではついに、「徴用工」を「微用工(びようこう)」、「出自」を{出目(でめ)」と書くのが正しいと思い込んでいる(あるいは恥じない、気が付かない)ネトウヨの書き込みがあちこちで頻出しているそうです。また、ある新聞の世論調査では、「嫌韓」は年代が上がるほど多い(70代以上で41%)とか。
そんな昨今ですから、穂積さんのコラムは必読のコラムだと言えます。
このページでは、2本の内、最新のコラムの全文を以下に転載します。

※ なお、穂積さんは、植村裁判では東京訴訟弁護団の主力としても力を注いでおり、その関連でもコラムが2本あります。日本語理解能力レベルの低い裁判長や、平気でウソをつきウソの上塗りをする右派論客を題材にしたコラムですが、含蓄と示唆に富んでいて痛快です。こちらもこの機会にご一読をおすすめします。
■裁判所が狂い始めている(2018年5月)
■「邪悪」な存在としての個人と国家(2019年3月)


悪化する日韓関係は日本側にこそ

原因と責任がある


穂積 剛  2019年9月






悪化する日韓関係  
日韓関係が著しく悪化している。戦後最悪の関係だという。
週刊ポストのやり過ぎ記事が問題になったが、実際にはそれどころではない。テレビのワイドショーを見ても、週刊誌の記事を見ても、ネットの記事はもちろん、すべて「韓国悪い」の大合唱だ。奇しくも9月1日が関東大震災の記念日で、このとき「朝鮮人が暴動を起こした」とのデマが拡散され、そのため実際には日本人の暴動によって朝鮮人が大量に虐殺されるという悲惨なヘイトクライムが引き起こされたが、この調子ではいつまたこうした虐殺行為が繰り返されるかわかったものではない。
しかし、この問題について当初から関与してきた私の立場からいえば、この問題に責任があるのはほぼ間違いなく日本側だ。日本の方が圧倒的に悪い。責任の重い側である日本が、責任の軽い側である韓国に対して嫌韓感情の大合唱を繰り広げている様は、あまりに醜悪極まりない。私は日本を愛する愛国者を自負するが故に、愛する国が醜悪な状態にあることが耐えがたい苦痛である。一刻も早くこの国が責任を認めて、この問題の解決に向けて足を踏み出してほしい。
2. 徴用工被害者たちの受けた被害  
現在問題となっている徴用工判決について、その被害者らに対して何がなされたのかを知ることが、この問題の解決のための出発点だろう。何を議論するにせよ、事実を正しく知ることが何よりも大前提のはずだ。
1910年の日韓併合によって日本は韓国を植民地化した。このときに日本は朝鮮人に対して日本人化することを強制して、1939年には創氏改名により日本名を名乗らせることを強いている。
こうした中で、たとえば「日本鋼管徴用工損害賠償請求訴訟」の原告金景錫(創氏により「金城景錫」と名乗らされていた)は、1942年、21歳のときに日本内地での労務動員に応じる形で日本鋼管の川﨑製鉄所で働くことになった。以下は、この事件の東京地裁判決(1997年5月26日)による事実認定の概要である。
3. 金景錫の受けた被害 
原告が居住していた会社の寮は6畳の部屋に6人同居で、元軍人の指導員が朝鮮人労働者を監視していた。やりとりする手紙は検閲され、食事は粗末で常に空腹であり、他方で1日12時間の重労働に従事させられ、さらに土曜日には実に18時間もの長時間労働を強いられた。原告の仕事は工場内のクレーン操作などだったが、防塵マスクの支給もされない環境下で、高温や粉塵被害の危険のもとでの業務を担当させられた。
建前上、いちおう賃金は支払われていたが、当初聞かされていた月額80円ではなく、額面で25円しか支給されなかった。しかもそこから「国防献金、愛国貯金」などの名目で天引され、さらに食費や被服費等としてさっ引かれて、実際に渡された金額は8円程度に過ぎなかった。
これ自体をとっても悲惨な奴隷状態というべきだが、金景錫はさらにひどい目に遭わされている。
被告日本鋼管の労務次長が朝鮮人労働者を侮辱して差別する発言をしていることを知った朝鮮人労働者たちが怒って集団で就労拒否をする事件が起き、警官隊や憲兵が導入される騒動となった。このストライキの首謀者と疑われた原告は、警官や日本人従業員たちからリンチを受け、天井から吊されて長時間にわたって拷問され、木刀や竹刀で殴打され続けるという暴行を受けた。
ストライキ中だった同僚の朝鮮人労働者が、「金景錫を解放したら解散する」と申し入れたことでようやく原告は解放される。しかしこのとき受けた暴行により、原告は右肩肩甲骨骨折及び右腕脱臼の傷害を負わされた。ところが会社は原告に治療を受けさせず、怪我を放置して半年ほども働かせ続けた。原告は別の病気を装って病院に行き、そこでようやく入院して手術を受けることができた。けれども傷害は完治せず、右肩関節には習慣性脱臼の症状が出てしまい、右肩関節可動域制限の後遺障害が残ってしまった。
原告は、敗戦前の1944年に帰郷しての治療が許されたため、いったん韓国に戻っている。しかし会社からは、天引されていた「愛国貯金」も退職金も支払われず、帰りの旅費すらも出されなかったので、同僚たちが出し合った餞別で何とか帰り着くことができた。
 4. 金景錫の後遺障害 
これが原告の金景錫が受けた被害である。奴隷状態での苦役を受けたにもかかわらず賃金もほとんど支払われず、拷問と暴行によって大怪我を負わされたのに会社は原告に治療も受けさせず、これによって原告は生涯治ることのない重大な後遺障害を負わされた。右肩関節の可動域制限という後遺障害は、その後の金景錫の生涯収入に重大な影響を及ぼしたであろう。
ちなみに習慣性脱臼ということは右肩に負担をかけるような仕事は一切できなくなったと考えられ、この場合には労働能力喪失割合は45%、すなわち以後の生涯賃金の45%が失われたと認定されることになる。この場合の後遺症慰謝料の額は、現在の基準では830万円である。これが会社の従業員による暴行が原因であること、さらに会社が半年も治療を受けさせないことで症状が重篤になったという経緯を考えれば、慰謝料額だけで軽く1000万円を超える水準になるだろう。
これほどひどい目に遭った徴用工たちが、加害者に対して賠償を求めたいと考えるのは当然のことだ。そして加害企業の側は、こうした被害者たちの要求に真摯に向き合って、謝罪と賠償をすべきなのが物事の道理ではないか。これは人間としてあまりに当たり前のことではないのか。
5. 消滅していない徴用工被害者たちの「損害賠償請求権」  
このような徴用工の被害者たちは、当初は日本において日本の弁護士の協力を得て加害企業に対する訴訟を起こした。しかし日本の裁判所は被害者たちの要求を入れなかったため、やむなく次に韓国での提訴に踏み切ったものだ。加害企業は徴用工たちにこれだけの損害を与えているのだから、その責任を果たさないまま韓国に進出して事業を行っていれば、その賠償責任を問われて当然である。何の咎も受けずに韓国でも金儲けに邁進できると考える方がおかしい。
こうした被害者たちの加害企業に対する損害賠償請求権は、1965年の日韓請求権協定の締結によっても、これが消滅することにはならない。
このことは、韓国の大法院判決はもちろん、日本の最高裁においても同じ立場を明らかにしている。というよりも、「被害者個人の請求権は消滅していない」とするのが日本政府自身の公式見解でもある。この論点については、昨年12月に公表したコラム(『韓国の徴用工問題に関する大法院判決についての日本国内の論調が、完全に間違っている』)で詳細に述べたところなので、興味があれば確認していただきたい。
いずれにしても、日韓双方の政府及び裁判所の共通見解が、「被害者の加害企業に対する損害賠償請求権は消滅していない」というものなのだ。日韓請求権協定の存在を根拠に、この問題が解決済みだの韓国政府の責任で対応すべきだのとする主張が破綻していることは、この点だけでも明らかだといえる。
6. 当然に賠償義務を果たすべき加害企業 
このように徴用工の被害者たちの加害企業に対する損害賠償請求権は、法的には消滅していない。
韓国の大法院判決はその当然のことを判示しただけであり、これは「国際法違反」でもなんでもない。
被害者に対して残虐な加害行為をおこなった非人道的な加害企業が、韓国においてその損害賠償を命じられただけのことなのだ。韓国に進出した企業なのだから、韓国の司法制度に従うのは当たり前だろう。こうした企業は潔く賠償責任を負えばよい。嫌だったら始めから進出しなければよかっただけの話だ。
というより、問題の全面的解決のため、加害企業と日本政府が加わって基金を設立して、被害者に対する賠償を実施する必要がある。このことも、前述した12月のコラムで指摘したところである。
7. 日本政府による妨害と日韓関係の悪化  
ところがここで日本政府がしゃしゃり出てきて妨害し始めた。
周知のように日本政府は韓国を「ホワイト国」から除外する措置を強行し、これにより貿易紛争が勃発した。実際にはこれは徴用工判決が理由だったにもかかわらず、それではWTOに提訴されると分が悪いものだから、日本政府は対外的には「安全保障上問題がある」という理屈に固執している。これに対し韓国がGSOMIAを破棄したのも周知のとおり。
韓国によるGSOMIA破棄が妥当だったかについて疑問なしとはしないが、しかし少なくとも日本政府にこれを非難する資格はない。なぜなら、日本政府が「安全保障上問題がある」として先にホワイト国除外に踏み切ったのであり、韓国はこれを捉えて「安全保障上問題があるのであれば、軍事情報の共有はできない」と切り返しただけだからである。
8. 経済的損失の「とばっちり」  
こうした応酬が影響して、冒頭に記したように両国の関係は戦後最悪となっている。
貿易関係が多大な影響を受け、観光業界でもあおりを食って大きな損害が出てきている。韓国の訪日客は激減し、就航する航空便の数も大きく減少した。こうした紛争による損害額がどの程度の範囲にまで及ぶものなのか私には正確にわからないが、少なくとも韓国に進出した加害企業が賠償請求されるであろう金額よりは、比較にならないほど莫大な額となるだろう。しかもホワイト国除外によって韓国の企業は、これまで日本企業からの輸入に依存していたフッ化水素の供給源を自社生産にするなどの対応を緊急に行っており、これによって日本は主要な輸出先を失うことになる。これにより中国企業が漁夫の利を得るとともに、アジアにおける日本の地位は経済的にも倫理的にもさらに低下していくことになる。
しかし、非人道的な残虐行為をやった加害企業のために、どうして現在の私たちがこのような損害を被らなければならないのか。被害者に対する賠償は、加害企業にやらせればいいではないか。そのとばっちりをどうして無関係の半導体関連企業や貿易会社、航空会社や観光業界が受けなければならないのだろうか。この点が私にはまったく理解できない。
9. 被害者の声を圧殺することはできない 
そもそもこの問題に安倍政権が敏感になっているのは、日本の加害責任を安倍晋三と自民党政権が認めたくないからだ。特に安倍の祖父である岸信介はA級戦犯であり、戦前は満州国総務庁や商工大臣などを務めたアジア侵略の責任者の一人だった。岸を尊敬する安倍は日本の加害責任をどうしても受け入れられないので、加害企業が韓国で責任を問われる事態も妨害したくてたまらないのだ。
そんな程度のことで日韓関係全体を悪化させ、経済的にも多大な損害を生じさせている安倍晋三のやり方は、完全に政治家として失格である。国家の運営方針として、これは明らかに進路を誤っている。
冷静になって考えてみてほしい。
日本は確かに戦前、朝鮮を植民地にして支配し、中国を侵略して両国を中心に非人道的な加害行為をいくつも重ねてきた。
このような国家が、自分たちのやってきたことに向き合おうともせず、却って加害行為の事実を否定するような言動を繰り返してきた。これでは、被害者たちがますます怒るのは当然ではないか。まして日本政府が今やっているのは、被害を訴えている被害者たちや被害国の訴えの方に圧力をかけ、それによって被害の訴えを圧殺しようとすることだ。こんな恥知らずなやり方はない。
しかしそんなことで、被害者たちの声を抹殺することなどできはしない。さらに恨みを買って、さらに根深く問題が残り続けるだけだ。
10. アジアから取り残され没落していくだけの日本  
私が弁護士として取り組んできた最大の課題の1つが、この戦争責任の問題を解決して、被害者に対し適正な謝罪と賠償を行うとともに、加害の事実を広く日本社会で共有し、この失敗に学んで二度と同じ過ちを繰り返させないことだった。そのことによって初めて、被害を受けた国や被害者の人たちは、日本の反省を心からのものと受け止め、日本人と日本国を信頼してくれるだろう。そうした倫理的に高潔な対応をすることによって、結果的にそれが周辺国からの評価につながり、アジアの中で尊敬されうる地位を占めることができるようになる。それをやっているのがまさにドイツであり、だからこそドイツは今やEUの中心国家として繁栄することができているのだ。
これまで日本は、自らの加害責任に対し真摯に取り組んでいなくても、東西冷戦に起因する経済復興とアメリカという後ろ盾により、経済力を背景としてアジアで重要な地位を占めることができていた。しかし少子化と長期低迷している経済状態により、アジアにおける日本の地位は明確に低下している。逆に中国は世界第二位の経済大国に進出し、韓国の国力も今後ますます増強していくであろう。
この情勢下で、日本が過去の加害責任を否定し続けてこれに取り組もうとしないままでいれば、経済力を失った日本はアジアから取り残されることになるだろう。国力をつけた中国や韓国、台湾や香港などにも見放され、アジアの劣等国として置き去りにされることになってしまう。愛国者である私は、そんなことにならないように、日本が道義的に尊敬される措置を少しでも早く実施することを主張しているのだ。
11. 手遅れにならないうちに戦争責任を解決すべき  
私が弁護士になったときに感じていたこうした危惧は、そのときには「そのうちに日本だけがアジアに取り残されてしまう」という、将来に対する問題意識であった。しかし今やその不安は的中し、まさに今その危惧が現実のものとなりつつある。
日本という国を愛するのであれば、一刻も早く加害責任を正面から認めて、基金方式による徴用工問題の解決を図らなければならない。慰安婦問題の解決も同じである。日本が加害の事実を否定しようとすればするほど、日本の国際的地位が低下し、周辺諸国を始めとする諸外国からの国際的評価を失い、軽蔑されるだけになっていき、経済的にも取り残されていく事態となることに、日本国民自身が気付かなければならない。

2019年9月18日水曜日

札幌訴訟10月結審

札幌控訴審 第3回口頭弁論
10月10日(木)午後2時30分開廷、札幌高裁805号法廷 
この日で審理は終結する予定です
傍聴抽選は午後2時。傍聴は整理券の発行と抽選が予想されます。早めの来場をお願いします。

報告集会 弁護団+植村さんの報告+映画「標的」監督トーク
同日午後6時~8時30分 開場5時半 申込不要
札幌市教育文化会館4階講堂 中央区北1条西13丁目

映画「標的」監督トークと上映(短縮版)
映画「標的」は、理不尽なバッシングに毅然と立ち向かう主人公と支援者たちの姿を通して、自由で多様な言論が保障される社会の実現を強く訴えています
◆西嶋真司(にしじま・しんじ)監督 1981年RKB毎日放送入社。記者、ソウル特派員を経てディレクターに。反戦や人権をテーマにドキュメンタリー番組を数多く製作。2016年、映画「抗い〜記録作家 林えいだい」で第23回平和協同ジャーナリスト基金賞大賞、第35回日本映画復興奨励賞。2018年、「ドキュメント・アジア」設立。




植村さんはなぜ、「標的」にされたのか?

=2019年7月2日、控訴審第2回口頭弁論、植村隆氏の陳述から


私は櫻井さんから「標的」にされたのだと思います。当時、「挺身隊」という言葉を使ったのは、私だけではありません。北海道新聞の喜多さんを始め、金学順さんについて報じた読売新聞や東亜日報など日韓の記者達も書いています。金学順さん自身が、挺身隊だと言い、強制的に連行されたことを語っているのです。当時の産経新聞や読売新聞も「強制連行」という表現を使っています。しかし、私だけが「標的」にされ、すさまじいバッシングに巻き込まれました。
私は捏造記者ではありません。
この「植村捏造バッシング」は、私だけをバッシングしているのではありません。歴史に向き合おう、真実を伝えようというジャーナリズムの原点をバッシングしているのではないかと考えています。真実を伝えた記者が、「標的」になるような時代を、一刻も早く終わらせて欲しい。私の被害を司法の場で救済していただきたいと思います。札幌高裁におかれては、これまでの証拠や新しい証拠を検討していただき、歴史の検証に耐えうる公正な判決を出していただきたいと願っております。

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東京訴訟 第1回口頭弁論
10月29日(火)午前10時30分開廷、東京高裁101号法廷


2019年9月14日土曜日

IWJ岩上氏敗訴!


ジャーナリストの岩上安見氏が元大阪府知事の橋下徹氏に名誉毀損で訴えられた裁判の判決言い渡しが9月12日、大阪地裁であった。判決は橋下氏の訴えを認め、岩上氏に33万円の支払いを命じた。岩上氏は判決を不当とし、控訴する。
橋下氏は、同氏の府知事時代の言動をツイッター上で批判した一般投稿(ツイート)を岩上氏がそのまま投稿(リツイート)したため、自身の名誉が毀損された、として2017年に提訴していた。賠償請求額は100万円。しかし、謝罪や訂正は要求していない。
これに対して岩上氏は裁判で、

・リツイートは他人のツイートを単純にそのまま投稿しただけで
・しかもリツイートは37日後に削除した
・その間もその後も橋下氏からは抗議、質問、反論がなかったし、
・また元のツイートの投稿者への提訴もない
・しかも元のツイートはいまも削除されていない
・元ツイートの内容はすでに報道などで知られた公知の事実だ
・事前の内容証明郵便などもなく突然訴えらた
・公人への批判的意見の表明(表現の自由)は保障されるべきだ

などと主張し、「橋下氏の要求は金銭だけで、訂正や謝罪は求めていない、これは訴権を乱用したスラップ訴訟だ(※注)」と批判した。
判決は、岩上氏のこれらの主張をすべて斥け、①リツイートに賛意か不同意のコメントが付けられていないことは通常考え難い、②岩上氏のツイート登録読者(フォロワー)が18万を超えている、ことを主な理由として、請求額を3分の一に減額して支払いを命じた。

※注 スラップ訴訟=SLAPP strategic lawsuit against public participation  資金力のある組織が、批判や反対意見を言論的に封じるために行う高額訴訟。または、そのような訴訟を起こすことで相手を恫喝すること(スーパー大辞林)

■判決を伝えるIWJ記事
記者会見を伝えるIWJ記事

■判決に対する弁護団声明
1 2017年(平成29年)10月29日に、岩上安身氏がツイッターでリツイートした内容を巡り、橋下徹氏が提訴した「名誉毀損」訴訟、及び提訴された岩上安身氏が反訴提起した「スラップ訴訟に対する損害賠償請求」訴訟に対する判決が本日言い渡された。
2 大阪地方裁判所第13民事部(裁判長裁判官末永雅之、裁判官重高啓、裁判官青木嵩史)は、岩上氏のリツイートにつき、表現行為として名誉毀損に該当すると判断し、リツイート内容に含まれる事実関係に関する真実性・真実相当性についての岩上氏主張を排斥し、リツイート行為の違法性を肯定した。
  その上で、橋下氏に対する損害賠償として岩上氏に対し金33万円の支払いを命じる不当な判断を行った。スラップ訴訟であるとの岩上氏の請求は排斥した。
記者会見する梓澤弁護団長(左)と
岩上安見氏=9月12日、大阪地裁内
3 上記判断は本件での表現行為がSNSという双方向性の言論空間での一断面であるという性質や、そもそも他人のツイート行為を単純にリツイートしたに過ぎない点、さらにはツイート内容それ自体も、橋下氏が大阪府知事時代に発生した大阪府職員の在職死亡事案を素材とした客観的事実を根拠とする意見の表明であり、それに関する幾多の先行報道も存在し、岩上氏自身もそれを当然の前提としていたこと等を一切無視したものである。また実際に岩上氏がリツイート行為を行ったことによる橋下氏の損害など何ら発生しておらず、その立証もない中で、橋下氏の損害を認容したものである。
4 橋下氏による本訴訟提起は、対抗言論での反論という手段を一切とらず、事前交渉の一切ない中での言論抑圧目的と言わざるを得ないものである。公人に対する批判的意見の表明は、表現の自由(憲法21条)の観点から最大限に保障されなければならない。この精神にもとる不当判決を放置することはできない。被告岩上安身氏弁護団は、控訴してさらに闘うことをここに宣言するものである。
2019年(令和元年)9月12日
リツイートスラップ訴訟岩上安身氏弁護団 
(団長 梓澤和幸)

狙い撃ちされた岩上氏と植村氏

■植村裁判に共通するもの

岩上氏が受けたこの恫喝的訴訟と、植村氏が浴びた激しいバッシングには、共通することがあります。

ひとつは、個人を特定して標的とし、その個人の言論封じを狙う動きです。
もうひとつは、そのような動きに裁判所が歯止めをかけようとはしないことです。
つまり、社会的に知名度が高く大きな影響力をもつ人物(橋下徹氏、櫻井よしこ氏)が、自分の意に反する、気に食わない、といって、ジャーナリスト個人(岩上氏と植村氏)を狙い撃ちにして苦難に陥れる、しかし、裁判所は問題の本質に立ち入らずに、些少な事実を過大評価して非情な判決を下す、という図式です。

さらに加えると、岩上氏の弁護団を率いる梓澤和幸弁護士は、植村裁判東京訴訟の弁護団の重要なメンバーでもあることです。梓澤氏は「表現の自由」にかかわる裁判を長年、数多く手がけてきたベテランです。

ご存じの方が多いとは思いますが、岩上氏と植村裁判との間には、深いかかわりがあります。
岩上氏が経営するインターネットメディアIWJ(インデペンデントウェブジャーナル)は、植村裁判を数多く報道してきました。植村裁判前の北星バッシング報道に始まり、植村氏の提訴発表記者会見や単独インタビュー、裁判報告集会のライブ中継、一審不当判決など、植村裁判に関する報道では質量ともネットメディアの中ではトップです。IWJのアーカイブスには貴重な映像記録と記事があり、その数は26本! 現在もアクセスが可能です。

岩上氏は3年前に体調を崩し、IWJの経営も順調ではないといいいます。そういう状況の中での裁判ですが、さらに控訴審も続けなければならなくなりました。
攻撃や弾圧に向き合い、苦難の中でたたかうふたりのジャーナリスト岩上安見氏と植村隆氏。私たちも応援と支援を強めたいと思います。
(text by H.N.)

判決の翌日(9月13日)、岩上氏は内田樹氏にインタビューし、その前半で、内田氏の「小学館の仕事しない」宣言と今回の判決を話題にしています。以下の写真は、ツイッターのIWJ特報のタイムラインの一部を逆順に並べたものです。


2019年9月5日木曜日

日韓緊急集会の発言

 8.31緊急集会 
韓国は「敵」なのか
―輸出規制を撤回し、対話での解決を―
8月31日に東京で開かれた緊急集会「韓国は『敵』なのか」の記録動画がYouTubeで公開されている。
集会は、日韓対立が進む中、7月26日に出された声明「韓国は『敵』なのか」の呼びかけ人と賛同人らによって開かれた。大学教授、詩人、宗教者、ジャーナリストら14人が発言し、日本政府の対韓国輸出規制の撤回と、対話による冷静な解決を求めた。
「嫌韓」に傾く世論の動向を憂え、メディアの後退姿勢を強く批判する発言も相次いだ。

◇前半 https://www.youtube.com/watch?v=FQdAivP89vo&t=3557s 1時間15分54秒
◇後半 https://www.youtube.com/watch?v=xRLf2YxeaD8 1時間29分01秒

発言者は次の通り(発言順、時間はYouTube上の開始分秒)
◇前半
岡本厚(岩波書店会長) 0150
内田雅敏(弁護士) 0925
和田春樹(東京大名誉教授) 1940
福田恵介(東洋経済新報編集委員) 3645
板垣雄三(東京大名誉教授) 5245
◇後半
キム・ソンジュ(日本キリスト教協議会総幹事) 0104
金子勝(慶応大名誉教授) 1129
香山リカ(精神科医、立教大教授) 2548
羽場久美子(青山学院大教授) 3110
コン・ソンヨク(一橋大准教授) 4110
佐川亜紀(詩人) 5140
山口二郎(法政大教授) 6150
岡田充(共同通信客員論説委員) 6730
田中宏(一橋大名誉教授) 7750

14人の発言の内、最近のメディア状況に言及した部分のみを以下に収録する。順不同、敬称略。※はYouTube上の当該発言開始分秒。

拡大する日韓対立、後退するメディア

■岡本厚■著しく後退してしまったメディア ※前半0745
この声明では、日韓さまざまな論者が、保守的な立場の人も含め、1998年の日韓パートナーシップ宣言まで戻るべき、戻らなきゃならない、と言っている。その通りだと思うが、そこには、日本の植民地支配への反省と謝罪が前提としてあったということを忘れるわけにはいかない。安倍政権はこの時から完全に後退している。現在の問題は、この時の前提が崩れている、あるいは崩れていると韓国から思われていることから始まっている。歴史認識の問題は私たちにとってあまりに当然の問題だが、安倍政権を始め日本社会のかなりの部分、とりわけメディアが、著しく後退してしまった。しかし、この基礎がない限り、私たちは韓国の人たちだけでなく東アジアの人々とも信頼関係を築くことはできず、一歩も前に進むことはできない。

■和田春樹■「文藝春秋」と読売紙面への疑問 ※前半3438
これから先、いったいどうなるのか、ということについて、ひとつどうしても申し上げたいのは「文藝春秋」の9月号だ。「日韓炎上、文在寅政権が敵国になる日」という特集で、輸出規制の先にあるのは日米同盟対統一朝鮮という対立だ、と言っている。つまり中国・統一朝鮮・ロシアの大陸連合に対して海洋国家連合はアメリカ、日本、台湾だという。ずいぶんバカげている。こんな展望は我々の将来を奪うものである。
ところがこれでは極端だと思ったのか、読売新聞は18日付で安倍首相のブレーンである細谷雄一氏が書き、安倍首相の韓国政策を全部支持した上で、地政学的に韓国は重要ではないと言い放った。そして、重要なのはアメリカと中国だ、アメリカとは同盟を固めていき、中国とは安定的な関係を維持する、と述べている。ひょっとしたら安倍首相の考えにちかいのかもしれないがこんな道がプランBだとしても、実現できるはずがない。この道を行けば我々日本国民の未来は全く暗くなり、平和国家も消えてしまう。我々はどうしてもこれに反対していかなければならない。

■田中宏■安倍に質問できないメディア ※後半8219~、8613
「日韓条約ですべて終わっている、完全かつ最終的に解決した、にもかかわらず云々かんぬん」ということは耳にタコができるくらい聞かされているが、それでは1965年の日韓条約が結ばれる頃というのはどういう状況だったのか。じつは天下の「中央公論」に林房雄が「大東亜戦争肯定論」を15回にわたって連載している。始まったのが63年9月、終わったのが65年6月、すなわち日韓条約が結ばれた時だ。その年号で皆さんも思い出されるだろうが、64年は東京オリンピックの年、東海道新幹線が走った、その4月には海外渡航が自由化された。もう日本は高度成長で浮かれている時期だった。その中で、「韓国に渡したものは独立祝い金で、なにかまずいことがあったから償いをするものではない」と外務大臣が豪語した。そしてもうひとつ思い出すのは「パク(朴)にやるならボク(僕)にくれ」だ。こういう雰囲気の中で日韓条約は結ばれたのだ。(中略)
私は、2016年、オバマ大統領が広島に来たとき、非常に印象深くブラウン管で見た。アメリカは原爆の投下は戦争を早く終わらせるために正しい選択だったというのが公式見解だ。しかしその国の大統領が、被爆によって直接被害を受けた方に言葉をかけたり背中をさすったりした場面を覚えている。その横に安倍さんは立っていた、見ていた。オバマさんがそこまでやるんだったら、俺も腹を決めてナヌムの家に行ってハルモニを訪ねなきゃいかん、となぜ思わなかったのか。そして、日本のメディアもなぜその質問ができないのか。ここに大きな根っこがあると私は思う。

■板垣雄三■新元号「令和」に反省姿勢はない ※前半6305~、7220
日本はいま、世界の中で浮き上がったというか、非常に孤立した状態だ。いま日本の政府に助けになっている国といったら、イスラエルくらいしかないのではないか。アメリカも本当に日本の友だちかどうかわからなくなって来始めている。そういう中で日韓が本当に韓国の人たちのウリ(私たち、我々)に日本をいっしょに入れて考えていくという場をどうやって作っていくかが課題であるのに、日本の現状というのは非常に問題が大きいと思う。
広い視野の中での問題としてまず第一に、現在の世界を見渡して第二次世界大戦の後始末というものがついていない、あるいはつけていない国というのは日本だけだ。他の国は正しく処理したか、うまく処理したか、立派にやったか、まずいか、ヘマなことがいっぱい出てきているか、そういうことは別としても、一応処理は終わっている。全然できていないのは日本だ。これは、その後の領土問題一つとってもはっきりしてくると思うが、いちばんはっきりしていることは、日本が侵略戦争をしたこと、あるいは植民地支配でどういうことをやったかということをはっきり反省していない。(中略)
令和という改元とともに話が一層深刻になった。どうも令和には邪気があると思う。あれを提案した人は大学時代の同級生なのであまり言いたくないが、あれを決めていったプロセスにかかわった誰か、政治家やらなんやらの誰かがいろいろ持ち込んだ邪気があるのではないか。令和の令は命令の令だし、冷のつくりだし、ぽたぽた落ちる雫のつくりでもあるし、なにより、なんか寒い、命令されるという、そういう感じ。命令して和にする。漢文では令はせしむ、させると必ず読むとされていた。だから令和というのは和せしむ、和を受け容れさせる、力でこちらの言うことをきかせる、そういう言葉に見える。だから漢字文化圏の東アジアの人たちは、令和という言葉を見て、今の日本はまさしくそうだな、とみているのではないか。日本が本当に反省する姿勢をアジアと世界に証明するには、改元するより仕方がないのでないか。

■岡田充■日本の没落と歩調合わせるヘイト文化 ※後半7505
つい最近の調査では日本の生産性は世界で30位で、去年から5つくらい落ちている。1人当たりのGDPはもはやアジア1位ではなく、シンガポール、香港よりも低い。為替相場のマジックもあるのだろうが、日本が落ちれば落ちるほど、なんとなく、強い日本というものが鎌首をもたげてくる。(先ほど香山さんが言ったように)かつては右翼団体の一部がヘイトスピーチをやっていただけなのが、韓国を敵にすると安倍首相の支持率がどんどん上がる、つまりヘイト文化がこれほど爛熟しているところに我々は立っている。
その責任はどこにあるのか。日本が世界の中でどんどん落ちていく、これこそが強い日本という、あり得ない空想の世界を望んでいくところに原因があるのかもしれない。メディアはかなり大政翼賛化している。安倍首相が旗を振るリーダー、その旗に乗って大衆を踊らせるのがメディア、そして大衆との三者のシンクロ状態が韓国を敵にするような精神風土を作っているのではないか、という気が今強くする。どうか、我々は声を大きくして韓国は敵ではない、ということを今一度、世界に向かって言うべき時だと思う。

■山口二郎■少数派であることにひるまず ※後半6408
今の政府は、安手のナショナリズムを煽るという最も安易な手段で政権を運営している。これに対して私たちはともかくおかしいと言わなきゃいけない。このまま、こういう政権の手法がまかり通ったら、民主主義ではなく多数の専制に陥ってしまう。かなり危ないところに来ていると私も思う。
問題は政治の世界で、そういう政権運営に対して、これは禁じ手だ、そういうことをやったら国が亡ぶぞとはっきり反対する声がいまひとつ弱いという点だ。さきほど東洋経済の方が、石橋湛山の話をされていた。我々80年後の人間は湛山が正しかったということがわかる。しかし湛山が闘った時は湛山は少数派だった。私たちは今のところ少数派だが、少数派であることにひるんではいけない。湛山のように歴史を見通す展望を持って、多数派の陥った虚妄というか、迷妄、妄想を、これはおかしい、またそういうものを利用する政治家にやめろと言わないわけにはいかない。残念ながら一部の野党の政治家は、多数の国民の感情に阿っている、あるいは多数の国民の感情にあえて逆らって国の方向を正すという勇気をあまり発揮できていないのかもしれない。だから、私たちはいま少数派であっても、このナショナリズムを煽るやり方に対しておかしいというほうが正しいことは絶対に歴史で証明されるんだろうと思う。

■内田雅俊■いつのまにか産経路線貫徹 ※前半1620
2000年の鹿島建設花岡和解(注1)、この時には読売、産経も含め各紙いっせいにこれについて賛同した。そして日本政府の姿勢こそ問われるというような論調だった。2009年の西松建設和解(注2)の時には読売まで賛成し、これで日本政府の責任が問われるのだと言っている。ただ産経だけが、被害者に対する賠償は必要だと思うけれど、この民間の和解は国家間の解決の枠組みを壊す危険があるのではないか、ということを藤岡信勝氏のコメントを引用しながら言っている。それでも、被害者に対する賠償は必要だと思うけれど、と付け足している。
2016年の三菱マテリアル和解(注3では、読売はこれは中国政府の形を変えたゆさぶりであると、そして産経は、日本政府は民間の問題としてこれを放置していいのか、こんなことを認めておいたら国家間の枠組みが壊れてしまう、と言っている。もちろんいま私は読売と産経の流れについて言ったのだが、他の新聞はみんな(和解による解決を)支持している。そして2018年の韓国大法院の判決については各紙いっせいに国家間の合意に反する、こういうふうになってきている。そういう意味では、産経の言う「民間の問題として政府はこれを放置していいのか」という路線がいま貫徹している。いま企業のほうは解決しようとしても政府がこういう姿勢を取っているから自発的に解決できない。とくに三菱マテリアルの和解では外務省と経産省が事実上関与している。そして民間のことだから政府は口をはさまないと言ったにもかかわらず、今回の新日鉄住金の韓国人の問題については積極的に口をはさみ、企業の自発性を許さない。こういう態度になっていることに日本社会の変化を感じている。

内田氏注1=鹿島建設花岡和解 戦時中に秋田県の花岡鉱山で強制労働に従事していた中国人労働者と遺族が1995年に鹿島建設(当時、鹿島組)を訴えた。訴えは、重労働や虐待、暴行、拷問などへの謝罪と賠償を求めるもの。97年東京地裁で原告敗訴、99年東京高裁が和解勧告、以後20回の交渉を経て、2000年11月に和解が成立した。鹿島は受難者慰霊の基金創設のために中国赤十字に5億円を信託した。
注2=西松建設和解 戦時中に広島県の水力発電所の工事などに従事した中国人労働者360人が西松建設を訴えた。原告は2007年4月最高裁で敗訴したが、最高裁判決には「被害者の被った精神的肉体的苦痛が極めて大きいこと等を勘案して積極的に和解をするよう」に求めた付言がつけられたため、同年10月に和解交渉が始まった。2009年10月に和解が成立した。西松は謝罪し、補償金を支払い、記念碑設立などを目的とする基金に2億5000万円を寄託した。西松は2010年4月にも、同じような訴訟(新潟県の水力発電所工事に従事、原告183人)で和解し、和解金1億2000万円を支払った。
注3=三菱マテリアル和解 戦時中に劣悪な条件下で労働を強いられた中国人労働者と遺族が中国の裁判所で三菱マテリアル(旧三菱鉱業)を訴えた。三菱は訴訟を起こしたすべての中国人団体に和解案を示し、一部団体を除き、2016年6月に和解書に調印した。生存する3765人に直接謝罪し、「謝罪の証し」として1人当たり10万元(約160万円)、総額64億円が支払われた。