2017年9月3日日曜日

朝日新聞社への訴訟

慰安婦報道をめぐって朝日新聞社が訴えを起こされた3つの集団訴訟のうち、東京高裁での審理が残されていた「朝日・グレンデール訴訟」の控訴審判決が2月8日(2018年)にあり、原告の控訴は棄却された。この結果、朝日新聞社に対する集団訴訟は、1、2審ともすべて原告敗訴、朝日新聞勝訴となった。3つの訴訟のうち2つは、すでに上告棄却もしくは上告断念により判決が確定している。
<2018年2月11日現在>
原告側は、いずれの訴訟でも、朝日新聞の慰安婦報道は「誤報」だとし、人格権や、知る権利、日本と日本人の名誉が傷つけられた、などと主張した。また、朝日新聞の報道が国際的に大きな影響を与えたかどうか、も争点となった。しかし、朝日新聞の記事が名誉棄損にはならず、海外での影響にも因果関係はない、と司法が繰り返し判断した。原告側の主張はことごとく否定された。

訴えを起こした団体・個人はみな、従軍慰安婦が存在した事実を否定しようとする「歴史修正主義」勢力と密接な関係を持っている。とくに「朝日新聞を糺す国民会議」弁護団の高池勝彦氏は、植村裁判では櫻井よしこ氏の弁護人をつとめている。これらの集団訴訟は植村裁判とは直接の関係はなく、植村氏の記事は争点にもなっていない。しかし、慰安婦報道を巡る名誉棄損訴訟であり、「歴史修正主義」人脈が背景に見え隠れしている点は共通している。その意味で、ほぼ同じ時期に進められてきた植村裁判にとっても重要な意味を持つ司法判断となった。

3つの訴訟の概要・経過は次の通り。

この記事は随時更新しています <最新更新日:2018年2月11日>

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「朝日新聞を糺す国民会議」による訴訟
朝日新聞の誤報によって人格権や名誉権を毀損されたとして、2万5千人が原告となって朝日新聞社を訴えた。「チャンネル桜」や「頑張れ日本!全国行動委員会」が主導し、朝日新聞東京本社と大阪本社前で毎週、街宣活動をしているグループだ。
口頭弁論は2016年3月17日の第3回で打ち切られ、結審した。原告は裁判官忌避や弁論再開を申し立てたが、いずれも却下された。判決は2016年7月28日(木)午後3時から東京地裁103号法廷で言い渡され、原告の請求を棄却した。
原告は控訴人を57人に絞り込んで控訴した。控訴審判決は、2017年9月29日に言い渡され、控訴を棄却した。原告は期限までに上告しなかったので、原告敗訴で確定した。

■1審原告敗訴の記事(朝日新聞2016年7月29日付) 
朝日新聞の慰安婦に関する報道で「国民の名誉が傷つけられた」とし、渡部昇一名誉教授ら国内外の2万5722人が朝日新聞社に謝罪広告や1人1万円の慰謝料を求めた訴訟の判決で、東京地裁(脇博人裁判長)は28日、原告の請求を棄却した。原告は控訴する方針。
対象は、慰安婦にするため女性を無理やり連行したとする故吉田清治氏の証言記事など、1982~94年に掲載された計13本の記事。原告側は「日本国民の国際的評価を低下させ、国民的人格権や名誉権が傷つけられた」と訴えた。
判決は、記事は旧日本軍や政府に対する報道や論評で、原告に対する名誉毀損(きそん)には当たらないとした。報道によって政府に批判的な評価が生じたとしても、そのことで国民一人一人に保障されている憲法13条の人格権が侵害されるとすることには、飛躍があると指摘した。また、掲載から20年以上過ぎており、仮に損害賠償の請求権が発生したとしてもすでに消滅している、とも述べた。
朝日新聞社広報部は「弊社の主張が全面的に認められた、と受け止めています」との談話を出した。
■控訴審判決=記事略 原告は控訴人を57人に絞り込んで東京高裁に控訴した。控訴審第1回は2017年2月21日、第2回は6月2日、第3回は7月21日に開かれ、結審した。原告側が求めていた証人尋問の申請は1審と同様に退けられた。判決は9月29日(金)午前11時、東京高裁101号法廷で言い渡され、野山宏裁判長は控訴を棄却した。
■判決確定の記事(朝日新聞2017年10月18日付)
朝日新聞の慰安婦に関する報道で「国民の名誉が傷つけられた」として、国内外の56人が1人1万円の慰謝料を朝日新聞社に求めた訴訟で、朝日新聞社を勝訴とした二審・東京高裁判決が確定した。原告側が13日の期限までに上告しなかった。一連の報道をめぐる訴訟で、判決が確定するのは初めて。
訴訟で対象になったのは、慰安婦にするため女性を無理やり連行したとする故吉田清治氏の証言記事など、1982〜94年に掲載された計13本の記事。昨年7月の一審・東京地裁判決は「記事は旧日本軍や政府に対する報道や論評で、原告に対する名誉毀損(きそん)には当たらない」と判断。今年9月の二審・東京高裁判決も一審判決を支持し、原告の控訴を棄却した。
朝日新聞の慰安婦報道をめぐっては、三つのグループが朝日新聞社に対し集団訴訟を起こしていた。

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「朝日新聞を正す会」による訴訟
480人余が朝日新聞社を相手取り訴えた。2016年6月24日に結審し、9月16日に原告は敗訴。二審の東京高裁も2017年3月1日に控訴を棄却した。原告は上告したが、最高裁は10月24日付で上告を棄却し、原告敗訴判決が確定した。

■1審原告敗訴の記事(朝日新聞2016年9月17日付)
朝日新聞の慰安婦に関する報道で「知る権利を侵害された」として、購読者を含む482人が朝日新聞社に1人あたり1万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は16日、原告の請求を棄却した。北沢純一裁判長は「記事は特定の人の名誉やプライバシーを侵害しておらず、原告は具体的な権利侵害を主張していない」などと述べた。原告側は控訴する方針。
対象は、慰安婦にするために女性を無理やり連行したとする故吉田清治氏の証言記事など。判決は、新聞社の報道内容について「表現の自由の保障のもと、新聞社の自律的判断にゆだねられている」と指摘。「一般国民の知る権利の侵害を理由にした損害賠償請求は、たやすく認められない」と述べた。
朝日新聞広報部は「弊社の主張が全面的に認められた、と受け止めています」との談話を出した。

■2審控訴棄却の記事(2017年3月2日付)
朝日新聞の慰安婦に関する報道で「知る権利を侵害された」として、東京都や山梨県などに住む238人が朝日新聞社に1人あたり1万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(野山宏裁判長)は1日、原告の控訴を棄却した。「記事は特定の人の名誉やプライバシーを侵害していない」などとして原告の請求を棄却した昨年9月の一審・東京地裁判決を支持した。
訴えの対象は、慰安婦にするため女性を無理やり連行したとする故吉田清治氏の証言などの朝日新聞記事。
この日の判決は「記事への疑義を速やかに検証し報道することは、報道機関の倫理規範となり得るが、これを怠ると読者や一般国民に対して違法行為になるというには無理がある」などと述べた。朝日新聞社広報部は「一審に続いて弊社の主張が全面的に認められた、と受けとめています」との談話を出した。
■最高裁、原告の上告退け判決は確定(2017年10月24日付)=記事略

※同会による甲府訴訟
「朝日新聞を正す会」の呼びかけで150人が甲府地裁に提訴した集団訴訟の第1回口頭弁論が2016年11月8日午前10時30分から、同地裁211号法廷で開かれた。この日の法廷に出たのは弁護士1人のみで、提訴時に県庁で会見した「正す会」の事務局長や埼玉県内在住の原告らの姿はなし。多数の傍聴を予想した裁判所側は10人ほどの職員を動員して警備にあたったが、行列に並んで傍聴券を受け取ったのはたった1人(朝日新聞甲府総局長)、記者席に座ったのはたった2人だった 
判決は2017117日(火)午後115分、甲府地裁211号法廷で言い渡され、原告の請求を棄却した。原告は控訴せず、判決は確定した。
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いわゆる「朝日・グレンデール訴訟」
在米日本人ら2500人が、「朝日が慰安婦問題の誤報を国際的に拡散させたことから米国のグレンデールという町などで慰安婦像が建立され、日本と日本人の名誉が傷つけられた」などとして朝日新聞社を訴えた。日本会議系の人々が支援している。2016年12月22日まで9回の口頭弁論が開かれ、2017年4月27日、東京地裁522号法廷で判決が言い渡された。
原告側側は控訴した。控訴審第1回は10月26日午後2時、東京高裁809号法廷で開かれる。控訴人の人数は62人に絞り込まれ、このうち在外原告は26人。グレンデール市近郊に住み、市議会で慰安婦像設置に反対したことで「侮辱され損害を受けた」などと訴えて筆頭原告となっていた在米日本人の作家・馬場信浩氏ら2人が、控訴を取り下げた。その間の経緯は馬場氏のフェイスブックに書かれている。慰安婦像をめぐって「いじめがあったかどうか」で見解の相違があったといわれる。
控訴審判決は2018年2月8日にあり、原告の控訴は棄却された。

1審原告敗訴の記事(朝日新聞2017年4月28日付)
朝日新聞慰安婦報道で誤った事実が世界に広まり名誉が傷つけられ、また米グレンデール市に慰安婦像が設置されて在米日本人が市民生活上の損害を受けたなどとして、同市近郊に住む在米日本人を含む2557人が朝日新聞社に対し損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は27日、原告の請求を棄却した。佐久間健吉裁判長は、記事は名誉毀損(きそん)にも在米日本人らへの不法行為にもあたらない、と判断した。原告側は控訴する方針。
訴えの対象は「慰安婦にするため女性を無理やり連行した」とする吉田清治氏の証言に関する記事など朝日新聞記事49本と英字版記事5本。佐久間裁判長は判決で「記事の対象は旧日本軍や政府であり原告ら現在の特定個人ではない。問題となっている名誉が原告ら個人に帰属するとの評価は困難」とし、「報道で日本人の名誉が傷つけられた」とする原告の主張を退けた。
また、報道機関の報道について「受け手の『知る権利』に奉仕するもので、受け手はその中から主体的に取捨選択し社会生活に反映する」と位置づけた。
それを踏まえて「記事が、国際社会などにおける慰安婦問題の認識や見解に何ら事実上の影響も与えなかったということはできない」とする一方で、「国際社会も多元的で、慰安婦問題の認識や見解は多様に存在する。いかなる要因がどの程度影響を及ぼしているかの具体的な特定は極めて困難」と指摘。そのうえで、在米の原告が慰安婦像設置の際に受けた嫌がらせなどの損害については「責任が記事掲載の結果にあるとは評価できない」と結論づけた。
朝日新聞慰安婦報道をめぐっては、三つのグループが朝日新聞社に対し集団訴訟を起こした。いずれも東京地裁や高裁の判決で請求が棄却されている。
判決は、吉田証言などを取り上げた朝日新聞の報道が海外で影響を与えたかについても言及した。
原告側は裁判で、慰安婦問題について日本政府に法的責任を認めて賠償するよう勧告した国連クマラスワミ報告(96年)や、歴史的責任を認めて謝罪するよう求めた米国の下院決議(07年)が、朝日の慰安婦報道の影響によるものと主張した。
これについて判決は、クマラスワミ報告での慰安婦強制連行に関する記述は吉田証言が唯一の根拠ではなく、元慰安婦からの聞き取り調査もその根拠であることや、クマラスワミ氏自身、「朝日が吉田証言記事を取り消したとしても報告を修正する必要はない」との考えを示している、と認定。米下院決議については、決議案の説明資料に吉田氏の著書が用いられていないことも認定した。
また原告は、「朝日新聞が80年代から慰安婦に関する虚偽報道を行い、92年の報道で、慰安婦と挺身(ていしん)隊の混同や強制連行、慰安婦数20万人といったプロパガンダを内外に拡散させた」などと主張した。この点について判決は、韓国においては「慰安婦の強制連行」が46年から報じられた▽45年ころから60年代前半までは「挺身隊の名のもとに連行されて慰安婦にされた」と報道された▽「20万人」についても70年には報道されていた、と認めた。

■控訴棄却の記事(朝日新聞2018年2月9日付)
朝日新聞の慰安婦に関する報道で誤った事実が世界に広まり名誉を傷つけられたなどとして、国内外に住む62人が朝日新聞社に謝罪広告の掲載などを求めた訴訟の控訴審判決が8日、東京高裁であった。阿部潤裁判長は請求を棄却した一審・東京地裁判決を支持し、原告側の控訴を棄却した。
訴えの対象とされたのは、慰安婦強制連行したとする吉田清治氏の証言に関する記事など。米国グレンデール市近郊に住む原告らは「同市などに慰安婦像が設置され、嫌がらせを受けるなど、市民生活での損害を受けた」として、1人当たり100万円の損害賠償も求めていた。
高裁判決はまず、一審判決を踏襲し、「記事の対象は旧日本軍や政府で、原告らではない」として名誉毀損(きそん)の成立を否定した。
原告側は、記事により「日本人が20万人以上の朝鮮人女性を強制連行し、性奴隷として酷使したという風評」を米国の多くの人が信じたため、被害を受けたとも訴えていた。
高裁判決はこの点について、「記事が、この風聞を形成した主要な役割を果たしたと認めるには十分ではない」と指摘。さらに、「読者の受け止めは個人の考えや思想信条が大きく影響する」などと述べ、被害と記事の因果関係を否定した。
一審の原告は2557人だったが、このうち62人が控訴していた。朝日新聞の慰安婦報道を巡っては、他に二つのグループも訴訟を起こしていたが、いずれも請求を棄却する判決が確定している。原告側は判決後に会見し、代理人弁護士は「大変残念だ。上告するか検討する」と話した。<朝日新聞社広報部の話> 弊社の主張が全面的に認められたと考えています。
<解説記事>国際的影響、「主な役割」否定
今回の裁判の争点の一つは、朝日新聞の慰安婦報道が国際的に影響を及ぼしたかどうかだった。「主要な役割を果たしたと認めるには十分ではない」と高裁判決は認定した。
朝日新聞社が委嘱した第三者委員会は2014年12月の報告書で「国際社会に対してあまり影響がなかった」「大きな影響を及ぼした証拠も決定的ではない」とする委員の意見を紹介。韓国への影響については見解が分かれ、「韓国の慰安婦問題批判を過激化させた」「韓国メディアに大きな影響を及ぼしたとはいえない」と両論を併記した。
16年2月の国連女子差別撤廃委員会で外務省の杉山晋輔外務審議官(当時)は、慰安婦を狩り出したと述べた吉田氏について「虚偽の事実を捏造(ねつぞう)して発表した」と説明。「朝日新聞により事実であるかのように大きく報道され、日本、韓国の世論のみならず国際社会にも大きな影響を与えた」と述べた。これに対し朝日新聞社は「根拠を示さない発言で、遺憾だ」と外務省に申し入れた。
今回の訴訟で原告側は、杉山氏の発言を証拠として提出。8日の東京高裁判決では「朝日報道が慰安婦問題に関する国際社会の認識に影響を与えたとする見解がある」とした昨年4月の東京地裁判決を引用しつつ、吉田氏の証言(吉田証言)について「国際世論にどう影響を及ぼしたかについては原告らと異なる見方がある」と述べた。
原告側はまた、慰安婦問題を報じた朝日新聞の記事が、1996年に国連人権委員会特別報告者クマラスワミ氏が提出した「クマラスワミ報告」に影響を与えたとも主張。この報告は慰安婦問題について、法的責任を認め被害者に補償するよう日本政府に勧告していた。
高裁判決は一審判決を踏まえ、「クマラスワミ報告は吉田証言を唯一の根拠としておらず、元慰安婦からの聞き取り調査をも根拠としている」と指摘。慰安婦問題をめぐり日本政府に謝罪を求めた07年の米下院決議についても、「説明資料に吉田氏の著書は用いられていない」とした。

さらに、朝日新聞の報道が韓国に影響したとの原告側の主張に対しては、高裁判決は「韓国では46年ごろから慰安婦についての報道がされていた」と認定した。

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資料■ 1審判決理由要旨
朝日新聞の慰安婦報道をめぐり、米国・グレンデール市近郊に住む日本人らが損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁が2017年4月27日に言い渡した判決理由の要旨は次の通り。
1 在米原告らを除く原告らの名誉毀損(きそん)にかかる請求について
不法行為としての名誉毀損(きそん)が成立するためには、問題となっている名誉、すなわち、品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価が特定の者に帰属するものと評価することができ、かつ、その特定の者についての名誉が被告の表現行為によって低下したと評価できることが必要である。
本件各記事の対象は、旧日本軍ひいては大日本帝国ないし日本政府に関するものであり、原告らを始めとする現在の特定個々人を対象としたものではない。また、日本人としてのアイデンティティーと歴史の真実を大切にし、これを自らの人格的尊厳の中核に置いて生きている日本人という原告らのいう日本人集団の内包は主観的であって、原告らのいう日本人集団の外延は不明確であり、原告らのいう日本人集団自体ひいてはその構成員を特定することができない。したがって、本件で問題となっている名誉が原告ら個々人に帰属するものと評価することは困難であり、原告ら個々人についての国際社会から受ける社会的評価が低下したと評価することもまた困難である。
2 在米原告らの名誉毀損にかかる請求について
本件各記事の掲載は、在米原告らの名誉を毀損するとはいえず、在米原告らとの関係で我が国民法709条及び同710条所定の不法行為を構成しない。したがって、法の適用に関する通則法22条1項により、米国法を検討するまでもなく、在米原告らは、被告に対して米国法に基づく損害賠償その他の処分の請求をすることができない。
3 在米原告らの一般不法行為にかかる請求について
報道機関による報道が、さまざまな意見、知識、情報を広く情報の受け手に対して提供することを目的とし、実際においてもそのような機能を果たしていることに加え、クマラスワミ報告の内容等の各認定事実をも考慮すると、被告の本件各記事掲載が、原告がいう国際社会、具体的には国連関係機関、米国社会や韓国社会などにおける慰安婦問題にかかる認識や見解あるいはその一部に対し、何らの事実上の影響をも与えなかったということはできない。しかしながら他方で、吉田証言がいわゆる従軍慰安婦問題にかかる国際世論に対していかなる影響を及ぼしたのかに関して原告らとは異なる見方があること等の各認定事実を考慮すると、国際社会でのいわゆる従軍慰安婦問題にかかる認識や見解は、原告がいう内容のものに収斂(しゅうれん)されているとまではいえず、多様な認識や見解が存在していることがうかがえる。そして、それら認識や見解が形成された原因につき、いかなる要因がどの程度に影響を及ぼしているかを具体的に特定・判断することは極めて困難であるといわざるを得ない。しかも、在米原告らに対する侮辱、脅迫、いじめや嫌がらせ等の行為は特定の者による行為であるところ、当該行為者は人として自由な意思に基づき自らの思想信条を形成し、また行動する存在であって因果の流れの一部として捉えることができるものではない。在米原告らの具体的被害の法的責任を被告の本件各記事掲載行為に帰せしめることはできない。