■弁護団声明
元朝日新聞記者植村隆氏が、元「慰安婦」金学順氏の証言に関する91年の新聞記事を巡って、株式会社文藝春秋と西岡力氏を訴えた訴訟の控訴審で、東京高等裁判所は、本日、植村隆氏の控訴を棄却する判決を下した。西岡氏らの論文や「週刊文春」の記事が名誉毀損に当たることは認めつつ真実性・真実相当性の抗弁を認めた東京地裁判決を、ほとんどまともな検討を経ることなく追認した、極めて不当な判決である。
西岡氏らは、植村記事について「妓生にいたという金学順氏の経歴を書いてないから捏造だ」という趣旨を主張してきた。植村氏は、控訴審において、91年12月の記事の基となった、金学順氏の証言テープを証拠提出した。証言テープの中には妓生についての証言はなかった。証言者が証言していないことを記事に書かないことが「捏造」になるはずがない。ところが、控訴審は、当該証言テープが金学順氏の証言全てを記録したものとは認めがたい等と信じがたい言いがかりをつけてその証拠力を否定した。そのような主張は相手方からもなされておらず、テープの成立過程を立証するために申請した本人尋問も却下されている。高裁の判断は、弁護団から反論の機会を奪った不意打ち認定であり、到底許されない。
判決は、8月の植村記事中「女子挺身隊の名で」という記載は「強制連行を意味する」との前提で、植村氏は意図的に事実と異なる記事を書いたとの一審の認定を維持している。しかし、そもそも、8月の記事には、はっきりと「だまされて慰安婦にされた」と書いてあるではないか。植村氏において強制連行をでっち上げようという悪しき意図があったとすれば、「だまされて慰安婦にされた」等と書くわけがない。本件判決の認定は常識をはるかに逸脱している。
以上からすれば、本件判決は結論先にありきの、あまりに杜撰な判決であると批判せざるを得ない。
他方、高裁判決は、①植村氏が、金氏の、キーセンに身売りされたという経歴を知っていたのにあえてこれを記事にしなかった事実、②植村氏が義母の裁判を有利にするために意図的に事実と異なる記事を書いたとの事実については、いずれも真実と認めることはできないとした。これは控訴審の大きな成果であり、植村氏の名誉が一部であれ回復した。
弁護団は、本件審理の過程で、植村氏の記事が捏造ではないことを完全に立証し、同氏の名誉を回復すると同時に、元「慰安婦」の尊厳回復の運動を力強く支えたと信じる。これら、1審、2審の成果を踏まえ、最高裁で戦い抜く所存である。
以上
2020年3月3日
植村隆弁護団
■控訴人声明
本日、東京高裁で、西岡力氏らを名誉毀損で訴えた植村東京訴訟の控訴審判決が言い渡されました。一審に続いて、私は敗訴しました。極めて不当な判決だと思います。
西岡氏は2014年2月6日号の『週刊文春』の記事で、私が書いた元日本軍「慰安婦」金学順さんの証言記事Aを「捏造」と決めつけるなど、私に対する「捏造」攻撃を繰り返してきました。これがきっかけで、激しい「植村捏造バッシング」が起きました。私は内定していた大学の教授職を失い、「娘を殺す」という脅迫状も送られてきました。
私は2015年1月に西岡氏らを訴えました。自分の名誉、家族の安全、勤務先の学生らの安全、そして、元「慰安婦」の金さんの尊厳を守るための闘いでした。
本日の高裁判決では、西岡氏が、私の記事を「捏造」と主張している三つの点の二つについて、真実とは認めない一方で、信じるには「相当な理由」があるとして、西岡氏を免責しました。西岡氏は私に直接取材をしておりません。しかも、西岡氏は私の記事を捏造記事と断定する際にも、決定的な誤りを犯していました。それが、一審では明らかになりました。
この文春の記事を見てください。「このとき名乗り出た女性は親に身売りされて慰安婦になったと訴状に書き、韓国紙の取材にもそう答えている」とあります。しかし訴状でも、韓国紙の取材にも、金学順さんは、そう答えてなかったのです。「捏造」批判の前提自体が、間違っていたのです。
また西岡氏は、私の記事Bについて、著書『よくわかる慰安婦問題』で、金学順さんがキーセンに売られたことを書かなかったから、「悪質かつ重大な捏造」だと決めつけました。私たちは、この言説を打ち崩す、新たな証拠を発見し、高裁に提出しました。日本政府を相手取った訴訟を準備していた金さんが初めて弁護団の聞き取り調査に応じた1991年11月25日録音のテープです。ここで金さんは「キーセン」について一言も言っていませんでした。私はこのテープに基づき記事Bを書きました。
ところが、高裁判決は、その新証拠を正当に評価しませんでした。そして、西岡氏の決定的な誤りも見過ごしています。結論ありきの判決だと思います。
「植村捏造バッシング」の張本人は、西岡氏です。彼の言説を受けて、大勢の人がバッシングに加わりました。私の勤務していた大学を電話で脅迫した男が逮捕され、罰金刑を受けました。私の娘をツイッターで誹謗中傷した会社員はその責任が問われ、賠償金を支払い続けています。しかし、本日の判決では、その張本人が免罪されたのです。
この問題は植村だけの問題ではありません。あすは記者の皆さんに降りかかるかもしれないのです。この不当判決を放置する訳にはいきません。このままでは、フェイクニュースを流し放題という大変な時代になります。即刻上告し、最高裁で逆転判決を目指したいと思います。
以上
2020年3月3日
植村隆
2020年3月3日
植村隆