■ 弁護団事務局長・小野寺信勝弁護士の報告
名誉毀損とは、人が社会から受けている評価を低下させることをいう。裁判では2つの段階がある。まず、その表現が名誉毀損に当たるかどうか。次の段階は、名誉を毀損するけれど免責される事情があるかどうかが判断される。免責する事情がなければ不法行為が成立し、損害賠償などが発生する。
まず第1段階。名誉棄損と判断されるためには社会的評価を低下させた(侮辱では足りない)ことが必要となる。名誉を棄損する表現が真実であっても、社会的評価を低下させれば名誉棄損にあたる。
(「植村隆氏は慰安婦と女子挺身隊を結びつけた」とする櫻井よしこ氏のコラムを例に)被告らは問題の記事を捏造記事だとし、植村さんが真実を報道する新聞記者の職業倫理に反する人物であるとの印象を読者に与え、社会から受けている評価を低下させている。この第1段階は、こちらの主張が通っていると思って良い。
現在の中心的な争点は、櫻井氏側の名誉毀損の表現が免責されるかどうかだ。
被告らはこれまで、櫻井コラムなどでの表現は「『事実を摘示』したものではなく、すべて『意見』ないし『論評』である」と主張してきた。私たちは、櫻井氏の表現はすべて「事実の摘示」だと主張している。
例えば「記事を捏造した」という表現が「事実の摘示」なら、捏造が真実であること(または真実と信じてもやむを得ないこと)を被告側は証明しなければならない。「論評」であれば、少なくとも重要な点だけは真実だと証明できればよく、免責のハードルは低い。「事実の摘示」か「論評」かは第2段階の論点だ。
今回出された書面で被告らは、月刊誌WILLのコラム3カ所、週刊新潮のコラム2カ所を「事実の摘示」と認めた。表現を細切れに分断しているのは不当であり、被告らの基本的な主張は「論評」だが、被告らは少なくとも「事実の摘示」と認めた表現について真実性を立証しなければならなくなった。
次回(12月16日)までに私たちは被告らの主張に反論する。それ以降に、植村さんと家族・北星学園大学への被害を主張。「事実摘示」か「論評」かの争点のやりとりを終え、次のステップ(真実又は真実相当性、被害の主張・立証)に進むことになる。
text by K.T
text by K.T
■植村隆さんの韓国報告
今日は、私が韓国でいまどんなことをやっているかということと、8月に判決が出た娘の訴訟について話したい。
手記『真実 私は「捏造記者」ではない』(岩波書店)の韓国語版が9月末に韓国の出版社プルンヨクサから出版された。それを記念して行われた記者会見にはほとんどの新聞がきて大きく報じられ、ケーブルテレビなどでも紹介された。実は中央日報がこなかったが、なぜか確認すると「日にちを間違えた」ということで、私に悪意があるわけではなかった。うれしかったのは、ジャーナリストを目指す学生たちをはじめ、若い世代が興味をもってくれ、交流が増えたことだ。大学から講演に呼ばれ、地方の大学の学生が私の研究室にインタビューにきて、英文の記事にしてくれた。
ここで、私が韓国とかかわるようになった原点を振り返りたい。まず、1981年のことだ。学生時代、ずっと金大中氏に共鳴し、東京で釈放運動をしていた。金氏は厳しい状況の中でも「行動する良心」を実践しており、私が延世大学に留学しているときに政治的に自由になった。1997年12月、金氏が大統領になったときにソウル特派員だった私は、一面トップで紹介することができた。
もうひとつの原点として、詩人の尹東柱(ユン・ドンジュ、1917〜45)がいる。戦時下に日本の大学で学んでいて治安維持法違反で有罪判決を受け、1945年に福岡刑務所で獄死した。彼の遺稿詩集「空と風と星と詩」が1984年11月に出版され、私の愛読書になった。その中の代表作「序詩」の一節が刻まれた詩碑が延世大学にある。韓国カトリック大学の授業では彼の詩を読み、学生と詩碑を訪ねもした。来年は生誕100年なので、再びクローズアップされるだろう。
いま、韓国では被害者の声を聞かずにすすめられた慰安婦問題の日韓合意について、再交渉すべきだと答える人や少女像の移転に反対の人が増え、時間がたつほど世論の批判が強まっている。日韓合意はお金を出して終わりではなく、始まりにすべきではないか。
日本では先日、「wam 女たちの戦争と平和資料館」に爆破予告のハガキが届いたことが報じられた。同館は戦時性暴力の根絶を目指し、慰安婦問題に焦点をあてた展示をしている。だが、朝日新聞の見出しは「戦争資料館に爆破予告」で、萎縮しているのではないかと思う。北海道新聞は「慰安婦」という言葉を出しているが、どちらもベタ扱い。韓国はどうか。ハンギョレ新聞は現場資料館に行き、「屈しない」という同館の姿勢も入れて大きく報じている。
最後に、娘のことも報告したい。17歳の高校生だった娘が2014年、写真と名前をツイッター上にさらされ、「反日韓国人の母親、反日捏造工作員の父親に育てられた超反日サラブレッド」などと中傷の書き込みをされた問題で、このツイッターを書き込んだ投稿者本人を相手取った訴訟で8月3日、被告に170万円の損害賠償金の支払いを命ずる「全面勝訴」の判決が言い渡された。被告側は期日までに控訴せず、判決が確定した。
娘は元気です。彼女の闘いから教えられることが多かった。途中、裁判所は、『被告に謝らせるので」と和解を勧めてきたが、娘に相談したところ、高校を卒業した出た直後だった娘は、「和解じゃなくていい。判決を求めてほしい。私に起きたことは他の人にも起きる。こうした攻撃にさらされる人がない社会になってほしい。判例にして、私以外の人が攻撃されないようにしてほしい」と言った。
成長したのは私ではなく娘。私はそんな娘の姿勢に支えられ、教えられた。
私は、河野談話を継承、発展させようとずっと思っている。慰安婦問題は「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題」として、元慰安婦への「心からのおわびと反省」を表明した。そして、歴史研究、歴史教育を重ねて、同じ過ちを繰り返さないようにという方向性も掲げた。僕もジャーナリストとして、大学で教える者として、歴史教育に力を尽くし、これからも闘っていきたい。
text by Y.A