2018年11月30日金曜日

植村さんの最終陳述

11月28日にあった東京訴訟の第14回口頭弁論で植村隆さんが行った最終意見陳述の全文を再掲します。植村さんは3年7カ月にわたった裁判(東京訴訟)の結審にあたって、西岡力氏と文春をあらためて強く批判し、最後に裁判長に対して「正義が実現する判決を」と求めました。約10分間の陳述が終わると、法廷では3、4人から拍手が起こりました。法廷での拍手は、東京と札幌で計27回におよんだ植村裁判で初めてでした。

「植村捏造バッシング」は
様々な被害をもたらした
巨大な言論弾圧、人権侵害事件だ



■最終意見陳述全文
「私の書いた慰安婦問題の記事が、捏造でないことを説明させてください」。いまから、4年10か月ほど前の2014年2月5日、神戸松蔭女子学院大学の当局者3人に向かって、私はこう訴えました。場所は神戸のホテルでした。私は同大学に公募で採用され、その年の春から、専任教授として、マスメディア論などを担当することになっていました。テーブルの向かいに座った3人の前に、説明用の資料を置きました。しかし、誰も資料を手に取ろうとしませんでした。「説明はいらない。記事が正しいか、どうか問題ではない」というのです。 緊張した表情の3人は、こんなことを言いました。「週刊文春の記事を見た人たちから『なぜ捏造記者を雇用するのか』などという抗議が多数来ている」「このまま4月に植村さんを受け入れられる状況でない」

要するに大学に就職するのを辞退してくれないか、という相談でした。採用した教員である私の話をなぜ聞いてくれないのか。怒りと悲しみが、交錯しました。面接の後、「70歳まで働けますよ」と言っていた大学側が、180度態度を変えていました。

その週刊文春の記事とは、1月30日に発売された同誌2014年2月6日号の「“慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」のことです。その記事が出てから、大学側に抗議電話、抗議メールなどが毎日数十本来ているという説明でした。私は、この週刊文春の記事が出たことで、大学当局者に呼び出されたのです。当局者によれば、産経新聞にもこの文春の記事が紹介され、さらに拡散しているとのことでした。私の記事が真実かどうかも確かめず、教授職の辞退を求める大学側に、失望しました。結局、私は同大学への転職をあきらめるしかありませんでした。

打ち砕かれた私の夢
この週刊文春の記事で、日本の大学教授として若者たちを教育したいという私の夢は実現を目前にして、打ち砕かれました。そして、激しい「植村捏造バッシング」が巻きおこったのです。「慰安婦捏造の元朝日記者」「反日捏造工作員」「売国奴」「日本の敵 植村家 死ね」など、ネットに無数の誹謗中傷、脅し文句を書き込まれました。自宅の電話や携帯電話にかかってくる嫌がらせの電話に怯え、週刊誌記者たちによるプライバシー侵害にもさらされました。私自身への殺害予告だけでなく、「娘を殺す」という脅迫状まで送られてきました。殺害予告をした犯人は捕まっておらず、恐怖は続いています。いまでも札幌の自宅に戻ると、郵便配達のピンポンの音にもビクビクしてしまいます。週刊文春の記事によって、私たち家族が自由に平穏に暮らす権利を奪われたのです。そして、家族はバラバラの生活を余儀なくされました。私は日本の大学での職を失い、一年契約の客員教授として韓国で働いています。

神戸松蔭との契約が解消になった後、週刊文春は、私が札幌の北星学園大学の非常勤講師をしていることについても、書き立てました。このため、北星にも、植村をやめさせないなら爆破するとか学生を殺すなどという脅迫状が来たり、抗議の電話やメールが殺到したりしました。このため、北星は2年間で約5千万円の警備関連費用を使うことを強いられました。学生たちや教職員も深い精神的な苦痛を受けました。北星も「植村捏造バッシング」の被害者になったのです。
 
責任回避する西岡力、文春竹中氏に強い憤り
私を「捏造記者」と決めつけた週刊文春記者の竹中明洋氏、そして週刊文春の記事に「捏造記事と言っても過言ではありません」とのコメントを出した西岡力氏の2人が今年9月5日の尋問に出廷しました。神戸松蔭に対し電話で、私の「捏造」を強調した竹中氏は、「記憶にありません」と詳細な回答を避けました。本人尋問では、西岡氏が私の記事を「捏造」とした、その根拠の記述に間違いがあったことが明らかになりました。また、西岡氏自身が自著の中で、証拠を改ざんしていたことも判明しました。それこそ、捏造ではありませんか。「捏造」と言われることは、ジャーナリストにとって「死刑判決」を意味します。人に「死刑判決」を言い渡しておいて、その責任を回避する2人の姿勢には強い憤りを感じています。

「植村捏造バッシング」には、当時高校2年生だった私の娘も巻き込まれました。ネットに名前や高校名、顔写真がさらされました。「売国奴の血が入った汚れた女。生きる価値もない」「こいつの父親のせいでどれだけの日本人が苦労したことか。(中略)自殺するまで追い込むしかない」などと書き込まれました。娘への人権侵害を調査するため、女性弁護士が娘から聞き取りをした時、私に心配かけまいと我慢していた娘がポロポロと大粒の涙を流し、しばらく止まりませんでした。私は胸が張り裂ける思いでした。


「植村捏造バッシング」の扇動者である西岡力氏と週刊文春に対する裁判がきょう、結審します。慰安婦問題の専門家を自称して様々な媒体で、私を「捏造」記者だと繰り返し決め付けてきた西岡氏と、週刊誌として日本最大の発行部数を誇る週刊文春がもし、免責されるなら、「植村捏造バッシング」はなぜ起きたのかわからなくなります。「植村捏造バッシング」は幻だった、ということになります。しかし「植村捏造バッシング」は幻ではなく、様々な被害をもたらした巨大な言論弾圧・人権侵害事件なのです。

言論の自由が守られ、正義が実現する判決を
私は1991年に当時のほかの日本の新聞記者が書いた記事と同じような記事を書いただけです。それなのに、二十数年後に私だけ、「捏造記者」とバッシングされるのは、明らかにおかしいことです。こんな「植村捏造バッシング」が許されるなら、記者たちは萎縮し、自由に記事を書くことができなくなります。こんな目にあう記者は私で終わりにして欲しい。そんな思いで私は、「捏造記者」でないことを訴え続けてきました。「植村捏造バッシング」を見過ごしたら、日本の言論の自由は守られないと立ち上がってくれた弁護団の皆さん、市民の皆さん、ジャーナリストの皆さんたちの支えがあって、ここまで裁判を続けて来られました。

裁判長におかれては、弁護団が積み重ねてきた「植村が捏造記事を書いていない」という事実の一つ一つを詳細に見ていただき、私の名誉が回復し、言論の自由が守られ、正義が実現するような判決を出していただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

2018年11月28日水曜日

東京判決は来年3月

update 11/29   7:00am
update 11/29 21:00pm

2019年3月20日(水)午前11時、判決言い渡し
東京訴訟 審理14回、3年7カ月で結審

植村裁判東京訴訟の第14回口頭弁論は11月28日午後2時から、東京地裁103号法廷であり、原告被告双方が最終準備書面の陳述(提出)を行って、すべての審理を終了した。判決言い渡しは2019年3月20日午前11時に行われる。2015年4月27日に始まった東京訴訟は、3年7カ月の時間を費やして結審し、判決を待つことになった。

この日の法廷に、植村弁護団は中山武敏団長はじめ17人が出廷した。被告側席には、いつものように西岡氏の姿はなく、喜田村洋一、藤原大輔の2弁護士が座った。ふたりの席のテーブルには青と黄の10冊のファイルが積み上げられていた。傍聴抽選はなかったが、傍聴席はほぼ満席となった。
植村弁護団は、神原元・事務局長が最終準備書面の要旨を口頭で補足し、続いて植村氏が最後の意見陳述を約10分にわたって行った。植村氏の陳述が終わると、傍聴席の3、4人が拍手をした。法廷で拍手が起きたのは東京、札幌訴訟を通じて初めてだった。原克也裁判長は「これで弁論は終了します」と宣言し、判決言い渡しを2019年3月20日(水)午前11時に行う、と述べ、午後2時20分閉廷した。


東京地方はこの日、初冬とは思えぬおだやかな小春日和となった。報告集会は、午後3時から、紅葉が映える日比谷公園の一角、日比谷図書文化館の4階スタジオプラス小ホールで開かれ、約80人の参加者で満員となった。
集会では、神原弁護士の報告の後、札幌弁護団の渡辺達生弁護士が札幌判決の問題点を説明し、控訴審で争点になるポイントを解説した。続いて東京弁護団の穂積剛、泉澤章、角田由紀子、梓沢和幸、宇都宮健児、吉村功志、殷勇基、永田亮弁護士が、西岡尋問の要点、判決の見通しや、司法を取り巻く最近の状況、植村裁判と支援の意味、などについて、語った。
集会の後半では、北星バッシングのころから植村氏を支援してきた内海愛子氏(恵泉女学園大学名誉教授)が挨拶し、植村氏を励ました後、12月5日に発売されるブックレット「慰安婦報道「捏造」の真実」(花伝社、120ページ、1000円)の執筆陣4人が、発行のねらいや内容の紹介をした。集会の最後に植村氏はこう語った。「この本(花伝社ブックレット)にも記録されているが、櫻井さんや西岡さんの誤りは札幌と東京の裁判で明らかになっている。私たちのたたかいは正しいたたかいであったことが現代史の中で記録され続けている。私は(札幌敗訴に)失望していない。これから東京の判決、札幌の控訴審と続くが、常識があれば、常識が通じれば、勝てる、それを信じてたたかい続ける」
photo by TAKANAMI

■神原元弁護士の陳述(要旨説明)
①被告西岡氏の「捏造」決めつけは、論評・意見ではなく、事実の摘示である。
②「捏造」は、意図的に事実をねじ曲げることであるから、被告西岡氏は植村氏に故意があったことを立証しなければならないが、できていない
③植村氏の記事にある「女子挺身隊として送られた」は、地の文として書かれており、金学順さんの発言をそのまま引用したものではなく、金さんの立場や境遇を植村氏が要約して表現したものだから、金さんが録音テープの中でそのように語ったかふどうかを被告側が問題とするのはナンセンス(誤り)だ、
④被告西岡氏は、金さんのキーセン学校の経歴を書かなかったことを「捏造」決めつけの根拠のひとつとしているが、植村氏はそれがどうしても書かなければならない重要なことだとは考えていなかったのだから、その決めつけはあたらない。1991年当時、他紙の報道もキーセン学校の経歴は書いておらず、それが一般的な解釈であったことは、西岡氏も本人尋問で認めていることではないか
④西岡氏の植村氏に対するバッシングはあまりにも理不尽で、根拠がない

植村氏の最終意見陳述(全文)
「私の書いた慰安婦問題の記事が、捏造でないことを説明させてください」。いまから、4年10か月ほど前の2014年2月5日、神戸松蔭女子学院大学の当局者3人に向かって、私はこう訴えました。場所は神戸のホテルでした。私は同大学に公募で採用され、その年の春から、専任教授として、マスメディア論などを担当することになっていました。テーブルの向かいに座った3人の前に、説明用の資料を置きました。しかし、誰も資料を手に取ろうとしませんでした。「説明はいらない。記事が正しいか、どうか問題ではない」というのです。 緊張した表情の3人は、こんなことを言いました。「週刊文春の記事を見た人たちから『なぜ捏造記者を雇用するのか』などという抗議が多数来ている」「このまま4月に植村さんを受け入れられる状況でない」

要するに大学に就職するのを辞退してくれないか、という相談でした。採用した教員である私の話をなぜ聞いてくれないのか。怒りと悲しみが、交錯しました。面接の後、「70歳まで働けますよ」と言っていた大学側が、180度態度を変えていました。

その週刊文春の記事とは、1月30日に発売された同誌2014年2月6日号の「“慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」のことです。その記事が出てから、大学側に抗議電話、抗議メールなどが毎日数十本来ているという説明でした。私は、この週刊文春の記事が出たことで、大学当局者に呼び出されたのです。当局者によれば、産経新聞にもこの文春の記事が紹介され、さらに拡散しているとのことでした。私の記事が真実かどうかも確かめず、教授職の辞退を求める大学側に、失望しました。結局、私は同大学への転職をあきらめるしかありませんでした。

この週刊文春の記事で、日本の大学教授として若者たちを教育したいという私の夢は実現を目前にして、打ち砕かれました。そして、激しい「植村捏造バッシング」が巻きおこったのです。「慰安婦捏造の元朝日記者」「反日捏造工作員」「売国奴」「日本の敵 植村家 死ね」など、ネットに無数の誹謗中傷、脅し文句を書き込まれました。自宅の電話や携帯電話にかかってくる嫌がらせの電話に怯え、週刊誌記者たちによるプライバシー侵害にもさらされました。私自身への殺害予告だけでなく、「娘を殺す」という脅迫状まで送られてきました。殺害予告をした犯人は捕まっておらず、恐怖は続いています。いまでも札幌の自宅に戻ると、郵便配達のピンポンの音にもビクビクしてしまいます。週刊文春の記事によって、私たち家族が自由に平穏に暮らす権利を奪われたのです。そして、家族はバラバラの生活を余儀なくされました。私は日本の大学での職を失い、一年契約の客員教授として韓国で働いています。

神戸松蔭との契約が解消になった後、週刊文春は、私が札幌の北星学園大学の非常勤講師をしていることについても、書き立てました。このため、北星にも、植村をやめさせないなら爆破するとか学生を殺すなどという脅迫状が来たり、抗議の電話やメールが殺到したりしました。このため、北星は2年間で約5千万円の警備関連費用を使うことを強いられました。学生たちや教職員も深い精神的な苦痛を受けました。北星も「植村捏造バッシング」の被害者になったのです。
 
私を「捏造記者」と決めつけた週刊文春記者の竹中明洋氏、そして週刊文春の記事に「捏
造記事と言っても過言ではありません」とのコメントを出した西岡力氏の2人が今年9月5日の尋問に出廷しました。神戸松蔭に対し電話で、私の「捏造」を強調した竹中氏は、「記憶にありません」と詳細な回答を避けました。本人尋問では、西岡氏が私の記事を「捏造」とした、その根拠の記述に間違いがあったことが明らかになりました。また、西岡氏自身が自著の中で、証拠を改ざんしていたことも判明しました。それこそ、捏造ではありませんか。「捏造」と言われることは、ジャーナリストにとって「死刑判決」を意味します。人に「死刑判決」を言い渡しておいて、その責任を回避する2人の姿勢には強い憤りを感じています。

「植村捏造バッシング」には、当時高校2年生だった私の娘も巻き込まれました。ネットに名前や高校名、顔写真がさらされました。「売国奴の血が入った汚れた女。生きる価値もない」「こいつの父親のせいでどれだけの日本人が苦労したことか。(中略)自殺するまで追い込むしかない」などと書き込まれました。娘への人権侵害を調査するため、女性弁護士が娘から聞き取りをした時、私に心配かけまいと我慢していた娘がポロポロと大粒の涙を流し、しばらく止まりませんでした。私は胸が張り裂ける思いでした。

「植村捏造バッシング」の扇動者である西岡力氏と週刊文春に対する裁判がきょう、結審します。慰安婦問題の専門家を自称して様々な媒体で、私を「捏造」記者だと繰り返し決め付けてきた西岡氏と、週刊誌として日本最大の発行部数を誇る週刊文春がもし、免責されるなら、「植村捏造バッシング」はなぜ起きたのかわからなくなります。「植村捏造バッシング」は幻だった、ということになります。しかし「植村捏造バッシング」は幻ではなく、様々な被害をもたらした巨大な言論弾圧・人権侵害事件なのです。

私は1991年に当時のほかの日本の新聞記者が書いた記事と同じような記事を書いただけです。それなのに、二十数年後に私だけ、「捏造記者」とバッシングされるのは、明らかにおかしいことです。こんな「植村捏造バッシング」が許されるなら、記者たちは萎縮し、自由に記事を書くことができなくなります。こんな目にあう記者は私で終わりにして欲しい。そんな思いで私は、「捏造記者」でないことを訴え続けてきました。「植村捏造バッシング」を見過ごしたら、日本の言論の自由は守られないと立ち上がってくれた弁護団の皆さん、市民の皆さん、ジャーナリストの皆さんたちの支えがあって、ここまで裁判を続けて来られました。

裁判長におかれては、弁護団が積み重ねてきた「植村が捏造記事を書いていない」という事実の一つ一つを詳細に見ていただき、私の名誉が回復し、言論の自由が守られ、正義が実現するような判決を出していただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。


2018年11月24日土曜日

東京訴訟28日結審

元朝日新聞記者の植村隆さんが、元東京基督教大教授・西岡力氏と文藝春秋を名誉毀損で訴えた「植村裁判東京訴訟」は、28日に開かれる第14回口頭弁論で審理が終了します。2015年4月に始まり、結審まで3年7カ月の時間を費やしたことになります。この後、来春に予想される判決言い渡しの日時は、この日の法廷で明らかになるものとみられます。

この弁論で双方の弁護団は、これまでの主張を整理補足した最終準備書面を提出するものとみられます。植村弁護団は同書面で、本人尋問(前回9月5日)で西岡力氏が重大な証拠改変を認めたことをふまえ、「被告西岡による名誉毀損行為の悪質性」についての主張を大幅に補充するものとみられます。また、植村氏は最終の意見陳述書を提出する予定です。一方、被告側は、植村氏に対する「捏造」との批判は、意見・論評の域を逸脱していない、との従来の主張を展開するものとみられます。

11月28日(水)の日程

■第14回口頭弁論 午後2時開廷、東京地裁103号法廷
傍聴希望者は早めに裁判所にお越しください

■報告集会 午後3時~4時30分、日比谷図書文化館・スタジオプラス小ホール map
前半)弁護団報告・最終準備書面で訴えたもの
後半)執筆チームが語る緊急出版『慰安婦報道「捏造」の真実』の読みどころ
主催:植村東京訴訟支援チーム
共催:新聞労連、メディア総合研究所、日本ジャーナリスト会議
資料代500円 




2018年11月22日木曜日

札幌高裁に控訴!

 札幌訴訟  新たなステップへ

植村弁護団は、札幌地裁(岡山忠広裁判長)の判決を不服として、控訴期限の11月22日、札幌高裁に控訴しました。植村さんと3人の弁護団共同代表(伊藤誠一、渡辺達生、秀嶋ゆかり弁護士)は揃って記者会見し、控訴の理由を説明しました。植村さんは「高裁で勝利を目ざす」と語りました。今後の審理日程は、未定です。
北海道司法記者クラブで、11月22日午後5時すぎ(撮影・石井一弘)















各紙電子版の報道を引用します。

朝日新聞
慰安婦報道巡る訴訟、植村氏が札幌高裁に控訴
元慰安婦の証言を伝える記事を「捏造(ねつぞう)」と断定され名誉を傷つけられたとして、元朝日新聞記者で「週刊金曜日」発行人兼社長の植村隆氏がジャーナリストの櫻井よしこ氏や出版3社に損害賠償などを求めた訴訟で、植村氏が22日、請求を棄却した9日の札幌地裁判決を不服とし、札幌高裁に控訴した。
地裁判決は、櫻井氏の論文などが植村氏の社会的評価を「低下させた」と認めた一方、櫻井氏が植村氏の記事は事実と異なると信じたことには「相当の理由がある」などと結論づけた。植村氏は22日に札幌市内で記者会見し、「到底納得できず、高裁で逆転勝訴を目指したい」と話していた。

北海道新聞
慰安婦報道訴訟 元朝日記者が控訴 一審判決の問題点訴え
朝日新聞元記者の植村隆氏が、従軍慰安婦について書いた記事を「捏造」と書かれ名誉を傷つけられたなどとして、ジャーナリストの桜井よしこ氏と出版社3社に損害賠償を求めた訴訟で、原告の植村氏は22日、請求を棄却した一審札幌地裁判決を不服として札幌高裁に控訴した。原告側は控訴審で一審判決の問題点を訴える考えだ。
一審判決によると、桜井氏は2014年、週刊新潮など3誌で、植村氏が記者時代の1991年に韓国の元慰安婦の女性の証言を取り上げた記事を「意図的な虚偽報道」などと批判した。女性は日本政府を相手に訴訟を起こしているが、桜井氏は14年、訴状と異なる内容の記事を新聞や雑誌に掲載。今年3月の本人尋問では「訴状を十分に確認していなかった」と述べ、その後、訂正記事を出した。
原告側は、桜井氏が植村氏の批判記事を書く際にも資料の正確な確認を怠っていたと主張。だが今月9日の一審判決は、名誉毀損(きそん)を認める一方、桜井氏がジャーナリストであることを考慮せず、植村氏の義母が慰安婦への補償を求める団体の幹部だったことなどから「桜井氏が植村氏の記事の公正さに疑問を持ち、植村氏が捏造記事を書いたと信じたとしても相当な理由があった」として賠償請求は退けた。
植村氏は22日、札幌市中央区で記者会見し「桜井氏は事実に基づかない認識で批判しており、徹底的に戦いたい」と述べた。桜井氏側は「コメントは特にない」としている。(野口洸)

読売新聞
慰安婦報道「捏造」訴訟、元朝日記者側が控訴
朝日新聞社のいわゆる従軍慰安婦問題の報道を巡り、元朝日記者の植村隆氏(60)が自分の記事を「捏造」と記述されて名誉を傷つけられたとして、ジャーナリストの櫻井よしこ氏(73)と出版3社に計1650万円の損害賠償などを求めた訴訟で、原告側は22日、請求を棄却した札幌地裁判決を不服として、札幌高裁に控訴した。

産経新聞
元朝日新聞記者の植村隆氏が控訴 慰安婦記事巡り、札幌
元朝日新聞記者の植村隆氏(60)が、従軍慰安婦について書いた記事を「捏造」とされ名誉を傷つけられたとして、ジャーナリストの櫻井よしこ氏(73)と出版社3社に謝罪広告の掲載と損害賠償などを求めた訴訟で、植村氏側は22日、請求を棄却した札幌地裁判決を不服として札幌高裁に控訴した。
9日の判決は「桜井氏が植村氏の記事の公正さに疑問を持ち、植村氏が事実と異なる記事を執筆したと信じたのには相当な理由がある」として訴えを退けた。
植村氏は22日、札幌市内で記者会見し「桜井氏は私に取材せず、事実に基づかない批判をした。正しい判決を得るべく努力する」と述べた。

共同通信
慰安婦記事巡り元朝日記者が控訴
元朝日新聞記者の植村隆氏(60)が、従軍慰安婦について書いた記事を「捏造」とされ名誉を傷つけられたとして、ジャーナリストの桜井よしこ氏(73)と出版社3社に謝罪広告の掲載と損害賠償などを求めた訴訟で、植村氏側は22日、請求を棄却した札幌地裁判決を不服として札幌高裁に控訴した。
9日の判決は「桜井氏が植村氏の記事の公正さに疑問を持ち、植村氏が事実と異なる記事を執筆したと信じたのには相当な理由がある」として訴えを退けた。
植村氏は22日、札幌市内で記者会見し「桜井氏は私に取材せず、事実に基づかない批判をした。正しい判決を得るべく努力する」と述べた。

この記事は、東京、中日、信濃毎日、中国、山陰中央新報、高知、宮﨑日報、沖縄タイムスほか各地の新聞電信版にも掲載されている>

時事通信
元朝日記者が控訴=慰安婦報道訴訟-札幌
従軍慰安婦報道に関わった元朝日新聞記者の植村隆氏(60)が「捏造(ねつぞう)記事」などと指摘され名誉を傷つけられたとして、ジャーナリストの櫻井よしこ氏(73)と櫻井氏の記事を掲載した雑誌の発行元に損害賠償などを求めた訴訟で、植村氏側は22日、請求を棄却した札幌地裁判決を不服として札幌高裁に控訴した。
植村氏は控訴後に会見し、「到底納得できず、逆転勝訴を目指して頑張りたい」と語った。弁護団によると、同日から50日以内に控訴理由書を高裁に提出する。
札幌地裁は9日の判決で、櫻井氏が自身の取材などから記事を捏造と信じたことには「相当な理由がある」と判断していた。

  

2018年11月20日火曜日

緊急出版のお知らせ

「慰安婦報道『捏造』の真実」
植村裁判取材チーム・編
12月5日、花伝社から全国いっせい発売
amazonでも予約受付開始!



内容・筆者(植村裁判取材チーム)・ページ

 問われる「慰安婦報道」とジャーナリズム(北野隆一) p3-5
――植村裁判を検証する目的と意義

 個人攻撃の標的にされた「小さなスクープ」(水野孝昭) p6-17
――報道の歴史に特筆すべき「植村記事」の大きな価値

 櫻井よしこが世界に広げた「虚構」は崩れた(佐藤和雄) p18-31
――「慰安婦=強制連行ではない」というストーリーの崩壊

 西岡力は自身の証拠改変と「捏造」を認めた(水野孝昭) p32-44
――「ない」ことを書き、「ある」ことを書かなかった「利害」関係者

 櫻井と西岡の主張を突き崩した尋問場面(構成・中町広志) p45-100
――法廷ドキュメント
(1)櫻井よしこ尋問 自ら認めた杜撰な取材と事実の歪曲
(2)西岡力尋問  明らかになった重要証拠の重大改変

 「真実」は不問にされ、「事実」は置き去りにされた(長谷川綾) p112-116
――しかし、「植村記事は捏造」を判決は認めていない

 植村裁判札幌訴訟判決 判決要旨 p114-118

 

発行
花伝社(東京都千代田区西神田2-5-11、電話03-3263-3818) HP
販売
共栄書房(同上)

発行日
2018年12月5日、全国書店で発売
アマゾンで予約受付中

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おことわり】内容の連載プレビューは取りやめとなりました

2018年11月17日土曜日

判決報告集会の詳報

update:2018/11/18 10:00 & 15:00
2018年11月9日、かでる2.7にて
集会発言者(各段左から=敬称略)
1段目:小野寺信勝、上田文雄、植村隆、伊藤誠一、神原元
2段目:安田浩一、新西孝司、姜明錫と韓国大学生
3段目:北岡和義、水野孝昭、原島正衛、崔善愛、新崎盛吾、南彰
4段目:植田英隆、喜多義憲、七尾寿子、三上友衛、岩上安身
判決報告集会は、11月9日、記者会見の後、午後6時過ぎから道庁近くの「かでる2・7」4階大会議室で開かれた。夕方から降り出した雨の中、約180人が集まり、会場はほぼ満席となった。
最初に弁護団小野寺事務局長が判決内容を解説し、問題点を指摘した。つぎに、「支える会」共同代表の上田文雄さんと植村隆さんが判決に対する考えと今後の決意を語った。その後、裁判を支援してきた人々がリレートーク形式でそれぞれの思いを語った。
判決は期待を裏切るものだったが、会場に重苦しい空気はなく、植村裁判を力強く支えていく思いを共有し、決意を固める集会となった。集会は午後9時前に終わった。 
text by HH

19人の発言 要旨=発言順

【弁護団報告】 小野寺信勝弁・弁護団事務局長
判決は、「植村さんが記事を捏造した」と櫻井氏が 書いたことを、名誉棄損に当たると判断した。しかし櫻井氏に免責される事情を認定し、請求は退けられた。「植村さんが記事を捏造した」と判断されたのではない。
金学順さんがどういう経緯で慰安婦になったか、裁判所は認定できないとした。その上で、櫻井氏がいろいろな記事や訴状を見て、継父によって慰安婦にさせられたと信じたのは、やむを得ないとした。また植村さんの妻が太平洋戦争犠牲者遺族会の幹部の娘という親族関係から、植村さんが公正な記事を書かないと信じてもやむを得ない、としている。
判決はさらに、植村さんが意図的に事実と異なる記事を書いたと、櫻井氏が信じたのもやむを得ないとした。だが一足飛びに「捏造したと信じた」というのは論理の飛躍だ。それに櫻井氏が、事実に基づいて物事を評価するのが職責のジャーナリストであることを考慮していない。
櫻井氏の本人尋問では、杜撰な取材ぶりが明らかになったが、これでは、不確かな事実であっても信じてしまえば名誉棄損は免責されてしまうことになる。櫻井氏の職責を無視した非常に不当な判決だ。
控訴審で争うことになるが、「事実の摘示か論評か」ではなく、「植村氏が捏造したと櫻井氏が信じたことはやむを得なかったかどうか」、その1点が争点になる。
一読するだけで判決には論理の飛躍があり、十分乗り越えられると思う。今日の判決は非常に残念だし不当な判決だが、控訴審で勝利判決を報告できるよう努力したい。ぜひご支援いただきたい。

【あいさつ】 上田文雄「植村裁判を支える市民の会」共同代表
北星事件と植村バッシングの当初から、私たちは民主主義社会における許し難い言説として、問題の真相を語り、闘う意味を伝え、多くの支援を得てきた。支援された方々に心から感謝します。だが判決は、市民の良識と正義感を打ち砕く、まったく不当な判決となった。
私は司法が、櫻井よしこ氏の杜撰な取材を叱り、ジャーナリズムに高い水準を強く求める判決が欲しかった。控訴審でも、この裁判が持つ意味をさらに多くの方々と共有していきたい」

【あいさつ】 植村隆さん
悪夢のようだった。典型的な不当判決だ。私は承服できない。高裁で逆転判決を目指すしかないと思っている。櫻井氏が自分に都合のいい理屈で私を捏造記者に仕立てようとしたが、本人尋問(3月23日)でその嘘がボロボロ出てきた。裁判でただ1人の証人、元北海道新聞記者の喜多義憲さんは、私が書いた数日後、金学順さんにインタビューした。当時の状況を証言し、櫻井氏らの植村攻撃を「言いがかり」と証言した。
新聞労連や日本ジャーナリスト会議は支援を組織決定した。ジャーナリストの世界では、植村は捏造記者ではない、櫻井氏がインチキしていることは知られているが、それが法廷では通用しない。私は言論の世界では勝っているが、この法廷では負けてしまった。
私が怒っているのは、櫻井氏らの言説によって、名乗らないネット民たちが娘の写真を流したり、大学に脅迫状を送るなど、脅迫行為が広がったことだ。こんなことを放置したら、家族がやられる。20年前、30年前の記事に難癖つけられたら、ジャーナリスト活動ができなくなる。
困難な戦いだったが、私は皆さんと出会えた。敗訴した集会でこんなふうに会場が満員になる。市民は我々の側にある。我々は絶対に負けない。ありがとうございました。

【リレートーク】

■こんな判決がまかり通る社会
安田浩一さん(ジャーナリスト=判決を傍聴席最前列で聞いた)
ふざけた判決だ。「これはダメ」と思いこめば、それがまかり通る。こんな判決を許してはいけない。だが裁判官だけの問題でも、被告だけの問題でもない。いま私たちはどういう社会の中で生きているのか、それを自覚して反撃しなければならない。植村さんの家族が脅迫を受けたが、私たち社会はこれを放置してきた。多くのジャーナリスト、メディア、書き手、安田純平が、取材をするだけで叩かれる。取材をしない人間が堂々と記事を書いて逃げ切る。そんな社会を許さないという強い覚悟が必要だ。

■妖怪をバックにしている櫻井
新西孝司さん(「負けるな!北星の会呼びかけ人=植村さんは「北海道の僕のおやじ。新西さんの書斎は僕の応接間代わりだった」と紹介した)
子どもがいない私は、喜んで一種の疑似親子を演じてきたが、今日から本当の親子になったし孫もできた。相手は安倍政権や右翼勢力という妖怪をバックにした櫻井よしこ。これからも一緒に闘いを広げていきましょう。

■若者同士の冷たい視線
姜明錫さん(早稲田大学大学院生=北星学園大の植村さんの教え子。判決の取材で来た韓国カトリック大学新聞部の学生記者4人の自己紹介を通訳した)
判決を知った時、これでネット右翼は櫻井勝利で炎上していくと思い、悲しくなった。東京で留学生活をしていると、若者同士でも冷たい視線を経験する。僕はこの後も長く日本に住むと思うが、安心して暮らせるかと不安になる。その意味でこの裁判は僕にとって大事な裁判です。植村先生を応援し、一緒に戦っていくつもりです。

■判断力失った日本社会 
北岡和義さん(支える会共同代表=判決を傍聴席で聞いた)
植村裁判は、日本で言論がいい加減なものになっていることを示している。社会全体が、正しいか正しくないかの議論が出来なくなってきた。植村裁判は時代が大きく変わろうとしているとき、自分たちがこれからどう歩んでいくかを分ける事件だ。私は癌の治療を続けている。生きるか死ぬかとなったら、病気もメディアも同じで、もうだめだと思ったら負ける。これだけの皆さんが集まっているのだ。必ず前進する。

■私たちは負けていない
水野孝昭さん(神田外語大教授=朝日新聞で植村さんと同期入社)
4年前の今ごろ、北星学園大学の彼のポストが危なかった。札幌のみなさんが立ち上がって、北星学園はポストを守り、学問の自由を守ってみせた。娘さんを脅したネトウヨの男は罰金刑をくらい、秦郁彦や櫻井よしこは訂正を次々に出した。植村さんの記事は捏造だなんて、もうだれも書けなくなった。私たちは負けていない。植村さんが戦い続ける限り、私たちはついて行く。

■民主主義を鍛える運動
原島正衛さん(北星学園大教授=植村さんの非常勤講師の職を守るために尽力した)
植村さんが韓国カトリック大学に移ることになった時は、韓国に追いやってしまったと、内心忸怩たるものがあった。植村さんの処遇をめぐって学内は2分し、植村さんの心の起伏が大きいのが気掛かりだったこともあった。この5年間で植村さんは成長した。彼を鍛えたのは皆さんだと思うが、櫻井氏かも知れない。この裁判は植村個人のための裁判ではない。絶対に負けてはならない裁判だ。私たちの運動は民主主義を鍛える運動だと強く思う。

■歴史を語り続ける責任
崔善愛さん(支える会共同代表=東京と札幌のたたかいを支え続けているピアニスト)
私は、外国人登録法の指紋押捺を拒否し、米国留学からの再入国不許可の取り消しを求める裁判を経験した。当時、この日本社会ではどんなに声をあげても伝わらないと思った。しかし裁判という機会を得て多くの人と出会い、成長することができた。今日の裁判でもし勝ったとしても、今の日本では一時的に変化しても根本的には変わらない状況にある。私たちは裁判に勝っても負けても、ずっと歴史を語らなければならない責任があると思う。

■ジャーナリストの仕事を否定
新崎盛吾さん(元新聞労連委員長=東京訴訟の支援を続ける共同通信記者)
判決は残念だ。しっかり取材し、裏を取り、正しい情報を世の中に送り出そうとする記事が、単なる伝聞で書いた記事に負けたからだ。櫻井氏がどのような取材をし、どう裏取りしたのか。それが違っていたことは法廷で見事に立証された。植村さんの記事はウソではなく、名誉棄損に当たることまで認めながらの判決だった。プロ意識を持って取材している記者、ジャーナリストの仕事を否定するものだ。

■市民と共にしっかりと
南彰さん(新聞労連委員長=9月に就任した、朝日新聞記者出身)
タブー化強制社会へ日本がどんどん進んでいる。正しい歴史認識を市民と共有しながら、しなやかな社会を目指す記者が出て来るのを妨げかねない判決だ。今後も市民といっしょに、しっかりと支援を続けていく。

■闘い方に問題はなかったか
植田英隆さん(グリーン九条の会=8月に市内の交差点に植村さんの著書『真実』の広告看板を出した)
この看板は勝訴の判決で差し替える予定だったが、東京訴訟の判決が出るまで続けるつもりだ。これまで9回くらい傍聴してきて、勝訴を信じていた。こちらの闘い方に問題はなかったのだろうか。

■我々こそ全員野球で
喜多義憲さん(元北海道新聞記者=札幌訴訟唯一の証人として2月に法廷に立った)
日本のジャーナリズムは腹をくくらなければならないと感じる。権力の側とジャーナリズム側の力は、メジャーリーグと高校野球ほどの差がある。われわれは会社の壁、活字と電波の境を超え、連帯してやっていかないと、とても相手に及ばない。今の内閣を安倍さんは全員野球内閣と言った。次々ぼろが出てきているが、全員野球は我々にこそ必要だ。そうでなければ、この問題だけでなく憲法、原発などの問題に間に合わない」
 
■超党派で運動を支えた
七尾寿子さん(「支える会」事務局長=支援市民グループをまとめ、先頭で率いてきた)
植村裁判を支える運動は超党派だった。毎回傍聴席を埋めて市民の注目度を裁判官に理解してもらおうと、多くの団体を回り、傍聴の抽選の列に並んでもらった。連合も道労連も一緒に並んでくれた。櫻井さんの言説がどう変化していったか、櫻井さんが書いている本90冊を買って読んだ。多くの市民が協力してくれた。市民、労働者の力でここまで来ることができた。金学順さんが慰安婦だったと名乗り出た時は67歳だった。私は今65歳です。がんばります。

■事実の探求は絶対条件
三上友衛さん(道労連議長=傍聴支援や集会参加をサポートしてきた)
権力におもねた、相当に権力を気遣った判決だ。民主主義の根幹は、少なくとも事実を探求したうえで議論し、決めていくのが絶対条件と考えている。そんなプロセスはどうでもいいと言われた気がする。根拠がなくても発言し、決着がつく前に執行してしまうことが労働現場でもある。私たちは事実を積み重ね、事実を突きつけて対抗していく。私たちは諦めるわけにはいかない。

■疑心暗鬼の目で権力監視を
岩上安身さんIWJ代表=植村さんのインタビュー番組をライブ中継するために札幌に来た)
判決は櫻井よしこをジャーナリストとみなしていないことになる。名誉棄損と認めながら植村敗訴となったのは忖度か政治の介入か。彼女は日本会議の看板広告塔だ。今は傷をつけず温存するという政治的意思が働いたのではないかと、非常にうがった見方をしている。日本会議は「憲法改正が発議されたら国民投票に行く」という草の根署名活動に全力で取り組んでいる。権力はあらゆる手だてを使う、三権分立なんて知ったことじゃないと。私たちは疑心暗鬼の目で権力を監視すべきだと思う。

■控訴審でがんばる
伊藤誠一弁護士(札幌訴訟弁護団共同代表) 
さきほど植田さんから、こういう判決を予測できなかったのかと発言があった。本当に申し訳ない。植村さんを敗訴させた「真実相当性」に、こちらはきちんと論陣を張った、やるだけのことをやったけど、こういう結果になったことを申し訳なく思う。札幌高裁の控訴審でがんばる。

■ただの通過点に過ぎない
神原元弁護士(東京訴訟弁護団事務局長) 
東京では慰安婦問題のデマの大元になっている西岡力と、週刊文春を発行している文藝春秋を訴えて、今月28日に最終弁論があり結審する。そこで判決日が示されるだろう。今日の判決は、本人が捏造だと思っているのだから捏造だ、と言っているだけだ。ただの通過点に過ぎない。
update:2018/11/18 10:00am


2018年11月15日木曜日

JCJが判決に抗議

日本ジャーナリスト会議(JCJ)が11月15日、判決に抗議する声明を発表しました。全文を掲載します。
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櫻井の「言いがかり」許す判決に抗議

札幌・植村裁判でJCJ声明

元朝日新聞記者の植村隆氏が櫻井よしこ氏(国家基本問題研究所理事長)と「週刊新潮」「週刊ダイヤモンド」「WiLL」を発行する出版3社に対し、名誉毀損を理由に慰謝料の支払いなどを求めた訴訟で、札幌地裁は11月9日、植村氏の請求を棄却する判決を下した。

植村氏が執筆した韓国人元慰安婦の証言記事(1991年)について、櫻井氏はずさんな「取材」で「捏造」と決めつけ、植村氏を攻撃した。確証もなく、事実の裏付けもない植村氏攻撃に対し判決は、記事を捏造と櫻井氏が「信じた」ことには相当の理由があると被告に甘い判断をし、櫻井氏を免責したのである。法廷の本人尋問で明らかとなった櫻井氏の事実確認を怠った、ずさんな「取材」には無批判だった。

日本ジャーナリスト会議(JCJ)は「言いがかり」や「難クセ」のような櫻井氏の攻撃を許し、記者の真面目な取材を冒涜する不当な判決に対し、断固として抗議する。

判決で見逃せない重大な問題は、韓国人の元慰安婦・金学順さんお証言について、あたかも義父によって日本軍に身売りされ、慰安婦になったかのような言説を示唆している点である。様々な証拠により①金さんは最終的に中国で、日本軍に力づくで慰安所に連れて行かれた②拒否したにもかかわらず将校にレイプされ、その後、日本兵相手に性行為を強要された――ことは明らかだ。この金さんの証言の核心部分を無視し、目をふさぐ判決になっている。

金さんが会見などで新聞記者に必死で訴えたのはこの部分である。判決はこの点に目を向けようとせず、櫻井氏が信じた「身売りされ慰安婦になった」言説を無批判に擁護している。証言への冒涜ともいえるだろう。

JCJは櫻井氏の一連の「捏造」攻撃がきっかけとなり、植村氏への脅迫が広がり、それも「娘を殺す」などの殺人予告につながっていった経緯を許すことはできない。判決はこうした脅迫行為のエスカレートに関しても、深刻に受け止める姿勢を見せていない。民主主義を守るべき裁判所、裁判官が自らの矜持を捨て去った判決であり、改めて抗議する。

2018年11月15日

日本ジャーナリスト会議(JCJ)
東京都千代田区神田神保町1-18-1

2018年11月10日土曜日

速報 札幌櫻井判決

 ドキュメント11.9札幌地裁  

闘いは再び始まった!

控訴審に向け あふれる判決批判、闘う決意

地裁前で「不当判決」アピール(11月9日午後3時50分)
地裁に向かう植村さんと弁護団(午後3時)


11月9日午後3時30分、札幌地裁。静まり返った805号法廷で判決言い渡しが始まった。
「裁判所は次の通り判決を言い渡します。主文1、原告の請求をいずれも棄却する、2、訴訟費用は原告の負担とする」。

岡山忠広裁判長の声は、これまでとは違って、暗く沈んでいるように聞こえた。表情は固く強張っていた。判決言い渡しはあっという間に終わった。岡山裁判長は「事案の内容に鑑みて、判決の要旨を若干読み上げます」と言って、判決要旨を読み始めた。櫻井氏の責任を否定した上で植村さんの請求をすべて棄却した理由が、早口で説明される。「信じたことには相当の理由がある」というフレーズが何度も何度も繰り返された。傍聴席には声もない。
「以上によれば、本件各櫻井論文の執筆及び掲載によって原告の社会的評価が低下したとしても、その違法性は阻却され、又は故意若しくは過失は否定されるというべきである。以上です」。

朗読は10分ほどで終わり、岡山裁判長と両陪席裁判官は足早に退廷した。法廷の重い空気がやっと破れ、驚きと怒りの声があちこちでもれた。「ひどい」「なんだこれは」「信じられない」。思わず古代ギリシャの哲学者ソクラテスの言葉が浮かんでくる。「四つが裁判官に必要なり。親切に聞き、抜け目なく答え、冷静に判断し、公平に裁判することなり」。この判決はどうなのか。植村さんの被害への具体的な言及はまったくない。原告の社会的評価が低下しても、と言いながら、故意過失は否定される、よって被告は免責される、とはあまりにも公平を失してはいないか。
閉廷から10分後、地裁前で弁護士5人が横に並び、真ん中の成田悠葵弁護士が「不当判決」と書いた白い幟を掲げた。初冬の夕暮れが迫る中、冷たい木枯らしが幟を小刻みに揺らしていた。「判決を受け取ったところです。詳しい中身についてはこの後、記者会見で報告させていただきます」。市民、支援者、通行人が静かに見守る中、憤怒のセレモニーは短時間で終わった。

弁護団は、裁判所から渡された判決文の分析を大急ぎで終え、記者会見に臨んだ。裁判所近くの会見場には、「植村裁判判決報告集会」の大きな横断幕だけが張られている。予定されていた「勝訴」の幟はない。新聞、テレビの記者のほか、支援の市民も集まり、100人近くで会場はいっぱいになった。
植村さんを中央にして、弁護団共同代表の伊藤誠一、秀嶋ゆかり、渡辺達生弁護士と小野寺信勝事務局長、東京弁護団の神原元事務局長、植村裁判を支える市民の会の上田文雄共同代表、七尾寿子事務局長が揃って着席した。午後4時50分、会見が始まった。

「内容は不当だ、名誉毀損は認めるが慰謝料を払うほどではない、ということか」「インターネット言説が飛び交って憎悪が増幅される時代のジャーナリストのあり方を問題にしたのに答えていない」。伊藤弁護士が、怒りを抑え、静かな口調で判決を批判した。小野寺弁護士が続いた。「杜撰な取材によって信じたことに免責を与えている。言論に責任を負うべきジャーナリストに対して、杜撰な取材でも免責する道をつくった罪深い判決、きわめて不当な判決だ」「この判決は控訴審で戦う、ひっくり返すことができると確信している」。

次に植村さんが立った。「悪夢のような判決でした。私は法廷で、悪夢なのではないか、これは本当の現実なんだろうかとずっと思っていました。今の心境は、言論戦で勝って、法廷で負けてしまった、ということです。櫻井氏は3月の本人尋問ではいくつもずさんな間違いを認めていった。あの法廷と今日の法廷がどうつながるんだろうか」「激しいバッシングを受けたとき、これは単に植村個人の問題ではないということで、様々なジャーナリストが立ち上がってくれました。いまも新聞労連、日本ジャーナリスト会議、リベラルなジャーナリストの組織も応援してくれています」「この裁判所の不当な判決を高等裁判所で打ち砕いて、私は捏造記者でないということを法廷の場でもきちんと証明していきたいと思っています」。

植村さんの後も、きびしい判決批判と控訴審に向けての決意表明が続いた。涙はなく、負け惜しみや弁解、悲観論もなかった。記者会見は午後5時35分に終了した。
この日、不屈の闘いは終わることなく、再び始まった。

<記者会見での全員の発言要旨と、記者会見のあとに開かれた報告集会の様子は、近日中に続報に掲載します>
記者会見で植村さんと伊藤誠一(向かって左)、小野寺信勝弁護士
記者会見を兼ねた報告集会





2018年11月9日金曜日

敗訴! 不当判決!

札幌地裁判決「櫻井は植村の社会的評価を低下させた、しかし、捏造と信じた理由も認める」岡山忠広裁判長

原告 植村隆
被告 櫻井よしこ、ワック、新潮社、ダイヤモンド社
主文 1原告の請求をいずれも棄却する
   2訴訟費用は原告の負担とする

<判決要旨は下段にあります>

これは、不当判決だ!

■弁護団声明
1 本日,札幌地方裁判所民事第5部(岡山忠広裁判長)は,元朝日新聞記者植村隆氏がジャーナリストの櫻井よしこ氏及び週刊新潮,週刊ダイヤモンド,WiLL発行の出版3社に対して,名誉毀損を理由として慰謝料の支払いなど名誉回復を求めた訴訟で,原告の請求を棄却する不当判決を言い渡した。

2 札幌地裁の判決は,「捏造」を事実の摘示であることを認め,櫻井氏はその表現により植村氏の名誉を毀損したことを認めた。しかしながら,櫻井氏は金学順氏が日本政府を訴えた訴状等の記載から,継父によって人身売買された女性であることを信じ,原告の妻が太平洋戦争犠牲者遺族会の幹部の娘であることから植村氏の本件記事の公正さに疑問を持って,原告が事実と異なる記事を敢えて執筆したこと,つまり「捏造」したと信じたことには理由があると判断した。
しかし,仮に櫻井氏が金学順氏が継父によって人身売買された女性であることなどを信じたとしても,そこから植村氏が敢えて事実と異なる事実を執筆したと信じたとの判断には論理の飛躍がある。

また,櫻井氏への本人尋問では,櫻井氏は取材の過程で植村氏に取材を行わず,訴状や論文の誤読など,取材の杜撰さが明らかになった。
本日の判決は櫻井氏がジャーナリストであることを無視して,櫻井氏の取材方法とそれによる誤解を免責するものである。

これを敷衍すれば,言論に責任を負うべきジャーナリストと一般読者とが同じ判断基準で判断することは,取材が杜撰であっても名誉毀損が免責されることになり,到底許されるものではない。

3 私たち弁護団は,本日の不当判決を受け入れることはできない。原告及び弁護団はこの不当判決に控訴をし,植村氏の名誉回復のために全力で闘う決意である。                    

2018年11月9日             植村訴訟札幌弁護団

■支える会声明 
市民の良識と正義感を打ち砕く
「まったく不当な判決だ!!」

植村隆氏が名誉回復を求めた今回の訴訟に対する、札幌地裁の判決は、櫻井氏がジャーナリストとして果たすべき取材活動の杜撰さを考慮しておらず、まったく不当である。

植村氏ばかりか私たち市民を深く深く失望させた。執拗な攻撃にひるまず声をあげた植村氏の勇気と、全力で応えた弁護団の周到かつ緻密な弁論、それらを見守り続けた市民の支援を理解しなかった裁判官諸氏は真実を誤ったばかりか、良識ある市民を裏切った。

植村氏に対するいわれのないバッシングが始まって5年、提訴から3年余が過ぎた。結審まで12回を数えた口頭弁論は傍聴の希望者が多く、わずか1回をのぞいて抽選となり、時には4倍近い倍率になった。市民の関心の大きさと深まりを、裁判官たちはどのように理解していたのだろうか。
植村氏支援を通じて市民が示したことは、二つに集約される。一つは市民の健全な良識だ。日本軍は戦時中、朝鮮などの女性たちを慰安婦にして繰り返し凌辱する、非人道的な行為を行った。この歴史的事実を直視し、日本がまずなすべきことは被害者に届く謝罪ではないか、という人間としての良識に立つ正義感である。歴史的事実をゆがめようとする櫻井よしこ氏らの歴史修正主義が、実際は誤った事実認識にもとづくものであることを市民は明確に認識し、「ノー」をつきつけていたのだ。歴史教科書から慰安婦記述を除外し、「あるものをなかったこと」にしようとする昨今の流れに対する憤りが渦巻いていた。

いま一つは、民主主義への希求である。正確な事実の報道と、それに基づいた人々の健全な判断があってこそ民主主義はよりよく機能する。事実を伝えてきた報道を、櫻井氏のように確たる裏付けもなく「捏造」呼ばわりし、記者を社会から葬ろうとする動きを、市民は“論評”に名を借りた無法と捉えた。それは森友・加計問題を「嘘とごまかし」で乗り切ろうとする安倍政権に対する市民の危機感とも通じるものがある。

こうした植村訴訟支援に込めた市民の正当な願いを、札幌地裁の裁判官は認識できなかったというわけだ。今回の判決は、植村氏が求めた名誉回復の希望を打ち砕いたばかりでない。家族の生命の安全をも脅かすネット世界の無法者たちを認めたことになる。日本軍の慰安婦にされた被害者をあらためて冒涜してしまった。民主主義における正当な報道のあり方をも著しくゆがめかねないと危惧する。

あらためて今回の不当判決を満腔の怒りを込めて糾弾する。そして、来る控訴審では、市民の良識に立つ正義の旗のもとに、植村氏、弁護団とともにこれまで以上の力を結集して闘うことを誓う。


2018119日 植村裁判を支える市民の会
                            
共同代表    
上田文雄(前札幌市長、弁護士)     
小野有五(北海道大学名誉教授)     
神沼公三郎(北海道大学名誉教授)     
香山リカ(精神科医、立教大学教授)
北岡和義(ジャーナリスト)      
崔善愛(ピアニスト)          
結城洋一郎(小樽商科大学名誉教授)  


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判決要旨

事案の概要

被告櫻井は,被告ワック社が発行する雑誌「WiLL」,被告新潮社が発行する「週刊新潮」,被告ダイヤモンド社が発行する「週刊ダイヤモンド」に,原告が朝  日新聞社の記者として「従軍慰安婦」に関する記事を執筆して平成 3  8  1 1 日の朝日新聞に掲載した記事(「思い出すと今も涙韓国の団体聞き取り」というタイトルの記事。以下「本件記事」という。)について「捏造である」などと記載する論文(以下「本件各櫻井論文」という。)を掲載するとともに,自らが開設するウェブサイトに上記各論文のうち複数の論文を転載して掲載している。

本件は,原告が,本件各櫻井論文が原告の社会的評価を低下させ,原告の名誉感情や人格的利益を侵害するものであると主張して,被告櫻井に対してウェブサイトに転載して掲載している論文の削除を求めたほか,被告らに対して謝罪広告の掲載や慰謝料等(各被告ごとに550万円)の支払を求めた事案である。

当裁判所の判断

1社会的評価を低下させる事実の摘示,意見ないし論評の表明

本件各櫻井論文を,一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従っ て判断すれば  本件各櫻井論 文のうちワッ ク社の出版する「 W i L L 」に掲載されたものには,①原告が,金学順氏が継父によって人身売買され,慰安婦にさせられたという経緯を知りながらこれを報じず,②慰安婦とは何の関係もない女子挺身隊とを結びつけ,金学順氏が「女子挺身隊」の名で日本軍によって 戦場に強制連行され,日本軍人相手に売春行為を強いられた「朝鮮人従軍慰安婦」であるとする,③事実と異なる本件記事を敢えて執筆したという事実が摘示されており,被告新潮社の出版する「週刊新潮」及びダイヤモンド社が出版する「週刊ダイヤモンド」に掲載されたものにも,これと類似する事実の摘示があると認められるものがある。そして,このような事実の摘示をはじめとして,本件各櫻井論文には,原告の社会的評価を低下させる事実の摘示や意見ないし論評がある。

2判断枠組

事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,上記行為には違法性がなく,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される。また,ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠くものというべきであり,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される。

3摘示事実及び意見ないし論評の前提事実の真実性又は真実相当性

(1)金学順氏が挺対協の事務所で当時語ったとされる録音テープや原告の取材内容が全て廃棄されていることから,金学順氏が慰安婦にさせられるまでの経緯に関して挺対協でどのように語っていたのかは明らかでない。また,金学順氏が共同記者会見に応じた際に述べたことを報じた韓国の報道のなかには,養父又は義父が関与し,営利を目的として金学順氏を慰安婦にしたことを示唆するものがあるが,慰安婦とされる経緯に関する金学順氏の供述内容には変遷があることからすると 上記 1 ①の事実のうち金学順氏が慰安婦とされるに至った経緯に関する部分が真実であるとは認めることは困難である。しかし,本件記事には「だまされて慰安婦にされた」との部分があることや,被告櫻井が取材の過程で目にした資料(金学順氏が平成3814日に共同記者会見に応じた際の韓国の新聞報道,後に金学順氏を含めた団体が日本国政府を相手に訴えた際の訴状,金学順氏を取材した内容をまとめた臼杵氏執筆の論文)の記載などを踏まえて;被告櫻井は,金学順氏が継父によって人身売買された女性であると信じたものと認められる。これらの資料は,金学順氏の共同記者会見を報じるもの,訴訟代理人弁護士によって聴き取られたもの,金学順氏と面談した結果を論文にしたものであるところ,金学順氏が慰安婦であったとして名乗り出た直後に自身の体験を率直に述べたと考えられる共同記者会見の内容を報じるハンギョレ新聞以外の報道にも,養父又は義父が関与し,営利目的で金学順氏を慰安婦にしたことを示唆するものがあることからすると,一定の信用を置くことができるものと認められるから,被告櫻井が上記のように信じたことには相当の理由があるということができる。また,これらの資料から,被告櫻井が,金学順氏が挺対協の聞き取りにおける録音で「検番の継父」にだまされて慰安婦にさせられたと語っており,原告がその録音を聞いて金学順氏が慰安婦にさせられた経緯を知りながら,本件記事においては金学順氏をだました主体や「継父」によって慰安婦にさせられるまでの経緯を記載せず,この事実を報じなかったと信じたことについて相当な理由があるといえる。

また,上記1②の事実については,本件記事のリード文に「日中戦争や第二次大戦の際,「女子挺(てい)身隊」の名で戦場に連行され,日本軍人相手に売春行為を強いられた「朝鮮人従軍慰安婦」のうち,一人がソウル市内で生存していることがわかり(以下略)」との記載があるが,原告本人の供述によれば,金学順氏は,本件記事の取材源たる金学順氏の供述が録音されたテープの中で,自身が女子挺身隊の名で戦場に連行されたと述べていなかったと認められる。このことに加えて,本件記事が掲載された朝日新聞が,本件記事が執筆されるまでの間に,朝鮮人女性を狩り出し,女子挺身隊の名で戦場に送り出すことに関与したとする者の供述を繰り返し掲載し,本件記事が報じられた当時の他の報道機関も,女子挺身隊の名の下に朝鮮人女性たちが,多数,強制的に戦場に送り込まれ,慰安婦とされたとの報道をしていたという事情を踏まえると,これらの報道に接していた被告櫻井が,本件記事のリード部分にある

「「女子挺(てい)身隊」の名で戦場に連行され」との部分について,金学順氏が第二次世界大戦下における女子挺身隊勤労令で規定された「女子挺身隊」として強制的に動員され慰安婦とされた女性であることが記載されていると理解しても,そのことは,一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈しても不自然なものではないし,女子挺身勤労令で規定するところの女子挺身隊と慰安婦は異なるものであることからすると,被告櫻井において本件記事が上記1 ②のような内容を報じるものであったと信じたことには相当の理由があるといえる。

そして,被告櫻井が,上記1①及び上記1②の事実があると信じたことについて相当の理由があることに加えて,原告の妻が,平成3年に日本政府を相手どって訴訟を起こした団体の常任理事を務めていた者の娘であり,金学順氏も本件記事が掲載された数か月後に同団体に加入し,その後上記訴訟に参加しているという事実を踏まえて,被告櫻井が,本件記事の公正さに疑問を持ち,金学順氏が「女子挺身隊」の名で連行されたのではなく検番の継父にだまされて慰安婦になったのに,原告が女子挺身勤労令で規定するところの「女子挺身隊」を結びつけて日本軍があたかも金学順氏を戦場に強制的に連行したとの事実と異なる本件記事を執筆した上記 1 ③の事実と信・じたとしても  そのことについては相当な理由がある。

(2)その他,本件各櫻井論文に摘示されている事実又は意見ないし論評の前提とされている事実のうち重要な部分については,いずれも真実であるか,被告櫻井において真実であると信ずるについて相当の理由があると認められ,意見ないし論評部分も,原告に対する人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評の域を逸脱 したものとは認め難い。

4公共性,公益目的性

本件各櫻井論文の内容及びこれらの論文を記載し掲載された時期に鑑みれば,本件各櫻井論文主題は,慰安婦問題に関する朝日新聞の報道姿勢やこれに関する本件記事を執筆した原告を批判する点にあったと認められ,また,慰安婦問題が日韓関係の問題にとどまらず,国連やアメリカ議会等でも取り上げられるような国際的な問題となっていることに鑑みれば,本件各櫻井論文の記述は,公共の利害に関わるものであり,その執筆目的にも公益性が認められる。

5結論

以上によれば,本件各櫻井論文の執筆及び掲載によって原告の社会的評価が低下したとしても,その違法性は阻却され,又は故意若しくは過失は否定されると  いうべきである。