2019年6月26日水曜日

これは不当判決だ!

「不当判決」の幟と「#捏造ではない」の
メッセージボードが地裁前路上に掲げられた
植村裁判東京訴訟の判決言い渡しがきょう(6月26日)東京地裁であり、原告植村隆氏の請求はすべて棄却された。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する
2 訴訟費用は原告の負担とする
被告西岡力氏と文藝春秋の表現と記事は「名誉毀損に該当する」とされたが、その責は免ぜられた。
法廷で読み上げられた「理由の要旨」はこうである。
「しかしながら、各表現は、公共の利害に関する事実について専ら公益を図る目的で行われたものであり、摘示事実または意見論評の前提としている各事実について、その重要な部分が真実であること、または真実であると信ずるにつき相当の理由があること、についての証明がある。かつ、意見ないし論評の域を逸脱したものでもないから、被告は免責される」
法廷は定刻午前11時30分に開廷。第1回の口頭弁論から担当してきた原克也裁判長の姿はなく、大濱寿美裁判長が主文と理由要旨を4分にわたって代読し、11時35分閉廷した。


弁護団声明

1 本日、東京地方裁判所民事第32部(原克也裁判長)は、元朝日新聞記者植村隆氏が麗澤大学客員教授西岡力氏、週刊誌「週刊文春」の発行元である株式会社文藝春秋に対して、名誉毀損を理由として慰謝料の支払いなど名誉回復を求めた訴訟で、原告の請求を棄却する不当判決を言い渡した。
 本件は、1991年に元従軍慰安婦の証言を紹介した記事を執筆した植村氏に対して、西岡氏が「事実を捏造して記事を書いた」等と執拗に誹謗をくり返し、そのことにより植村氏にバッシングが集中し、植村氏の家族の命までが危険に晒されたため、やむを得ず、2015年1月、法的手段に訴えたという事案である。

2 東京地裁の判決は、西岡氏の「捏造」との表現が事実の摘示であることを認め、これにより植村氏の名誉が毀損されたことを認めた。しかし、判決は、西岡氏の、植村氏が意図的に妓生の経歴に触れなかったとする記載や、義母の裁判を有利にする意図があった等とする記載については、「推論として一定の合理性がある」等として相当性を認め、また、植村氏が、金学順氏が強制連行されたとの、事実と異なる記事を書いたとの記載については、植村氏に「だまされて慰安婦にされたとの認識があった」ことを理由に真実性を認め免責した。
しかし、相当性の抗弁により免責を認めるためには、その報道された事実を基礎づける確実な根拠・資料が必要であるというのが確立した判例である。本件判決は、そのような根拠・資料がなく、とりわけ、植村氏が嘘を嘘と知りながらあえて書いたか否か、本人の認識について全く取材せず、「捏造」という強い表現を用いたことを免責しており、従来の判例基準から大きく逸脱したものである。また、金学順氏は自ら「私は挺身隊だった」と述べており、また、当初はだまされて中国に行ったが、最終的には日本軍に強制連行によって慰安婦にされたと述べていた。だまされて慰安婦にされたことと強制連行の被害者であることはなんら矛盾するものではない。裁判所の認定は真実をねじ曲げ従軍慰安婦制度の被害者の尊厳をも踏みにじるものである。

3 私たち弁護団は、審理において金学順氏が妓生学校にいたことを殊更にあげつらう西岡氏の差別的な言説の不当性を主張した。さらに、西岡氏への本人尋問では、西岡氏自身が、金学順氏の証言を創作して自説を補強するというおよそ学問の名に値しない行動を取っていたことも明らかになった。また、植村氏にバッシングが集中し、植村氏の家族の命までが危険に晒された被害状況も詳細に立証した。
本日の判決は、弁護団のこれらの立証を一顧だにしないものであり、「慰安婦問題は解決済み」という現政権の姿勢を忖度した、政治的判決だといわざるを得ない。

原裁判官は、昨年11月に一度本件審理を結審した後、本年2月に突如弁論を再開し「朝日新聞第三者委員会報告書」を証拠採用した。この時採用した「朝日新聞第三者委員会報告書」も判決ではふんだんに援用されている。つまり、原克也裁判長は当初より植村氏を敗訴させることを予定していたが、植村氏を敗訴させるだけの証拠が不足していたことからあえて弁論を再開し、被告らに有利な証拠だけを採用したとしか思えない。要するに、本件判決は、最初から結論を決められていたものであって、予断に基づいてなされた判決であり、近代司法の根本原則を踏みにじるものですらある。

4 以上のとおり、本日の判決は現政権に忖度した言語道断な不当判決であり、私たち弁護団は、到底受け入れることはできない。弁護団はこの不当判決に直ちに控訴し、植村氏の名誉を回復し、従軍慰安婦制度の全ての被害者の尊厳を回復するため全力で闘う決意である。                    

2019年6月26日             
植村訴訟東京弁護団


原告声明

元東京基督教大学教授の西岡力氏と週刊文春発行元の文藝春秋社を名誉毀損で訴えた裁判で本日、東京地裁の原克也裁判長が不当な判決を下しました。判決では、私の記事を「捏造」とする西岡氏の言説及び私を糾弾する週刊文春の記事により、私の社会的評価が低下したと、名誉棄損を認めました。しかし、私が捏造したと西岡氏が信じたことには理由があるなどとして、西岡氏らを免責しました。西岡氏は私に取材もせずに、「捏造」記事を書いたと決めつけ、さらには言説の根拠となる証拠を改ざんまでしていたことが、法廷でも明らかになっています。裁判所はそうした事実を知りながら、私の意図を曲解して一部の真実性を認め、真実相当性の認定のハードルも地面まで下げて、西岡氏らの責任を不問にしました。こんな判決がまかり通れば、どんなフェイクニュースでも、書いた側の責任が免除されることになります。非常に危険な司法判断です。決して許せません。

この間の審理では、西岡氏の週刊文春の談話がフェイクだということが明らかになりました。西岡氏は虚偽の根拠に基づいて、私の記事を「捏造」とレッテル貼りしていたのです。事実を大切にするジャーナリズムの世界では、西岡氏は完敗していました。しかし、今回の判決では、西岡氏のフェイクが全く不問にされています。

週刊文春に掲載された西岡氏の談話や同誌の報道は、すさまじい「植村捏造バッシング」を引き起こしました。私は転職先を失い、「娘を殺す」と脅迫されるなど塗炭の苦しみに直面しました。しかし、判決では文藝春秋は問題提起をしただけで、バッシングを扇動するものとは認められず、不法行為は成立しないと断じています。ではなぜ、「植村捏造バッシング」が起きたのでしょうか。「植村捏造バッシング」は幻ではないのです。

昨年11月9日、西岡氏と共に私の記事を「捏造」と言いふらしてきた、櫻井よしこ氏の責任を免除する不当な判決が札幌地裁で下されました。西岡氏はこうも言っています。「私は1991年以来、慰安婦問題での論争に加わってきた。安倍晋三現総理大臣や櫻井よしこ本研究所理事長らも古くからの同志だ」(国家基本問題研究所ろんだん)。今回もまた「アベ友」を免責する不当判決が出ました。しかし、私はひるむことなく、言論人として堂々と闘いを続けていきたいと思います。この不当判決を高等裁判所で覆すべく、頑張りたいと思います。

2019年6月26日 
元朝日新聞記者・韓国カトリック大学客員教授
週刊金曜日発行人

植村隆