2019年4月3日水曜日

名誉棄損に賠償命令

 東京地裁判決               
 信州大・元医学部長が訴えた裁判で 

「捏造」と決めつけた雑誌と筆者に

賠償、謝罪、記事削除を命令!


医学分野の研究成果を雑誌やウェブで「捏造」と決めつけられた大学教授が、発行元の出版社と筆者、編集長を名誉毀損で訴えた裁判の判決が3月26日東京地裁であり、裁判所は被告に慰謝料の支払いと謝罪広告の掲載、ウェッブ記事の削除を命じました。原告の請求をすべて認めた「完全勝訴」です。
この判決を報じた記事を以下に引用します。また、この裁判の重要な書面(原告の訴状、原告と被告の尋問調書、原告の最終準備書面)と、敗訴した筆者のコメントがインターネットで公開されています。そのURLも記しておきます。
は編注です。

 ■朝日新聞の記事(朝日新聞デジタル3月27日)
(見出し)
子宮頸がんワクチン研究めぐる記事
月刊誌側に賠償命令
(記事)
子宮頸(けい)がんワクチンの副作用に関する研究発表を「捏造(ねつぞう)」と報じた月刊誌「ウェッジ」の記事で名誉を傷つけられたとして、信州大医学部の池田修一・元教授が発行元と、執筆したジャーナリストらに約1100万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が26日、東京地裁であった。男沢聡子裁判長は「記事の重要な部分が真実とは認められない」と述べ、ウェッジ側に330万円の支払いと謝罪広告の掲載などを命じた。
ウェッジの2016年7月号やウェブマガジンは、池田氏が同年3月に発表した研究について、ワクチンの影響が強く出たマウス実験の結果を意図的に抽出したと報じた。判決は「池田氏が虚偽の結論をでっちあげた事実は認められない」と指摘。裏付け取材も不十分で、ウェッジ側が「捏造」だと信じた「相当な理由はない」と述べた。
池田氏は「私の主張を的確に捉えてくれた判決」と評価。同社は「判決を真摯(しんし)に受け止めつつ、対応を検討する」とコメントした。

■弁護士ドットコムニュース(3月26日) https://www.bengo4.com/c_7/n_9425/
(みだし)
HPVワクチン名誉毀損 
出版社などに330万円の支払いを命じる 東京地裁
(記事)
子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するための「HPVワクチン」の副反応を研究している元信州大医学部長の池田修一氏が、月刊誌「Wedge」の記事で名誉を毀損されたとして、出版社や医師でジャーナリストの村中璃子氏らを訴えていた裁判は326日、東京地裁で判決があった。
男澤聡子裁判長は、出版元(ウエッジ)や村中氏、当時の編集長に対し、330万円の支払いと謝罪広告の掲載、ネット記事中の記述の一部削除を命じた。
●「捏造」の表現が争点に
村中氏らは、「Wedge」の2016年7月号や関連するネットの記事で、池田氏が厚労省の成果発表会(2016年3月)で行なった発表の問題点を指摘し、見出しも含め「捏造」という言葉を複数回使った。
池田氏は、意図的な不正はしていないと主張し、「捏造」は名誉棄損に当たるとして、約1100万円の損害賠償や謝罪広告の掲載などを求めて提訴。対する村中氏は、スラップ(いやがらせ)訴訟だと反訴していた。
判決では、池田氏が「自分に都合が良いスライドだけを選び出した」などとする記述について、事実とは認められないと判断。裏付け取材も不足しているとして、真実相当性も否定した。
なお、研究発表そのものについては、厚労省が「国民の皆様の誤解を招いた池田氏の社会的責任は大きく遺憾」と発表。所属していた信州大が設けた外部有識者による調査委員会も「混乱を招いたことについて猛省を求める」などと報告している。

■NHK(長野放送局)のニュース(3月26日)
(みだし)雑誌記事は名誉棄損 賠償命じる
(以下、記事と映像)

■WEBニュースサイト「Buzzfeed」(3月26日)
(みだし)
HPVワクチン「捏造」報道の名誉毀損訴訟 村中璃子氏らが全面敗訴
「判決の内容と子宮頸がんワクチンの安全性はまったく関係ない」
(以下記事URL
裁判の争点と判決の骨子、判決に対する原告、被告のコメントなどが詳しく書かれている

■「守れる命を守る会」訴訟記録公開 
訴訟記録の一覧 URL=https://www.mamoreruinochi.com/top/publication/
「守れる命を守る会」は「科学的根拠に基づいた言論を支援する」ことを掲げる団体で、この裁判では原告ではなく、被告側を支援している。代表は産婦人科医の石渡勇氏。同会は、訴訟の経緯解説と、訴状、調書、準備書面、証拠、意見書などの重要書類をホームページで公開している。なお、判決文は公開していない(4月3日現在)


以下は同会HP上のURL

■原告(池田修一氏)の訴状
2016年8月17日付。名誉毀損とされた記事も資料として収録されている。池田氏は、当時、信州大学の副学長と医学部長を兼ねていた。厚生労働省の子宮頸がんワクチン研究班の統括責任者もつとめていた。専攻は神経内科。雑誌発売後に、副学長と医学部長を辞任し、2018年定年退官。現在は同大で特任教授として勤務している。
ウエッジはJR東海系の出版社が発行する月刊ビジネス誌。東海道新幹線のグリーン車内で無料常備されるほか一般書店でも販売されている。


■原告(池田修一氏)の尋問調書
2018年7月30日に行われた池田氏の本人尋問調書。捏造決めつけによって受けた被害について次のように語っている。「ああいう訴えが出た途端に私はもうそれは罪人のような扱いになっちゃって一切医学部長室のパソコンとか、そういうことも凍結されてしまって、使えなくなっちゃいましたから、通常の診療業務に大きな支障を来しました。とうとう挙げれば枚挙にいとまがないようになりましたし、結局、捏造、不正という言葉のレッテルを言葉を貼られて、私は日常診療、日常の研究活動も実際にできなくなったということです。さらに、私子供も同じ領域で働いているんですが、子供たちも診療の時に、あ、捏造先生の息子ですか、というようなことまで言われて、私はかなりの名誉を毀損されています」

■被告(村中璃子氏)の尋問調書
7月31日に行われた村中氏の本人尋問調書。同氏は記事の筆者。尋問の後半では、裁判長と裁判官が執筆に至る取材経過について、詳細な説明を求めている。当該記事によるとプロフィルは
「むらなか・りこ 医師・ジャーナリスト。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める」
とある。

■被告(大江紀洋氏)の尋問調書
同日に行われた大江氏の本人尋問調書。同氏は当時、JR東海から出向し、雑誌「Wedge」の編集長を務めていた。「捏造」表現は同氏が主導していたことが尋問で明かされている。

■原告側の最終準備書面
原告(池田氏)が2018年11月1日付で提出した書面。被告側の強引で一方的な取材方法や事実関係の確認が不十分だったことを指摘し、被告側には真実性、真実相当性、公益目的性がないことを論述している。村中氏については、結審に至るまで、本名や住所・連絡先など本人の基本情報を明らかにしなかったことを問題にし、ジャーナリストとしての責任から逃れている、と厳しく批判している。大江氏については、当該記事掲載号の発売前に同誌を信州大学と厚生労働省に送付し、処分や調査を求めていたことも問題とした。同氏は信州大学学長に書状を添えて「大学として何らかの措置をとるべき」と圧力を加えていたという。このような振る舞いは編集者にあるまじき行為であり、神戸松蔭女学院大学に就職が内定していた植村隆氏への妨害攻撃と同じではないか。最終準備書面は、大江氏のこの行動を植村バッシングに火をつけた週刊文春に重ね合わせて、次のように批判している。「攻撃相手である原告の勤務先に圧力を加える被告大江の手法は、『週刊文春』2014年2月6日号が「“慰安婦捏造”朝日記者がお嬢様女子大学教授に」という記事を掲載し、当該大学に対して「重大な誤り、あるいは意図的な捏造があり、日本の国際イメージを大きく損なったとの指摘が重ねて提起されています。貴大学は採用にあたってこのような事情を考慮されたのでしょうか」と書いた質問状を送った『週刊文春』の手法に酷似している」(同書面10ページ)

■敗訴した村中氏のコメント
2019年3月26日に発表した。英文も併記されている。


雑誌「Wedge」2016年7月号の
目次(上)と記事トビラページ(下)