慰安婦問題をめぐる名誉棄損で吉見義明・中央大学教授が元衆院議員・桜内文城氏を訴えていた訴訟の控訴審判決言い渡しが12月15日午後3時から東京高裁101号法廷であり、吉見氏の控訴は棄却されました。
不当判決に抗議する支援者ら(12月15日、東京高裁前で) |
■吉見義明氏名誉毀損事件の東京高裁判決に対する弁護団声明
1 本日、東京高等裁判所第19民事部は、桜内文城前国会議員(旧日本維新の会)の吉見義明中央大学教授に対する名誉毀損事件について、吉見氏の控訴を棄却するという不当な判決を下した。
2 この事件は、橋下徹大阪市長(当時)が、2013年5月27日、「慰安婦」問題に関して日本外国特派員協会で講演した際に、同席していた桜内氏が、「ヒストリーブックスということで吉見さんという方の本を引用されておりましたけれども、これは既にねつ造であるということが、いろんな証拠によって明らかとされております。」と述べたこと(以下「本件発言」という。)が、吉見氏の名誉を毀損したという事件である。
3 本判決は、本件発言中後段の「これは」の意味について、控訴人が主張するように「吉見さんという方の本」と理解することも考えられるが,被控訴人が主張するように日本軍が女性を強制的に性奴隷としたとの事実又は慰安婦について強制性があったとの事実を意味するものと理解することも十分に考えられるとした上、そもそも曖昧な言い回しであることから、何を意味するかが分からない者も少なくないと述べ上で、控訴を棄却した。
4 しかし、一般人の通常の理解を前提とした場合、本件発言は「吉見さんという方の本」であるということは明瞭である。しかも,本判決は様々な理解が可能であるとする根拠 についてひとことも述べていない。控訴人は、「これは」について「吉見さんという方の本」を指すことを示す証拠をいくつも提出しているのに対し、被控訴人が主張する事実を認定する証拠は全く出されていない。
また、仮に本判決が述べるとおり、「これは」についていくつかの理解が可能であるとしても、少なくとも控訴人が主張している理解も考えられるとしている以上,その点において名誉毀損が認められてしかるべきである。
さらに、地裁判決は社会的評価の低下を認めているのに対し、本判決はそれすら認めておらずさらに後退しているのであり、断じて容認することはできない。
さらに、地裁判決は社会的評価の低下を認めているのに対し、本判決はそれすら認めておらずさらに後退しているのであり、断じて容認することはできない。
歴史研究者にとり研究成果がねつ造とされることは、研究者生命を抹殺させるに等しい最大限の侮辱であり、社会的評価の毀損であることは容易に理解できるものであり、この点からも本件判決の不当性は明らかである。
5 私たちは、不当な本件判決に強く抗議するとともに、速やかに上告し、吉見氏の名誉回復のために最後まで戦う決意を表明するものである。
2016年12月15日
吉見義明氏名誉毀損訴訟弁護団
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■「初歩的な言葉の理解ができない高裁判決!」 吉見義明氏と弁護団が記者会見
吉見義明氏の弁護団は同日午後5時から司法クラブで記者会見を開いた。出席者は、吉見義明・中央大教授のほか、吉田裕・一橋大教授、大森典子弁護士、穂積剛弁護士、川上詩朗弁護士。以下は主な発言。
【川上】控訴棄却という不当判決が出た。断固抗議したい。弁護団声明は、短い時間で検討したので暫定版ということで。「これは」が何をさすかが争点になっていた。「さまざまな理解が可能だ」ということで、控訴人が主張しているような内容と認定することは難しいという入り口論で切り捨てられた。その後につづく捏造、名誉毀損、事実摘示か評価かといったところに入る前で判断された。
【大森】被控訴人が記者会見されたと聞いている。詳細に申し上げたいが、ほんとにシンプルに、もう一度被控訴人の当該発言をよくごらんいただきたい。彼は次のように言っている。「彼はsex
slavaryといっている。そのような言葉を使うのはアンフェア。それからヒストリーブックスということで吉見さんの本を引用されたが、これはすでに捏造ということが明らか」というセンテンス。
日本語を使っている者から、吉見さんの本は捏造だと明らかというふうにここで「これは」と接続詞、代名詞を使えば直前のものをさすのは明々白々。被控訴人は「sex
slavery」と言い、言葉足らずだったと言っている。すなおに読めば吉見さんの本は捏造だと明らかにされているとしか理解できない発言だと思います。
それに対して、一審判決は敗訴しましたが、「本件発言の後段部分で、原告の名前をあげて『これ』と言ったことから、性奴隷説とは認められない」と判断している。それを認定したので、捏造という言葉が単に誤りというところで被告を勝たせた。
そういう判決も被告勝訴の結論から無理な論述を重ねたが、その判決でさえ、この「これは」は吉見さんの本としか理解出来ないと認定した。
それについて今回の控訴審判決は、吉見さんの本と理解する人もいるかもしれないが、sex
slaveryと理解する人もいるかもしれない、あいまいだと認定している。通常の日本語の理解ができない人の判断だ。吉見さんの本としかいえないところをどうやって被控訴人を勝たせるかということで、吉見さんの本と述べたとはいえないとして、名誉毀損にあたらないと。そういうところで結論をだした判決と読める。
まさかこんなところでこんな論述をされるとは。ほんとうにびっくりしました。わたしどもとしては、理解の限界をこえるので、上告しますし、これまでの判決の積み重ねからはこのような判決を理解するとは思えない。
【吉見】研究者にとって捏造、改竄、盗用は研究者にとってやってはいけない。そのことを認めない高裁判決に深い憤りを覚えます。名誉毀損判決を広く容認することになると憂慮している。ごくごく初歩的な言葉の理解が、高裁で理解できないというのは、ほんとうにそれこそ理解できない。
歴史修正主義者による歴史の歪曲が起こっている。そのような歪曲に対しては今後もたたかっていきたい。
【穂積】短時間で検討した結果、弁護団声明に記載したが、内容について触れたい。発言自体は短いもので、原判決の添付によって、橋下市長を紹介するコメントのなかでsex
slaveryと言うことば、「これは」、アンフェアである。
そして二つ目の「これは」。これだけの内容です。二つ目の「これは」が何をさすのかと。小学校のテストだって間違えません。小学生ですら間違えない文脈の読み間違えをこの裁判所はやっていると判断せざるをえない。
弁護士として絶望的な気分にならざるをえません。知性の頽廃が裁判所まで毒されているのかと恐怖を覚えざるをえない。
われわれは、二つ目の「これは」が吉見先生の本をさすとみなが認識しているという証拠を出した。
記者会見の内容を速報した朝日新聞デジタルは、「桜内文城衆院議員は、橋下市長を紹介するコメントの中で、ヒストリーブックスということで、吉見氏の本を紹介したが、すでに捏造である」と書いている。だれが読んだって吉見先生の本ですね。
ブロゴスというサイトも速報していました。編集部注として要約した文章で、「同席の議員からsex
slaveryという単語はアンフェア。吉見義明という人については捏造だ」と書いている。当たり前です。小学生ですらわかる。証拠に出しています。なんでいっさい無視されているのか。
ニコニコ動画で記者会見が生中継されていた。動画にコメントが次々と流れていく。こういう人たちがどうコメントしたか。「吉見 捏造本 捏造だ 岩波書店の本を堂々と捏造と」と流れている。当たり前ですよ。小学生ですらわかること。
だれもみんな捏造の対象は吉見義明先生の本だと。
これに対して被告側のほうからは「sex
slavary」だという証拠が出ていない。どうして裁判所は正反対の結論を出すのか。これは裁判所の知性の後退が進んでいるのは恐怖だ。裁判所に知性はない。みなさんの権利が侵害されるかもしれない。判断されるかもしれない。極めて恐ろしいと思わざるをえません。
当然上告して争います。このような反知性主義が最高裁まで毒されていないことを願いますし、国家としての危機といっても過言ではない。
【吉田】思いもよらぬ判決でびっくりしています。予想もしていなかった。「これは」は何をさすかと聞かれたら吉見さんの本をさす、というのは当然だ。
捏造と認定されることは処罰の対象。センシティブな内容を精査もなしに捏造と決めつけること自体ヘイトスピーチ。研究者自体、こういう問題をとりあげるのに萎縮したり自主規制したりすると強く危惧する。不当な判決だ。
【大森】わたしどもはこの裁判は、吉見先生の本を捏造だと名誉毀損発言をしたという発言者に対して、言論の自由の埒外でペナルティーをはらうべきだというところに主眼がある。捏造だという発言が今日あちこちで簡単に出されている。そいういう根拠内発言は許されないというのが訴訟の主眼です。被控訴人が捏造だ、捏造だといい、控訴審の法廷でも、吉見さんは捏造をして世界に振りまいて日本人の名誉を傷つけていると根拠なしにふりまいている。こういう言論は許されないということを示していただきたいというのが目的です。そこのところははっきりさせていただきたい。
裁判所が理解できないからというよりは、むしろ政治的にこの種の事案について、裁判所は当然ほかの場面なら判断しただろう枠組みの適用をしないで、無理な論述をしてでも発言した側を救おうという政治的配慮が働いている。そういう危険性を感じるというように思います。