上告中の植村裁判について、新聞、民放、出版などのマスコミ関連労組が結集する「日本マスコミ文化情報労組会議」(MIC、南彰議長)が、高裁判決の問題点を指摘し、判断の見直しを求める要請を発表しました。
全文を掲載します。
歴史的事実や女性の人権に対する歪んだ認識の司法判断の見直しを求める
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元朝日新聞記者の植村隆さん(現・週刊金曜日発行人)が報じた元慰安婦の証言の記事に対して繰り広げられた「捏造」バッシングを免責し、事実上容認するかのような司法判断が続いています。「捏造」は意図的に事実に反することを書いたことを意味し、ジャーナリストにとってのいわば死刑判決です。批評は最大限尊重されるべきですが、意に沿わない記事を書いた記者を社会から排除しようとする行為は、言論の封殺につながり、メディア関連労組として看過できるものではありません。
この問題では、1991年に韓国で初めて「元慰安婦」であったことを名乗り出た女性の証言を新聞記事にした植村氏に対して、麗澤大学客員教授の西岡力氏やジャーナリストの櫻井よしこ氏らが、2014 年ごろからコラムや論文で「捏造」記者と攻撃。植村氏の勤務先の大学に退職を要求する脅迫文が大量に送りつけられたり、インターネット上で家族を含めた個人攻撃が行われたりしました。名誉回復を求めて札幌、東京両地裁に植村氏が提訴した一連の訴訟では、植村氏を「捏造」と断じていた西岡氏や櫻井氏の主張の根拠が成り立たないことが明らかになりましたが、控訴審を含めて、西岡氏や櫻井氏らを免責する判決が出ています。
特に気がかりなのは、「桜井氏は(植村氏)本人に取材しておらず、植村氏が捏造したと信じたことに相当な理由があるとは認められない」とする植村氏側の主張を退ける際、札幌高裁が「資料などから十分に推認できる場合は、本人への取材や確認を必ずしも必要としない」とした点です。捏造の有無においては、本人の認識が大切な要素です。それにもかかわらず、植村氏に確認する取材の申し込みすらせず、一方的に「捏造」と断じるコラムや論文が、取材を尽くして執筆したものといえるかは非常に疑問です。上告審では、「確実な資料や根拠に基づき真実だと信じることが必要」とされてきた「真実相当性」に関するこれまでの最高裁判例に基づいた判断の見直しが必要です。
植村裁判の一連の司法判断では、歴史的事実や女性の人権に対する裁判所の認識の歪みも表れています。その象徴は、植村氏が報じた慰安婦の証言について、「単なる慰安婦が名乗りでたにすぎないというのであれば、報道価値が半減する」と札幌高裁が言及したことです。戦後、長い苦しみの時間を生き抜き、勇気と決意をもって名乗り出た女性を「単なる慰安婦」と貶め、過去の戦時性暴力の問題に向き合わない姿は、現代の性暴力に無理解な司法判断にもつながっています。国内外のすべての女性への侮辱であり、著しい人権侵害です。
このような司法判断が固定化されては、為政者にとって都合のいい歴史修正主義が横行し、次世代のジャーナリストが過去の歴史的事実に誠実に向き合い、報道していく道を狭めてしまいます。また、戦時性暴力の被害者である慰安婦の証言を報じた側には重い責任を負わせ、被害者の証言報道を「捏造」などと貶める側の取材不足・誤読・曲解は大幅に免責する一連の司法判断の構図を放置していたら、今後の性暴力被害の告発やその報道にも深刻な影響が出かねません。最高裁において真摯な判断の見直しが行われることを強く求めます。
2020年5月15日
日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)
(新聞労連、民放労連、出版労連、全印総連、映演労連、映演共闘、広告労協、音楽ユニオン、電算労)