植村裁判終結報告会(4月10日、札幌)で植村隆氏が発表したメッセージ(全文)を収録
皆様と闘えたことの喜び
2020年11月18日付けの最高裁での上告棄却決定で、櫻井よしこ氏らを名誉毀損で訴えた札幌訴訟での私の敗訴が確定しました。翌日午後に札幌司法記者会で開かれた記者会見に、当時ソウルにいた私はLINE参加し、こういう声明を出しました。「櫻井氏の記事は間違っていると訂正させ、元慰安婦に一人も取材していないことも確認でき、裁判内容では勝ったと思います」。不当判決を確定させた最高裁決定には、非常に悔しい思いをしています。<取材もせずに「捏造」と断定することが自由になる>恐ろしい判例となるかもしれません。最高裁は、歴史に汚点を残したと思います。その後、2021年3月11日付の最高裁決定で、西岡力氏らを訴えた東京訴訟での私の敗訴が確定しました。汚点の繰り返しです。これで、「慰安婦」問題を否定する「アベ友」らを相手にした6年間の裁判が終わりました。
両方の裁判の過程で、櫻井氏や西岡氏がフェイク情報に基づいて、私を非難していたことが確認されました。札幌、東京の両弁護団の皆様のお力のおかげです。また裁判を支えてくださる市民の皆さんの助力の賜物です。判決は極めて不当なものでしたが、裁判の過程で、暴き出した被告らの不正義こそが、私たちの裁判の「勝利」の証拠だと思います。
この「勝利」の自信が、これからの言論人としての私の大きなエネルギーになります。この「勝利」に導いてくださった札幌、東京の弁護団の皆様一人一人に感謝をしております。ありがとうございました。皆様の真摯で懸命なご尽力は、一生忘れません。正義のために闘ってくださっている皆様の姿は、私の目と心に刻み込まれました。皆様と一緒に裁判を闘えたのは、私にとって大いなる喜びでした。この闘いの記憶は、私のこれからの歩みを支えてくれる大きな財産になると思います。何度感謝しても、感謝しきれない思いです。
札幌訴訟での私の敗訴確定の後、驚くべきことがありました。敗訴が確定したと言うことは、裁判に負けたということですが、これは私の記事が「捏造」と認定されたわけではありません。ところが、前首相の安倍晋三氏が2020年11月20日、自身のフェイスブックに私の敗訴を報じた産経新聞の記事を引用して投稿し、翌21日には「植村記者と朝日新聞の捏造が事実として確定したという事ですね」と投稿しました。「アベ友」勝訴の興奮したのでしょうか。これは明らかに間違いでした。早速、小野寺信勝先生と神原元先生のお二人の代理人を通じて、安倍氏側に削除を求める内容証明郵便を送りました。しばらくして、大きな進展がありました。敗訴を報じた産経新聞の記事の引用はそのままでしたが、捏造確定とした投稿を削除したのです。私は同年12月4日、「削除したことは、それが間違っていたことに気づいたからだと思います。これで、私の記事が『捏造』でないことが改めて確認されました」とする声明を発表しました。安倍氏は、こっそり取り消しただけで、何の謝罪もありません。非常に不愉快な出来事ですが、これは歴史修正(歪曲)主義者に対する、新たな闘いの機会と言えると思います。私の支援者の一人がこんなメールをくれました。「最高裁控訴棄却の意味について、改めて、広くわかりやすく伝えるチャンスになることを期待しています」。その通りだと思います。
裁判闘争の間に大きな二つの出来事がありました。一つは、韓国のカトリック大学に招かれ、2016年3月から招聘教授の職を得たことです。5年間、勤めました。講義をしながら、韓国内での言論活動も続けました。2019年12月には、韓国で最も尊敬されているジャーナリスト・李泳禧(リ・ヨンヒ)先生の名を冠した「李泳禧賞」を受賞するなどの栄誉を受けました。もう一つの大きな出来事は、2018年9月末に日本のリベラルな雑誌「週刊金曜日」の発行人兼社長になったことです。激しい「植村バッシング」に関わらず、同誌が招いてくれたのです。こうしたことは、私が「捏造」記者でないということが、歴史的に証明されつつあるということだと思います。これも皆様と共に闘った裁判闘争の成果だと思います。
そして、私は2018年秋からは、格安航空便(LCC)で日韓を往来しながら、教員と言論人の仕事を兼職しました。しかし、2020年春からの新型コロナ危機で、日韓の往来が非常に難しくなり、2021年2月末で、大学の教員をやめました。もともと一年ごとの契約でしたが、好評で毎年、契約がされてきました。後ろ髪を引かれる思いでしたが、コロナ危機下では両立が難しいと判断したのです。
2020年9月末から、「週刊金曜日」の発行人兼社長の二期目に入りました。「週刊金曜日」は、大メディアがどこも、「北星バッシング」「植村バッシング」を報じない中、最初に詳しく報じてくれた雑誌です。いまでも各地で、「北星バッシング」「植村バッシング」と似たような人権侵害などが起きています。「週刊金曜日」は、そうしたことを果敢に報じ、被害に遭っている人々の側に立ちたいと思います。日本に言論の自由や民主主義を根付かせることが、私のすべき仕事だと思うのです。
また朗報がもう一つあります。「植村バッシング」をテーマにしたドキュメンタリー映画『標的』(西嶋真司監督)がこのほど完成し、東京の外国特派員協会、日本記者クラブで相次いで完成記者会見が開かれました。4月10日には札幌で上映会と植村裁判報告会が開かれます。映画チラシでは、こう書いています。「なぜ記事は『捏造』とされたのか?不都合な歴史を消し去ろうとする、日本社会の真相に迫ります」。この中には、札幌訴訟を支えてくださった弁護士の皆様も登場します。この映画を日本中、世界中で上映して、歪んだ判決を告発し続けていきたいと思います。
6年前に比べ、私の世界は大きく広がりました。そして、パワーアップした自分を実感しています。やるべき仕事もたくさんあることに気づきました。大勢の仲間ができました。「試練」はたくさんの「出会い」を与えてくれたのです。その土台に弁護団の皆様や市民の皆様と共に裁判を闘った日々があると思います。ありがとうございました。これからも闘い続けます。
2021年3月30日、記
植村訴訟原告・植村隆
(元朝日新聞記者、元韓国カトリック大学招聘教授、週刊金曜日発行人兼社長)