2020年11月25日水曜日

前首相が流したデマ




安倍晋三氏のフェイスブック投稿はフェイクだ!

植村氏、「内容証明」で削除を要求

ご 通 知

安倍晋三殿

冠省

当職らは、植村隆氏(以下、「通知人」といいます)の代理人として、ご連絡します。

貴殿は、2020年11月20日午前10時8分、ソーシャルネットワーキングサービスである「フェイスブック」に11月19日付の産経新聞記事「元朝日新聞記者の敗訴確定 最高裁、慰安婦記事巡り」と題する記事(以下、「本件記事」といいます)を引用して投稿し、さらに、翌21日午前2時4分、コメント欄に「植村記者と朝日新聞の捏造が事実として確定したという事ですね」と投稿しました(以下「本件投稿」といいます)。

本件記事とあわせて読めば、本件投稿は、通知人が捏造記事を書いた(意図的に事実をねじ曲げて記事を書いた)と認定した判決が、同月18日付けの最高裁決定で確定したとの事実を摘示したものです。かかる投稿は、通知人が捏造記事を書いたことは間違いないとの印象を与え、通知人の社会的評価を低下させるものであります。

よって、本件投稿は名誉毀損として民法上不法行為と評価されるものです。

なお、本件記事を前提としても、本件記事には「1審札幌地裁は30年の判決で『櫻井氏が、記事の公正さに疑問を持ち、植村氏があえて事実と異なる記事を執筆したと信じたのには相当な理由がある』として請求を棄却。今年2月の2審札幌高裁判決も支持した」とあるだけですから、通知人が捏造記事を書いたと認定した判決が18日付けの最高裁決定で確定した事実はないし、貴殿がそのように信じたとしても、信じたことに相当性が認められる余地がないことは明らかだというほかありません。

そして、貴殿が前首相という立場にあり、フェイスブックのフォロワーは60万4810人に及んでいることから、本件投稿の社会的影響は大きく、現に最初の投稿に7431人、本件投稿には728人が「いいね」ボタンを押していることからすれば(23日午前11時現在)、本件投稿が通知人の社会的評価に与える影響は甚大であり、到底看過できません。

よって、通知人は、貴殿に対し、本状到達後1週間以内に、本件投稿を削除するよう、強く求めます。誠意ある対応をお執り頂けない場合には法的措置を執らせて頂くことを申し添えます。

なお、本件についてのご連絡はすべて当職を通して頂ければ幸いです。

不一

2020年11月24日 

***************【解説】*****************

札幌訴訟の上告についての最高裁決定(11月18日)は、「原判決を破棄せよ」との植村氏の請求を棄却したが、「植村氏が捏造記事を書いた」と認定したものではない。植村氏の敗訴が確定したことは確かだが、それは、ひとことでいえば、植村氏の損害賠償請求を退けた札幌地裁、同高裁判決が確定したことを意味するにすぎない。

ところが、前首相の安倍晋三氏は21日未明、フェイスブックに「植村記者と朝日新聞の捏造が事実として確定したという事ですね」とのコメントを書き込んだ(写真上)。しかし、(繰り返して言うが、)札幌地裁、同高裁判決と最高裁決定はいずれも「植村氏が捏造記事を書いた」とは認定していない。したがって安倍氏のこのコメントは、札幌訴訟の経過と結果を歪め、朝日新聞と植村氏の名誉を毀損するデマである。影響は甚大であり看過できない。植村氏は24日、安倍氏に抗議文を内容証明郵便で送り、投稿の削除を求めたうえで、「1週間以内に誠意ある対応がない場合は法的手段を執る」と通知した。

そもそも安倍氏は、植村裁判の当事者ではない。植村氏が訴えた相手の櫻井よしこ氏は安倍応援団の団長格であり、また安倍氏と同じように強烈なアンチ朝日論者だから、その線でつながる安倍氏が植村裁判とまったく関係がないとはいえない。櫻井氏の裁判に関心を持つのも当然だろう。しかし、安倍氏の言動が植村裁判で直接的な争点になったことは一度もなく、したがって安倍氏は植村裁判に関しては部外者にすぎない。それなのになぜ植村裁判についてわざわざ発信をし、デマを流したのか。

安倍氏は9月16日に首相の座から去って以来、今回の投稿までにツイッターもフェースブックも5回しか発信していなかった。いずれも自身の行動や身辺にかかわるプライベートな内容で、政治や社会のできごとにコメントしたものではない(9月19日=靖国神社参拝、10月3日=トランプ米大統領のコロナ感染見舞い、10月6日=独メルケル首相からの電話、10月23日=産業遺産情報センター訪問、11月16日=IOC金賞受賞)。このような投稿履歴の流れの中で、今回の投稿は突出して奇異に映る。

安倍氏はこのデマを書き込むに先立って、ツイッターとフェイスブックに投稿していた。最初は19日午後5時24分。ツイッターで産経新聞の電子版記事をリツイート(引用紹介)した。翌20日午前10時8分には、フェイスブックで再び産経新聞の記事を引用紹介した(写真下)。どちらも自身の意見は書かれておらず、産経記事の引用紹介にとどまっていた。これで終わっていれば、前首相はヒマなんだなあ、と同情を込めた失笑を買いながら、SNSの膨大な情報の海の中に沈んで消えていったにちがいない。ところが、安倍氏は3日目に、前日の投稿に自らコメントする形でデマ情報を流したのである。

安倍氏のSNSフォロワー(登録読者)はツイッターが230万6781人、フェイスブックは60万4810人もいる。今回の投稿は、ツイッター(19日)では1.8万人の「いいね」ボタンが押され、7238人のリツイートがあった。フェイスブックでも20日投稿分に7861人、21日分には833人の「いいね」があった(数字は25日午後6時現在)。

この投稿に対する「いいね」「コメント」「シェアする」などのリアクションは、数も内容も、2014年に広がった朝日・植村バッシングとよく似ている。さすがに脅迫めいたものはないが、悪意、誹謗、中傷、憎悪、曲解、誤解、無恥、無知が腐臭を放っている。安倍氏の真意はフェースブックの短い文面からは読み取れないが、結果的には植村氏の名誉を毀損し、朝日・植村バッシングを煽ることになった。コメントの文末に「ですね」とあるのは、読者に同意を促す扇動表現と受け取ることもできる。首相辞任後も精力的に議員活動を続けている安倍氏だが、支持者たちに健在ぶりを示したかっただけなのだろうか。だとしたら、無責任で軽率きわまりない投稿だと言わざるを得ない。「桜を見る会前夜祭」問題の対応で多忙なことは承知しているが、こちらにもきちんと対応していただきたい。

(支える会事務局H.N=文責)




安倍氏のFB